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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
59/146

59.夢に繋げる。

 

 俺と同じ世界で生きている人達__。

 色んな本で体験談とか読んでたけど……、実際に会ったことはない。

 店のお姉さん達に俺と同じ人はいないんだなぁ。


 赤フチは一枚の紙を見せながら、講演会の内容を説明してくれた。


「無理にとは言わないわ、あなたの自由よ。一応、性同一性障害の研究会のようなものだけど、色んな人が参加しているの」

「先生は参加したことあるんですか?」

「ええ、主人とね。私は医師として出席したんだけど」

「そっかぁ。年齢とかもバラバラなんですか?」

「そうよ。若い人もいるし、年配の方もいらっしゃるわ」

「そっかぁ。話せるような人いるかなぁ?」

「お店の人達のような煌びやかな人ではない、一般であなたと同じ世界で生きている人達に会って話をしてくるのもいいんじゃないかしら?」


 俺と同じ世界の住人かぁ。

 会いたいなぁ。

 会って話してみたいなぁ……。


「俺、行きます。会いに行きます。初対面の人と話せるかどうか分からないけど、行きたいです」

「そう。じゃ行ってらっしゃい。少し遠いけど大丈夫かしら?」


 赤フチはそう言いながら、見せていた紙を俺に渡す。

 う~ん、ちょっと遠いかなぁ。

 でも、行けない距離ではないさ。


「大丈夫です、ここなら何とか行けると思います」

「わかったわ、気をつけてね。また報告待ってるわ」

「はい。ありがとうございます」


 俺は渡された紙を大事にカバンに直した。

 何か、全くわからない世界に行くような気分だ。

 日頃のお姉さん達の賑やかな世界しか知らない俺は、楽しみではあるけれど……チョッピリ緊張してしまうのであった。


 俺は晴華に報告した。


「へ~。そんなのがあるんだぁ」

「うん。先生も参加したって言ってた」

「先生が? 医師として?」

「うん、それもあるけど。先生の旦那さんは俺と同じなんだ」

「えーーーー!!!!」

「わっ! びっくりしたぁ。晴華ぁ、声でかいよぉ。耳が……」


 キーン! 金属音が耳について離れない。

 どうしたんだよぉ。俺、言ってなかったっけ? 

 そうだよな、言ってなかったな。

 にしても、驚き過ぎじゃね?


「だ、旦那さんて、ご主人のことだよね」

「ああ、ご主人様だよ。一応な、先生が奥さんだから。先生は『うちの主人』って言ってた」

「子供さんとかは?」

「いるらしい、女の子が一人」

「うぅわぁーー! すっごい! すっごい! そうなんだぁ。何か、夢あるよねぇ」

「夢? 何の夢だ?」

「だって、家族が作れるんだよぉ! こんな凄い事ってあるぅ?」

「ああ。まぁ、考えようによってはな……」


 赤フチんとこは結婚してからのことだからな……。

 だけど俺は違う。

 夢……かぁ。晴華にはそう思えるのかぁ。


「ね、ね。加州雄、私達にも家族ができるかも知れないね?」


 いっ!?

 は、晴華! 今、何て言った?

 お、俺達の家族? 晴華……、お前分かってんのか?

 今のは……、プ、プ、プロポ……。


「アハ~! 私、プロポーズしちゃったぁ!」

「は、晴華ぁ! な、何言ってんだよぉ」


 おいおい。 また、晴華の宇宙人病が始まったぁ。

 コイツは本当に自分の言っていることが分かってんのかねぇ?

 この天然さが、また可愛いんだけどさぁ。

 ちょっとこの話題は、俺には酷じゃないかぁ?


「前に言ったでしょ? 一度、加州雄のお父さんに会わなきゃねって」

「い、言ったけどさぁ。それは俺の味方してくれてのことだろう?」

「そうよ。私は一生、加州雄の味方だもん」


 普通なら飛び上がるほど嬉しいことなんだろうけど。

 う~ん。何か、追い詰められた感がするのは何故だ? 

