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雷帝のメイド  作者: なこはる
四章-平穏とプライド-
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スイカ割りしようぜ

「さあ、泳ぐわよフィオ!」

「あああ、お待ちくださいミーア様! しっかりと準備運動を!」


 水辺を駆けていく仲良し主従を笑顔で見送った。手も振ってしまう。ふりふり。


 目の前に広がる大きな湖、フェアリー・レイク。いつもは眉をナナメにしてぷりぷりしているミーア様も眼前の大自然にすっかりと魅了されてしまったようだった。子供のように燥ぎながらフィオさんの手を引いている。その姿は主従と言うよりは親友同士と言ったところ。ほっこりした。


「よし、俺たちも向かうか」

「ええ、ゼアン様」

「行ってらっしゃいませ」


 意気込みや良し、ぜひシエル様をエスコートしてあげてほしい。水中はナナキの領分ではない。何度でも言うけれど、人間は陸上の生き物だ。まあそれもナナキの一意見であることも事実。出過ぎた発言は禁物、主とシエル様の御二人も笑顔で見送る。ふりふり。


「……ナナは泳がないのか?」


 足を止めて主が振り返った。これは良くない、ナナキの主であるのならメイドのことなどは気にせずに楽しんで頂きたい。せっかく婚約者と湖に来ているのだからメイドなんかに構っている場合ではない。実際、泳げないという理由もあるけれど、やることがあるのも事実なのだ。


「有事に備え見渡せる場所に居ようと思います」

「……そうか、わかった」

「御二人とも準備運動を怠ってはいけませんよ」

「ああ」

「はい!」


 良い返事、花丸。主の少しばかり頼りない背中とシエル様の大きすぎる背中を今度こそ見送った。うん、ここからならミーア様もフィオさんも見える。何かあればすぐにでも駆けつけられるだろう。友よ、君も何かあったナナキに教えてほしい。


 なに? 人間は嫌いだから断る?


 それは困った。ナナキは君に恰好の良い神様で在ってほしいのだけど。彼の神話の雷イルヴェング=ナズグルがこの程度の頼み事を断るほど狭量であるとは思いたくない。あのイグレイ=アライラーをも討ち取った君はそんなに情けない神様なのだろうか。


 うん、ありがとう。それじゃあよろしく。


 さてさて、友の了承も取れたことだし迅速に行動開始。まずはこの焼けた砂浜に安全地帯を作るべくシートを敷いて四隅を固定する。夏の強い日差し対策のグッズが入ったバックをシートの上に置いて次の作業へ。貸出しているパラソルとビーチチェアを人数分配置。この間およそ二秒弱。ちょっと遅いかな。


 かなりのスペースを取ってしまったけれど、この広いビーチであれば問題はないだろう。貴族の避暑地と聞いたからもう少し静かなスポットかと想像していたけれど、見渡せる範囲にはそれなりの人数が居る。これ全てが貴族なのだろうか。初めまして、ナナキです。


 一先ずはこんなものだろう。天気は快晴、白すらない蒼に容赦なく大地を焼く太陽。水分補給は非常に重要、常温の水を飲んで持ってきた塩を舐める。そして水着とセットで買った麦わら帽子を被って直射エンビィを防げば完璧。ナナキに死角なし。


 白浜のナナキスマイル。世界の皆さま、ナナキです。


「え? 今の俺たちに向かって微笑んだの? 積極的?」


 所構わずに笑顔を披露するのも考えものなのだなと学んだ。ナナキスマイルが素敵過ぎるせいでたまたま通りかかった変なのが二匹も近寄ってきてしまったではないか。おおっと、待った待った友よ。水辺で君が力を発揮したら多くの命が失われる。ここはナナキに任せて頂こう。めっ。


 上背のある二人組、露骨な態度が不愉快ではあるけれどここは穏便に。主やミーア様のせっかくのバカンスである。それを従者であるナナキの不手際で台無しにしていい筈がない。穏便に、そして速やかにご退場願おう。小麦色の肌をしているが、同じ人間である。人であれば話が通じるのだ。


