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雷帝のメイド  作者: なこはる
二章-アルフレイド家-
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それぞれの大事なあれ

「ナナキって……まさか雷帝ナナキ……?」


 如何にもナナキである。初めましてだクソ野郎。ナナキがぐっちゃぐちゃにしてやるから覚悟しろ。


「人前で汚い言葉遣いは止めなさいって何度も言ったよねナナキ。さっきの口調は何?」


 ちょっとなんのことかナナキにはわからナナキですね、それは。知らナナキとも言えるだろう。


 心の姉はお冠であった。これはいけない、綺麗なエンビィの顔が憤怒で染まっている。ナナキとしてはやはりエンビィには笑顔が似合うと思うのだ。であれば、僭越ながらこのナナキがお手本をお見せしようと思う。笑顔には少しばかり力を入れているものでね。


 そういえばサリアやライコウにも笑顔を見せたことはなかったかもしれない。思えば過ごしてきた日々のほとんどは雷帝ナナキとしてのものだった。例外はエンビィくらいだろう。であれば本当のナナキを知ってもらおう。


 見よエンビィ。見よライコウ。見よサリア。三帝を制すはこのナナキの笑顔。天地開闢のナナキスマイル。今ここに新たな道をこのナナキが開く。世界の皆さま、ナナキです。そして五帝の皆さま、これが本当の――――


「ナナキです」

「笑って誤魔化さない」

「はいッ」


 ギルティナナキ。素直にごめんなさいと謝った。


「まさか本物の雷帝ナナキとはね。いいんですかエンビィの姐さん。反逆者の上に同胞殺しだ。こんな和気藹々としてちゃまずいでしょうよ。サリアの姉御もライコウも何で黙ってんすか。こいつは帝都の敵じゃねえのかよ」

「正しく、その通りですよ。五帝候補レオン」


 その問にはナナキが答えよう。ナナキは正しく帝都の敵だ。五帝候補レオン、君は間違っていない。


「元五帝のくせに同胞まで殺したってな。どんな気分で殺ったんだよ雷帝ナナキ」

「五帝候補レオン。君はどこへ行きたいですか」

「は?」

「その場所にはこのナナキが居る。ナナキはどかない。ナナキは君を通さない。どうしますか」

「…………何が言いたいんだよ」


 君はその道を諦めるのだろうか。その誇りを捨てて、戦うこともなく踵を返すと。そうであるのなら、きっと君とは何を話しても互いのためにはならないだろう。ナナキには君が何を問いたいのか十分に伝わった。それは確かに心地の良い言葉だろう。安心できるのだろう。


 その大義名分があれば皆々様は君の味方をしてくれるのだろう。良かったじゃないか、存分にその権利を行使したら良い。ナナキは既にこの世界を肯定し、受け入れている。この身はこの意志と共にある。だからこそ私はナナキだ。存分に戦えば良い。ナナキはここに居る。


「このナナキに正義を問うな。五帝候補レオン」


 それはそちらの世界の理だ。何度も言ったじゃないか、ナナキはずれている。ナナキはそれに価値を感じない。それはなんだ、在れば敵は倒れてくれるのか。道は進めるのか。違うだろう。それは臆病そのものだよ、人間よ。違うことを恐れている、変わることを恐れている。それじゃあ強者にはなれない。


「ならてめえは殺した奴らのことなんかなんとも思っちゃいねえってことか」

「――――何人でも。何十人でも。何百人でも。何千人でも。死ねばいい。私の敵となるのなら」


 何だその顔は。優しい言葉を吐くとでも思ったのだろうか。それとも懺悔をするとでも思ったのだろうか。甘えるな。このナナキは予言と呪いが蔓延る世界を肯定し生きている。人と同じであってはダメなんだ。そうやっていつまで同じところに居るつもりだ。


「私には生きる理由が在る。生きる価値が在る。敵を殺す理由はそれだけで十分です。幾らでも死ぬと良い、私は幾らでも殺そう」

「……狂ってやがる」

「自分の命に価値を付けられない臆病者がこのナナキに意見をするな」

「……てめえッ!?」


 綺麗で心地の良い言葉で何を守れる。その憤怒でこのナナキに証明できるのか。正義こそがこのナナキすらをも打倒し得るのだと。不可能だ、君にその力はない。君はただ攻撃されない位置から攻撃されないことを言っているだけだ。羨ましいよ、楽そうだ。


