そして少女は至る
――――無数の光の剣を見た。
煌びやかに輝く幻想の光が象るのは神聖の剣。空間を埋め尽くすだけのそれらを、或いは天罰と言うのなら、差し詰めナナキは神に逆らった大罪人と言ったところだろうか。それならそれで大いに結構、あながち間違ってもいない。かつての大戦、神界戦争さえをも鎮めたというその力でこのナナキを裁いて見せればいい。
どこからともなく現れたその伝説に、ナナキの素敵な笑顔を添えてお出迎え。その名も決戦のナナキスマイル。二度目まして三大神、ナナキです。先日はご挨拶頂き感謝の至り。本日は是非とも決着を願いたいところだけど、相違ないだろうか。
「輝剣、収束」
承知、それでは開戦といこう。
かくして、三大神が一角、アルマギア=エルダーンとの戦いが始まった。イグレイ・アライラーと同じように人型ではあるけれど、その様相はとても人間と呼べたものじゃない。四つの目に九つの角、黄金の鎧を着込むその身体は果たして人と呼べるかはわからない。さて困ったぞ、ナナキはこれを表す言葉を多分知らない。
さてさて、古くさい伝説との邂逅はこれで二度目。一角は既にナナキと友の手で消し去った。しかし、今回はナナキ一人でこれを討つ。他でもない、これはナナキ自身が望んだことだ。
「滅ビヨ」
美しく、幻想的な軌跡を残しながら向かってくる光の剣に思わず微笑んだ。その数は正に無限、三大神とまで呼ばれる圧倒的な魔力で操るそれらは全てが必殺の威力を持っている。友がこの場にいない以上、ナナキはこれに当たるわけにはいかない。人間の魔法では、身体を修復することは適わない。
「ッ!!」
だから、全てを消し飛ばす。
三百六十度、向かってくる全ての剣を雷で丸ごとに消し飛ばす。剣も、建物も、修復を続けていた神々も、三大神すらをもまとめて蒼雷駆け巡るナナキのフィールドへと引きずり込む。帝国国民の皆々様には大変申し訳ないが、これも延いては帝国のためとなる。喜び勇んでお家の消失を受け入れて欲しい。
「滅ビヲ受ケ入レヨ、ヒューマン・デウス」
「勝手なことばかりを言う」
とはいえ、強者とはそういうものだ。誰が何を言ったところで、力の無い者は力の有る者に屈するより他にない。この世界は持っている者が許されるように出来ている。だからこそ気に食わない。このナナキに向かって勝手を言う、お前がどうしたって気に食わない。それじゃあまるで、ナナキの方が弱いみたいじゃないか。
「事実、オ前ハココデ滅ビル」
「勝手に人の心を覗くなよ、このゲス野郎」
乙女の心を勝手に覗く不届き者に雷の剣を突き刺した。
蒼雷に守られているこのフィールド内ならば先程の無数の剣は生成できない。例え生み出したとしても雷によって消し飛ばされるだけだ。となると、アルマギア=エルダーンが取るであろう行動は大方二つ。一つは定石、このフィールド内からの脱出。普通に考えればこれで決まりなのだけど、何せ相手は伝説の三大神だ。ともすれば、残り一つの選択肢は――――
「やはり向かって来ますか」
予想はしていたが、やはりナナキの力だけでは微妙に競り負ける。ここまでの相手となると、小手先よりも魔力の総量、ぶつけ合いが物を言う。更に言えば、相手は三大神。格付け的には友の上に位置する怪物であり、例えここで押し勝てても人間では神様は殺せない。詰まるところ、どうしようもなく分が悪い。
「チッ」
突き刺した雷の剣も、蒼雷のフィールドもものともせずに向かってくる三大神に思わず舌打ちをした。わかってはいたことだが、やはり強い。単身とはいえ、このナナキが押されるとは実に腹立たしい。
「ッ!?」
瞬間、フィールド内を浸食する巨大な魔力を帯びた剣が生成されるのを見た。剣は四つ、シルヴァのアルシャ=ジオですらまるで比べものにならないそれは、正しく聖剣とも呼べるのかもしれない。とはいえ、たかだか聖剣如きにこのナナキが引き下がるのも癪だ。剣の腕ではナナキが上、それならば相手をしてやるのも悪くはない。
