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雷帝のメイド  作者: なこはる
八章-変わり始めた世界-
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真相の行方

完結まで書き溜める予定でしたが更新あくしろよと突かれたのでこれからはちょくちょくストック投げていきます。

「ふむり」


 と、空を見上げながら独り言ちるのには、実はそれなりの訳があったりする。


 はいどうも、世界の皆様におかれましてはご機嫌麗しゅう。良い朝ですね、と言うには生憎の空模様ではありますが、何はともあれおはようございます。ナナキです。吹き付ける風がいよいよを以て冷たくなってきたあたり、冬の到来も間近と言ったところでしょうか。人肌ならぬ、姉肌が恋しい季節になって参りましたね。エンビィ遊びに来ないかな。


 庭先で箒を持ったまま、今日もまた寒空の下で立ち尽くす。


 というのも、ナナキは気付いてしまったのだ。主の提案から始まった此度の引き抜き作戦に、重大な欠点があったということに。


 新人メイド二人がこのアルフレイドの屋敷に加わってしばらく、元々少ない人員で回していた業務に余裕が生まれたこともあり、以前に増してお屋敷の管理が行き届くようになった。それはいい。主やミーア様により快適な住まいを提供できるのは従者の喜びでもあるのだから。


 では、欠点とは何か。


「……仕事がない」


 主にナナキの。


「ハーミィはともかく、まさかアイーシャがあそこまでとは……」


 ハーミィとアイーシャの両名が屋敷に加わって以来、ナナキの仕事が激減している。それは偏に彼女たちが優秀であるという証明に他ならない。これまた主やミーア様にとっては喜ばしいことだろう。従者が優秀であれば、それを雇用する主人はそれらを従えるに足る人物という評価を得られるのだから。


 だけどナナキとしては困る。実に困る。何せナナキは二人よりも早くこのお屋敷で勤めていた、謂わば先輩メイドである。或いはメイド長とか言ってみたりして。うん、良い響きだ。メイド長ナナキ、是非ともそう呼ばれたいところだ。


 ともあれ、二人の優秀なメイドの加入によってナナキは手持ち無沙汰な時間が増えてしまった。マスターメイドを自称するナナキとしては、この無為な時間をどうにかして有効に使いたいものだが、如何せん本当に仕事がないのである。


 清掃は隅々まで行き届いているし、洗濯物も丁寧に扱われている。では食事係はどうかと言えば、問答無用で締め出される始末。これにはナナキも物申したいところではあるが、ここで揉めるとミーア様がニンジンを持って現れるので今のところは我慢している。となれば、残るは来客の対応くらいなものだが、これは人員的に余裕が生まれたことでフリーの時間が増えたリドルフ執事長が対応しているのが現状だ。


 詰まるところ、ナナキの仕事と言えば主やミーア様が呼び鈴を鳴らすのを待つくらいのものなのである。しかし、待てども待てども呼び鈴が鳴ることはない。当然だ、さっき紅茶を用意したばかりなのだから。


「ふむり」


 以上の理由から、仕方がないから庭先の掃除でもしようと箒を手に取ったのがこれまでの経緯。そして眼前には落ち葉一つない綺麗な庭園。それはもう、この寒空を仰ぎたくもなるというものだ。ぽつりと一つ零すのは、安易に暇などと口にしてはナナキの体裁に関わるからである。マスターメイドたる者、何時いかなる時でも緊張感を持って仕事をするべし。暇などと口にするのは以ての外だ。


「暇だ」


 でも今はナナキ以外に誰もいないので良しとする。いや、正確に言えば今し方窓から飛び出してきたじゃじゃ馬が居るのだけど。


「隙ありッ!!」


 そんなものはないし、あったとしても声を出していては意味がない。


「うおっ!?」


 首を狙ったアイーシャの鋭い蹴りを一歩で躱してそのまま足首を取る。さて、戦闘中に足を取られることがどれだけの失策か、この犬コロは理解しているのだろうか。このまま握り潰すも良し、切り払うも良し、どちらにせよまともな運動能力は損なわれることになる。とはいえ、アイーシャにはナナキの後任を勤めてもらう以上、握り潰すわけにもいかないのだけど。従ってここは適当に投げ捨てることとする。おまけに雷も投げておこう。


「しっかり防いでくださいね」

「あ?」


 忠告のナナキスマイル。世界の皆様、ナナキです。


「うおおおおおお―――――っ!?」


 笑顔と共にアイーシャを上空へと放り投げれば、随分と品のない悲鳴が空へと消えていく。やがて点になっては曇り空を突き抜けていった彼女にある程度加減した雷の追撃をお見舞いしておく。さて、ナナキの弟子となるからにはこの程度は防いでほしいものだけど、いかがだろう。帰ってきたら聞いてみることにしよう。


 うん? ナナキ? もちろん、見届けないよ。あの程度のことでどうにかなるなら五帝の後継に選んだりはしないし、何よりこれくらいのことで一々心配するのは過保護と言うものだ。いや別に、これでアイーシャがしばらく留守になればナナキの仕事が増えるのでは、なんて考えていないよ。もちろんだとも。友よ、君はもう少し親友を信じるべきだ。


 友からの鋭い、もとい心外な追求にも笑顔で対応。事実無根のナナキスマイル。世界の皆様、ナナキ無罪です。


「――――むっ」


 ただならぬ気配。どうやら早速効果が出――じゃなかった、アイーシャが居なくなった途端にやってくるとは何て姑息な相手だ。ナナキが成敗してやらなければ。と言っても、何だか覚えのある気配なのだけどね。具体的に言えばどこぞの剣帝の気配に似ている気がするのだけど、あの多忙を極める男が果たしてこんな辺境にまでやってくるだろうか。


