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雷帝のメイド  作者: なこはる
七章-雷帝ナナキ-
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月下に出会わなかったお前もヘッドバット

「ナナキは皇帝との会談の段取りを頼む」

「承りました」

「俺はミーアとヴィルモットに最終確認だ」


 ハーミィの作った美味しい朝食を頂いた後、主と共にそれぞれの役割を再確認。非常に面倒ではあるけれど、相手はこの終わった世界で人類を導いてきた皇族だ。一言を会するだけでも段取りが要る。そしてその段取りを取れるのはこのナナキをおいて他に居ない。


 対して、主はミーア様とヴィルモット・アルカーンへの最終確認。主にも言ったように、引き返すのならここしかない。


 主とナナキはもう決めた。ではミーア様は、ヴィルモット・アルカーンは。この先に必要なのはきっと、揺るがぬ意思だ。例え神を殺してでも欲しいものが在る、憧れた場所が在ると、彼女と彼は口にできるだろうか。


 もしそれが口にできないのなら、置いていった方が良い。それが互いのためになる。何せナナキたちが相手取るのは正真正銘、この世界を滅ぼしたという神々だ。負ける気など毛頭にないが、覚悟もない腑抜けを守る余裕があるとも思えない。


「では主、ご武運を」

「ああ。もしミーアに殺されそうになったら助けに来てくれ」

「フフッ」


 思わず笑ってしまった。


 さすがの主も神々を相手取っては寝不足を強いられたようだけど、どうやら軽口を叩けるくらいには落ち着いたらしい。もしかすると、ハーミィの作ってくれた美味しい朝食のおかげかもしれない。後で感謝を告げよう。


 それにしても、ミーア様か。


「お断りします」


 ナナキは死にたくない。


 あのお兄様大好きミーア様のことだ、主とどれだけの言い合いになろうとその根底には兄妹愛という美しいものが存在する。それが在る限り、主の身に危険は少しだけしかないだろう。


 しかしナナキは違う、鍋にされてしまう。


「冷たい従者だ」

「では段取りが片付いたらお茶を淹れましょう。きっと温まります」

「俺が生きてたらな」


 おどけたようにして主は笑った。だからナナキもまた笑う。心に感じる確かな熱が心地良いと、そう思うから。


「では行って参ります」

「ああ」


 一礼を以て、行動に移る。


 さてさて、まずは何から取り掛かろうか。前回のように皇帝陛下から声が掛かったのならともかく、こちらから謁見を求めるとなると色々と面倒な手続きがいる。らしい。


 そう、らしいだ。だってナナキそういうの知らないし。担当じゃなかったし。


 ともすれば、それを知っている人間に手続きを丸投げしてしまおう。ナナキ賢い。


 該当するのはシルヴァにエンビィ、サリアの三人だろうか。ライコウは古株ではあるけれど、彼はナナキと一緒で戦闘担当。手続きはできても行動は遅そうだ。筋肉だし。


 となると、やはりエンビィに頼むのが一番だろう。シルヴァはナナキを嫌っているし、何より口うるさい。サリアはこないだのことで警戒されてしまうだろうしね。


「よし」


 そうと決まれば迅速に。ナナキの側でぷかりと浮かびながら寝ている友の頭を小突く。はいはい、起きて起きて。お出かけの時間ですよ。


 友はとても億劫そうにその大きな瞼を開けた。やあ友よ、おはようおはよう。ご機嫌はいかがかな。お休みのところ申し訳ないけれど、ナナキはこれからエンビィのところへ向かうよ。君はどうする?


 起き抜けの友に訪ねてみれば、大きな欠伸。まだ寝ぼけているのかと思いきや、エンビィの屋敷の方に向かい始めたあたり、どうやら一緒に来てくれる様子。


 返事くらいしなさい、ものぐさ神様め。


 うん? 敬意が足りない? 人の前で大欠伸をしておいてよくもまあ言えたものだね、君は。なに? 競争? エンビィの屋敷まで? ほほう、このナナキに速さで勝てるとでも。


 どうやらものぐさ神様と言われたのが気に食わないらしく、友が競争でケリを付けようと提案してきた。まったくお笑いだ、速さでこのナナキに挑むなどと。どうやらまだ寝ぼけているようだね、友――――


「………………」


 居ないし。


「この卑怯者ーッッ!!」


 雷を纏って全速力で友を追う。おのれポンコツ神様、目にもの見せてやる。この程度のフライングでナナキに勝てると思うなよ。


「べーっ」


 黒い雷となって移動する友を追い抜いてあっかんべーナナキ。バーカバーカ!


