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雷帝のメイド  作者: なこはる
三章-陽炎の約束-
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一目で尋常でないメイドだと見抜いた

 文明生活の夜は明るい。


 夜空に浮かぶ御月様はもちろんのこと、人が生み出す人工の光がところどころを照らすせいだ。大きな葉が生い茂る森の中とは大違い。あの森の夜は闇であった。月光の届かない深淵の中でナナキは生き方を覚えた。比べるものではないのかもしれないが、なんとまあ粗末なことか。


 中途半端に消している気持ちの悪い気配が庭先に八つ。どうやら伝令役の彼は正確に伝えられなかったらしい。或いは、これが最終確認なのだろうか。このナナキを相手取って悠長に構えているものだ。用意されたのは対話の場ではなく、物騒な気配を持った八人組。


 それがアイナ・アイナの選択、そう受け取って良いのだろうか。


「ようこそ当家へいらっしゃいました。ご用件をお伺い致します」

「ッ!?」


 屋根から飛び降りて歓迎を示した。一様に驚きを見せる彼らにナナキスマイル。覚悟はよろしいだろうか、不法侵入者。誰の許可を得てこのアルフレイドの敷地に足を踏み入れているのか。アイナ・アイナの命令であろうがなんだろうが、それはナナキの知ったことではない。


 全部で八人。昼間の時よりは人数が少ないが、どうやらそれなりの実力者を集めたようだ。評価は付けない。どうせすぐに居なくなるのだから。時刻は深夜、良い子は寝ている時間である。ダメじゃないか、こんな時間に起きていては。


 ――――怪物に出会っても知らないよ。


「おいおい」


 八人の中で一際に魔力の大きい男が呟いた。初めまして、ナナキです。貴方から旅立ちますか。


「おっかねえメイドが居るとは聞いてたが……化物が居るとは聞いてねえぞ」


 女性を相手に失礼なことを言う、とでも返してあげたいが今のナナキはどうでもいい御喋りに付き合う気はない。まずは合格と言ったところか。しかして、実力差を理解したのならこの先はどうする。君たちはアイナ・アイナの刺客、逃亡は許されないのだろう。


「なあメイドさんよ。話し合いで解決しないか」

「その機会は十分に与えました。そうしてやってきたのがあなた方です。都合の良いことばかり仰られても虫唾が走る。大人しく覚悟を決められてはいかがか」


 主とナナキはしっかりとメッセージを送った。対話のステージを用意しろと。アイナ・アイナの返答は目の前にあるこの光景が全てだ。主の要求は蹴られ、向けられたのは剣。それはもう戦争だよ、不法侵入者。このナナキと事を構えたのだから。


「金銭で良ければ幾らでも都合が付けられるんだ。見逃してくれないかね、数分で済む仕事なんだ」


 笑止。そんなもので我が主とナナキの絆が断てるとでも思うのか。これは大変な侮辱である。さすがは敵対国、惜しみの無い挑発は見事と言うより他になかった。ではナナキはその挑発に対してこう返そう。喜んでほしい。


「ここは対話の場ではないと言っている。構えなさい」


 開戦だ。


「おっかねえなあ」


 そう言いつつも、真っ先に動いたのは彼だった。最小の歩でナナキ元に、狙いは致命となる心臓。ああ、幼き頃を思い出す心地の良い殺意だ。そうだ、生きるために殺しに来ればいい。それは何ら間違ってはいない。故に主とナナキもアイナ・アイナへと反逆する。


 彼に続く七人、いずれも手練れと言えるだろう。


 それぞれが必殺の念を以てナナキへと迫る。彼らもまた天才と呼ばれる人間たちだろう。この世界には天才が多すぎる。だからナナキが示そう。そして定義してほしい。本物はここに在る。


「――――ッ!?」


 単純な動作だけを行った。雷で剣を象り、それを振った。これだけの動作で失われる命がある。かくも世界は脆いのだと鮮血に想いを馳せる。小手調べの一撃で旅立ったのは三人。なるほど、やはりそれなりの手練れだ。