 ナナキはいつだって自分の価値を主張してきた。いつも言っている、ナナキは特別な存在なのだと。そしてそれを証明し続けた。特別だと証明し、強者であると証明し、力があると証明した。そう、ナナキは既に証明を終えている。文句があるのならば証明すれば良い。その正義とやらで。


 いったいどちらが狂っているのか。ナナキにはわからないよ。ずれているから。


「さあ、正義の使徒よ。君はナナキの敵か?」


 チャンスをあげよう。証明すると良い。もしそれが適ったのなら誇ると良い。それは君が大変なことを成し遂げた証であるのだから。


「この―――――」

「ナナキ。戦いに来たのではないって言ったよね。ならもう帰ってもらおうか」

「……そうでしたね。大変な失礼を致しました。エンビィ」

「このまま逃がすつもりですか!? エンビィの姐さんッ‼」

「逃げてもらう、なのよ。レオン。情けないけどこれがナナキと私たちの差なのよ」

「サリアの姉御まで……ライコウ!」


 ライコウが静かに首を振るのを待ってから、別れの挨拶を告げた。


「それではエンビィ、ライコウ、サリア。そしてレオン。またいつか、雌雄を決するその日にお会い致しましょう」


 さあ、帰ろうか友よ。色々と手間が掛かってしまったせいで目的の半分も達成はできなかったが、少しばかりの収穫はあった。有意義と言っていいかはわからないが、懐かしい顔も見れた。ナナキにとってはそれなりに良い休日になった。


「雷帝ナナキ……俺がお前を倒すからな……」


 ならばそれまでに自身の価値を定めておくことだ。このナナキより尊く在れ。またその日にお会いしよう、正義と言う名のナナキの敵よ。その生き様に誇りを持つのであれば、しっかりと貫き通してナナキの前まで来い。


 敬意を以て沈めてやる。



「ただいま戻りました、我が主。本日は暇を頂いてしまい申し訳ありません」

「いやこちらこそ今まですまなかった。……どうしてメイド服なんだ?」

「マスターメイドですので」


 ただいま戻りました世界の皆さま、ナナキです。


 やはりこの給仕服に着なければ始まらない気がするのだ。もうすっかりと身も心もマスターメイドであると自信を持って良い頃合いだ。であればそろそろ厨房への進出を真面目に検討しなければならない。リドルフ執事長と言う強敵をどう破るか。腕が鳴ると言うものだ。


「どこへ行っていたか聞いてもいいのか?」

「少しばかり帝都へ。懐かしい面々に出くわしてしまいましたが」

「おいおい、大丈夫だったのか」

「少々言い合いになった程度です。新しい五帝候補の顔も見れましたよ」

「ということは雷帝は遂に消えるわけだ」

「ええ」


 たったの四年だったけれど、その称号を背負った誇りは忘れないでいよう。きっと歴代最悪の帝として名を残すのだろう。もし望めるのなら、一人くらいは帝都のために戦っていた雷帝ナナキの名前を覚えていてほしいものだ。これは贅沢かな、友よ。


「お疲れさま」


 びっくりした。


「……まさか労いの言葉を頂けるとは思いませんでした」

「一人くらい労ってやる奴が居てもいいだろう。それくらいの働きはしてると思うぞ」


 働き、か。それもナナキの意志に従って行っていたものであり、そこに正義があったのかと問われれば否と言えるだろう。あれは雷帝としてのナナキの義務であり責任だった。だから感謝はおろか、労いの言葉だって本当は正しくないのかもしれない。


「我が主」

「どうした」

「私は主を守るためならば人を殺します。それが知人でなければ、迷うことなく殺して主を救います」

「まるでそれが悪いことだとでも言いたそうだな」

「いいえ。ですが正義を問われました」

「俺の価値は正義という文字より低いか。酷い従者だ」

「まさか、正義は食べれません」

「基準はそこなのか」


 やはり、私と主はずれているのだろう。世界から外れることには慣れている。けれどそれが二人で在ったことはなかったから、少しだけ緊張、いや興奮しているのだろうか。


「上げるのは俺。決めるのはナナキ。それが俺たちの間にある価値って奴だろう」

「正に」

「なら見合う間はナナキは俺の剣だ。お前がそう言った。殺してでも助けろ」

「御心のままに」


 ああ、やっぱりここなんだ。


 私の居場所は。


 




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