表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雷帝のメイド  作者: なこはる
五章-夏の終わりと尊き教え-
78/143

特別の意味

 僭越ながら、先頭はナナキが務めさせて頂いた。


 威風堂々、回廊を進む。大理石を打つこの足並みに乱れは無い。数ヵ月前まではよく目にしていた風景を通り過ぎて、やがて見えてくる円卓を前に深く腰を折った。かつての同胞、共に肩を並べて戦った世界の守護者たちに礼を尽くした。


「お久しぶりです」


 一言で十分だろう。だから簡潔に、それだけを。


 円卓を囲む五人の反応はそれぞれ。微笑んでくれる姉も居れば、睨み付けてくる頭目も居る。複雑そうな表情を浮かべて顔を伏せる者も居れば、ただ目を閉じて思慮に耽る老兵。そして明確な敵意を飛ばしてくる未だ候補が外れない恰好の付かない半人前。


 突き刺さる五つの視線、肌で感じる威圧感が心地良いとさえ思えた。敵意、悪意に憎悪、大いに結構、このナナキに突き立てると良い。この場で決着を願うと言うのならお相手しよう。身体の芯から熱が込み上げてくる。眼前の四人の力に呼応する。


 円卓に腰を下ろすこの四人は雑魚じゃない。


 本能が囁く。この者たちの力はナナキを殺し得る。それだけの力を持っている。それなら、だったらと、本能がナナキに伝えてくる。殺される前に殺――――


「はいはい、殺気を飛ばさない。しまいなさい」


 あい。


 エンビィのお叱りに引き下がる。振り返ってみれば主からも非難の視線を頂いた。従者としての慎ましさが足りなかった、深く反省をしよう。謝罪の念を込めて再び腰を折る。


「フン。あの雷帝ナナキが本当にメイドをやっているとはな。恥すら忘れたか」


 すると聞こえてきたのは嘲りにも似た不躾な言葉。仮にも五帝の筆頭格がこのような安い挑発をするとは、さぞかし断たれた腕が痛むと見える。生憎だがナナキは挑発に乗るほど子供ではない。必要のない言葉は慎んで頂きたい。さもないともう一度切り飛ばしちゃうぞ。


 シルヴァの暴言を無視して円卓の椅子を引いた。今回は雷帝ナナキとしてお招き頂いているけれど、残念ながらナナキが優先するのは我が主ゼアン・アルフレイド様ただ一人。従者であるのなら慎ましく、そして主人のために最善を。シルヴァに何と言われようと、彼の従者で在ることはナナキの誇りだ。


「ナナキも座りなよ」


 皆さまの着席が済んだ後にエンビィからの心遣いが飛んできた。ありがとう、ナナキの姉よ。されど気遣いは無用、主と同じ席に着く従者などナナキは従者とは認めない。ご覧頂きたい、フィオさん、リドルフ執事長、アキハさんも席には着いていないだろう。ナナキだけ特別扱いはよろしくないよ、エンビィ。


 よって首をふりふり、申し訳ナナキ。


「ああそうか、メイドだもんね」


 正に以心伝心、姉妹の絆に言葉は不要であった。


「なら始めようか」


 淡泊で、それでもどこか突き刺さるような声だった。特別疑問には思わない、五帝の皆さまとナナキたちは現時点で敵同士だ。だからその翡翠の瞳を見た。主と同じような宝石の色をした瞳、ナナキの姉が持つ美しいエメラルドを。


 敵意はない、なら何を見ているのだろう。


「まずはそうだな……多分知りたいだろうから、最初に少しだけ話そう」


 誰一人としてエンビィの言葉を遮らず、静かに幕が上がるのを見届けた。


「科学について」



「人は魔法壊死を克服しなければいけない」


 それは、代償への対策だった。


 人が魔力を持つようになってからおよそ百年、万能だと思われたその力に致命的な欠点が在ること知った時にはおおよそ手遅れだったらしい。多くの犠牲、第一世代と呼ばれる被験者たちよりも更に前に死んでいった者たちが繋いでくれた力は、まるで呪いのようなものだった。


 人類は中途半端に進化した。或いは、未だ進化の途上であると。


 科学では説明のできない万能の力。魔法と定義されたその力を行使することによって、人間は神への対抗策を手に入れた。それと同時に、自らの身体を蝕んでいく呪いを受けた。全てはエンビィから教わった通りのもの。だけど、どうやらこの話には続きがあるらしい。


「知っての通り、魔法を使えば人の細胞は破壊されていく。私にシルヴァ、サリアや君たち第三世代の人間は多少の耐性はあるけど、毎日魔法を使えばすぐに死んでしまう。五帝も例外じゃないんだよ」

