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雷帝のメイド  作者: なこはる
三章-陽炎の約束-
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いつか神様になる少女

 蒼光はどこまでも。


 ナナキと友がその力を存分に振るえる。こんな好条件は滅多にないのだから、五帝の皆さまにはどうか正しく認識して頂きたい。ナナキが特別な人間であることを。流星を砕いて溶かし、この蒼穹をどこまでも飲み込んでいくのは”神話の雷“。慈悲などは期待するな。


「こんな……こんなのにどうやって……ッ!?」


 サリアは諦観を表しながら急速にこの空域を離脱していく。如何に五帝と言えどもこのナナキと神話の雷イルヴェング=ナズグルの力を存分に振るう雷の前では逃げるより他にないだろう。得意分野である広域殲滅、普段は主の傍に控えているために使えないけれど、こうなればナナキは誰にも止められない。


 笑顔となんとかパルスに屈せよ。あ、いや、ナナキパルス。そう、ナナキパルス。


 放出を終えれば、蒼穹はすっかりとその姿を変えてしまった。雷が残留しところどころに奔っている。さて結果は如何に、空域を離脱したサリアを追った。シルヴァとライコウはとっくに戦線を離脱している。聞けるとしたらサリアしかいない。


「……やってくれたわね、ナナキ」

「成功しましたか」

「一つくらいは覚悟していたけど……まさか全部やられるなんて……」


 首を傾げた。一つじゃなかったの。


 どうやら人工衛星は一つではなかったらしい。ナナキが得た知識が正しいのであれば人工衛星は一つ作るのでも相当に大変だと思うのだけど、それを何個も作り宇宙へと飛ばしていたのだろうか。技術は滅びた、なんていうのは全部嘘であった。けれどいったい何のために。


「どうして科学を世界から隠すのですか、サリア」

「ナナキはそれを知ってどうするつもり。世界を変える?」

「いいえ、気になっただけです。きっと予言とも関係あるのでしょうけれど、私にはもうどうでも良い。予言のおかげで良き出会いがありました。後は誇りを持って生きていくだけです」

「おかしいな……追われる身のナナキの方が自由に見えるよ」


 少しだけ自虐的な笑みだった。きっと難儀しているのだろう。もしかしたらナナキと友のせいでもあるかもしれない。それでも、それはサリア自身が乗り越えなければならないものだ。諦観は五帝の称号に相応しくはない。


「私たちの神とは格が違う。そんなのが二人分(・・・)だものね」

「それがわかっていても私を殺さないといけないのですね。良いでしょう、私はそれを受け入れます。いつでも来てください、サリア」

「……どうしたらそんなに強くなれるのかしらね」

「己が身に聞いてみることです。今の自分を誇れるか。誇れるのであれば大丈夫、それは心配ない」

「弱者には厳しい言葉ね……」


 それはナナキの知ったことではない。ナナキは強者であり、特別な存在だ。強者は弱者に対して決して優しくはない。けれど弱者から助けを求められたのならばそれを助けよう。弱者には己すらをも救う力がないからだ。弱者は弱者であることを認め、強者に助けを求めれば良い。


 けれど、それに慣れ、屈辱すらをも忘れないことを願う。それはやがて人を虫へと変えてしまう呪いだ。


 では逆に、誇りを持ち続け生きていたらどうなるのだろう。もしかしたら、神様になれるのかもしれない。それならきっとナナキもいつか神様になる。そうだな、なんて呼ばれようかな。うん、なに? 友が決めてくれる? それは嬉しい。先達に名付けてもらえるなんて光栄だ。


 絶壁神? 


 一応聞くけど何が。どこが。よく考えてから言えよ。


 先程は命を救ってもらって本当に感謝しているんだ、友よ。でもね、人には尊厳というものがある。それを踏みにじられては戦争は避けられないんだよ。何度も言うがナナキはまだ成長期である。これからまだまだ成長する見込みが大なのだ。そこも考慮するべきだこのへっぽこ神様。ぶっ殺しちゃうぞ。


 ぽかぽかと友と殴り合った。


「な、何をしているの」


 失礼を。恥ずかしいところをお見せしてしまった。反省。


「それではサリア」


 向き合って名前を呼べば、サリアは構えた。天帝サリアの力は十分に知っている。それでもナナキには勝てない。それをわかっていても、戦うより他にないのだろう。なんだか、これも呪いの様に思えた。ナナキの様に、サリアたちも”五帝“という呪いを背負っているのではないだろうか。


