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雷帝のメイド  作者: なこはる
七章-雷帝ナナキ-
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五帝集結

「お取り込み中のところ失礼致します。主、ミーア様」


 何はともあれ、まずは主たちの元へと戻ることにした。雷を纏って駆け抜ければ帰還に要する時間は秒も無い。主への制裁、もとい兄妹のスキンシップをお邪魔するのは忍びないが、緊急事態にてご容赦頂きたい。


「これはどういうこと、ナナキ」

「敵襲かと」


 最初に尋ねてきたのはミーア様。即答を以てお返しする。


「俺たちはどうすればいい?」


 そして次に主の問い。


 お二人は的確に必要なことだけをナナキに聞いてくる。いやまったく、この御兄妹は大したものだ。無駄な説明をしなくて済むというのは実に有り難い。肝が据わっていると言うべきか、或いはやはり、ズレていると言うべきか。どちらにしても、ナナキとしては好ましい。何事においても覚悟があるというのは良いことだ。


「間もなくアキハとフィオさんが到着致します。お二人が到着した後、皆様はこの屋敷の中で事が済むまでお待ちください。くれぐれも外には出ないよう、お願い申し上げます」


 お二人に倣ってナナキも必要なことだけを告げることにした。何が起きているか、外がどうなっているかを語ったところで仕方がない。今この場に限り必要なのはただ一点のみ。この屋敷の外に出ないこと。それだけだ。


「ナナキはどうする」

「ここで皆様をお守りしたいところですが、ここに居ると逆に危険を呼び込みそうなので散歩ついでに皇帝陛下に高値で恩を売りつけてこようかと思いますが」

「主人思いなメイドだな」


 それはもう、自他共に認めるところだろう。


 実際、今回の襲撃は帝都が経験してきたこれまでのものとは訳が違う。ナナキの感知に引っかかる魔力反応から察するに、今回は五帝が前に出る必要があるだろう。ともすれば、皇帝陛下に恩を売りつけて、後々の交渉の席で主が有利に立ち回れるように手を回すのが良いとナナキは思う次第である。


 主もそれを理解してか、ナナキがこの場を離れることを咎めない。


「お、おいおいおいおいゼアンッ!? ちょっと待てコラおい! その化け物メイドがいねえと俺らがヤバいだろうがッ!?」


 けれど、部屋の隅で身体を振るわせているただ一人は、まあ叫ぶ。覚悟もなく理解もない愚者、見苦しいことアルカーンの如しとはよく言ったものだね友よ。うん? 聞いたことない? 実はナナキもだ。やったね、お揃いだ。イエイ。


「実際、その辺はどうなのナナキ。貴女が離れる以上、ここも安全とは言えない。戦えるのはせいぜい私とフィオ、それにアルカーン様の従者くらいでしょう」

「外にさえ出なければ安全です、ミーア様」

「その根拠は?」

「――――私の友人がこの屋敷を守りますので」


 ということで友よ、このナナキの願いだ。どうかこのお屋敷を、主たちを守ってほしい。ここは正にナナキの心臓、唯一の弱点だ。そこに安心を置くにはどうしたって君の力が必要だ。ナナキの友、神話の雷イルヴェング=ナズグルよ。かつて百神を屠ったという君のその力を、ナナキに貸して欲しい。


 案の定、友は首を振った。


 まあ、そうだろうね。君は優しいから、何を言ったってナナキの心配をする。だけど敢えて言おうじゃないか友よ、舐めるなよと。どうせ今回も三大神はやってくるのだろう、そんなことはわかっている。その上で、それがどうしたと言っているんだ。このナナキが君に任せると言い、こっちは任せろと言っている。


 それを、親友である君が疑うのか?


「ありがと」


 やがて諦めたようにそっぽを向く友に、小さくお礼の言葉を口にした。これで唯一と言っていいナナキの弱点はなくなった。さてさて、突然の襲撃ではあるけれど、存分に戦えるというのなら是非もない。敵は必ず殺す、会敵必殺はナナキのモットーだ。殺されに来てくれということは、殺しに行く手間が省けたとも言えるだろう。


「ミーア様ッ!」

「ご無事ですか、ヴィルモット・アルカーン様」


 フィオさんとアキハの到着を以て、友とコツンと拳を合わせた。ぜひともこの大きな手で主たちを守ってくれたまえ。


「それでは主、行って参ります」

「ああ、そっちは任せる」


 その目には、迷いも怯えも見えなかった。それなら、ナナキに向けられたこの蒼星石の瞳には何が込められているのか。ナナキはそれを知っている。この瞳を、この蒼を、ナナキは信頼と呼ぶのだ。ならば、ナナキはそれに応えよう。特別である様を見せつけよう。


 それこそが、彼のメイドであるナナキの責務だ。


 最早、不安はない。雷となって駆ける帝都の空。途中、邪魔な羽虫を焼き切りながら向かったのは皇帝陛下の居る宮廷。その巨大な屋根の上に着地して、八重から成るこのペンタゴンを見回した。


