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雷帝のメイド  作者: なこはる
五章-夏の終わりと尊き教え-
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ナズグルさんの日課

「こんにちは、役立たず」

「いやぁ、仰る通りで」


 商会へと到着。清潔感のない無精ひげを生やした中年男性の汚いお出迎えに喝。愛想笑いを浮かべながらへこへこと頭を下げるアイバスの様は正に軟弱。それなりの力を持っていてもそれを発揮できないのなら用はない。自ら使ってくれと主に売り込んできたのだから、しっかりと示して見せろ。


 手頃なお手本としてはここにナナキが居る。


 主の傍に控え、要求される全てに対応する用意がある。この身は神速、駆けることナナキの如く。それ故に不足の事態にも数秒も在れば対処できる。御分かり頂けるだろうか、マスターメイドの極みである。今やナナキは極意にすら至った。見よ、このナナキの凛々しい面立ちを。きりっ。


「ナナさん? いらしてたんですね」


 マイフレンドの声にも顔を緩めない。きりっ。でも会えて嬉しいので心の中でナナキスマイル。こんにちはこんにちは、ナナキです。マイフレンドにおかれましてはご機嫌いかがかな。ナナキはそこそこにナナキだよ。


「こんにちは、アキハさん」

「はい、こんにちは。ゼアン様も」

「ああ。ヴィルモットも来てるみたいだな」

「何かと文句ばかり言ってはいますが、ゼアン様に仕事を任されているのが嬉しいみたいで張り切ってますよ」

「あいつが聞いたら怒るぞ、それ」


 今や商会はアルフレイドとアルカーンの連合、その総資産たるや御幾らになることやら。現存の世界への反逆には金銭も必要らしく、主たちは資金作りに奔走している。まあその辺りのことはナナキの管轄外である。いや、違うよ? ナナキは主を信頼しているだけで難しいことから逃げているわけではない。


 そもそもだ。友よ、君はそうやってナナキを馬鹿にするけれど君自身はどうなんだ。人間じゃない君には金銭は不要なものだろう。そんな君が人間の社会情勢について詳しいとは思えない。ナナキを馬鹿にするのであればそれなりの知識が必要だとは思わないか。思わない、そうか。えっ思わないの。


 神様とは理不尽な存在である。胸を張るイルヴェング=ナズグルに抗議の視線を向ければサムズアップされた。ナナキだって負けるものか。神仏照覧、誇り高きナナキのポーズ。どうだ友よ、これぞ心技体の頂点を制したナナキが披露する芸術である。観念したのならそのニヤけ面を納めなさい。


「ナ、ナナさん……?」

「うちのメイドは時々変なことをしているんだよな……」


 おのれナズグル……ッ‼


 心を込めてナナキを馬鹿にする君が憎い。ゲラゲラと笑いながら指を差すその様は信仰の対象になる存在とはとても思えない。どうして君は毎日のようにナナキを馬鹿にするのだろう。まったくいけない神様だ。


「んんッ‼ 確か、商会を嗅ぎまわっている輩がどうのという話でしたね」


 はいはい、お仕事の話に致しましょう。さっきの話は御終い。それと友よ、あとで覚えていろよ。


「姿は見たのですか、アイバス」

「いんや、姿は見えないんだが気配も魔力も感じるんでさあ。けど如何せん素早くて俺らじゃ捕まえられねえ」

「私も似たようなものです。相手が一人なのだということはわかるのですが……」


 アイバス、アキハさんの話から察するに、十中八九で帝国騎士だろう。それもかなりの上位、五帝候補クラスかもしれない。アイバスはともかく、アキハさんの実力は帝国騎士の中位には匹敵する。場合によれば上位にも食い込めるだろう。それが軽々とあしらわれるとなると、おのずと答えは出てくる。


 五帝が来たのならナナキが気付かない筈がないからね。


 偵察か、或いは別の目的か。恐らくはナナキの魔力を察知してもう近場にはいないだろう。でもナナキを、もしくは主を監視するのであればこのフレイラインの近くにはいる筈だ。それなら十分、天才と呼ばれる君たち帝国騎士とナナキの違いを披露しよう。才能にも各は在る、天上はナナキだ。


 フレイラインでそれなりに大きい魔力を持つ人間は限られている。そしてそのほとんどが今この場に居るのだから探知は容易い。特に大きな魔力、これはミーア様。その傍にあるのはきっとフィオさん。となると、残りの反応は。


「アキハさん、アイバス。少しの間、主をお願いいたします」


 丁寧に、丁重に一礼。大事なことだから。


 目標捕捉、進路反転回れ右。進路確認、右良し、左良し、意気や良し。ビリビリチャージ、完了。最終確認、発進よろし。商会嗅ぎまわる不届きもの、君にライトニング。いなーいいなーいナナキ。


「どうも」


 バァ。


「ッッ!?」


 驚愕をしながらも飛び出てくる剣。咄嗟の出来事にも関わらず斯様な反応、お見事であった。身なりはそこいらの地方騎士の恰好だけどその実力は紛れもなく帝国騎士のもの。放たれた一閃も恐ろしくレベルの高いもの。アキハさんでもこれは厳しいかもしれない。やはり五帝候補かな。


 でも私はナナキ、向かって来る悪い剣をぺしぺし。ついでに不届きものの頭もぺしぺし。ナナキに剣を向けてはいけませんってエンビィに言われなかったの。悪い子だ。まずは話を聞きなさい。


「…………ありえない」

「狭い常識ですね」


 身近に五帝なんていう人間を超越した存在が四人もいるだろうに、何を言っているのか。それとも、今の一閃にそれだけの自信が在ったということだろうか。そうであるのならもっと強くなると良い。自分を誇れるように。


「元五帝の貴女と比べられてもね、私たちは困るんですよ……」

「そうやって逃げてばかりいるから弱いのです」


 ナナキの居場所は遠いと知っているから。そこに至るまでの苦難は彼らにとって諦める材料に成り得るのだろう。愚かな話、本当に愚か。辛いから、厳しいから、難しいから。だから尊ばれる、認められる、称えられる。険しいから輝くのだろう。


 誰にでもできることなら価値はない。辛いから、厳しいから、難しいからと逃げるのなら、諦めるのなら。一生を虫として過ごすと良い。誇りを持つための一歩を踏み出せない、そんな臆病者にナナキは言うだろう。君の人生に価値はないと。君のことを何も知らないのに、ナナキはそう言う。


 だってナナキは強いから。弱ければどんな暴論でも否定はできない、強者の発言だけがこの世の真実となる。悔しいなら戦うと良い、悲しいのなら戦うと良い。痛い、怖い、辛い、厳しい、難しい、そんなのは当たり前だ。生きる覚悟もない奴の人生に価値があるわけがない。


「それで、嗅ぎまわっていた理由をお尋ねしたいのですが」

「口を割るとでも思いますか」


 思わないよ。だから別に本気で聞いているわけじゃない。ナナキがここに来たのは始末するためだから。主にとって邪魔なものを、ね。


「……ですが、もし貴女に見つかったのならと、エンビィ様から預かっているものがあります」

「エンビィが?」


 危なかった、今にでも殺すところだった。そういう大事なことは一番初めに言って頂きたい。


「こちらです」


 彼が取り出した白い封筒を受け取ってこの場で開く。さてさて、ナナキの心の姉からお便りだ。いったいどのようなことが書かれているのか気になると言うもの。手紙を開いてみれば綴らている多くの文字。間違いなくエンビィの字。とても綺麗、さすがはナナキの姉。


 けれど、重要なのは文字の美しさではなく、その内容。


「――――帝国と和解?」

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