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雷帝のメイド  作者: なこはる
三章-陽炎の約束-
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ズッ友だよっ

 今のナナキでは屋敷までは数分は掛かる。膨大な魔力を消費しながら辛うじて動けるだけの治療を継続しているけれど、このままではいずれ限界が来る。その前に友と合流する必要がある。しかも流血しすぎないという条件も付く。まったく、このナナキがなんて様だろう。


 まだお母様と再会するには早すぎる。この移動中に頭を回せナナキ。


 シルヴァにライコウ、二人はナナキの感知範囲を潜り抜け突然に現れた。否、恐らくは潜り抜けたのではなく”出現“した。あれだけ強大な魔力を持つ二人にナナキが気付かない筈がない。これは過信ではなく、変わらないもの、絶対だ。


 考えられる可能性は転移魔法。


 魔法の研究は今でも進められている。通常の転移魔法は行使者の視界内への転移が基本だ。帝都の移動用に使われているのは転移魔法陣。予め魔法を固定しておくことで、視界内という制限がなくなる。これが一般的な認識。おかしい、どちらも当てはまらない。


 転移魔法を行使したのであれば少なくともナナキの感知範囲内。行使者は目で見てどこへ送るかを思わなければならないからだ。シルヴァやライコウが現れた時に何度も確認しているが、他に魔力の反応はなかった。となれば後者である筈なのだけど、これは論外。説明するまでもない。


 だとすると新しい魔法か、或いは……ええと、なんだっけ。


「ナナキ」

「どうしました、主」

「通り過ぎなかったか?」

「……失礼を」


 意外に良い目をしている。


 まずいことに頭が回らなくなってきた。しかし幸いにして屋敷には到着。これから友とリンクして治療を開始する。流した血はすぐに回復することはできない。もしシルヴァたちが追ってくるのであればこのコンディションで戦うことになる。


「到着……です。数々の失態、お詫び致します」

「そんなことより怪我はどうする」


 それならば心配は要らない。屋敷周辺に着いた辺りから友とのリンクは繋がっている。


 鬼の形相で友は飛んできた。やあ友よ、シエル様やミーア様を守ってくれてありがとう。こちらにも五百ばかりの不届きものが参ったそうだけれど、大事なかったようで何よりだ。君は本当に頼りになるね。そんな君にナナキからお願いがある。


 ナナキとしたことが後手に回されてしまった。君のパートナーであるナナキがここまでの無様を晒してすまない。償いはしよう。どうかこのナナキを助けてほしい。ナナキはまだここで死ぬわけにはいかない。生きるために必死にならなければいけない。


 ナナキの優しい友人はすぐに治療を始めてくれた。一瞬で痛みが引き、腹部の熱が収まっていく。これが神様の力。どれだけ大量の魔力を持っていても、この奇跡を起こすことは適わない。書物には破壊神として名を残しているそうだけれど、彼はとても優しい神様だよ。


 うん? どうしてこんなことになったか? 回答に迷う。恐らくナナキの判断が遅かった。シルヴァが出現した時点でもっと疑るべきだったんだ。もっと早くにナナキ自身の力を強く確信するべきだった。見てほしい、友よ。こういうのを虫の息と言うらしい。インセクトブレスナナキ。


「――――へぶぅッ!?」


 なんでっ!?


「ナ、ナナキ?」


 む、虫は叩くと死んでしまうよ。


 もちろん、死ななかったからナナキは虫ではないと証明された訳だが。二発目は要らない、その振り上げた手は静かに降ろしてくれて結構だ。今は回復に専念したい。またいつシルヴァやライコウが突然に現れるかもわからない。


 貧血の症状が出ているのが少しばかり不安要素ではあるが、今ならばいつ出現してくれたって構わない。やはり友と一緒に居る時がナナキは好きだ。だから付き合ってほしい、いつかナナキが生を終えるその日まで。そして思い出してほしい、ナナキが居たことを。