 破壊された対空魔法施設に、ところどころに上がっている黒煙。時折に聞こえる爆発と大きな振動は今も戦闘が続いていることを知らせてくれる。やれやれ、予想通りというかなんというか、帝国騎士に魔法士は揃いもそろって押されている。


 その理由は明白で、遠目からでもはっきりと見える。


「……超越者、ね」


 いや、正確には違うか。どれも弱い神様ではあるけれど、動きを見るにあの程度の者たちが神を下せるとも思えない。まあ、神様と人間で何かしらの利害が一致でもしたのだろう。例えば、帝都を滅ぼそうとか。なんだかんだ敵の多いこの国だ、十分にありえる。


 雑魚とはいえ、超越者もどき。お粗末な武装顕現に神の顕現まで合わせられてはいくら帝国騎士と言えども分が悪い。軟弱なことこの上ないが、偽物の天才ではこの程度だろう。


 ともすればやはり、ナナキたち(・・・・・)が出張るしかないわけだが。


「まさか超越者とはな」

「あれを超越者と呼んでいいものかね」

「とはいえ、五帝候補でもなければ手に余る」

「数も多いわね。千? 二千?」


 さてさて、こうして五帝が肩を並べるのは果たしていつ以来だったか。


 剣帝シルヴァ、炎帝エンビィ、武帝ライコウ、天帝サリア。そして、元が付くけれど雷帝ナナキ。正しく、帝都の最高戦力が集ったわけだけど、まずは最初にはっきりさせておくことにしよう。


「今回は加勢しましょう。シルヴァ」

「……フン」


 まったくもって太々しい態度ではあるけれど、加勢の申し出を断るほどにこの男は愚かでは無い。彼は五帝の頭目、剣帝シルヴァ。今正に目の前で起きている帝都の危機に全力を以て当たる義務がある。今は互いの因縁を捨て置いてでも確かな戦力が欲しいだろう。


 ナナキとしても、主のために五帝、延いては皇帝陛下に恩を売っておきたいところ。であれば今回の共同戦線は互いにとって実に望ましい。


「足は引っ張るなよ、ナナキ」

「その足は引っ張られたくらいで止まるのか、シルヴァ」

「はいはい、啀み合わない」


 とはいえ、やはり気に食わないものは気に食わない。大恩ある姉の手前、ここはこの程度で済ませるより他にはないが、腹立たしいことこの上ない。このナナキに向かって足を引っ張るなとは何事か。プンスコナナキ。


「それにしても、超越者もどきですか……」


 ――――少しだけ、厄介かもしれない。


「どうかした? ナナキ」


 思案していれば、エンビィが少し心配そうに話かけてきた。この姉も友と同じく、どうしたってナナキの心配をする。ナナキももう立派な大人であり、一人前なレディであるというのに。少々過保護ではないかと言いたいところではあるが、これも愛だ。ナナキは受け止めよう。


「いえ、レオンを連れ去った理由はこれかと思いまして」

「……なるほど、レオンを三大神の器にするつもりか」


 もし、そうであるなら下手をすれば三大神よりも厄介だ。ナナキほどではないとはいえ、あれもまたお母様の血族、潜在的な力はシルヴァやエンビィよりも遙かに高い。その証拠に、レオンはこのナナキとの戦闘で瞬間的に成長をして見せた。


 そして何よりも面倒なのは、レオンと三大神の目的はこれ以上に無いほどに一致している。もしも、レオンと三大神がナナキと友のように戦うのなら、それはこれまでに無いほどの強敵となるだろう。三大神の力を持つ武装顕現に、友と同様に単独で顕現するだけの化け物。


 もしかすると――――


「まあ、いいか」

「いや、よくはないだろ」

「気にするだけ無駄ですよ、エンビィ。わからないものはわからない。であれば、とりあえずは目の前のことから終わらせましょう」

「考えるのが面倒になっただけでしょ」


 バレたかー。


「それで、作戦はあるの? シルヴァ」

「作戦も何もあるか。ただの騎士ならともかく、五帝全員が出るんだ。作戦など足枷にしかならん。それに、そこのメイドに作戦を叩き込む時間もなければ、叩き込んだところでどうせ破綻する。時間の無駄だ」

「はいはい、どーどー」


 どいてエンビィ! あいつ殺せない!


「作戦はない。各々で動き、敵は全て――――」


 それは、開戦の合図だ。


 これから始まるのは、果ての無い戦い。その始まりをシルヴァが告げるのは癪だけど、ここは帝都だ。帝都を守護するは五帝の役目。それなら、今一度だけナナキは戻ろう。この帝都守るべく、雷帝ナナキと罷り成ろう。非常に腹立たしいことこの上ないが、主役は譲ってやろう。せいぜい励んでもらおうか、五帝の頭目として。


「撃滅しろ」

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