 けれど、所詮はそれなりに、だ。


 残りの五人は露骨に距離を取った。突然の味方の死に動揺は見られない。良い関係だね、逝った味方も誇らしいことだろう。死して尚、足を引っ張るなど御免だろうからね。さあ、続けよう。呆けてる暇はないぞ。これは戦争だ。命を賭してナナキと戦おう。


「参ります」

「まてまてまてッ!」


 聞く耳は持たない。


 一歩で二人を殺し、二歩で一人を殺した。残りは二人。ナナキの速さにまるで対応できていない彼らに勝機はない。間違えたんだよ、アイナ・アイナ。たった一つを。


「ぽんぽん人を殺すんじゃねえよ怪物メイド! 話を聞け!」

「貴方は私の敵です」


 まだわからないようだから、宣告をしてあげた。このナナキの敵なのだと。それは倒さなければいけない。正義を語るものであっても、悪を謳うものであっても。だから、貴方はここで死ぬと良い。主とナナキが生き残るために。


 最後の一歩を踏み出した。これにて終わる。


「――――アイナ・アイナの情報を売るッ‼ だから殺すなッ‼」


 男は剣を投げ捨て、大きな声で叫んだ。


「…………誇りを捨てるか、俗物」

「んなたいそうなもん持ち合わせてねえよ」


 ぐしゃりと七人目の男が崩れ落ちた。あと少し発言が遅ければその首を頂いていたというのに。まったく、笑えない。このナナキがしてやられるとは。この男はバカではなかった。一時的とはいえ、ナナキはこの男を殺すことができなくなった。


 それはつまり、生存を賭した戦いであればこの男はナナキに勝利したことになる。


 経緯はどうあれ、このナナキに勝利したのだ。それが例え敵国の人間だとしても、その偉業は祝福しなければいけない。良い機転だった。回転の良い頭を持っているようだ。次はそこから狙うとしよう。


「祝福しましょう。貴方の勝利を」

「そりゃありがたいね。ご褒美でもくれるのかい」

「その命を拾っておきなさい。それを褒美とします」

「ありがたくて涙が出るね……」


 本来は失っていた筈のものだ。贅沢を言ってはいけない。


「アイナ・アイナはゼアン・アルフレイドに噛みつかれて苛立ってる」


 聞く限りでは相当の力の差があったらしい。であれば、小物に噛みつかれて怪我をするのは誰だって苛立つだろう。不思議ではない。ナナキもよくネズミに噛みつかれては苛立ったものだ。窮鼠ナナキ噛む噛む。噛みついてくるのならば骨まで残さずに食い殺す、それがナナキの流儀だ。


「ゼアン・アルフレイドの婚約者も狙われる」

「それはいつですか」

「今日で片付かなかった場合、アイナ・アイナは全力で潰しに来るってことだ」


 なんだそれは。まるっきり小物ではないか。何故今この場所で全力を出さなかった。主もナナキも、シエル様の方までは考えが及んでいなかった。最初で最後の急所を失ったぞ、アイナ・アイナ。


「明日中、いえ、もう今日ですか。今日中にアイナ・アイナとの対談を」

「俺が? なんで?」

「約束なので命は保証します。ですが五体満足を保証した覚えはありません。右腕と左腕、どちらがよろしいですか」

「全力で当たらせて頂きますッ!」


 この場を凌ぐための嘘という可能性もある。けれど、この男は頭が切れる。約束を破りいつか再会した時のリスクを計算に入れずに行動するとは思えない。ナナキが報復や復讐に対して自然であることは戦闘を通して予想が付くだろう。そう、人は不自然すぎる。


「それじゃ、すぐにでも」

「待ちなさい」

「……俺が嘘をついて逃げるとでも?」

「いいえ」


 そんなことよりも、大事なことがまだ残っている。


「死体を弔っていきなさい」

「俺がかよ……」

「仲間だったのでしょう。最後の面倒くらいは見てあげなさい」


 それが生き残った者の責任だ。


 ――――そうでしょう、お母様。


 

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