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雷帝のメイド  作者: なこはる
五章-夏の終わりと尊き教え-
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LOVEは戦争

 日暮れ、落ちていくエンビィにさようなら。また明日。


 茜の空に沈んでいく姉にお別れの挨拶。元気だろうか、ナナキの姉は。少しばかりの郷愁を感じるけれど、今のナナキにはやることがたくさんある。さてここでクエスチョン、やることがたくさんある中でナナキが優先すべきことは何か。友よ、答えてどうぞ。


 世界への反逆? なるほど、わかりやすい。


 さすがはナナキの友だ、鋭いところを突いてくる。そんなGoodでGodな君に伝えるのは大変に心苦しいのだけどその解答はBadであります。世界への反逆、それは主の選んだ栄光の道である。待ち受ける苦難を知りながらに歩むその誇りは本物。彼は英雄となるのだろう。祝福を致します、我が主。


 でも今はそっちのことは置いておきます、お許しください我が主。


 その輝きはナナキが見定めた。それは本物で在ったから、大丈夫だ。後ろにはナナキが居る、存分にその道を歩んで頂ければそれで良い。その先にはナナキの見たかったものも、主が欲しがったものもきっとある。それなら私たち主従は進むだろう。そこに不安はない。


 だから、ナナキが優先するのだとしたらそれはきっと不安のあることだ。


 ナナキは特別だ。それは間違いない、お母様もそう言っていた。事実として基本的には何でもできるし、神様とも友人関係にある。さすがナナキ、特別な人間。でもそんなナナキでも全てに対して完璧であるとは言えない。非常に悔しい。きっと三年後くらいには克服していると思うのだけど。


 さあ、それではアンサーだ。これが今のナナキが優先するべきことである。


「ナナキさんが料理……ですか?」

「はい」


 そう、クッキングナナキ。


 とうとうこの日が来てしまったのですよリドルフ執事長。思えば、メイドとしての適性を測られたあの頃から数ヵ月。たった一つの失敗で締め出されたこのキッチン。まだいいだろう、今度でいいだろうと先延ばしにすることができなくなった。そう、これは戦争である。


 ナナキは手に入れる。彼女には絶対に負けない。このナナキと全力で戦おうとそう告げた彼女の誇りに誓って。それは圧倒しなければならない、圧勝しなければならない。彼女の美しい心に見合うだけの強敵でなければならない。


 ナナキは問おう、全力とはなんだ。


 今のナナキに出せる全ての力のことを言うのだろうか。いいや違う、そんなものは全力とは言わない。全力と言うからにはこれからのナナキも含めるべきだ。この身が持つ才能、ポテンシャルを全て引き出してこそナナキの全力。そのための努力を怠ることはナナキの誇りが許さない。故に戻るのだ、この場所に。


 ――――キッチンよ、ナナキは帰ってきた。


 ナナキは目を逸らさない。ただ恋心という信念を以てリドルフ執事長を見上げる。身長およそ二メートルの巨体がたじろぐのを見た。覚悟は届いたのだろうか、ならば審判を頂きたい。やがて出てきたのはリドルフ執事長の困ったような笑みだった。


 おやおや、それはいけない。笑顔とはそういうものではないのですよ、リドルフ執事長。大変に恐縮ではございますがナナキがお手本をお見せ致しましょう。ご安心頂きたい、ナナキはスマイル十一段という唯一無二の称号を自称している。自称。


 恋するナナキスマイル。世界の皆さま、ナナキが勝ちます。


「……ネズミ、カエル、ヘビ、この中でゼアン様やミーア様に出してはならない食材を答えよ」


 急な出題にも焦らない。


 やれやれである。ナナキは大自然の中で育った身である。この程度の質問でナナキを止められるとでも思ったのだろうかリドルフ執事長。それは実に浅はかである。リドルフ執事長が上げた三つの食材はどれも美味しい食材であり、人が食べられるものである。勝利をお見せしよう。


