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雷帝のメイド  作者: なこはる
二章-アルフレイド家-
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サンダーウォール

「ナナキ、タオルを持ってきなさい。ふかふかのじゃないと許さ――――」

「お持ち致しました」

「私の靴を全て磨いておきなさい。何時間掛かかるか知らな――――」

「終わりました。ご確認ください」

「ナナキ、お茶を持ってきなさい。好みはリドルフから聞いて」

おはふぁへ(お待たせ)ふぃはひはいあ(致しました)


 輝いている。ナナキは今輝いていますお母様。


 ナナキとミーア様は大変に相性が良いということが判明した。ナナキは特別な人間であることをミーア様は理解してくださっていると言って良いだろう。余所様のメイドのことは存じない。けれど私はナナキ、であれば本来担当すべき仕事量はこれくらいが妥当と言える。


 いや、まだ少し物足りないくらいだ。我が主もリドルフ執事長ももっとナナキのことを頼ってくれていいのだ。我が主、ミーア様、リドルフ執事長の御三方から仕事を任せられるくらいでようやく妥当と言ったところだろうか。それこそナナキが特別であることの証明に値する。


 ミーア様の次の申し付けに応えられるように準備も欠かさない。言われたことをするだけなら誰にでもできる。それは特別ではない。言われたことを進めつつ、次に言われるであろうことまで準備し、その間にも他の仕事を受け入れる用意がある。これこそ特別と言える。


 誰にでもできることではないことを成し遂げるからこそナナキ。特別でなければこの作業効率は叩きだせない。何より、この速さで作業を行えるだけの反射神経と才能がなければ話にならない。友よ、やはりナナキは特別だ。いや、返事は要らない。知っているから。


「満足したかミーア。ナナキの方は大満足みたいだが」

「物凄いニコニコしてますね、ナナキさん」


 超越のナナキスマイル。世界の皆さま、ナナキです。


「確かに優秀ね。認めるわ」


 ありがとうございます、ミーア様。


 事の発端はミーア様がナナキのメイドとしての実力に疑問を持ったことから始まった。そんなことは口で説明したって意味がない、目の前にナナキが居るのだから試してくれれば良い。ミーア様も同じ考えだったようで、それからすぐにナナキは太陽のように輝いた。サンシャインナナキ。


「そう、優秀と認める。けれどごめんなさいね、ナナキ。今のアルフレイド家には貴方のような優秀なメイドを長く雇っておけるだけの余裕がないの。リドルフ、ナナキとの契約書を持ってきなさい」


 金銭の問題。契約内容については相互で承諾を済ませている。ナナキが必要以上の給金を要求することはない。けれどこれもナナキが言ったところで何も意味はない。見て確認する大事なことだ。ミーア様はナナキにとって好ましい御方だ。


「給与なら心配ないぞミーア」

「お兄様は黙ってて。どこで拾ってきたのか知らないけどもうちょっと能力低いメイドを選びなさいよね」


 辛辣。


 だけどこのナナキの目は誤魔化せない。一見我が主に対して辛辣に見えるミーア様。しかしその実は兄である我が主のことが大好きで仕方がないのだとナナキは判断する。まず目だ。主を見ている時の目はつり上がってはいてもその奥には愛情が見える。


 対して、ナナキを見ている時の目。これはゴミを見る目だ。敵意ももちろん相応に込められているが、それ以上に存在の否定を強く感じる。多分、原因はナナキが女性だからだ。こればかりは改善する方法がない。せいぜい口調を変えるくらいしか手が残ってないのぜ。


 どうだ友よ、似合うか?


 友はゲラゲラとナナキを指差して笑っていた。笑ってんじゃねえぜ。


「お待たせ致しましたミーア様。こちらになります」


 友と言い合っている間にリドルフ執事長が手に書類を持って戻ってきた。うん? 戻すのかって? 君が爆笑するからもう止めだ。そんな残念そうな顔をしてももうしない。ナナキはできるだけの努力はした。でもどう頑張ってもナナキは女性だからね。


「ふん、いったい月にどれだけ毟り取ってくれてるんだか――――やっっすいわねあんたバカじゃないのッ!?」


 書類がナナキの顔に向かって飛んできた。紙がぶつかったくらいで動じるナナキでは目ェッ!?


