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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
43/146

43.Nice Guy

 人として……。


 俺は人じゃなかったと言うのか? 彩。

 俺だって苦しんださ。

 晴華が俺のこと大好きだって言ってくれた。

 だけど、大手を上げて喜んでられないじゃないか。

 どうしろって言うんだよぉ。




「お疲れさまぁ~。まひるぅ、お花ありがとね~」

「はぁい、お疲れさまですぅ。気をつけてぇ」


 俺は母ちゃんへの花束を抱えて、店を出た。


「ちょっと、欲張ったかな? まぁ、いっかぁ。母ちゃん喜ぶぞぉ」


 前が見えないくらいに抱えた花束を下ろすと、電車の座席は花で埋もれてしまった。

 最終だからいいよな。人も少ないしさ。

 ポケットから携帯を出して、ゲームを始める。

 しばらくすると、人の気配が……。

 顔を上げると、俺の前に彩が立っていた。


「わ! ビックリしたぁ~! 何やってんだよ。お前、まだウロウロしてたのか?」

「別に……。ちょっとお腹空いたから、晴華とラーメン食べてただけよ」

「は、晴華も? こんな遅くまで何やってんだよ」

「はっ。私も晴華も、とっくに二十歳よ。ほっといてよ」

「お前はいいよ。晴華だよ」

「いい気なもんね。自分なんかずっとほったらかしにしてたクせに、よく言うわ」

「う、うるせぇ!」


 彩は呆れた顔をしながら俺の隣に座り、携帯ゲームを始めた。

 俺も自分の携帯に視線を戻しゲームの続きをする。

 俺たちは駅に着くまで何も話さず、ゲームに夢中になった。


「花。持とうか?」

「ああ。サンキュ。お前、いらないのか? 少し持って帰れよ」

「う……ん。ありがと」


 何か言いたそうな顔してるよなぁ。

 分かったよぉ。俺が悪かった。


「そんな目でみるなよ。俺が悪かったって」

「そんな事じゃないって、晴華に言わないの?」

「……」


 言わないんじゃなくて、言えないんだよ。


「言っても言わなくても、結果は変わらないじゃん」

「何の結果よ」

「どっちにしたって、晴華とはずっと一緒になんかいられないってことさ」

「そんなの、分かんないじゃない。じゃ、何? どうせ、一緒にいられないから何も言わないってこと?このまま知らん顔してるってこと? そんなの、アンタのエゴじゃん。一緒にいれないなんて、わからないじゃないの」

「うるさい! 分かってるよ! でも、どしょうもうないんだよ。俺といたって晴華には何もいいことないんだから。この先、晴華を守ってやるとか……できないんだよ。お前にわかんのかよ。俺のそんな気持ちが!」

「そんな事わかってる。だけど、晴華の気持ちはどうなるのよ。なんにも知らないんだよ。なんにもわからないまま。あんたが遠ざかっていくんだよ。晴華がどんなに辛いかわからないの?」


 分かってるさ。

 今日の晴華の……、元気そうに振舞ってたけど、俺の顔色を伺うような眼差し。

 俺は、自分がやってきたことを後悔したよ。もの凄く、辛かったよ。

 でも、俺にはそれしか考えられなかったんだよ。


「分かるよ。俺だって辛いんだから……」

「アンタ。好きな人の気持ちより自分を優先させる気? ちゃんと話して、それで晴華が離れて行くなら、それが晴華の選択じゃない。そりゃアンタは辛いかもしれない、苦しいかもしれない、悲しいかもしれない。でも、相手に選択の余地を当たえずに無視し続けるなんて卑怯よ」

「別に、無視してる訳じゃないだろぉ。少し距離をおいてだな……」


 もう少し……、時間が欲しいんだよぉ。


「晴華なら分かってくれるわよ。受け入れてくれるわよ」

「分かってるよそんな事、だから嫌なんじゃないか。何が嬉しくて大好きな子を、ただの理解者にしておかなきゃなんないんだ? 傍にいて、他の男のものになっていくのを指を銜えて見てろってのかよ。嫌だ。俺はそんなのっ、絶対いやだ!」

「アンタ何様のつもりなの! そんなの、ただの女々しい男だわ。女だったら覚悟決めなさいよ!」

「ああ! 俺は女だよ。身体は男だけどな! 生まれ変ったら、絶対女になれるってんなら。今すぐ、ここで迷うこと無く死んでやるよ!」

「な……、バカぁ! 何て事いうのよ! アンタってそこまで、頭悪かったの!」

「でもそんなことしたら、晴華が悲しむし……会えなくなってしまう。でも、生きてて女の身体になろうとしても、晴華が離れていくんだ。結局、俺はどっちも選べないんだよ。選びたくないんだよ!」

「か~ず~お~。アンタいい加減にしなさいよ、しまいには殴るよ!」


 彩が、勢いよく拳を振り上げる。

 俺は、咄嗟に身構えた。


「痛ったぁ~!!」


 コイツ……蹴りやがった。


「お、お前! 卑怯だぞ! 何で腕を振り上げといて、足で蹴るんだよ!」

「うるさい! アンタが隙だらけなのよ!」


 彩はそう吐き捨てると、自分の分の花を拾い上げてさっさと家へ帰って行った。


 くっそ~!! やっぱり、お前なんか大っ嫌いだぁ!!!


