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犯人は僕でした  作者: 駒米たも
本編
95/174

幕間九 饒舌

「そう、実際にリスが持ってきた洗濯物の数は三枚」

 レイヴンの見つめる先には、ヒクヒクと鼻を動かすマイケル達の姿があった。

「生首の正体がリスであったという事は分かりました。リスが見つけた人の正体も大体は。しかし、幽霊とは一体何者なんですか? 何の目的で洗濯物を盗んだのです?」


 ナンシーの質問はもっとものように感じられた。全員が、幽霊がここの患者であることに気づいていた。半ば、僕であると確信さえ持っているだろう。

 レイヴンは眉間を押さえていた。持っている答えを出し渋っているのか、はたまた言いたくないのか。どちらにせよ、此処まで言っておいて「それではさようなら」という訳にはいかないだろう。

「確信はありませんが」

 そう前置きをして、レイヴンは両手を開いて見せた。

「……幽霊はその挙動から看護師から目をつけられていた人物。自由に外を歩けない人物です。つまり周囲の眼さえ誤魔化せば、自由に外へ出ることが出来ると考えた。幽霊の目的は、恐らく病院内を自由に歩き回ること、または外へと出る事。此処の入院着は白いチュニック。頭巾(ウィンプル)をかぶると病院関係者の服装にも見える服装です。そして病院内は常に忙しい。髪の色と特徴的な眼鏡を隠せば、余程の事が無い限り相手にはされない。まぁ、作戦は実行される前に失敗したようですが」


 レイヴンは遠くを見た。僕も遠くを見た。具体的に言えば、ここでは無い何処か。他二名はじっと僕の着ている入院着を見つめている。

 

「幽霊にとって幸いだったのは、その後に現れた共犯者が幽霊の犯行を隠そうとしたことです。共犯者は咄嗟に、手に持っていた洗濯物を外へと投げ捨てた。変装用にとくすねた頭巾、それから足の泥を拭った雑巾です。窓を閉めて、その場から立ち去ろうとしたが、普段なら誰もいないはずの廊下に見覚えの無いシスターの姿を見た。彼女は窓の外を見ていて、洗濯物をひっかけたリスを見て悲鳴をあげていた。彼女の注意をそらすため、共犯者はその場に倒れた。それが全てですよ。シスター・ナンシー」


 あえてレイヴンが共犯者と濁したおかげで、誰も僕を問い詰めようとはしなかった。僕は何も、悪い事をしたわけじゃない。少し余計なお喋りをしただけだ。


「咄嗟に『生首』という大きなレッテルをつけたのは良い考えでした。風で飛んだ洗濯物やリスを見て『今のは何だ』と思う人は多いですが『あれは生首だ』と断じる人は少ない。一瞬で過ぎ去る飛行物体の正体を言い当てるのは、熟練した狩人の眼でも難しいと思いますよ。目の悪い人間に判断するのは無理でしょう。そして冷静な人間なら、今しがた見たものを確認しようと窓へと近寄るはず。ですが、シスター・チェルシーはそれをしなかった、他人に『あれは生首だった』と断言されると『未知なる存在が窓の外にいる』という恐怖心から、窓の外を覗くのが怖くなる。一種の足止めですね。そしてシスター・ジェーンには『飛んでいた』と告げておく。すると、飛ぶという単語から、注意は窓のすぐ真下ではなく、中空から上へと向けられる。枝にひっかかっている洗濯物や、下でちょろちょろと動き回るリスは視界の外へ追いやられた」

 

 そう。あとはチェルシーと別れて洗濯物を回収し、洗い場まで持って行けば全ては丸く収まる予定だった。晴れているし、あの量に紛れ込ませれば、どの洗濯物を盗っていたかなんて分からなくなる。

 シスター・ジェーンの登場は僕としても驚いたけれど、あの人はとても役に立った。方向性を示唆すれば、勝手に話を大きくしてくれたし。


「幽霊があげた悲鳴は、皮肉な事に目印となってリスを呼び寄せた。それが三階で生首が多く目撃された理由です。目撃者は、新しくここへ来たばかりで不安なシスター・チェルシー。そして思いこみの激しいシスター・ジェーンの二人。シスター・ジェーンにいたっては、生首の姿を見ていなかったと思いますよ。格子窓と背の高いシスター・チェルシーに隠れていて、背の低い彼女からは、ほとんど外の景色が見えなかった筈ですから。彼女は窓に移った洗濯物の影を見て、日ごろ隠していた恐怖が爆発した。本当は気になっていたんでしょうね、中庭の幽霊が。そんな風にして彼女達が作り上げていく幽霊の噂、そして生首の話を聞きながら共犯者はこう思った。『このまま全て、幽霊と生首の所為にしてしまおう。庭で幽霊が目撃されなくなったら、何れ噂も収まる』と。実在しない存在なら、罰せられる事はない。共犯者は幽霊探しのせいで、中庭のリスの巣が見つかり駆除されるのが嫌だったんでしょうが……とにかく、犯行を隠したい幽霊と利害が一致してしまった」


 レイヴンは大きく溜息を吐いた。


「思えば、エルメダと私が一緒に出掛けると知った日から、やけにソワソワしていると思ったんですよ。彼は私達を尾行するつもりだったとしか思えない。そうですね? 幽霊の正体はショウ。共犯は貴方なんでしょう? リチャード」


