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雷帝のメイド  作者: なこはる
四章-平穏とプライド-
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どうぞカーテンコールまで

 生きるということは、負けないということ。


 だからナナキは敵を討つ。敬愛なるお母様と結んだ約束、学んだ誇りに誓ってそれら全てを屠る。三大神であろうと何であろうと、ナナキの敵となるのなら等しく殺す。敵は死ねば良い、ナナキが生き残るために。それは正しいことだ。ずっとそうしてきた。これからもそうしていく。


 だって、それがナナキだから。


 人が掲げる善悪ほど無駄なものはない。老若男女、女子供に少年少女。そんなどうでも良い区別は付けない。敵か否か、区別とはこういうことだろう。ナナキは殺す。敵であるのなら死ねば良い、そうでないのならナナキの道を遮るな。人が生きるとはこういうことだろう。


 だから彼女も殺す。その筈だった。


 それでも殺せなかったのは、きっと彼女が美しいからだ。


 その”敵“は、尊かったのだ。


 ぶくぶくと膨れ上がったそのだらしのない身体でありながら、ナナキへと宣戦を布告した。彼女に有利は在った。ところが彼女はそれを投げ捨ててしまった。してやられたと、思わず笑ってしまうほどに彼女は強かな女性で在った。とても弱い、恐ろしい強者に出会った。


 彼女は”有利(婚約者)“を捨てた。ならナナキも”有利(武力)“を捨てなければならない。ナナキは最短の決着を狙っていたのに、気付けばイーブンである。いいや、少しばかり分は悪いのかもしれない。何せナナキは恋という感情には目覚めたばかり。どうしていいのかもわからない。


 長期戦、苦しい戦いになるのかもしれなかった。


 ナナキは好ましいと思う人間を殺さない。それでも、彼女に殺意を向けるのはその尊さに敬意を以て当たることを誓ったからだ。彼女は言ったのだ、逃げるなと。ならナナキは逃げない。心に聞いてみれば、存外に素直に答えは出たよ。


 ――――私は主が、ゼアン・アルフレイドが欲しい。


 そのためなら殺す。好ましいと思う貴女でさえ。


 とまあ、恰好を付けてみたもののその場で殺すことはできなかった。それも決着の一つの方法であるというだけで、必殺の念を常に持つ必要はない。ただ手っ取り早いというだけ。ナナキにその覚悟があるだけ。それだけの話なのだ。


 聖戦の予言を残してバカンスは終わった。


 彼女とナナキの関係は敵同士となったけれど、だからと言っていがみ合うでもなく、普段通りに過ごせた。この戦いは互いでぶつかり合うのではなく、どちらが選ばれるかというものだから。決戦はまだ先、なら一先ずはこの話は置いておこうと思う。やはりまだ少し、照れくさいものがあるからね。


 だから”もう一つ“の話をしよう。


「お帰りなさいませ、ゼアン様、ミーア様」


 主にとっての休息、ナナキにとっての自覚の日が終われば私たちは帰ってくる。それは自然で当たり前のこと。


 出迎えてくれたリドルフ執事長、その横で――――


「よぉ……ゼアン……」


 ――――彼は待っていた。


 アルフレイドの屋敷の前でただひたすらに、我が主を待っていた。そこにはナナキの友も居た。黒曜の髪を靡かせて彼の傍で控えているナナキの友人。雰囲気から容易に察することができた。苦難を越えた友人に祝福を。拍手は控えよう、舞台はまだ終わってはいないから。


「すげえなあ……六大貴族って奴は……へへへッ……」


 いつかを思い出す狂気を孕んだ表情だった。


「あっという間だったよ。仕掛けてすぐだ。親父と母様が捕まって手詰まりだ。いくらアキハが強かろうが俺も含めた三人を守るのは無理だった。しょうがねえよなあ……ああ、そうだ! しょうがねえよ!」


 ヴィルモット・アルカーンは立ち上がった。


 狂気の瞳を真っすぐに主へと向けている。彼は許せなかったのだろう、敗北した自分を。敗北させた主を。貴族としての誇りも在れば、ヴィルモット・アルカーンとしての誇りも在ったのだろう。その性格はさぞやその身を苛んだことだろう。いっそ清々しいほどに彼のプライドは高かった。