「誤解を与えてしまい申し訳ありませんでした。どうぞお構いなく」


 麦わら帽子を取って深く一礼をした。恐らく十分に誠意は伝わったと思う。給仕服ではないせいで普段よりも威厳が少々足らないところがあるけれど、それは美しい所作でカバー。この一連の動き、素人が見ても育ちが良いと錯覚するだろう。貴族であるならなおさらに。


 まあ実際は森育ちなのだけどね。


「ええ? 誤解なの? 俺たちは全然構わないよ?」

「そうそう、一緒にスイカ割りとかしない? 本物のスイカ見たことある?」


 おやおや、おかしい。話が通じないぞ、彼らはヒューマンなるや?


 不用意に触れてくるような輩ではないようだけど、簡単に引き下がるつもりもないらしい。面倒な状況ではあるが、ナナキの女性としての魅力が遺憾なく発揮された結果と言えるだろう。つまり女性は胸ではないのである。それ見たことか、やはりナナキが正しい。


「一緒に遊ぼうよお嬢さん」


 沈黙を通しても一向に諦める気配はなし。ギラギラの真夏の太陽の下でこうも絡まれるのもしんどいものがある。それにいい加減に不躾な視線も不愉快だ。いっそ実力行使に出た方が早いだろうか。いや、しかし主のせっかくのバカンスを台無しにするのも悪い。


 決断せよナナキ。


「では一度だけお付き合い致しますので、それでご容赦ください」


 面倒ごとは避けるに限る。何より厄介なのはまったくらしくはないけれど、彼らもまた貴族である可能性が高いという点。どれだけの家柄かわからないうちは手を出しにくい。いや、例えどんな家柄であろうと主をお守りすることはできるだろうけど、許可なく火種を撒いて良い筈がない。


 ではここは譲歩するより他にないだろう。


 さすがナナキ、大人と言える。


「えー? じゃあスイカ割りする? お嬢さんの自前ので」

「リンゴもなさそうだけどな」


 はい、では埋めていきます。


「ッェ!?」

「ゥォッ!?」


 下品に笑う二人を首まで砂に埋めた。穏便に済ますと言ったな、あれは嘘だ。


 人間としての対応はここまでだ、害虫諸君。ナナキが何か無礼を働いたのであれば甘んじてその罵倒を受け入れよう。だが唐突に人を誹るのであればそれは敵だ。けれど諸君にはこのナナキの敵となるには品格が圧倒的に足りない。ならばそれは虫だ。


「それではスイカ割りを致しましょう。私が叩く役を」


 君たちはスイカだ。とても良い役割分担、ナイス采配に自画自賛。不味そうなスイカを叩く棒はそうだね、パラソルでいいかな。この一本はナナキのお給料で買い取ろう。スイカは赤い汁が出るからね。うん、少し軽いけれどスイカを割るくらいは容易いだろう。


「お、おいおいおい冗談だろおッ!?」

「ちょっと待てってなあッ!?」


 調整のためのナナキスイングを披露したらスイカが叫び出した。でも残念、ナナキにはスイカの言葉はわからない。まったく、どいつもこいつも胸だ何だと。ナナキが寛容だからって調子に乗ってもらっては困る。次にナナキの胸に文句を付ける奴が居たらぶっ殺してやる。絶対にだ。


「はい、それでは回りますね」


 二人の絶叫が聞こえたけれどナナキは今回るのに忙しい。パラソルを軸にぐるぐる。特別なナナキは三半規管がとても強い。どれだけ回ろうとナナキの平衡感覚が狂うことはない。さあ規定の回数だ。覚悟はよろしいだろうか。


「それでは、目隠しをして始めますね」


 祈りは済んだかな。


「――――おい、お前。坊ちゃまたちに何をしている」


 女性の声、気配と殺気。


「その命を持って詫びてもらうぞ女ァ――――ゴェッ!?」


 邪魔。しっしっ。


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