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雷帝のメイド  作者: なこはる
九章-失われた歴史の真実-
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滅亡

 人にとっての最善が何かなんて、ナナキにはわからない。

 答えが自分から歩いてくるわけでもなし、それを探そうとも思わない。私はただ、約束を果たすだけだ。お母様はナナキに生きろと言って、主は私に神を殺せと言った。私、ナナキにとって重要なのはこの二つ。


 だから私は、立ちはだかる全てを敵と定義する。

 ことここに至っては問うまでもない。私の命を狙う者は間違いなく私の敵。そして、世界に跋扈する神々も今となっては敵だ。ともすれば、私はそれを必ず殺す。それは幼少の頃よりの絶対。不変のルール。私が私であるために、ナナキが生き残るために、敵は殺す。


 つまりは、目の前で飛び交うこの人型共はどうしよもなくナナキの敵ということになる。


「――これは」


 人型が零したその瞬間、銀の雷が駆け抜けた。

 私を中心にして放たれた雷は世界を砕きながら全ての敵へと突き進む。即座に距離を離す人型たちを見て、溜息が出た。大見得を切ったその翼で出せる速度は私の雷を上回らない。逃げ切るには余りに遅すぎる。


「障壁、展か――」


 それを理解した幾つかの個体が展開した障壁と共に砕け散り、蒸発した。

 逃げ切るには遅すぎて、受け止めるには脆すぎる。


 空に広がる銀が幾重にも枝分かれして敵へと伸びていくその様は正に雷樹。光り輝く雷の世界樹(ユグドラシル)。もう幾つも寝ればかつて聖夜と呼ばれた夜も来ることだし、クリスマスツリーにいかがだろうか。ナナキは優しいからお代の方は結構だ。なに、世界一可愛いサンタクロースからのプレゼントだとも。


「メリークリスマス!」


 さっさと死ね。


「デタラメな」

「つまらないでしょう? 規則的な世界なんて」


 雷に追われて空高くへと飛翔する個体の呟きに答えてみせる。

 人間のような姿をしたそれは、相も変わらず無表情のまま、淡々に告げる。


「その業が世界を滅ぼしたモノだと、何故わからないのです」

「わかるものですか、そんなこと」


 ナナキが生まれる前の出来事なんて、知る筈もない。知ったところで知ったことかと吐き捨てるだけだ。この世界の成り立ちなんて欠片の興味もないのだから。


「やはり、貴女はこの世界に在ってはならない」


 人型が吐き捨てる。

 同時に、雷樹の中から巨大な影が現れた。


「――ロウ=フェンリル、そのバグを喰らいなさい」


 大地を揺らし、耳を劈く凄まじい咆哮。

 ナナキの銀雷をものともせずに突っ込んできたその神の姿は、ひたすらに巨大。恐らくはこのアルテノを滅ぼしたであろう大神。その実力の程は定かではないけれど、私の雷が効いていないところを見るとやはりそれなりの力はありそうだ。


 ともすれば、相手をしてやるのも吝かではないのだけど。


「残念だけど、君の相手は私じゃないよ」


 迫る大神の目の前に現れたのは、黒。

 突っ込んでくるその巨体を片腕一つで受け止めて、黒い雷と共に投げ飛ばすのは、かつての大戦を生き残った神話の雷。最も古き神殺しにして、このナナキの親友イルヴェング=ナズグルに他ならない。


 さてさて友よ、君の願った戦場だ。存分に暴れると良い。

 神殺しと謳われた神話の雷、その力を驕れる神々に証明するとしよう。かつては三大神より格下とされた君だけど、今は私たちが神話の雷だ。これから語り継がれていく伝説は君だけの神殺しではなく、私と君の神殺し。


 君に出逢ったあの日に、独りは終わったんだ。

 君も、私も。


「いくよ、ナズグル!」

「――――――――――――――ッッッッ!!」


 友が吼える。

 世界に奔る雷は銀と黒。互いの雷が万物を砕きながら世界を揺らす。

 そう、これが神話の雷だ。

 私を相手にするということは、私たちを相手にするということ。友を相手にするということは、私たちを相手にするということだ。


「イルヴェング=ナズグル……己の存在理由すら忘れた旧時代の遺物がヒューマン・デウスと手を組むなどと。破壊ばかりを埋め込まれた欠陥兵器がまさか友情を覚える筈もない。やはり、貴女はイレギュラー。存在してはいけない」

