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雷帝のメイド  作者: なこはる
四章-平穏とプライド-
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当日に見たい派

 禁数という言葉を作ろうと思った。


 ナナキが禁じた数字という意味である。この禁を犯す者はナナキが処罰する。慈悲など期待はするな。


 親切な店員のお姉さまはナナキに色々なことを教えてくれたのである。結果として心の傷を負うことになったけれど、世間知らずを少しばかりは治せたのではないだろうか。心の姉エンビィ、いつかまた貴女に会えた時は成長したナナキの姿をお見せしようと思う。


 それでは、また一歩成長したところで本題の水着選びに入る。


 泳ぐ気などは更々にないが、ナナキだけ給仕服で湖の砂浜を駆けるのではせっかくの情景を破壊する恐れがある。であれば、不本意ではあるがやはり水着の着用は避けられないだろう。では、どのような水着を選択するか。簡単だ、変でなければ良いのだと思う。


「すみません、何かオススメの水着はないでしょうか」


 ならばプロに聞いてしまえば良い。相手はプロだ、こういった曖昧な質問であっても全力で考えてくれるだろう。むしろこんなことで困ってしまうようであれば何のためにこの水着売り場に居るというのか。プロが勧めてくるものなら間違いはないだろう。完全勝利は目前と言える。


「お客様でしたら……そうですね、こちらなんていかがでしょう」


 ひらひらのふりふり。特に胸の当たりが。


「それと……こちらのようなタイプもございますが」


 カラフル。でもやっぱり胸の当たりがひらひらしている。


 にこにこと笑顔で対応してくれる店員のお姉さまにナナキスマイル。ナナキの胸に何か物申したいことでもあるのでしょうか。問いかけてみたいけれど、内容によっては自制ができるかわからないのでやめておこう。


「露出の少ないものはありますか」


 水着である限り露出があるのは仕方がない。けれど出来れば露出の少ない水着を選びたい。潔癖とまではいかないけれど、やはり人前で肌を晒すのは慣れないのである。先に伝えておけば良かった、許してください店員のお姉さま。ナナキはこういった経験が少ないのです。


「でしたらこちらのセパレート型はどうでしょう、泳ぐのには不向きですが」


 嫌な顔を浮かべもせず、店員のお姉さまはすぐに対応してくれた。さすが常日頃より傍若無人な貴族の皆さまを相手にしているだけはある。ああいや、これはナナキの偏見だけれども。どうにもナナキの知り合う貴族は醜いものが多いせいで変な偏見を持ってしまう。


 皆が皆、我が主のように凛々しく在ればいいのだけど。


「こ、ここに居たのかナナキ! 助けぐぉッ!?」

「ダメじゃないお兄様。一人でふらついていては変態と間違われてしまうわよ」


 せっかくナナキが褒めているのにこの主は。少し反省して頂きたいので笑顔で見送った。連行されていく主に心の中で敬礼。グッドラック。


「ではこの水着に致します」

「ありがとうございます」


 店員のお姉さまが勧めてくださった水着はまるで私服。なるほど、これなら露出も少ない。あまり水着という気はしないけれど、給仕服よりはマシだろうと判断する。そうと決めればナナキは早い。流行とかそういうものに興味はないのだ。


 これにて完全勝利は成った。さすがナナキ、敬愛なるお母様の娘。


「ではお客様のサイズの方を」


 おのれ禁数に触れると言うのか。


 

 買った。


 お世話になった店員のお姉さまに一礼をしてから速やかにその場を去り、主たちとの合流を急ぐ。慣れていないせいでそれなりの時間が掛かってしまった。主もそろそろ反省した頃だろう、助け舟を出して差し上げねば。


 各々の気配は既に覚えてある。気配を探ってみれば、すぐ近くにシエル様とミーア様の気配。主の気配がないということは、どうやら自力で脱出されたようだ。


「ただいま戻りました、シエル様。ミーア様」

「あらナナさん! 水着はお決まりになりました?」

「はい。店員の方に勧めて頂いたものに致しました。シエル様はお決めになられたのですか?」

「私は特注のものなのでここでは買わないんです」


 貴族御用達のロイヤル・ストリートに店を構える洋服店でもシエル様に合うサイズは存在しないようだった。特注の水着を既に用意してあるということらしい。やはり美しい心を持った人だなと思った。


