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雷帝のメイド  作者: なこはる
五章-夏の終わりと尊き教え-
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知ってた

 そもそもの始まりは、ミーア様の身を案じてのことだった。


 主の従者として、その妹君で在らせられるミーア様のご存命を願って始まったこの偽り。それも今日で終わる。どのような叱責が待っているのかはナナキには想像も付かないけれど、これまで偽ってきた時間の分まで償わなければならない。今一度、全てを受け入れる覚悟を。


 ナナキは世界を肯定致します、お母様。


 約束を胸に、誓いを抱いて。これからも前へと進むために。思えば世界を追われたあの日からずいぶんと経って、その間に多くのものに出会って、知った。未だ帝国との因縁は切れずとも、それを受け入れられるだけの変革が在った。だから進めナナキ、誇りを持って。


「お話があります。ミーア様」

「ナナキ? あら、お兄様も戻ってたの」


 表情は穏やか、機嫌は良好。関係ない、ナナキはとうに覚悟を完了している。これは恐怖で逃げて良いものではない。これからも自身を誇っていくために必要なことだから。


「それで? 話ってなにかしら」


 どう切り出すか、考えるまでもなかった。この誇り高きナナキが絡め手を好むことはない。それは弱者の思考だ。このナナキには相応しくない。強者には強者のやり方が在る。生き方が在る。そう、私はナナキ、小細工などは不要。単刀直入ナナキが参る。


「私は――――雷帝ナナキです」


 真実だけを語った。


 細部の説明などは後で良い。今は少しでも早くこの偽りを明かさなければならない。それが誠意というものではないだろうか。ナナキはミーア様が好きだ。彼女は才能にも恵まれて、頭も良い。ナナキのことを良く理解してくれる。そして何より、彼女もまた強い人だから。


 だから、敬意を以て当たりたい。それこそが――――


「知ってるけど」


 衝撃。まさかの認知。


 you know? ハハハ、有能。


 言ってる場合か。


「知ってるけど?」


 驚天動地、塞翁がナナキとはこのことである。固まるナナキに二度目のお返事。とにかく何かを言葉にしなければ。しっかりしろナナキ、特別な人間なのだろう。


「どうして――――」

「あれだけ雷バチバチさせながら移動しておいて気付かれないとでも思っていたの?」

「はい」

「身内以外にはナナ呼びなのもおかしいわよね。私がそれに気付かないとでも?」

「はい」

「アイナ・アイナの時に五帝を退けたメイドにこの私が疑問を持たないとでも?」

「はい」


 ナナキ正直者、褒めてくださいお母様。主でも可。


「へえ。それは貴女の頭が悪いから? それとも私の頭が悪いから気付かれないと思ったのかしら?」


 あ、やっぱり助けてくださいお母様。褒めて頂くのは次回で良いです。


 瞬く間にミーア様が負のオーラを背負ってしまった。この状況を脱するためにも彼女の大好きなお兄様にご助力を頂きたい。お助け下さい我が主。


「いえ、その……ねえ、主?」


 振り返って救援のナナキスイマイル。輝けナナキの笑顔、我が主、ヘルプです。


「人と話している時にどこを見ているの貴女」


 無人とな。


 それすなわち無情。主従の絆とは如何に。クエスチョンナナキ。主に置かれましてはいつの間に人体消失のトリックをご収得なされたのか。お見事じゃないですかクソが。


「返事」

「ひゃい!」


 裏切りに嘆く暇すらも与えられず、憤怒に駆られるミーア様と相対。どうしてこうなった。


「それで? 答えをまだ聞いていないのだけど?」


 ポンコツだと思っていました、と。そう言えばナナキはどうなるのだろうか。余り猶予はない、こうして悩んでいる間にもミーア様の綺麗な蒼星石の瞳がドス黒く濁っていく。この蒼が全て黒に染まってしまった時、ナナキはきっと酷い目に遭うだろう。


 しかしながら申し上げよう。


 この恐怖に負けて再びの嘘を付くと言うのであれば、それは弱さだ。これまでの偽りを償いたいと思ってここに来たのだ。ならば受け入れるより他にない。ナナキと主は主従の誓いを交わした。それならその妹君であるミーア様にも忠誠を尽くす。