「また会いましょう」

「なッ……」


 手を振って別れた。ふりふり。


 ナナキの目的は既に達成した。これで厄介な転移魔法は封じられたのだからこれ以上サリアと戦う理由がない。もちろん、サリアがこの状況で追ってくるのであれば戦うしかないけれど。不利な戦いを好んで行おうと思う者は少ない。


 ナナキは殺したくない人は殺さない。


 ナナキはまた女子会をしたい。サリアとだって、決して仲が悪かったわけじゃないのだ。いつかまた話し合える日が来ることを望もう。どうだろう、ナナキを追ってくる呪いよ。ナナキは自分が望む世界のために全てを受け入れる。易々と呪い殺せるとは思うなよ。


「さて、後は……」


 長い一日もこれで終わる。最後の仕事と行こう。



 最後の仕事はアイナ・アイナを速やかに排除すること。


 彼女と主の間に恐らく和解はない。どちらかがこの街から、或いはこの世から消える必要がある。解は当然、弱者に決まっている。であれば食われるのはアイナ・アイナだ。主には彼女にない力がある。用意した五帝という力はナナキが全て払った。多少の苦戦は強いられたが、結果ナナキは勝利した。


 これでもう彼女を守るカードはなくなった。


 そう、多分それが良くなかった。自分を守るカードばかりを気にして自分自身のことを見ていなかったのだと思う。財力があることは素晴らしいことなのだろう。でも、それを行使する人間として相応しい態度を取れていたかどうか。極限の状態では人の本性が見えるらしい。


「約束通りの手土産ってな。どうだいナナキ様、誇りがなくても生きていく術はあるもんだろ」

「……なるほど、そういう生き方もあるのだと覚えておきましょう」


 財の女王アイナ・アイナの最期は裏切りによって幕を閉じる。アルフレイドの屋敷に侵入を試みたあの愚かな男に捕縛されたアイナ・アイナは悲痛な声を上げた。


「なんでッなんで裏切ったのよアイバスッ!?」


 酷く取り乱すその様は最早強者のものではない。


「なんでも何も、お前さん本気で言ってるのかよ。お前さんの無茶苦茶な命令のせいで俺の部下が五百人も死んだ。言ったよな、俺ぁ。あの屋敷に攻め入るのは得策じゃねえってよ。意味わからねえ雷で全員死んじまった。全員だぞおい」


 アイバスと呼ばれた男は怒っていた。なるほど、ナナキとの約束を果たした後は自分の立場に従事したということか。それでアルフレイドの屋敷に再び攻め入り、友の雷を受けた。しかし、今ここに居るということは彼はまたも生き延びたということか。素晴らしい生命力だね。


「俺らは金さえもらえれば誰でも良いんだ。バカな上司よりはガキでも利口な上司の方がよっぽど良い」

「た、戦うのが貴方たちの仕事でしょうッ!?」

「神様ぶっ殺すような奴ら相手に戦いになるとでも思うのかてめえはッ‼」


 双方それなりの事情があるようだけれど、どちらもどちらだろう。アイナ・アイナは戦場を知らなすぎる。アイバスはわかっていたなら何をしてでも作戦を変えるべきだった。となれば、地力が強い方が正義となるのだろう、この場合。


「てことでよぉナナキ様。そっちの大将に雇ってもらえねえか。まだ二十人ぽっちは居るんだ」

「……わかりました。確約はできませんが、主に紹介は致します。ですが――――」

「ええ、ええ。言いたいことはわかってやす。ナナキ様相手にバカな真似はできねえって」

「よろしい。何かあればその首を刎ねます」


 この男は頭が切れる。安定した給金が入ればバカな真似はしないだろう。何より損得で生きているこの男はわかりやすい。アイバスという男にとっての得は命と金銭であり、損はそれら二つが失われることだ。なるほど、人というよりは虫だが、生き易そうだ。


「たすッ……助けなさいアイバスッ!? お願い助けてッ‼」


 財の女王アイナ・アイナ。貴族の都フレイラインで六大貴族と呼ばれ恐れられていた女性が無様を晒していた。ナナキにはわからないが、多分だけどこの街で一つの時代が終わり、新しい時代が始まるのだと思う。貴女の死はその象徴となるのだろう。


 貴女は主の命を狙った、だからこれは報いであると知れ。生きる術が在った。交渉を蹴ったのは貴女だ。


「ひッ……や、やめ――――」


 さようなら、アイナ・アイナ。

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