 俺は足を引きずりながら、家へ帰った。


「ただいまぁ~。母ちゃん! 花、持って帰ってきたぁ」

「まあ! こんなにぃ~。どうしたんだい?」

「俺の誕生日に送られてきたんだ。この10倍はあるぜ。店にもまだ飾ってあるし、お姉さん達にもみんな分けてあげた」

「カズ兄すご~い。人気あるんだねぇ」

「まぁな。お前の部屋にも飾ってもらえよ」

「うん。お母ちゃん、麻由のもぉ~」


 母ちゃんは俺から花束を受け取ると、とても嬉しそうに風呂場へ持って行き。

 一本、一本、丁寧に水切りを始めていた。


 俺は、部屋に入るなりベッドに転がった。

 イライラする……。彩の奴……。

 だけど、アイツが正しい。

 だから無性に腹が立つんだ。

 くそっ!


 翌日、俺は晴華に電話した。

 来てくれたお礼と、今までのことを謝った。

 理由はまだ言えないが、必ず話すことを約束して電話を切った。

 晴華は、少し不安そうな声で「待ってる」って言ってくれた。


 腹を括る時が来たんだ。

 赤フチには、晴華にカミングアウトしてから会いに行こう。

 それが順序ってもん、かも知れない。

 そして、とりあえず金だ。



「まひる~。ヒロさんの席についてくれるぅ」

「はぁ~い」


 俺はママに言われて、ヒロさんというお客の席についた。

 凛さんのヘルプだ。


「いらっしゃいませぇ。お久しぶりですぅ」

「ほんと。久しぶりだな、まひる。お前を席に呼ぶのに、随分待たされたよ」

「やだぁ。ヒロさんはお姉さん達にしか、お相手できないですぅ。私なんかぁ」

「そんなことないぞぉ。俺は、いつも遠くからまひるを見てるんだから」

「うまいこと言っちゃってぇ。ヒロさんに言われると本気にしたくなりますよ」

「おいおい、俺は本気だぞ」

「はいはい。光栄の行ったり来たりですぅ」

「ちぇ~。ママぁ、振られてしまったよぉ」

「うふふ。さすがのヒロさんもお手上げね」

「まったくだ。アハハハハ」


 ヒロさんは外資系の会社の偉い人らしい。

 はっきりは知らないけど、マネージャの佐々木さんの紹介で店に来た。


 佐々木さんは、今でこそ黒服を着ているが……。

 昔は、俺たちと同じ女装の麗人だったそうだ。

 ママの古くからの知り合いで、彼はゲイだ。


 年は60歳を越えてると聞いたが、そんなこと微塵も感じさせないくらい。

 紳士で、カッコイイ。最高の執事って感じだ。

 ほとんどのボーイ達が、佐々木さんのようになりたいと口を揃える。


 ヒロさんは、かっこいい! 文句なしのナイス-ガイだ。

 年齢は……。45~6って、とこかな? いい感じな、年だよなぁ。

 イケメンでスマートで……、店のお姉さん達はヒロさんが来ると浮き足立つんだ。

 皆が、ヒロさんのテーブルに付きたがる。


 俺でも、もし女の身体だったら一度くらいは抱かれてみてもいいなぁ、なんて思える人だ。

 グラスを持つ仕草や、タバコの吸い方、物腰の柔らかい話し方、声のトーン。

 完璧だぜぇ。こんな人いるんだよなぁ~。

 彩なんか即、卒倒もんだろうな。

 だから。当然、晴華には会わせられない。うん。


 ヒロさんは単身赴任で日本に来ている。奥さんと子供はアメリカって言ってたかな?

 会社でも、モテモテなんだろうなぁ。


「え~! 帰っちゃうんですかぁ?」


 凜さんが急に大声を出した。

 どうも、ヒロさんの単身赴任が終わるようだ。

 お姉さん達の顔が沈んでいく。分かり易い人達だ。


「と言っても、あと一ヶ月半だ。まだまだ、ここには遊びに来るよ」

「ほんとよぉ。来てねぇ。待ってるからぁ」


 凜さんが、ヒロさんの腕にしがみついている。まるで、駄々っ子だ。

 でも、こういうとこ可愛いよな。


 女が恋すると、少女になる。

 普段、ツンツンの凜さんが、デレ期に入った。


「まひる。誕生日だったんだって?」


 ヒロさんが、俺を見て優しく微笑む。


「ええ。やっと二十歳になったのよ」

「そっかぁ。酒は飲める方なのか?」

「そんなに強くはないと思うけど……。どうかなぁ?」

「よし。今度、食事をご馳走しよう。誕生日祝いだ」

「え~。マジですかぁ? 嬉しい!」

 

 え? 食事? それって……。

 ちょっと、ヤバ……。


 案の定、凜さんの刺すような眼差しが俺に向けられた。

 ガチ怖いっす。凜さん……。

 み、見ないでぇ!

 


「ヒロさん。この子は……」

「わかってるよ、ママ。大丈夫、心配しなくていいって」

「え、ええ……」


 なんのこと? 何を心配するんだ?


「よし! 決まり! まひる、服を買ってやろう!」


「え~! ほんとぉ! 約束ですよぉ!」


「ああ、約束だ。その服を着て、俺とデートしてくれよな」



「やった~! ラッキー!!」



 と言って、素直に喜ぶ俺は……。





 これが、禁断の扉だとは知らなかった__。



 

 

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