 敬意に忠誠。報いようと、そう志すのなら。


「申し訳ありません、ミーア様!」


 偽りは不敬、真実こそがナナキの敬意。ナナキはここに従者の理を見た。確と見よ、誇り高きナナキの誠意。


「ポンコツだと思って――――イッダイッッッ!?」


 目ッ。


「覚えておきなさいナナキ。私はバカにされるのが嫌いよ」


 イエスマム。この苦痛を戒めと致します。床をのた打ち回りながら心の中で敬礼をした。


「それで、何でまた自分の正体を明かしてきたのよ」

「こちらをご覧ください」


 恐らく、聞きたいことはお互いに在る。何が、どうして、いつからと。だけど今は先にやらなければいけないことがある。ミーア様は頭の良い御方、姉が綴ったその手紙を読めばその表情は凛々しさを持った。それでこそ我が主の妹君。ご立派でございます。


「そう。さすがは帝国ね、私が帝国魔法士になったところで科学にはたどり着けない」

「はい。ですからまどろっこしいのは止めて、直接話し合おうとお誘い頂きました」

「そこでバレるから正体を明かした訳ね。安心なさい、多分皆知っているから」

「まさか」


 それはどうだろう。少なくともシエル様はわからないだろうし、ヴィルモット・アルカーンやアキハさんはナナキのことを雷帝ナナキとは認識していないように見える。ナナキをナナキと断定するには友の存在を視認できるくらいでないと説得力がないというもの。


 よって今回のミーア様のケース、単なる強がりという可能性も捨てきれないのである。


「まさかも何も、貴女の後ろにいつも居るの、あれ神様でしょう?」


 ちょっと待って。


「…………見えているのですか?」

「今は見えないわね」


 今は?


 振り返ると友は真顔で首を振っていた。ということはミーア様の資質ということだろうか。まさかここまでの資質を彼女が持っているとは――――


「時々見えるわよ。ナナキが何か失敗した時とか」


 あらあらまあまあ。


 友よ、もしかして君は勝手に顕現していたのかな。神界戦争時代に大暴れしたこの友の力は人間と繋がっていても単独で顕現するだけのもの。それだけの力を持つ怪物だ。ナナキがフレイラインに来た日も勝手に顕現して雷を落とした。


 まあ、そのおかげで主に出会えたのだけど。


 でもそれとこれとは話が別。何、君はナナキが失敗すると思わず顕現するくらい嬉しかったの? 楽しかったの? それってどのくらいの頻度で顕現していたのかな。ナナキは特別な存在だからそんなに失敗した覚えはないけれど、少なくともミーア様が時々、とそう言うくらいには顕現していたみたいだね。


「だはあ……」


 如何にナナキと言えどもため息が出た。確かにね、君はナナキの友人だから顕現するなと押さえつけるつもりはないけれど。もう少しナナキのことを考えてくれても良かったのでは。どうする、いっそのこと顕現して自己紹介でもするかい。ナナキも久しく君の声を聴いてないから喋っても良いよ。


 友は鼻を鳴らしながらどこかへと行ってしまった。相変わらず人間が嫌いだね。


「どうやら話は済んだみたいだな」


 ここぞとばかりに主の御帰還。ぬけぬけと抜かしながら登場する主の様に目からキャロット。その涼しい顔に抗議の視線を送る。主に届け、愛と怒りと悲しみのナナキアイ。


「そういうわけで、ミーア」


 えっ、このタイミングで?


「もし帝国魔法士になれなかったらすま――――ぐぉッ!?」


 恐ろしく速いキャロット、ナナキじゃなきゃ見逃しちゃうね。自分だけ安全なところに避難していた罰が下ったのだろう。ナナキは寛大である、今のミーア様の一撃を以て主の裏切りを不問と致しましょう。さすがナナキ、メイドの鑑。


 そうと決まれば迅速に主を助け起こす。それと忠告もしよう。


「今のは良くありませんよ、ある――――どぅッ!?」


 ナナキもッ!?

イラスト候補(予算的に1~2キャラ)

・ナナキ

・ナズグル

・ゼアン

・ミーア

・エンビィ


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