「……口を挟んで申し訳ないのですけど、五帝が例外と言うのは? エンビィ様やシルヴァ様、それにナナキも常人では決して届かない力を行使していますよね。あれだけの魔力を使っていれば常人ならすぐに魔法壊死が発症すると思いますが」


 問いかけたのはミーア様だった。


「順番に話そう」


 その問いかけに頷いて、エンビィは再び語り始めた。


「五帝が魔法を使用する時は基本的に使役する神の魔力を使ってる。まったく影響がないわけじゃないけど、自分で魔法を使うより遥かに身体への負担が少ないんだ。まあ、それでも限度はあるけどね」


 それは病気ではなく、現象と定義されている。だから神様でも治せない。そもそもが理解の及ぶものではないのだろう。何せ、科学では説明のできない不可思議な力であるのだから。


「結論から言って、五帝も魔法壊死になる。実際に第二世代のライコウはもう発症しているよ」


 エンビィの言葉に頷いてから、筋肉の塊がその上着を脱いだ。齢五十を過ぎているとは思えないその筋肉の鎧に浮かぶ、死の色。細胞が破壊された灰の色をしたライコウの患部の痛々しさに、この場のほとんどの人間が顔を背けた。


「これでも第一世代の人間よりはずっと持っている方なんだ。まあ、ライコウ本人の精神力もあるけどね」

「旧友は皆逝ってしまったからな」


 ふと、合点がいくことが在った。第二世代、それは主やミーア様たちの御両親に当たる世代。もしかして、御二人の御両親がいらっしゃらないのは……いいや、無駄なことを考えるのはよそう。知りたいと思うのなら聞けば良い。邪推は必要ない。ナナキ悪い子、必罰のゲンコツ。痛っ。


「だから隠していたのか」

「おっと、理解が早いね。ゼアン・アルフレイド」


 いけない、反省していたら置いて行かれてしまった。さっきまではナナキでも理解できる内容だったのに、いきなり色々なことをすっ飛ばして話をするのは止めてほしい。友よ、申し訳ないのだけど解説をお願いできるだろうか。何度も言うけれど、ナナキは小難しい話は苦手なのだ。


 これまでの話をまとめると、魔法壊死やべえ。これで合っている筈。


「人口は減り続けている。私たち人類が生き残るには魔法壊死を克服しなければいけない」

「科学があったら誰も魔法を使わなくなる」

「正解。それでは魔法壊死を克服するための進化が止まるんだ。それが、世界の決断なんだよ」

「なるほど、帝都の理由はそれか」

「回転の良い頭だ」


 エンビィと主が楽しそうに話している。いや、本当に楽しそうかはわからないけれど、ナナキとしては余り面白くはない。姉に向けて抗議の視線を送る。届けナナキの想い、それナナキのだからエンビィはあんまり関わっちゃダメ。


「なるほど、正に世界の崩壊だな」


 蒼星石。綺麗な蒼がナナキを見た。何か御用だろうか。ナナキはもう会話を追いかけるのは諦めた、何でも申し付けて欲しいと思う。スタンバイナナキ。


「帝都に才能のある人間を集めるのは、魔法壊死に耐性のある人間を集めていたわけだ」

「そうだよ。魔法を多く使っている人間同士が子供を作れば、その子供は強い耐性を持つ。だからここは選ばれた人間しか入れない、入れない」

「まるでノアの箱舟だな」

「それが帝都の存在理由だからね」


 酷く疲れたように、主はため息をついた。


「全部犠牲だったんだな。人がいつか魔法壊死を克服するための」

「科学が在れば助かった命なんて幾らでもあったのに……‼ お父様たちだって……‼」


 主の言葉に強い怒りを示したのはミーア様だった。ナナキの知らない過去。だから口は挟めない。


「勝手な判断で世界中の人を犠牲にして……いつ克服できるかもわからないのにッ‼」

「克服は近い。人類の選択が間違っていなかったことを証明する子が現れたからね」


 これまでに多くの怒りを見てきたのだろう。エンビィがミーア様の怒りに動揺することはなかった。そう、彼女や彼らは五帝、この世界の守護者だ。人を超越した力を持ち、神すらをも下す人類最後の砦。そんな彼らの瞳が、どうしてかナナキに集まった。


『――――お前は特別な人間だから』


 ふと、幼い頃にずっと言い聞かせられてきた言葉が脳裏を過った。お母様の声が、聞こえた。


「ナナキは魔法壊死を克服している」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