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雷帝のメイド  作者: なこはる
四章-平穏とプライド-
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人間だけが神様を叱れる

 ――――闇を堕ちていた。


 いや、これは空だ。どうやら気を失っていたらしい。堕ちるナナキを見下す神様が居た。伝説の三大神、その一角”イグレイ=アライラー“。神界戦争の終結にも関わった紛れもない伝説。素直にさすがだと言える。伊達ではない。


「……強っ」


 伝説は、ずるいくらいに強かった。


 雷になって再び空を駆ける。人では反応しきれない速度でも、神様には通じないらしい。イグレイ=アライラーの攻撃は強大な魔力を空間に押し込む実にシンプルなものだ。ナナキの移動先を次々に潰しては、行先の無くなったこの身を押し潰す。まるで虫のように。


「ぐぬッ‼」


 もちろん、簡単には潰されない。お母様の娘であるこのナナキと、神話の雷イルヴェング=ナズグルが共に戦っているのだ。魔力を放出して押し返す。油断していると先程のように衝撃を頭にもらって気絶してしまう。まったく、初見殺しとは恐れ入る。


 相手は古の伝説、これ以上にない程の上等がやってきたね、友よ。もちろんだ、この程度でナナキが戦意を失うとでも。謳われる伝説がわざわざ目の前で振るってくれているのだ。食い破って過去にしてやらねば失礼ではないか。これはナナキたちの糧となる。


 魔力勝負であれば恐らくは五分。反応で負けている。魔力が五分なのであれば、ナナキたちの攻撃は通じる。それがわかっているからこうして距離を取ってガンガン攻撃してきているわけだ。ああ、そうだね。もう少しだけ時間を頂きたい、友よ。


 ともかく、今は耐える。


「――――滅びよ」


 イグレイ=アライラーは何度も何度も呪詛を囁いた。照れてしまうくらいに嫌われている、そんなにナナキが邪魔か。であれば、神様はナナキの敵だ。ナナキも神様が邪魔だ。良かった、相思相愛じゃないか。


 途方もない魔力が降ってくる。精密に狙いを定めて、雷と化したこの身を押し潰していく。手が潰された。足が潰された。お腹も、肩も。大丈夫、頭と心臓さえ守っていれば即死はない。死にさえしなければ、ナナキはどれだけだって回復できる。


 はあ、痛い。痛い痛い。


「……フフ」


 痛い痛い、だから、生きている。


 潰されて潰されて、潰される。友が治す、ナナキは痛い。もう三分は続いただろうか。耐える、まだ耐える。移動も止めない。例え見切られて潰されようとも、色々と試す。今は死ななければ良い。死ななければそれで良い。大丈夫、痛いうちは生きている。


 伝説は強い、わかった。


「崩界の仔よ、運命を受け入れろ」

「――――ぐぎッ!?」


 これでは遅い、わかった。


 謳われるわけだ、語られるわけだ。偉そうに人の運命を告げるだけのことはあった。それでも、ナナキの運命を決めるのは誰でもない、このナナキだ。勝手にそれを運命だと言い張られても困る。主張しなければ。そのためには、勝利が必要だ。


 流星の如く、魔力が堕ちてくる。


 躱して、躱して、耐える。まだまだ耐える。必要なだけ。


「終焉よ、眠れ」


 人知を超えた速度、眼前に映ったイグレイ=アライラーの手に膨大な魔力が集中していた。零距離での砲撃、この直撃は酷く危険だ。これが伝説。これが三大神の一角。ナナキより強かった。そう、ナナキより、強かったよ。


 威力も速度も、わかった。


 ――――もう、十分だ。


「ハハッ」


 その手を掴んだ。もう掴めた。


「触れたよ、神様」


 集中させている魔力にナナキの魔力をぶつけて相殺、そのまま新たに魔力を形成してプラズマフィールドを展開する。知ってるよ、距離を取るんだ。だってナナキの攻撃は通じるのだから。だから、それを追った。それはとても簡単だった。


「汝」

「うん、もう覚えた」


 その速度はもう知っている。別にナナキはその速度を出せないわけじゃない。どれだけの速度を出せば追いつけるのか知らなかっただけだ。何せ、ナナキより速く移動する人なんて見たことがないから。だから見てた。それくらいならナナキでも容易いよ。


