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雷帝のメイド  作者: なこはる
九章-失われた歴史の真実-
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プラズマディスコ

「ふぅ……」


 一頻りゲーゲーした後は少しばかり楽になった。というよりも、ようやく鼻が麻痺したというべきだろうか。或いは、慣れたとも。いや、こんな激臭に慣れたくはないけども。


 ともあれ、どうにか戦えるくらいにはコンディションが整った。無論、この程度の連中はエンビィ一人で十分だろうけど、いつもいつもこの姉ばかりに苦労を押し付けるのはさすがに気が引けるというものだ。


「さて、それでは始めましょうか」


 今一度姿勢を正してキリッとナナキ。

 さあさあ、どこからでも掛かってくるといい。不肖、ナナキがお相手仕る。


「散々待たせておいて何を言ってるんだろうね、このゲロ女は」


 ゲロ女。


 やあやあ、聞いたか友よ。まさかとは思うのだけど、あのクソ女が言っているゲロ女とはもしかしてナナキのことを言っているのだろうか。いやいや、こんなに可愛いナナキをつかまえてゲロ女などと、ありえないことだとは思うのだけどね。


「…………ンぶふっ」


 そして何を吹き出しているんだこの姉は。

 あれか? さてはエンビィまでナナキにとんでもない汚名を着せたのか? よしわかった。オーケーオーケー、ナナキってば超クール。


 全員ぶっ飛ばす。


「まあいいや、さっさとやっちまいな。間違っても殺すんじゃないよ」


 かくして、乱戦が始まった……のだけど、何とまあ酷いことか。頭領らしきクソ女を除いた向かってくる六人の粗末な足取りを見ていると本当に戦う気があるのか怪しくなってくる。


 このご時世に距離を詰めるために走ってくる奴がいるとは驚きだ。まさかとは思うけれど、身体強化の魔法も使えないのだろうか。一歩で距離を詰める術がないのなら、それはもう戦いにすらならない。ドタバタと駆けてくる間にいったいどれだけの魔法を撃ち込まれることか。


「オラァッ!」

「大人しくしやがれッ!」


 たっぷりと時間を掛けてナナキのもとまで到着した彼らはそれはもう乱雑に剣を振り回した。一歩、また一歩とそれを躱すなかでチラリとエンビィを見れば、未だに笑いが収まらないらしく口を押さえながら小刻みに震えていた。


 さて、さっさとケリを着けるとか言っていたのは誰だったか。ナナキの記憶ではどこぞの赤毛のお姉ちゃんだった気がするのだけどね。後でお仕置きしてやる。


「……ッ!」

「こ、このっ! ちょこまかと!」

「あ、当たらねえッ!?」


 まるで手入れもされていないゴミ同然の獲物をブンブンと振り回す彼らの様は、まるで出来の悪い創作ダンスを見ているようだった。人に見せるならもう少しクオリティの向上に努めてほしいものだ。


 ともすれば、ここはナナキがお手本を見せてやるのも悪くない。

 オーケー友よ。レッツ、パーリーピーポー。

 


「オラアアアッ!」


 右にステップ。


「このガキッ!」


 左にステップ。


「もらったッ!」


 ここでターン。


「このゲロ女が――ぐあッ!?」


 こいつはヘッドバット。


 いかがだろう友よ、ナナキの華麗な踊りは。脳内のリズムに合わせて右へ左へくるくると。時には身体を大きく揺らして頭を振る。ナウでヤングでイケてるナナキはパリピだってお手の物。さあさあ、友も一緒にダンシングナナキ。


「アンタたち! ガキ一人になにやってんだい!」


 踊ってんだい。


 右手を大きく挙げて、人差し指は天高く。外野からヤジを飛ばすクソ女に向けてキメポーズ。これぞサタデーナナキフィーバーだ。どうだ、格好良いだろう。


「あ、姐さん! なんかこいつやべえよ!」

「ガキ相手に弱音吐いてんじゃないよ情けないねえ!」

「で、でもこいつなんかおかしいんだ! ただのガキじゃねえよこいつ!?」

「いいから全員で囲んじまいなよバカだねえ!」


 あ。


「け、けどよ――」


 そこまで言いかけた男の首が綺麗に飛んだ。

 恐ろしく早い一閃、ナナキじゃなきゃ見逃しちゃうね。こんな絶技を披露できるのはこの場においてはナナキとその姉しかいない。


「いつまで遊んでるのさナナキ。早く終わらせようって言っただろ?」


 えー。


 涼しい顔で言ってみせるエンビィだけど、さっきまでお腹を抱えて笑っていたのは他でもないこの姉だ。自分のことを棚に上げた発言はいかがなものかとナナキは思うのだよ。


 端的に言うと、笑ってた癖にめっちゃ偉そう。


「あ、兄貴ィッ!?」

「あ、姉御どうす――」


 混乱する下衆共を次々にエンビィが斬り捨てていく。ああ見えてエンビィの剣技はシルヴァの次点、本気であれば神すら焼き切る太陽の剣でそれを振るってくるのだから恐ろしい。ナナキとしてもあんなのは二度と御免だ。


