対談の前に
「帝国との和解、ですか」
心の底から浮かんできた言葉を口にした。
「何故?」
「はッ!?」
どうしてか帝国騎士に驚かれた。わからないことばかりである。これにはナナキも首を捻ってしまう。
心の姉からお便りを頂けたのは本当に嬉しい。綴られている美しい文字は紛れもなくナナキの姉が綴ったもの。この場に誰もいなければ飛び跳ねて喜んだことだろう。それはもうぴょんぴょんと。けれどその内容についてはいまいち理解が及ばなかった。敬愛なるお母様、ナナキは未熟な娘です。
和解とはもう互いに戦わないようにどこかで妥協点を見つけよう、こんな感じで在った筈。つまりはこのナナキに妥協しろと、そう仰ると言うのか。開いた口が塞がらなナキとはこの事である。笑止千万、ナナキにそんなものは必要ない。
勝つのはナナキだ、それなのにどうして和解をする必要が?
誇りを汚してまで戦いを止める必要がどこに在るというのだろう。戦いを終わらせたいのなら簡単だ、敵を全て殺せば良い。現に世界のために予言などと曖昧なものでナナキを殺そうとしたじゃないか。それを今になって妥協するなんて、それで自分を誇れると言うのだろうか。否ナキ。
「エ、エンビィ様の温情をなんだと思って……‼」
何故か睨み付けられた。帝国騎士、それも五帝候補であるのならもっと落ち着きを持った方が良い。表情とはそれだけで敵を作るものだ。仕方がない、かつての同胞のよしみとしてナナキがお手本を見せよう。
お手本のナナキスマイル。世界の皆さま、ナナキです。
「なんだその顔はッ! バカにしてるのかッ!?」
お前こそナナキの笑顔をバカにしてるのか。ぶっ飛ばすぞ。
ナナキの笑顔の価値がわからない愚か者は放っておくことにした。一先ずはこの和解を求める手紙について考える。エンビィ、そうエンビィだ。この手紙を綴ったのはナナキの心の姉。あの姉がナナキに対してこんな意味のない提案をしてくるだろうか。
となれば、これは警告か。
恐らく、帝国にはナナキに対して切り札と成り得るカードが在る。でもそれを切りたくないのだろう。諸刃の剣と言ったところだろうか。ナナキのことを良く知っているエンビィがわざわざこんな手紙を出すくらいだ、相当の切り札と見える。
「……ふむ」
撃ち破るのは簡単だ。ナナキが負ける筈がない。それでも、このナナキを相手取ってそれだけの警告をしてくるということは、主が狙われれば危ないかもしれない。やはりこれはナナキだけで判断できるものではない。ならば迅速に判断を仰ごう。そうと決まれば主の下へ。駆け足。
「と、その前に」
「は――――ぐぇッ!?」
ぶっ飛ばしておいた。これでしばらくは気絶したままだろう。主の判断次第ではエンビィに手紙を届けてもらわないといけないからね。ここで寝ていてもらう。良い夢を。
それでは再度駆け足。参ります、マイマスター。
「戻りました」
「ああ。どうだった」
本当に驚かなくなりましたね。
◇
「ということなのですが」
説明終わり。
一切を余すことなく主への報告を終えた。素晴らしい、さすがナナキと言えるだろう。兵は神速を貴ぶと言うが、主に置かれましては主はナナキを貴ぶと言ったところ。ほらナナキ速いし、神速出せるし。なに? 自画自賛? 当然じゃないか友よ、それは恥ずかしいことじゃないだろう。
優れているナナキを優れていると言って何が悪い。むしろ優れていると言わない人たちの方が悪い。真実から目を逸らしてはいけないのだ。
「とりあえずは話を聞いてみるしかなさそうだな」
「そうでしょうか? 和解が成れば主の野望は……」
「ナナキの言を信じる。これは炎帝からの警告なんだろう?」
御信頼のナナキスマイル。世界の皆さま、ナナキです。
「確かに大きなものを手にしたいとは言ったが、それで死んだら何の意味もない」
「正に。必要なのは生きる覚悟です」
現状のアルフレイドを見れば、既に没落の危機は去り六大貴族の一角として君臨している。その上で、更なる高みへと、人間らしく英雄への道を渇望した。それでも、死んでしまっては何の意味もない。彼はそのことを良く知っていた。ナナキとは違う生き方をしてきた筈なのに。
だから似ていると、そう思ったのかもしれない。
「では対談には応じると返事を致します」
「ああ」
手紙には主の名前も綴られている。どころか、ミーア様やヴィルモット・アルカーンの名前まであった。さすがに帝国は甘くはない。科学に関わったであろう人物のリストアップなどとうに終えていたというわけだ。つまりは科学の件も含めて今回の話で色々と決定付けるつもりなのだろう。
「もしかしたら、ミーアは帝国魔法士になれないかもな……」
「今回の和解を受け入れないのであれば、そうなりますね。敵として見られますから」
「帝国より先に妹に殺されるかもしれない……守ってくれナナキ」
お断る。無言で返答、ナナキもミーア様は怖い。兄妹間のスキンシップについては不干渉を貫くのがメイドの嗜みである。存分に仲良く過ごされると良いだろう。巻き込まないで。
「というか、どうするんだ?」
「どうとは?」
「ここに書かれている全員で対談に当たるわけだろう?」
「そうなりますね。正直、罠であった場合はかなり不利です。まあ、ありえませんが」
エンビィの性格上それは無い。ナナキ断言しちゃう。
炎帝エンビィ、彼女は絶対に卑怯な真似をしない。それが彼女の騎士としての在り方だから。だから彼女はあの決闘の時も一人でナナキの前に立った。その信念を曲げるくらいならば自害も辞さない程に彼女は高潔なのだ。ナナキの姉を見縊ってもらっては困というもの。
「いや、そうじゃなくて、色々とバレるぞ」
「私は常に潔白ですが……?」
ナナキはいつだって最高純度のホワイト。バレるだとか人聞きの悪いことを言われる心当たりはない。純白のナナキスマイル。世界の皆さま、ナナキです。ホワイトナナキ。
「いやだから、雷帝ナナキってバレるだろ」
why?
「………………どうしましょう主」
「マジか」
遂に正体を明かす時が来たということだろう。けれど、ミーア様は雷帝ナナキに憧れを抱いていた。その雷帝ナナキをメイドとして、どころかウサギとして扱っていたと知れば彼女はいったいどうなってしまうのだろう。
「名案を思い付きました。ミーア様には出席しないでもらうというのは――――」
「帝国魔法士になれるかどうか、自分の進路が決まるのにか?」
「大変なる不敬、お詫び致します」
カモン、ナズグル。
「ぐえッ!?」
「ナナキッ!?」
ナイスパンチ。死にそう。
くだらない理由で大変なる不敬を考えた。これには強力な罰が必要だったのだ。ありがとうナナキの友よ、君が居てくれなければナナキは償えなかった。深く感謝する。だからあの、少し回復してもらってもよろしいだろうか。このままだと息ができない。
「な、なんだどうした!?」
「お気になさらず……」
主に無用な心配をかけてしまったが、これで良かったのだ。償いは成った。ならばあとはこれまでの嘘を償うだけ。どのような理由が在れど、ミーア様を騙していたのは事実。ならばそれを詫びて許して頂くより他にないのである。
「主、屋敷に参ります」
ミーア様のいる、あの屋敷に。
「ああ、頑張れよ……!」
主も来るんだよ。




