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「んんっ、とりあえず清掃は終了です」
なんとなく咳払い。ハーミィの余計な一言はともかくとして、これで彼女が急ぐ理由はなくなった。ご覧頂きたい、この見渡す限りの綺麗な厨房を。言わせてもらえばナナキが使用する前よりもずっと綺麗。アメイジングナナキ。
さて、時間の問題が解決されたのならナナキは次に何をすれば良いのだろう。決まっている、速やかなる朝食の準備への参加だ。今回のことではっきりとした。この身は未熟、それは認めよう。
だから、打開策を考えた。
必要だったのは優秀な師、これに尽きる。このナナキに限って才能の不足はありえない。であれば、足りないのは経験と料理の師だ。思えば、いつも最初から否定されていた。それでは幾らナナキが優秀であっても学ぶことはできない。なればこそ必要なのは根気良く付き合って頂ける料理の師。
ああ友よ、ナナキは幸運だ。今ナナキの目の前に居るこの少女はナナキが求める存在そのものと言える。幼くはあってもその実力はこの帝国が証明しているのだから。その稀有な才能に感謝を示すと共に、ナナキの最高の笑顔をプレゼント。
幸運のナナキスマイル。世界の皆さま、ナナキです。
「さあハーミィ、朝食の準備に取り掛かりましょう」
「はい。ではナナキ様は退室願います」
「はい。・・・・・・はい?」
なんで?
首を傾げるナナキを捨て置いて、黙々と朝食の準備を始めるハーミィ。これにはさすがのナナキもびっくりだ。さらに大きく首を傾げてしまう。角度にしてナナキ四十五度といった具合。微弱な電気を使って髪の毛でクエスチョンマークを演出。ほら見て見て友よ、これぞ正しくクエスチョンナナキだ。
さあ、納得のいく解答を頂こうじゃないか。
「ナナキ様」
「はい」
「邪魔です」
「あ、はい」
いや、はいじゃないが。余りの威圧感に思わず頷いてしまった。不覚。
「いえ、ハーミィ。私にも手伝わせてください。料理を学びたいのです」
しかしながらこの程度で怯むナナキではない。目も合わせてくれないハーミィに、はっきりと口にした。そうとも、人には思いを伝える術がある。ナナキはそれを怠けるつもりはないよ。口にもせず引き退る、そんな無様はこの胸に宿る誇りが許さない。
果たして、ナナキの思いが通じたのかはわからない。けれど、黙々と朝食の支度に取り掛かっていたその忙しそうな腕が止まったのは紛れもなく言葉の力だろう。
「・・・・・・ナナキ様、正気ですか?」
その表情も瞳も、真剣そのものだった。あれあれおかしいぞ。ここは本気ですか? と覚悟の度合いを確かめる場面であって、正気ですか? と頭の具合を確認される場面ではない筈である。
「はい、ぜひともご教授を」
ともあれ、力強く頷くことにした。この好機は些細な言い間違えでふいにして良いものではない。ここは素直に頭を下げる。どうぞよろしくお願い致したく、何卒ナナキ。
「正直に申し上げてもよろしいですか」
「はい」
願ってもない。簡潔はナナキも望むところ、来ませい。
「迷惑です」
はい、解散。
◇
厨房を追い出され、あてもなく庭園へと出れば日の出が見えた。黄金が空へと上がっていく。とても綺麗な朝焼け。静寂の庭園に澄んだ空気、一日の始まりとしては上々の環境、悪くはない。
「んー・・・・・・っ」
心地の良い太陽光を浴びながら伸び。せっかくの早起きが全て無駄になってしまった無念を癒してくれる優しい光に感謝。ありがとうありがとう。 たまにはこういう穏やかな時を過ごすのも良いかもしれない。こうも目まぐるしく事態が動いては、ナナキはともかくとして主やミーア様は疲れてしまうかもしれない。少々気配りが足りなかったと言える。反省。
「おはようございます、主」
なので早速、挽回の機会を頂きたい。いかがでしょう。
「ああ、おはよう。ナナキ」
弱々しい魔力に隠す気も無い気配。振り向けばそこにはナナキのご主人様が居た。黄金の髪が朝日に輝いて、澄んだ蒼星石の瞳がナナキを見ている。
まずは何から話そうか。
「よく眠れましたか?」
差し当たっては無難な一言に落ち着いた。主人を気遣うのも従者の勤めだから。
「さすがに寝不足だな」
隠すこともなく、主は笑った。堂々と在るのは良いことだ。取り繕うことも大事であるのは重々承知しているが、ことナナキと主の関係に至っては最低限で良い。ナナキは彼を理解する、その努力をする。
「ナナキは寝れたのか」
「快眠です」
「ハハ、強いな」
「ええ」
それはもう。自信を持って自身を肯定しちゃう。自画自賛はナナキの得意とするところだ。事実、ナナキは素晴らしい。
「ナナキは本当に謙遜をしないな」
「必要がありませんので」
そんなものをしてどうなると言うのだろう。大昔、それこそ神界戦争前では謙遜が美徳とされる時代もあったようだけど、それはただ軟弱なだけだ。自信があるのなら堂々と胸を張れば良い。それができないのは拒絶されるのが怖いからだろう。詰まるところはただの臆病者ではないか。
笑止千万、片腹ナナキ。臆病者とナナキでは役者が違うというものだ。何故ナナキが怖がる必要がある、拒絶できるものなら拒絶してみせれば良い。ナナキはその上を行こう。
「格好良いな、ナナキは」
ふむり?
本日二度目のナナキ四十五度。何を当たり前なことを仰るのこの主様は。お母様譲りのこの顔立ち、完璧な立ち居振る舞い。ナナキの凜々しさは留まるところを知らない。文句の付けようなど今頃は天の川を超えてアンドロメダまで行っている頃だろう。御達者で。
試しに折りたたみ式の手鏡を開いて覗いてみれば、超絶凜々しいナナキちゃんのお出ましだ。腕を組んで顔を引き締める。きりっ。これぞ凜々しいナナキの構えだ。どうだ友よ、ナナキは格好良いだ――何笑ってんだお前。
「ナナキ?」
「あ、いえ、はい」
くっ、後で覚えていろよナズグルめ。ゲラゲラと笑うその面を思いっきりぶん殴ってやる。
「何の話でしたか」
「ん、いや・・・・・・」
珍しく歯切れが悪かった。
いや、それはきっと当然と言うべきなのだろう。
誰もがナナキのように強くはない、誰もがナナキのように特別ではない。
だから、聞いてみることにした。
「一晩経って、気持ちに変化はありましたか?」
引き返すのであれば、ここしかない。ここから先に待つのは前人未踏の戦場。かつては蹂躙されるしかなかった人間が、神を屠る剣を手に入れそれを神々へと突き立てる。人が、人類が生き残るために。
「いいや」
知っていた。彼がなんて答えるのかも、彼がズレていることも。結構、それなら最後の確認だ。
「――神を殺す覚悟はありますか?」
「俺が殺せるかと聞いた」
そう、そしてナナキが殺せると答えた。
だからナナキは、彼に応えなければいけない。敬愛なるお母様と交わした約束、彼と交わした約束。ナナキはどちらも違えはしない。未来永劫、ナナキの誇りが揺らぐことはない。世界を支配する神々が敵と相成った以上、ナナキも覚悟を決めよう。
そうだね、友よ。
――――次からは全力で行こう。
「では参りますか、皇帝陛下のもとへ」
互いの、約束のために。
「朝食を食べてからな」
忘れてた。
拙作を担当して頂けるイラストレーター様が決まりました。
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