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雷帝のメイド  作者: なこはる
二章-アルフレイド家-
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アイツの想い人

「到着したようですよ、主。ぴょんぴょん」

「そうみたいだな」

「そうですとも。ぴょんぴょん」

「……わかった、悪かったよナナキ」


 今朝の裏切りに猛抗議を続けた結果、ナナキは勝訴した。馬車の中でぴょんぴょんすれば人は謝る。ヴィクトリーナナキ。けれど実はナナキもそこまで怒ってはいない。ナナキは主の笑顔が好きだ。とはいえ、この数十分は主を困らせる悪い従者だった。反省。


 ウサギから人間へとシフトチェンジ。ただいま戻りました、世界の皆さま、ナナキです。


 マスターメイドに戻ったからにはその務めを果たさなければいけない。速やかに馬車から降車、最速のナナキステップで反対へと回り扉を開いて主の手を取る。鞄を受け取れば、あとは三歩ほど間隔を開けて御付する。そろそろナナキも帝都の給仕係を超えてしまっただろうか。完璧ナナキ。


「よう、ゼアン」

「おはよう、ヴィルモット」


 待ってましたと言わんばかりに主に立ちはだかるのはヴィルモット・アルカーン。朝から彼と顔を合わせても嫌な顔一つ浮かべない主はご立派だった。さすがはナナキの主。ヴィルモット・アルカーンの傍で控えるアキハさんに誰にも見られないように手を振った。ふりふり。


 アキハさんは微笑みを浮かべながら応答してくれた。優しい。


「あー……なんだ、そのよ」

「珍しく歯切れが悪いな、ヴィルモット」

「うるせえッ! あれだ、ミーア戻ってきてるんだろ?」

「昨日のことなのに早いな。もう卒業資格をもらったらしい、妹ながらすごい奴だよ」


 おや、案外普通の会話が成立している。どうやらヴィルモット・アルカーンはミーア様をご存じのようだ。人格の歪んだ彼にまともな会話を成立させるとは、ミーア様の存在は凄まじいものなのかもしれない。さすがは主の妹君と言える。


「ナナからミーアへ心変わりか」

「化物を抱く趣味はねえよ」


 化物扱いは慣れている。それに彼がナナキの貞操を捧げる相手になることはまず無いと言っていい。誇り高きお母様の血統を紡ぐお相手はナナキが見極める、当然だ。お母様から頂いたものは全て継承していかなければならない。いつか素敵な人を見つけよう。


「よく見れば胸がねえしな」


 ぶっ殺し――――――――ぶっ殺してやる。


 このナナキの前でよくぞ吠えたものだ。まったくもって愚かしい、粛清が必要だ。女性の価値をただ一点で決めつける頭など不要だろう。さあもう一度言ってみろ、その空っぽな頭をお星様の仲間入りさせてあげよう。アルカーン星の誕生だ、喜んでほしい。ナナキにはできるぞ。


「ナ、ナナさん、どうか落ち着いてください」


 いくら友人であるアキハさんの頼みであってもこればかりは譲れない。今の発言はナナキに対する侮辱である。主の御家族ということでミーア様には慈悲を与えた。しかしヴィルモット・アルカーン。君はダメだ、絶対に許さない。


 拝聴せよ、人は平等ではない。


 無い者を害するのであれば、有る者も害される覚悟をせよ。


「女性の価値は胸じゃないだろう。ナナは美人だ」


 麗しのナナキスマイル。世界の皆さま、美人なナナキです。


 さすがは我が主と言ったところだろうか。これが器と言うものだ、ヴィルモット・アルカーン。我が主に感謝すると良い。同じ貴族だと言うのにこれだけの差がある。やはりナナキはこの御方に付いていくべきなのだと改めて実感した。


 そもそも外見的にナナキを好ましいと思う男性は多い筈なのだ。何故ならナナキの容姿はあの美しいお母様にそっくりなのだから。お母様がご存命で在られたならば、森の美人母娘と有名になっていたことだろう。あの場所は人が来ないけど。