 ホント、自分のネガティブさに辟易してしまう……。


「加州雄、私ね。学校の先生になるのやめる」

「え? 何で? 高校の時から決めてたんだろ?」


 おいおい。まさか、『お嫁さんになるぅ』なんて言わないだろうなぁ。

 気持ちは嬉しいけど、もう少し現実ってものを考えてくれよ宇宙人さんよ。

 こっちは深刻なんだよぉ。こんなふうだけど……。

 晴華ぁ、お前の純粋さは時に俺の心を抉る時があるぞぉ。


「難しいかもしれないけど……。私、大学院へ進むわ」

「え? 大学院? まだ勉強するのか? ってか、学校の先生になっても勉強するんだもんな。アハハハ」


 はぁ~、何言ってんだ。俺って情けない……。


「私、この前加州雄の話を聞いていてね。もっと、力になれたらいいなって思ったの。加州雄が抱えてるような悩みを持ってる人って多いじゃない? 形のない病っていうのかな? そんな人達の話を聞いて力になりたいって思ったの。もちろん、加州雄がメインだけどねぇ」

「晴華、そんな事考えたのか?」

「うん。実際、加州雄の今の苦しさとか解らない……。一緒に考えていこうねって言っても知識も何もないんだもの、加州雄が本当に深い深いところに直面してしまったら、今の私じゃオロオロするだけじゃないかなって……」

「そんなことなよ。晴華は俺の気持ちをちゃんと静めてくれたじゃないか。晴華がいてくれたから俺は安心して眠れることができたんだ」

「うふ、嬉しいなぁ。加州雄が私に頼ってくれるなんて……」

「俺の方こそ……晴華で良かったよ」


 きゃ~! 言っちゃったぁ。

 もう、どうしましょう! だってぇ、晴華があんまり刺激的なこと言うからぁ。

 私まで、その気になっちゃうじゃないのぉ。

 ……いかん。いかん。こうやって調子にのっていい方に行った例がないんだから……。

 抑えて、抑えて……うふ♡

 今だけよぉ♡


「私も加州雄で良かった。まぁ、私は加州雄じゃなきゃダメなんだけどね」

「晴華……。どうしたんだよ、俺……胸が痛いよ」

「アハ、ごめん。私、臨床心理士を目指そうと思っているの」

「臨床心理士?」

「うん、その為には大学院に行く必要があるの。大学院修士課程を修了して初めて臨床心理士資格認定試験の受験資格が貰えるの」

「ゲッ! 受験する資格ぅ?」

「そう、受験資格。だからもの凄く勉強しなくっちゃなのよ」

「ああ、そうだろうなぁ。やるのか?」

「うん。頑張ってみる」

「たくさんの人の為に……か」

「そう。加州雄を出発点にしてね」

「晴華……」


 俺は心底凄いなぁって感心したよ。

 夢や目標ってのは色んなところに転がってるもんなんだ。

 たった一人のいじけた俺に手を差し伸べる為に考えて、繋げたことが多くの人悩みを聞いていきたいなんて……。


 そんな簡単に繋げられるものなのか?

 大学院にまで行って、修士課程?

 凄いよ、晴華。大した女傑だよ。

 ジャンヌ・ダルクのようだ。


 俺はずっと、夢なんかないって言ってきた。

 本当は探してなんかいなかったんだ。

 自分に繋げるように目を見開いていなかったんだ。

 前に進みたいなんて言って……。

 ほら、よく言うだろ? アクセルを踏みながらブレーキを踏んでるってやつだな。


『私達も家族が作れるかも知れない……』


 それはどうか……分からない。

 それを夢にするのもいいかも知れない。儚い夢……。

 ああ! 俺って暗いよなぁ。

 晴華が“春” だったら、俺は“冬”だな。

 アハハハ、晴華がいつも俺を"春“にしてくれる。


 俺も、自分で春を探しに行こう。

 俺の、俺自身の足で……。



 俺は、赤フチに貰った紙を頼りに講習会へ参加すべく会場に向かった。

 大きなクリニックのビルの中にある部屋の一室だ。


「ようこそ。参加の方ですか?」

「あ、はい」

「こちらにお名前とご住所を……」


 俺は受付に立っていた……。女性? にペンを渡され、言われるがままに記入した。

 受付のテーブルには色々な本が置いてある。


 ああ、購入できるんだ。

 難しそうな本だなぁ、帰りに見てみよう。


 名前を記入して顔を上げると、


「部屋へお入りください。もうすぐ始まりますよ」


 受付の女性? が微笑んで案内してくれた。


「ありがとうございます」


 うわぁ、緊張するなぁ。


 俺は部屋の中を見て……。

 椅子に座っているのは2~30人くらいかな?

 白衣の人もいる……医師だな。


 ん? ん? うそだろ? 待ってくれよ!


 俺は、一人の女性? と、目が合った。


 その瞬間、俺は言葉を失った。




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