「貴族らしく在れと言ったのは親父だった! そうさ、俺はアルカーンだッ! アルフレイドのお前に見下される? 冗談じゃねえよなあ親父ィッ‼ ハッハッハッハッハッ‼」


 笑っていた。涙を流しながら。


「――――これで俺も六大貴族だ、ゼアンッ!」


 ヴィルモット・アルカーンには覚悟が在ったのだ。代償を支払う覚悟が。家族の命を捧げるなどナナキの前でよくも言えたものだ。殺してしまおうかと思えるほどに憎悪が湧くが、それでもこの男が選び通した道だ。結果、ヴィルモット・アルカーンはその地位を手にした。


 不快ではあるが、貫き続ける強さがヴィルモット・アルカーンには在った。一度の失墜から全てを失ったと思われた彼は高すぎるプライドに苛まれながらもここまで来た。己の在り方にブレがない。例え相手が彼であっても認めるものは認めなければいけない。


 見事、と。


 ナナキの友人を見れば、とてもくたびれていた。ところどころに見える傷跡が激戦であったのだと物語っている。それでもアキハさんはナナキに向けて笑顔でピースしてくれた。余裕もないだろうに、同族を大事にする人だ。


「お前が言ったんだろゼアン! 同じ場所まで来いってよぉッ!」

「……そうだな、俺がそう言った」

「なら話せよ……お前が知ったものをよォッ‼」


 彼は求めた。失ったものに見合うものを。


「俺が欲しがるものなんだろ? だから呼んだんだろゼアンッ!」

「そうだ、お前の大好物だよヴィルモット」


 獰猛な瞳は真実を求めている。この世界の真実を。


 今の世界を納めているフロスト帝国がひた隠しにしてきたパンドラの箱。それがもたらすのはやはり災いなのだろう。それでも彼らは開けるのだ。災いを振り払ってこそ英雄、彼ら男の子はいつだって分かりやすい恰好の良いものに憧れる。


「英雄になりたくないか、ヴィルモット」

「ああ?」

「協力しよう。俺はお前の野心とプライドは信用できる」

「……だからいつまでも見下してんじゃねえ! 俺とお前は同等だッ!」

「……痛いな」


 今の小突きだけは見逃してあげた。ナナキは空気が読める従者だからね。


「――――さっさと話せよッ! 英雄の条件をッ!」


 それは熾烈な戦いになるのだろう。それを悟った主が選んだのは、強者となった日に撃ち破った最初の一人だった。ナナキは従者、人選にケチを付けるような真似はしない。主には主の考えがある。そしてナナキにもナナキの考えがあるのだ。


 守れば良い、ナナキが。


 今回ばかりは相手が相手、ただ力であるだけでは主は敗れるだろう。何より今回はナナキも当事者なのだ。世界の真実、大いに興味がある。きっとそこにはナナキが欲しがる答えもあるのだろう。教えてもらわなければ、予言の真実を。


「……成否に関わらず、歴史には残りそうね」

「……お守りします」

「ええ、頼りにしているわ」


 盛り上がる男子二人を置いて冷静に呟いたミーア様に、覚悟を決めるフィオさん。主の家族であるミーア様にその従者であるフィオさんは既に全容を聞かされている。その途方もない戦いを知って、彼女たちが逃げ出すことはなかった。


 始まりの反逆者を数えよう。


 首謀者、ゼアン・アルフレイド。


 その従者、ナナキ。


 妹にして魔法士、ミーア・アルフレイド。


 その従者にして騎士、フィオ・レーゲン。


 執事長リドルフ。


 狂乱の王、ヴィルモット・アルカーン。


 その従者、アキハ・シノハラ。


 以上、七名。世界を相手取る役者は揃い、舞台も十分に整った。それならばすることは一つだろう。滅びた筈の科学を知り、世界を暴くのか。或いは予言の通り、世界を滅ぼしてしまうのかもしれない。それをナナキは語ろう。ナナキが語ろう。この目で見たものを、これから見るものを。


 長らくお待たせ致しました、世界の皆さま。


 ――――開幕です。


四章-完-

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