「立っているだけで本当に大丈夫なのか?」

「心配をして頂きありがとうございます、良き主。止血は済み、間もなく傷も塞がります。痕も残りません」

「五帝というものは本当に凄まじいな……」

「お忘れですか、主。私は神様の友人ですよ」


 回復のナナキスマイル。世界の皆さま、ナナキです。


 ありがとう友よ、これでナナキはまだ戦える。今度は共に戦おう。久しぶりに一人になって思ったけれど、やはりナナキは一人が嫌いだ。良いことなんて見つけられなかった。ナナキはまだまだ未熟なのかもしれない。


「さて、一度撤退したはいいがこれからをどうするか……」


 ナナキが不甲斐ないばかりに、後手に回り続けている。頂けない、実に頂けない。ナナキが示す結果は特別なものでなければならない。この誇りに懸けてミーア様と誓った。全てを守ると。ナナキの進路は取れた。ならば進言しよう。あれは主に害を成す者だ。


「アイナ・アイナとの決着を。彼女の手回しの速さは脅威になり得ます」

「また五帝が出てきそうだが勝算はどうだ」

「一つだけ私の理解が及ばないことが。それさえ破れれば勝利を捧げてみせるのですが」

「言うだけ言ってみたらどうだ。一人で悩むよりは二人だ」


 恐らくは実戦経験のないであろう我が主。けれど主も一応は魔法学院に通う現役の見習い魔法士。ナナキの知らない魔法を知っているかもしれない。主の言うように一人では答えが出ないのだ、ならばダメ元で聞いてしまえば良い。ありがとうございます、良き主。


「実は――――」

「キャアアアアアアアァ――――ッ!?」


 とてつもない声量だった。


 敵襲かとも考えたがナナキの感知には引っかかっていない。見ればシエル様が窓越しに主とナナキを見ていた。どうも、お久しぶりです。シエル様。遠いところから失礼致します。ぺこり。


「ナ、ナナナ、ナ、ナナナさん……ちちちち、血が…………ふごっ」


 ふらりと巨体が揺れた。


 気絶して倒れるシエル様の背後へと即座に回る。その巨体を支え、素早く客間の寝具に寝かせた。これだけの体重だ、倒れるだけでもかなりのダメージを身体に負うことになるだろう。間に合って良かった。

気絶するシエル様にもう一度だけ頭を下げてからその場を離れた。


「約束を破ったわね、ナナキ」


 戻ったナナキを待っていたのはミーア様のこの言葉。表情に怒りは見えないが、どういうことだろう。


「御言葉ですがミーア様。私は――――」

「全てと言ったわ。当然貴女も含まれる」

「大変申し訳ございませんでした」


 考えが足らなかった。何も考えずにミーア様の御言葉を否定するところだった、何たる浅ましさか。これは申し開きようがない、平伏叩頭。


「それで、どういう状況なの。アイナ・アイナ相手で大変なのはわかるけれど、こっちはこっちで何故かあちこちで雷がドカンドカン落ちて大変だったんだから」

「では簡潔に」


 要点だけをまとめてミーア様に説明をしていく。アイナ・アイナの手回し、五帝の二人、突如として現れる謎の転移魔法。加えて本来の転移魔法の仕様についても述べた。そしてこれも大事なことだ。


 貧血気味であること。


 普段より能力も思考もガタガタになっている。ただ今回は友が居る分、五帝相手でもまともに殴り合える。頼りにしているよ、友よ。


「その転移魔法は五帝たちが使っているものではないのか?」

「はい、まず間違いなく。視界に入る程度の距離でしたら私が先に捕捉しています」

「だとすると新魔法の可能性が高いな……」

「そうなると、勝率は下がります。日常生活も危険となりますので、私は約束を果たすことになります」


 主とナナキが交わしたあの日の約束。今となっては懐かしさも覚えるが、ナナキはしっかりと覚えている。ただ、ここで去るつもりなどない。この程度の苦難、突破し笑ってみせてこそ世界を肯定できると言うものだ。


 このナナキに諦観は存在しない。ナナキが諦めることを諦めろ。これまでのナナキの生き様は呪いに屈する程に軟な人生ではなかった。この終わらない呪いと生が終わる日まで付き合っていくのだ。笑い飛ばせなくてなんとする。


「いいえ、転移魔法よ」


 そう断言したのはミーア様だった。


「――――多分だけど、その魔法の正体がわかったわ」

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