「~~~~ッ‼」


 たたた耐えましたよおおおお母様。ななナナキを褒めてください。


 幾らナナキと言っても人間である以上急所は存在する。目なんて以ての外だ。だからこの涙はナナキが弱いのではなく人体の構造上のものであってナナキが泣いているんじゃない。悲鳴を上げなかっただけでも上出来ではないだろうか友よ。後で撫でて。


「いったいどういうつもりお兄様! 能力に見合わない給金でメイドを雇うなんて……これじゃあ再興したって笑われるだけだわッ!」

「ミーアはそう言うだろうと思ったよ」

「当たり前でしょッ!? 不当な給金でメイドを雇うなんて、ナナキが言い触らしたらどうするつもりだったのッ!? 優秀なメイドを雇えないのなら別にいいわ、でも優秀なメイドを適当でない給金で雇うなんて論外よッ‼ 貴族としてのプライドがないのッ!?」


 ナナキもリドルフ執事長も、口は挟めない。特にナナキは問題が自身のことである以上、この件に口を出すことは許されない可能性が高い。ここでナナキは了承していると言ったところで、それを認めるミーア様ではないだろう。


「必要な過程なら笑われたって良い。今はな」

「……やっぱりお兄様にアルフレイド家は任せられないわ」


 難しい問題だ。見返すためなら今を笑われるという主。一切の誹りなしに堂々と最高を目指すミーア様。前者にはナナキという力がある。後者には大きな苦難がある。どちらが正しいという問題ではないのだろう。きっと、どちらも道なのだ。その道をどう歩くかだけが二人の間で摩擦を起こしている。


 互いに譲れないものがある。


 ならば必然として事態は解決の一手へと収束するのが道理と言うものだ。どれだけ人間が知恵を付けても最終的に行きつくところは同じ。ナナキと違って文明の中で育ってきた御二方も今はただ、熱に身を任せるのだろう。ナナキはそれで良いと思う。


 弱者が退くのは世の理なのだから。


「決闘よ、お兄様。また負かしてあげる」

「ちょうど良いな。笑われてばかりだった俺がミーアに勝てば証明になる」

「そうね、勝てればね」


 通常の魔法学院に通っている主と帝都の魔法学院に通っているミーア様。正直に言えば主に勝ち目はないだろう。一対一で決着を求めるのならば。主はナナキを見た。これを卑怯だとはナナキは思わない。何故ならナナキと主は主従だ。このナナキは御身の剣、あの日にそう誓ったのだから。


 それが力を得たということなのだから。


「相当腕が立つようだけど、私にも従者は居るの。フィオ!」

「……はい」


 ここに来て初めて名前を知った。紹介も挨拶も無いままだったから実は少し困っていた。もしかしたら引っ込み思案な方なのかもしれない。或いはあの日屋根に叩き付けてしまったことを恨まれていたり。十分にありえそうだった。出来れば仲良くしたい。


 が、それもすべては決闘の後となる。


「騎士というのは本来魔法士を守るために居るの。ろくな魔法を使えないお兄様を守っても大変なだけよナナキ?」

「剣は守るためにあるものです。もっとも、私はメイドですが」

「そう、せいぜい後悔なさい」


 努力致します。できたら。


 さて友よ、残念だけど今回は君の出番はない。だからそう猛らずに落ち着いてほしい。君はナナキ以外の人間に厳しすぎる。ミーア様にはミーア様の通したいものがあるということを理解しなくてはいけない。決してナナキが侮辱されたわけではないんだ。


「早く中庭に移りなさい、まな板メイド」


 戦争だ。

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