 水着が既に用意できているのであれば主たちに付き合う必要はなかった筈だ。ご自身の体形やこの炎天下を考えれば、涼やかな屋敷の中で過ごしたいと思うのではないだろうか。それに、先日に言い負かされてしまったミーア様が同行することもわかっていた筈。それでも彼女はこの場へと来た。


 それが付き合いであるのか、或いは本心から皆で過ごしたいと思ったのかはナナキにはわからない。でもきっと後者である気がする。この女性は美しい心を持っている、何度もそう思ったから。こんな綺麗な心を持った人が、主の婚約者。


「どうかしましたか? ナナさん?」

「――――いえ、何でもありません」


 参ったな。日々を過ごし、主と共にある分だけ、彼女と友人になれなくなってく自分を感じてしまう。これは裏切りだろうか、友よ。あの日は本能で断った。けれどもう一度聞かれたのなら、きっとナナキは自分の意志によって断るのだと思う。


 女として戦う、いつかそんな日が来るのかもしれない。


「ところでウサギさん、お兄様を見なかった?」

「いえ。ミーア様から逃げ果せるとは主も逞しくなりましたね」

「フィオに裏切られただけよ。私は魔法士だから運動は余り得意ではないの。むやみに魔法を使うわけにもいかないしね」


 カチンと来たよ。


「主はフィオさんを頼ったのですね」

「え、ええ。どうしたのよ、物騒な雰囲気を出して」

「いえ、別に」


 確かにナナキは助けを求める主の声を敢えて無視した。けれどだからと言ってミーア様の従者であるフィオさんに助けを求めるとは。貴方の従者はこのナナキだろうに。これにはナナキも憤慨を露わにする。気分がよろしくナナキ。


 うん、確かにナナキは勝手なことを言っているのだろう友よ。あの時に主を見捨てたのはナナキだ。それでも主の従者の座を誰かに奪われたとあればそれはナナキの誇りに関わることなのだ。冗談で済む展開であったと思っていたけれど、まさか片時であろうと従者の座を奪われるとは。


 ナナキの誇りに触れるとは、大した度胸だ。


「それでは私がミーア様の従者を務めましょう。さあ、殲滅の許可を」

「するわけないでしょう」


 許可は頂けなかった。残念。


「私もそろそろ水着を買うから、それまでにお兄様を見つけておきなさい」

「かしこまりました」


 実はもう見つけてある。主の気配だってばっちりと記憶しているこのナナキから逃げ果せることができると思わないで頂きたい。シエル様とミーア様に一礼をしてから、即座に発進。今、会いに行きます。


「ただいま戻りました、我が主」

「うおッ!?」


 主はびくりと身体を揺らしてからナナキを見た。怯える主にナナキスマイル。覚悟はよろしいか。


「フィオさんは一緒ではないのですね」

「ああ、逃げるのを手伝ってもらっただけだしな」

「どうしてナナキを頼って頂けなかったのですか?」


 ずるい質問ではあるけれど、主がどう答えるか興味がある。一番有効であるのは当然、ナナキが主を見捨てたことを糾弾するパターンだけれど。さあ、主はどう出る。


「水着を選んでいたみたいだったからな」

「……? どういう意味でしょう」

「さあな」


 これは、もしかして誤魔化されている?


 主との付き合いは長いとは言えないけれど、それでも深いとは言える。この言い方はきっと本心だ。つまりナナキが主の意図を読み取れていないだけの可能性が高い。すまない友よ、もしわかっているのならヒントを頂けないだろうか。当日? 何の?


 数分悩んだけれど、わからない。時間切れ。だから伝えておきたいことだけ伝えておくことにした。


「従者の座を誰かに譲る気はありませんよ、主」

「……ハハ、何だ、嫉妬してたのか」


 shit!

 

 


 

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