 どうしよう。当たり前と言われればそうだけど、すっかりばれてしまった。

 弱気になった僕は、そっとショウ君へと繋がる扉を開ける。彼は相変わらず、真っ暗な部屋の真ん中で座り込んだまま、ブツブツと不思議な呪文を唱え続けていた。


 ねぇ、脱走しようとした理由を素直に話して、謝ろうよ。今なら許してもらえそうだし。


(だって、レイヴンとエルメダさんの、デートですよ? ミス・トリに、まさかの、恋愛要素。滅多に無いというか、あったとしても親密になって二人であう約束をした日に待ち合わせ場所に来ないから相手の部屋に花束持って行ったら死んでた。または相手の女性が実は犯人でした目白押しのミス・トリで、探偵と初恋の女性が二人で出かけるだなんて。レイヴンそれは無謀ですよ。僕が心配して二人の後ろを追いかけ回したいと思うのも当然でしょ? それとなく注意を促しても本気にされないから、今日までそっと無断で見守り続けました。本日二人とも無事だった時の安心感はとても言いあらわせない。他人の恋路やらカップリングやらには興味の無い僕でさえスタンディングオベーションしてしまうほどの衝撃だった。だからね、今日は二人を邪魔するような殺意こもった事件は、予め此方で片っ端から叩き潰していこうと思ったんです。他のミス・トリファンの皆さんには申し訳ありませんが、一足先にひと夏の思い出ゴロゴロ、レイヴンの過去編~初恋模様~を見るチャンスだーとか思っていた訳じゃないんですよ。すいません、思ってました。それなのにね、温かく見守り続けた見返りが、まさかのお留守番とか、絶対安静とか、謹慎処分で外に出られないって言うのは流石にありえないでしょう!? 何だその間接的かつ直接的かつ斬新な僕限定の処刑方法は! おのれ効果はばつぐんだ! 再会した幼馴染の甘酸っぱくも苦い過去のシリアス回想録。それがほんの目の前数キロメートル地点で行われているというのに、僕が! ええ、この僕が指をくわえて「待て」するなんてありえるだろうか? いやない。ない。ぜったいに、ない。ありえない。反語表現!! 二人を追いかける為ならば、どんな手を使ってでも脱走するつもりでした! ものぐさのシスター・セシリーの事だから、どうせ僕の事『茶髪眼鏡』くらいにしか引継ぎしてなかったと思うんだ。だから、髪の毛の色と眼鏡さえ隠せば、次の引継ぎシスターくらいは騙せると思ったんだよね。本当の目的は第一棟の死体安置室横に保管されている浮浪者の遺品(ふく)さ。本当はそっちが欲しかったけど、何日も紛失を誤魔化せる代物じゃないからね。とりあえず頭巾だけにしたのさ。ちなみにリチャードが寝ている隙に何度か眼鏡外してシスターの頭巾かぶって第三棟を歩いてみたんだけど、誰も気がつかなかった。忙しいし、絶え間なく新人さんが入ったりもするから。だからその調子で今日も死体安置室まで行こうとしていた矢先に、あのリスだよ。ええ、もちろん一連の犯行に邪念は無かったとも。守護霊のように穏やかで、キューピットのように純粋な気持ちで、二人を地獄の底まで追いかけようと思っていただけ。時期的に調べたい事もあったからね。いつも考え無しに脱走しているつもりはないんだよ? ホントホント。いやしかし、リチャードがナンシーの助手になるだなんて素晴らしい誤算だった。うん、これって毎日頑張ってる僕へのご褒美だよね? 未だに夢かもしれないって思ってるから頬をつねっているんだけど、この中に居る限り、痛みはないんだよね。豆知識。まぁいいや、何はともあれ楽園は此処にあるって胸を張って言えます。レイヴンとエルメダさんのデートで何があったかは知らないけれど、それに勝るとも劣らない良い日で御座いました。むしろお釣り来るぐらいじゃないかな。それでね、もうそろそろ泣いていいかな? つい感極まっちゃって。いやもう既に泣いたけどね! 現在進行形で泣いてるけどね! 涙腺決壊ものだよ。まさかのノー死体、ノー原作、ライン三兄弟勢ぞろい。これ、第一作目の前段階としては最高の出来じゃない? 神様トム様マザー様ありがとう。もし、この場にエルメダさんとネリーさんがいたら即死だった。全僕の精神力が尊さで吹っ飛ぶところでした、跡形も残らず。そういった意味では、冷静にさせてくれてありがとうげっ歯類たちと言っておこう。ひとつ言っておくけど、リスは嫌いじゃないよ。見る分には。あの歌って踊らないシマリスでもないリス三兄弟が襲ってくるのが悪い。何で僕とリチャードで態度が違うの? 毎度見分けて襲ってくるんだけど、野生の勘か何か? あっ、それからナンシーがレイヴンをライバル視しているとか何それ尊い。本当、この部分テストに出ますから。僕が教師だったら間違いなく出します。まぁそれはさておき、無愛想なジェイコブ先生の一目ぼれが半年早く達成されるとは素晴らしい。ねぇねぇ、リチャード。それってこの前言ってたクマでしょう? ジャックに没収されたまま消えた、お母さんの手紙を隠しているクマ。まさかクマが重要アイテムなんて思ってもいなかった。さて、そろそろ一度言ってみたかった台詞、言っていいかな? 許可なくても言うけど。リチャードになった時からずーっと考えていたんだ。フフフ、ハハハハ……アーーッハハハハ! そうだとも、よくぞ見破った、探偵! 本当は幽霊じゃなくて語り手(ザ・テラー)って呼んでほしいけど、今日はさほど、(テラ)ってないから幽霊でもいいや! ダニエルごめん、通り名ちょっと似てるけど勘弁してほしい! そうとも、幽霊こと、中庭で目撃され、生首事件のきっかけとなった犯人は、このぼ――……)

 

 僕は再び扉を閉める。

 幼虫が蛹となり、孵化するように。蹲っていた彼はいつの間にか立ち上がり、腰に手を当てて笑っている。


 安心して。君、今日ほど(テラ)ってる日も無いから。


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