同じようにして四本の雷の剣を生成して迎え撃つ。
「――――いッ……ヅ!!」
結果は惨敗、速度でも威力でも上回られた。雷の剣は全て斬り伏せられ、防ぎきることも適わずに血を流すことになった。
「因果ハ既ニ固定サレテイル。滅ビヨ、ヒューマン・デウス」
「まったく……」
情けない。
理解はしていたけれど、友が居ないだけでこうまで変わるものか。大口を叩いておいてこれではまた友にバカにされてしまう。どころか、ひたすらに怒られてしまうかもしれない。それは嫌だな。ここだけの話、ナナキは怒られるのは苦手なんだ。怒られるより、褒められたい。良くやったって、頭を撫でられたい。
「――――因果、変動」
最初からわかりきっていた。その上で、こうして戦いにやってきた。だってきっとその先は、今のままではいけないとわかっていたから。このままでは、彼の望む結末を手に入れられないと、私の欲する人を手に入れられないと、わかっていたから。
「目標ノ存在値上昇、イグレイ・アライラートノ戦イデ見セタ進化ト思ワレル」
このままじゃ足りない。それには届かない。
「想定サレテイタ通リ、目標ハ仕留メ損ナエバ進化スル。現状ノ状態デアレバ問題ハナイ。戦闘ヲ回避シ撤退スル」
「――――逃がすかよ」
異形の顔を鷲掴みにして、ありったけの魔力で雷を放つ。
「――――――――」
全力全開の雷はアルマギア=エルダーンの上半身全てを消し飛ばすまでには至った。それでも、それが人間の限界だ。人間では神様は殺せない。それはこの世界のルールであり、人が神に滅ぼされた原因でもある。他の雑魚ならば修復に数ヶ月掛かるであろう損傷も、三大神ともなれば見る見る内に修復されていく。
「ああ……」
そうだ、このままじゃダメだ。
この命には、幾つもの約束が在る。ナナキは、私は確かに彼と誓った。神を殺せると、この口で彼にそう言った。そして何よりも思い出すのは、あの雨の日だ。命が終わるその最後の瞬間まで、このナナキの生存を願った人が居た。とても大切で、もう会えない人が、大好きなあの人がナナキに死ぬなと言った。
「……馬鹿ナ」
誓いを守ろう。
「概念、変化」
約束を守ろう。
「存在値変異、許容値ヲ突破」
敵を、殺そう。
「……武装顕現」
いいや、違う。これはもう、人の物語ではないから。弱いだけのそれでは、何も果たせないから。それなら、私はそれを呼ぼう。
「神装顕現」
私はナナキ、特別な存在なのだから。お母様が信じて疑わなかったそれを、娘の私が証明をしなければいけない。
奔る雷の色が変わるのを見た。それはきっと、神様を殺す色だ。銀の雷が世界を覆う頃、この身は白銀の神装に包まれた。誇っていた筈の黒曜の髪は人ならざる白銀へと変わり、この目に映る世界が酷く赤く見える。けれど決して悪い気分ではなかった。
これで、殺せる。
さあ、今度こそ殺し合いを始めよう。一方が殺されないという不平等が消え去った今、どちらがより優れた神なのかを決めようじゃないか三大神。
これなるは、神装顕現。
「――――”銀雷の人類神“」
とても、とても簡単なことだった。
人では殺せないと言うのなら、ナナキは神に成ろう。友と同じように、けれど友とは違い、人の心を持ってナナキは神と成ろう。手始めに送るのはそうだな、まずは人類の怒りでも知らしめようか。
右手を掲げて生み出すのは神を穿つ白銀の大雷槍。死なないと言うのなら受け止めて見ると良い、恐れると言うなら無様に逃げると良い。そのどちらであってもこれはお前を穿ち、必ず殺すだろう。
神がそうしたように、今度はナナキが――――
「スマナイ。エルテル」
お前たちを滅ぼそう。