「そんなまな板メイドのことはどうでもいいんだよ」


 なんとでも言うが良い。本質のわからない人間は悪くない。本質を知ろうとしない人間が悪いのだ。つまり君は後者である、ヴィルモット・アルカーン。愚か者はそうして立ち止まっていればいい。お似合いだとも。


「そんなことよりも、来週月光会を開くんだよ。そこでだ、お前を招待してやるよゼアン」

「ヴィルモットが俺を? 何が狙いだ」


 月光会。ナナキの知らない言葉がお出ましになった。しかし私はナナキ、知らないことは知れば良いのだ。マスターメイドたるもの精進を忘れてはならない。ということでアキハさんにお聞きする。友人とは大事である。

 

「月夜の下で踊るダンスパーティーのようです。なんでも草原でやるのだとか」

「ありがとうございます、アキハさん」

「いえ、ナナさんならいつでも私を頼ってくださって構いません」


 同族補正強い。なんでもニッポンジンは協調の意識が特に強いのだとか。でもアキハさんは素晴らしい人格の持ち主だから、きっとナナキじゃなくても助けるのだろうなと思う。お母様、ナナキは素晴らしい友人に恵まれました。


「没落寸前で夜会に呼ばれることもないお前にとっては美味い汁だろうゼアン。アルカーンの長男である俺から招待されたとなれば周りの見方も少しは変わる筈だ」

「条件があるんだろう」

「当たり前だ。ミーアを連れてこい」

「今のお前に妹をやるつもりはないが」


 というよりもミーア様はお兄様である主のことが大好きなので他の男性に興味がないのかもしれない。少しばかり強すぎる兄妹愛かもしれないが、大好きな人の傍に居たいと思う理由はよくわかる。ナナキにも心の姉と呼べる人が居る。勝手な想いではあるけれど、強い姉妹愛を持っているつもりだ。


 元気かな、エンビィ。


「使えるものはなんだって使う……つもりだったんだが最近妹を泣かしてしまってな。少し反省してるんだ」

「お前の事情なんか知ったこっちゃねえよ。没落したくねえならミーアを連れて来いって言ってるだけだぜ俺は」


 劣情か愛情か、どちらかはわからないがどうやらヴィルモット・アルカーンはミーア様にご執心な様子。しかしこれは主にとって飛翔のチャンスなのだろう。決断は主が決するもの。主が道を誤ったと思えばナナキが正す。ただ傍に居るだけのメイドに成り下がるなどナナキの誇りが許さない。


 ナナキが御傍におります、主。堂々とお進みください、己の選択した道を。


「ミーアが了承すれば連れて行こう」

「しなかったら」

「招待状は出さなくていい」

「あぁッ!? この俺がてめえを誘ってやってるんだぞ!? バカかてめえッ!?」


 沸点低っ。


 ヴィルモット・アルカーンの腕が主へと伸びた。敵対行動と認識、展開始め。


 はい、どうもナナキです。


 すかさず主とヴィルモット・アルカーンの間に入った。ディフェンダーナナキ。主に危害を加えようするのであればこのナナキが参る。それでも感情を優先し向かってくるのであれば一歩を踏み出すとよろしい。ナナキは虫に容赦はしない。


「ひッ」


 あれ、思ったより怯えている。以前の一撃がそれほど堪えたのだろうか。直撃ではなく余波であったというのに。


「お、おいアキハァッ!?」

「……ナナさんは間に入っただけかと。今のはヴィルモット様に非があるように思います」

「じゅ、従者が俺に口答えすんのか!? 誰が金払ってると思ってんだお前ッ!?」

「私はヴィルモット様の仰った怪物、つまりはナナさんに興味があっただけです。いつでも解雇して頂いて構いません。金銭で心までは買えませんよ、ヴィルモット様」

「……どいつもこいつもッ‼」


 ニッポンジン格好良い。


 アキハさんは目線だけをナナキに向けて、ナナキだけに見える角度でこっそりとピースをしていた。同族補正本当に強い。ナナキも返礼、友愛のナナキピース。ぶい。


「舐めやがって舐めやがって舐めやがってッッ‼」


 怒り狂うヴィルモット・アルカーンを余所に、ナナキとアキハさんは友情を交わした。

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