 威力でならともかく、スピードでこのナナキと競おうだなんて頭レオンだ。このままの速度でいけばエンビィの屋敷までそう掛からない。友との差は開くばかりとくれば、最早ナナキが敗北する要素がない。


 完全勝利のナナキスマイル。世界の皆さま、ナナキです。


 振り返って友にも見せちゃう。ほらほら、ナナキの笑顔だよ。綺麗でしょう、この鈍間。さぞや悔しいことだろう。様を見なさ――――い?


「むっ」


 その時、友の意地の悪い笑みが見えた。


 友がああいう顔をする時はろくなことがない。が、そう毎回思い通りにいくと思われても困るというものだ。前方に人の気配、大方ナナキが衝突するとでも思っているのだろうが、浅はかなり。


 確かに主の時は内心で動揺していたがためにヘッドバッドナナキと相成ったが、今回は違う。せいぜい見ていると良い、ナナキの友イルヴェング=ナズグルよ。そして思い出せ、人とは成長する生き物なのだと。


 今のナナキに動揺はない。そしてあの時よりもナナキは強く、速い。例え前を見ていなかったとしても回避行動くらいは容易いのだ。ぶつかる直前に面舵ナナキ、ちょっと通りますよ。


「――――ッ!?」


 その時、不可解なことが起きた。


 衝突の寸前、その人物は右に抜けようとしたナナキと同じ方向に身体を逃がそうとした。つまりは、神速とも謳われた速度で移動するこのナナキを知覚した。


 反応した? このナナキの速度に?


 無論、避けきれる動きではないけれど、その動体視力と反射神経には感服するより他にはない。まさかこれほどの才能にひょっこり出会うとは、さすがはセントラルと言ったところか。


 このナナキの速度に反応するとは思わず右へと抜けようとしたが、このままでは友の思い通り衝突してしまう。どうせ今頃はあの意地の悪い笑みを更に酷くして笑っているのだろう。


 バカめ、ナナキの反射神経ならばまだ回避は間に合うぞ。


 けれどその前に、この凄まじい才能の持ち主の顔を見ておきたい。これは輝きだ。美しいと、そう思えるものだ。なればこそ、これだけの才能の持ち主は把握しておきたい。この才能にはそれだけの価値が在る。このナナキの速度に反応する、それは紛れもなく五帝クラスだ。


 いったいどんな――――あなんだシルヴァか。


「とうッ!」

「ぐおおッ!?」


 着弾、飛距離十二メートル。なかなかのヘッドバット。


「すみませんシルヴァ、ぶつかってしまいました」


 無様に吹き飛んだシルヴァにしっかりと頭を下げた。申し訳ナナキ、ぺこり。


「……今し方気合いを入れるような声が聞こえたが?」


 気のせいじゃね。


「俺でなかったら死んでいるぞ、この化け物め」

「でしょうね、様を見ろ」

「……今様を見ろと言わなかったか?」

「いえ」


 この誇り高いナナキがぶつかってしまった相手に向かってそのようなことを言うわけがない。例え相手がナナキのお腹に風穴を開けたクソ野郎でもそんなことを言うわけがないのである。まったく失礼しちゃう、プンスコナナキ。


「まあ、ナナキも歩けば棒に当たると言いますし。大目に見てください」

「当たられたのは棒ではなく俺な訳だが?」

「それはそうでしょう。シルヴァですから」

「……? どういう意味だ?」


 とても簡単なのだけど、どうやらシルヴァにはわからないらしい。まったく仕方のないお馬鹿さんだ。ここは心優しいナナキが教えてあげることにしよう。感謝して敬うように。


「つまりはこういうことです」


 ナナキも歩けば棒に当たる、簡単なことじゃないか。


「この木偶の坊」

「殺す」


 やってみろ。

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