「オールグリーン。食べられます」


 ナナキは流行りの決め顔でそう言った。


「レッドカード、退場です」


 見ないで。



「科学ねえ……。で、どうやってその尻尾を捕まえるんだよ」

「十月になればミーアが帝国魔法士の試験を受ける。帝都になら何かしらはあるだろう」

「お、おい待て、それは危ないんじゃねえのかよ?」

「俺の妹は優秀だからな。危険だと思えば無理には踏み込まない」

「あら、お兄様にしては良くわかっているじゃない。褒めてあげるわ」

「そりゃどうも」


 あの日から、ヴィルモット・アルカーンがアルフレイドの屋敷へ来ることが増えた。主も彼も、最近は学校には通わない。理由は明白だった。何かになるための道中が学校というものであり、既になってしまった二人に、最早それは必要のないものなのだ。


 主にミーア様、ヴィルモット・アルカーンは毎日のように世界について話している。ナナキはそれに口を挟まない、耳も立てない。ただ御三方にナナキ特製の淹れたてのお茶をお届けするだけ。ナナキは世界のルールには疎い。それで良いのだ。


「ありがとう」


 主にお茶を差し出した時のこと、ふと告げられたお礼の言葉が心に熱を生んだ。いつもならいちいちお礼を言うのは主らしくないと言うのだけれど、そんな気分にはならなかった。こんなナナキは不純でありますか? 神様はどう思うのか聞いてみた。


 おっと、親指立ててますね。良かったナナキは大丈夫だ、神様の御墨付。


 その凛々しい横顔をいつまでも見ていたいなとか、最近はそういう想いも自覚し始めた。でも今のナナキは従者である。従って御三方の邪魔にならないように、静かに退室するのだ。恋を自覚してからは一層にメイドとしての自分を意識している。さすがナナキ、立派なメイド。


 メイドとしての役目を果たしたのなら、次は友としての役目を果たそうと思うのだ。


 ヴィルモット・アルカーンがこの屋敷に居るということは、その従者でありナナキの友でもあるアキハさんも一緒にやってくる。ナナキとしてはとても嬉しいことなのだけど、どうにも最近のアキハさんは元気がないのだ。中庭の木に寄りかかっては、虚空を見つめて何かを思っている。


 同族意識のおかげもあってナナキと仲良くしてくれる彼女に何か一つでも返せるものがあると良い。いつも明るくナナキに接してくれている彼女に、ナナキは御返しをしようと思うのだ。任せてほしい、ナナキとアキハさんの仲は本当に良いと言える。加えて言えば、ナナキは勉強もした。今日はその成果をお見せしよう。


「ちょーアキちゃんどないしたん?」


 少しばかり漂う陰鬱とした空気を察知、ならばそれを吹き飛ばせるような明るく、そして少しバカっぽく、フレキシブルに問いかけ。こうすることによってアキハさんが語りやすくなるセンセーショナルな対応。ナナキ高い系。


「おーナナちゃんちょい聞いてーやー」


 ほら来た仲良し。


「うち六大貴族と戦ったやんかー」

「せやなー」


 ナナキたちがバカンスに行っている間に起きたフレイラインの事件。六大貴族の一人アイナ・アイナの死去はついこないだに世間を騒がせたばかりだが、それに追い打ちをかけるようにしてもう一人の六大貴族がこの世を去った。


 その後釜は言うまでもなく、ヴィルモット・アルカーン。


 そこにはきっと死闘があったのだろう。その死闘にアキハさんが何を思ったのか、何を感じたのか。その場に居なかったナナキにはそれを感じることはできない。だからこうして声を掛けて、聞いてあげればいいのだ。それが友人というものだろう。


「そん時に色々おもてん」

「思たんかー」

「うちもまだまだやなって痛感してん」

「そうなんかー?」


 それは、目指す場所による。だから答えは曖昧なものにしておいた。アキハ・シノハラという女性がどこを目指しているのか、それはまだナナキは聞いていないから。願わくば、彼女がその場所にたどり着けますように。友人としてできるのは祈ることくらいだったよ、友よ。


「……普通に話しましょうか」


 せやな。

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