「何をぼーっとしてるのさ。ナナキはあっち」

「おや、決断が早い」


 エンビィが指さした方向を見てみれば、既に一人だけ逃げ出している者がいた。なかなかの好判断だけど惜しむらくは、その程度のスピードでは到底私たちからは逃げられないところか。


「どちらへ行かれるのですか?」

「ッ……!?」


 一歩で追いつけば、下衆共の大将は大きく後ずさった。


「な、なあ、悪かったよ。散々言ったのは謝るからさ、見逃しておくれよ。私を殺したって別にアンタたちに得はないだろう?」


 小物極まる。

 あれだけの大口を叩いておきながら、いざとなれば容易く頭を下げる。下衆の群れとはいえ、仮にもそれをまとめる長でありながら、その矜持すら持たないとは。


 詰まるところ、それは虫だ。


「な? 頼むよお嬢ちゃん」


 必死に縋る虫の言葉には一切の興味がないけれど、一応ダメ元で聞いておくことにしよう。


「エルテルという人物について何か知っていますか?」

「エル……? あ、ああ! エルテルね! ああ、知っているとも!」

「……では、話して下さい」

「そ、その前に私の命の保証をしてくれよ!」

「ああ、なら結構です」

「え――」


 間抜け面を晒す女の足を払って顔面に蹴りを叩き込めば、仰向けに地面へと倒れ込んだ。それから、無防備なその喉を踵で踏み砕く。身体強化の魔法を使わなくても簡単に人を殺せるお手軽な方法だ。大抵の生き物は喉を潰せば死ぬ。


「――――――――」

「それでは、ご機嫌よう」


 喉を押さえて藻掻く女に笑顔で一礼をした。

 今はまだ藻掻いているけれど、直に窒息して死ぬだろう。それなら、せめて最期に綺麗なものを見せたてあげようと思ったのだ。


「さてと」


 エンビィの方もとっくに終わっている頃合いだろう。平時のエンビィであれば或いは見逃すという選択もあったのかもしれないけど、今回のように五帝として赴いているエンビィに慈悲なんてものはない。その責任を果たすために、障害は全て打ち払うだろう。


 エンビィはとても優しい人だけれど、それ以上に己の責任を果たす人だ。何せ、何も知らなかったナナキを投げ出さずにここまで育てた人だからね。自分で言うのもなんだけれど、恐らくエンビィ以外にそれを出来る人はいなかったろう。


 だから私は、この姉に大恩がある。


「さて、それじゃあ行こうか……ンぐふッ」


 でもそれはそれ、これはこれだ。


「いつまで笑ってるんですか、ぶっ飛ばしますよ」

「いや、ごめんごめん。もう呼吸は大丈夫なの? あれだけ嫌がってたのに」

「大丈夫ではありませんが、慣れました。悲しいことに」

「ここを抜ければすぐにアルテノという街があるから、それまで頑張りな」

「……早くフレイラインに帰りたい」


 吐くほどではなくなったとはいえ、未だ悪臭がキツイことには変わりない。嘆きの街道に入って早々に起きた面倒事のせいで気力も削がれた。ともすれば、郷愁の念が浮き上がるの仕方ないことだろう。


「そんなにご主人様に会いたい?」

「ええ、それはもう」


 まあ、主だけじゃないけれど。

 今となってはミーア様もフィオさんも、リドルフ執事長もナナキにとっては大切な人たちだ。付き合いはまだ短いけれど、ハーミィだって、あの生意気なアイーシャだって。


 昔は一人で生きていこうと思っていたけれど、この姉に出会ってから私はすっかりと変わってしまったように思う。それが少し不安で、それでも不快ではなくて、なんとも言い難い妙な感覚だ。


 果たしてこれは、私にとって良い変化なのだろうか。


「エンビィも毛嫌いしていないで主ともっと話してみたらどうですか? もしかすると印象が変わるかもしれませんよ」


 どちらにせよ、変わってしまったものは仕方が無い。それが良いか悪いかは定かではないけれど、この姉と関わった結果というのなら、それはそれで諦めも付く。納得もいく。


 何せナナキはこの姉が大好きだからね。


「そうだね。それじゃあナナキが吐いた話でもしてみようかな」


 お前を殺す。

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