 さあ、長らくお待たせしてしまったね友よ。


「ぶっ殺してやる」


 ――――”全能の雷騎(マギア・シュヴァリエ)


 伝説は十分に見た、旧世界の猛威、確かに感じさせてもらった。十分に理解した、だからもう消えてなくなると良い。疲れただろう、千年以上も在り続けて。伝説はこのナナキと神話の雷イルヴェング=ナズグルが引き継ごう。


 眠ると良い、”時代遅れの神様(イグレイ・アライラー)“。


 雷の剣がその白銀の鎧を削った。徐々に修正する。反応速度は同等以上に強化した。時間はかかったけれど、命が懸かっていれば人間はなんとでもなるものだね。反撃の空間攻撃はどこにどう当てれば相殺できるのかは十分に理解している。もう神様の攻撃はナナキには届かない。


 ナナキの攻撃だけが一方的に届く。覚悟すると良い。


「人の身で神域に達するか」


 白銀のガントレットごと腕を切り飛ばした。相手は神様、すぐに再生するだろう。好きなだけ再生すると良い、そして力を消耗すれば良い。どうせ人間であるナナキには神様は殺せない。消耗させてしばらくは動けなくするくらいしか、人の身にはできない。


 でも、ナナキの友が貴方を殺す。


 神様同士であれば殺し合える。ナナキが一人だったら死んでいたのだろう、友が一人だったのなら殺されていたのだろう。でもナナキと友は一緒なんだ。だからこそ、貴方は時代遅れなんだよ。神様。


「これが、人間」

「なんだ、ご存じでないの」


 呪詛ばかり呟いていたその口から称賛に似た御言葉を頂けた。だからナナキもしっかりとそれに応えようと思う。伝説はナナキよりも強かった。けれど、完成されているその存在だからこそナナキには勝てない。ナナキは成長する。戦えば戦うほど、生きれば生きるほど、人は成長する。


 完成されている神様たちは成長なんてしないだろう。だって貴方たちは人間じゃないから。成長なんて必要ないのだろうから。苦難も難儀もない、だから誇りも持たない。友と違い、人間を理解しようとしない神様がナナキに勝てる筈がない。


 ナナキは天才だから。そして何よりも――――


「――――特別な”人間“なんだ、私」


 証明の一閃、その首を飛ばした。


「人間は平穏を拒むというのか」


 首を飛ばしても人間では神様を殺せない。時代遅れの神様はその力を酷く消耗させながら口を開いた。


「いいや、多くの人はきっと平穏を望んでいると思うよ」

「ならば何故お前は拒む」


 驚いた、神様にもわからないことがあるんだね。友のように戦闘狂の神様であればそれもわかるのだけど、まさか彼の有名な三大神の一角が人間に問うとは。正に時代遅れ、お似合いだ。


「気に入らないんだ。上から目線で救ってやるって」


 神様はナナキに問うた。よりにもよってこのナナキに。ナナキの発言が人類の総意だと勘違いされても困るけれど、答えられる人間はナナキしかいないのだから思ったことを言おう。神様が平穏を望む、そうかそれは良いことだ勝手にすると良い。ナナキの知ったことではない。


「少なくともナナキはお前の力なんか要らない。大きなお世話だ」


 ずっとナナキの傍に居てくれた神様はお前じゃない。勝手に平穏とやらを押し付けるのは結構だが、押し返されて殺される覚悟くらいはしておくべきだ。平穏のためにこのナナキを殺しに来たのだろう。ならそれはナナキの敵じゃないか。


 勝手な話じゃないか。人間の世界をめちゃくちゃにしておいて、それでいて救ってやるだなんて。なるほど、神様は人を見下せるだけの力が在る。けれどナナキはその神様を見下せるだけの力が在る。ならナナキが代弁しよう。総意ではなくても、同じ想いがある筈だ。


 元より人間だけの世界だった頃から人は生きているのだ。神様が暴れて世界が滅ぼされても、人は生き残っているのだ。まるで神様の力がなければ何もできないとでも言いたげなところ非常に申し訳ないが、このナナキが言わせてもらおう。


「人間舐めすぎ」


 そうだろう、人類同胞諸君。

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