 ともあれ、疑問を覚えながらも移動を開始する。目標は屋敷からおよそ百メートルほど、雷を纏っての移動であれば秒も掛からない些末な距離だ。ナナキの勘では十中八九あの男ではあるのだけど、万が一があっても面白くない。ここは侮ることなく全力で掛かるとしよう。


 瞬間、雷となって駆け抜ける。


「うわ、本当にシルヴァですか」

「ご挨拶だな」


 刹那を駆けて、この目に捉えたのは予想通りの人物だった。絵に描いたような金髪碧眼に、その顔立ちはさながら王子様と言ったところだろうか。さてさて、五帝の頭目がこんな辺境の地までわざわざ出向くなんて、いったいどのような用件だろうか。


「何やってんだこいつとでも言いたげだな」

「何やってんだこいつ」

「言わんでいい」


 言いたくもなる。何せナナキはシルヴァとは折り合いが良くない。それを理解してよくもまあ、こうも堂々と私の最終防衛地点に顔を出せるものだ。もっとも、シルヴァらしいと言えばらしいけれど。


「それで、何の用ですか。今日は帝都へ行く日ではありませんが」

「お前も分かり易い奴だな。俺とてお前に対しては思うところが山ほどあるが、そこまで酷い態度は取らんぞ」

「失礼、朝から見たくもない顔を見たもので少々機嫌が悪いのです」

「……ではまずその機嫌とやらから何とかした方が良さそうだな」

「……んん?」


 突っかかってこない。どころかナナキのご機嫌取りをすると言う。あのシルヴァが? いったいどういう風の吹き回しだろうか。あまりの気味の悪さに思わず後ずさってしまった。このナナキが後退するなど、不覚。


「気持ち悪いですね。いったい何を企んで――――ッ!?」


 そこまで言いかけた時、何かに視界が塞がれた。


「だーれだってね」

「……危うく消し飛ばすところでしたよ、エンビィ」

「や、やりかねないな」


 聞き間違える筈もないその声に、少しばかりの不満を交えて声を上げれば塞がれた視界がすぐに開けた。すぐさまに振り返れば、そこには見慣れない外套に身を包んだ最愛の姉の姿があった。なるほど、確かにコイツはご機嫌だ。見たくもないシルヴァの顔を見たとしてもお釣りがくる。ともあれ、まずは挨拶だろう。それがこの姉の教えだ。


「おはようございます、エンビィ」

「はい、おはよう。ナナキ」

「俺には挨拶がなかったように思うが」


 そんなことはどうでもいい。それよりも、真っ先に確認しなければいけないことがある。


「今のはいったいどういうことですか、エンビィ」


 まず第一に、ナナキは主やミーア様が住まうこのフレイラインの魔力反応を逐一把握している。エンビィほどの魔力の持ち主を察知できないなんてことはありえない。その筈なのに、こうも簡単に後ろを取られた。その上、目まで塞がれたというのは致命的だ。もしこれが帝国との戦時中であったなら、今のでナナキは死んでいたかもしれない。


 何よりも問題なのは、このナナキがまるで気配を感じることができなかった。


 魔法社会で生まれ育った凡庸な者ならいざ知れず、大自然の中で生きてきたこのナナキが生物の気配を感じ取れないなんてことがある筈がない。例えエンビィの魔力が何かしらの理由で消失していようと、彼女が生きている限り確実に気配は存在する筈だ。なのに、今のはそれすら感じ取れなかった。


「どうやらナナキ相手でも通じる性能らしい」

「そのようだね。もっとも、この子は知らなかっただけだ。一度でも知ったら二度と通じないよ」


 シルヴァの言葉に答えながら、エンビィがその見慣れない外套を脱いだ。すると、途端にエンビィの膨大な魔力が察知できた。なるほど、どうやら帝国はとんでもないものを作り出したようだ。


「科学と魔法の融合だよナナキ。これを被っている間は魔力で察知されることがない」

「気配まで消えているようですが」

「内側に気配を消す魔法が発動しているんだ。ついでに足音も消してくれる」

「それはまた……危険なものを作りましたね、陛下は」


 つまり、その外套を被っている者を認識するには目で見つけるより他にないということだ。エンビィやシルヴァのような五帝クラスがこれを付ければ、それを視認するの難しいだろう。もっとも、エンビィの言うようにもう対策は思いついたけれど。


「先日の帝都襲撃の主犯が割れた。フリーグラントだ」

「フリーグラント?」


 確かそれは帝国からそれなりの距離がある国だった筈だ。人口のほどは定かではないけれど、帝国に戦争を仕掛けるほどのものではないだろう。となれば、やはり神に唆されたのか。或いは――――


「ナナキ、お前とエンビィはこれを使ってフリーグラントを探れ」

「探る? 殲滅ではなく?」


 わざわざ広域殲滅が可能な面子を集めておいて、殲滅ではなく探れというのもおかしな話だ。そもそも帝国は牙を向けた他国に容赦をするような生やさしいものではない。同じ人間であれ、帝国を脅かすものであればこれを殲滅する。あの国は、綺麗事が言えるほどの余裕が今の人類にないことを知っているのだ。神々との決戦を控えている今、人同士で揉めている場合ではない筈。それなのに、シルヴァは探れと言った。


 それはつまり。


「――――恐らく、エルテルはそこにいる」

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