「心のないお前たちと私の友達を一緒にするなよ」


 その首を雷で焼き切った。

 同時に、友が投げ飛ばした大神へと食らい付く。激しい雷が辺りを消し飛ばしながら何度も雷鳴を轟かせる。しかし、サイズの違いからか早々に息の根を止めるとはいかないようで、大神も抵抗を見せていた。ゴロゴロと転がりながら殺し合う神様同士の戦いに、ちょっとだけ欠伸が出る。


 手を出したら後で怒られるだろうなあ。

 あれでいて、友は結構な格好付けだ。プライドが傷付けばしばらくは口を利いてもらえないだろう。ともすれば、こっちはこっちで片付けておくとしよう。


「へえ、あれでは死なないのですね」

「言ったはずです。我々で対処すると」


 振り向けば、そこには人型の姿があった。

 さて、全て殺したと思ったのだけどこれはどういうカラクリだろう。見渡せば綺麗に掃除した筈の空に再び人型たちが蔓延っていた。


「なるほど、どうやら三大神と同じ殺し方をしたほうが良さそうです」

「アルマギア=エルダーンを屠った破壊の槍。確かにあれならば我々も滅びるでしょう」


 しかし、と。

 その人型は口を開いた。


「貴女の槍で消えるのは我々のうちの一つ。全てを滅ぼすのに、さて、どれだけの時間が掛かるのでしょうね。エルテルの対処も直に終わります。貴女の終わりもすぐにやってくることでしょう、ヒューマン・デウス」


 再び淡々と語る人型の言葉には、一切の感情がない。

 だからこそ、驕れる神々にはわからないのだろう。

 人が持つ、神に対する感情がどれほどのものなのかを。


「私の槍は人の願いそのもの。人類再起、世界の再誕を願う人々の楔。神と呼ばれる貴方たちが知る由もない、悍ましいまでの人間の怒りだ。それだけの憎悪が、たかだか数百の羽虫に届かないと思い込んでいるのなら、それは間違いです」


 空に手をかざして生み出すのは願いの槍。

 銀の雷が象るのは千年に渡る人類の憎悪と希望。誰もが夢に見た神のいない世界、その楽園へと至るための鍵。世界を砕くほどの雷の力が再現なく圧縮され続け、穿たれると共に解放される崩界の槍。


 それを一つ。二つ。そして――


いくらでも創れる(・・・・・・・・)んだよ、こんなもの」


 やがては空を埋め尽くす。


 槍一つに掛かる魔力量から察すれば、確かにこれを量産するのは馬鹿げている。通常時であればこのナナキを以てしても数十本が限度だろう。何せ一つに掛かる魔力量は他の五帝が保持する魔力量を遙かに超える。神を殺すだけの力を秘めたこの槍は、五帝すらもを容易く魔法壊死に陥らせるだけの代物だ。


 ただ、それはあくまで普通の話。

 特別な私には、当て嵌まらない。


 何せこの状態の私に、際限はないのだから。


「――滑稽ですね」


 空を埋め尽くすだけの死を前にして、人型が呟いたのはそれだった。

 怯えるでもなく、諦めるのでもなく、ただ私を嘲笑う。


「滑稽? 私が?」


 酷く不愉快な話だ。

 この手を振り下ろせば消えてなくなるそれが、誇りも何も持たないそれが、どうしてこのナナキを嘲笑うのか。腹立たしくて、ついつい舌を打ってしまう。目の前のこれには生がない。死ぬのではなく、いなくなるだけなのだろう。そんな軽い身の上で、これまでを生きてきた私を嘲笑うのがどうにも許せない。いや、許さない。


「人類再起? 世界再誕? まったく、痛ましいことですね、ヒューマン・デウス」


 殺す。

 極限まで殺意が高まったその時だった。


 人型はソレを口にした。


「――人間なんてもうこの世のどこにもいないというのに」

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