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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
22/146

22.本当の俺へ。

 Bon!!


 俺の心臓が……破裂した__。


 俺はベッドの上で、背中を真っ直ぐ伸ばしたまま後ろに倒れた__。


 い……ま。な……んて、言っ……た?

 晴華?……。


 慰めるってのを、もひとつ掴めていない。別に俺は冷たい人間じゃないぞ……の筈だ。

 今まで、そんな場面に出会ったことがないってことだ。

 経験がないんだ。人を慰めるって……経験が。

 慰めて貰ったことはあるけど……子供の頃に。

 それとこれとは違うだろ? 


 晴華が、俺の為に泣いてるんだぞ。

 だからだな、大好きだから許すとか、腹が立たなかったとか、そんな感じでフォローしようっと思って言ったんだ。

 いや、実際に好きだぞ。大好きだぞ。


 何だか、泣いてる女の子に付け込んで告白した感があったが……咄嗟に、この方法しか思いつかなかったんだよぉ。

 この言葉しか思いつかなかったんだよ。いつも俺の心の中にある言葉なんだよぉ。

 下心なんてなかったんだよぉ。


 えっ? あっ? で?……。


 “……加州雄が大好きなの”


 ドガーーン!!


 思い出すと。また、爆弾が落ちてきた……。


 そうだ! 今だ! 言うんだ! 付き合ってくださいって! 今しかない!

 晴華の大好きの意味を履き違えてるか? 

 いやそんな感じはしない、この感じは繋がってる。 

 通じている! まさしく、落花流水。

 よし! 言うぞ!


 あっ……。

 落花流水……自然なままに、男女の心が通じること。


 俺……女じゃん。っていうか、自分の事分かってねぇじゃん。

 言えね……か。


 じゃ、じゃあ。もしかして、もかしてだけど……晴華から『付き合って』なんて言われても、俺は断るのか? 断らなきゃダメなのか?


 うっ……。

 そうなったら、その時に……考えよう。うん。ナハ。


『晴華? 大丈夫か?』

『……うん。ごめん……。取り乱しちゃって……私』

『あっ、晴華。お、俺……』

『うん。ありがとう、加州雄。慰めてくれたんだよね。嬉しい……』

『い、いや……お、俺』


 馬鹿! 何言おうとしてんだ俺! やめろって! 責任取れんのか! 

 とにかく今はやめろ! 言うんじゃない!

 くっ……。


『お、落ち着いたか?』

『うん……。もう大丈夫。驚かせたね』

『あ、あぁ。……なぁ、晴華』

『なぁに?』

『もう、忘れろよ』

『……うん、忘れる。そして、絶対二度とあんな事しない』

『あぁ。そうだな。誰に対してもな』

『そうだね。誰にでも……だね』


 純粋な子だなぁ。良かった、落ち着いたみたいだ。

 晴華からの告白はなかったが……。

 いいさ。いいもん。大丈夫だもん。クスン……。


 その後、俺のバイトの日とか、晴華の都合とかを言い合ってデートの約束をして電話を切った。

 よし! これでいい。


 俺はベッドに寝転んで天井を見上げながら、昔の事を思い出した__。



 中学3年で同じクラスになった。晴華は、俺のど真ん中だった。


 いや~! いたよぉ。待ってたよぉ。

 遂に、俺の青春が始まったぞぉ~! なんて、喜んでた。


 それまでの自分への疑惑が吹っ飛んだんだ。

 一目惚れだ。

 こんな事言っちゃ何だが、彩が親友ってのも俺にとってはラッキーだと思ったくらいだ。


 彩は俺の幼馴染。

 母ちゃん達が仲良くて、結構いつも一緒にいた。

 近所に住んでた事もあって、やれ習い事だ、やれ塾だと同じ所に行かされてさ。


 それよりも前から近所で遊ぶ時は必ず彩がいた。アイツはガキ大将みたいなもんだ。

 近所には女子しかいなかったもんな。ママゴト遊び……ばっか。

 俺はいつもお父さん役か、赤ちゃん役。

 それも、彩がお母さんになりたい時は、お父さん役。お姉さん役か看護師さんになりたい時は赤ちゃん役なんだ。


 あー! この話はやめだ。勝手に想像してくれ。多分想像がつく筈だからな。

 同い年の女の子に好いように弄られるのって、最悪だぞ。……わかるだろ? 

 頼む! そこんとこわかってくれよな。


 で、彩って奴は変な奴でさ。人の反応を見て楽しむ癖があるんだ。

 小学校の時、塾の帰りだったんだけど。俺たちお互い自転車に乗ってたんだ。

 彩は歌を歌いながら、調子良く走ってた。そんな奴いるよな。

 俺だってたまに歌いながら走る時あるよ。


 でさ、しばらく走ってると前の交差点の信号が赤になったんだ。

 まっ、大概の奴は交差点に到着すると声を潜めるか、歌うのをやめるだろ?

 でも、彩は更にでっかい声で歌うんだ。交差点にいる周りの人は驚いて身体を、ビクッ! ってさせるんだ。

 俺だって、ビクッリするさ。

 だけど、彩はそれを見て笑ってるんだ。

 小さな声で、『あはは。ビックリしてやんの』とか言って。

 変だろ?


 中学になって自分で作ったって、服を着て。一度、見せに着たときがあった。

 俺的には、おいおい……って感じだったけど。

 本人は、すっごく嬉しそうで、そんな彩が羨ましくもあったな。正直。


 今、思えば自分の世界を楽しくする事に、努力を惜しまない奴だった。可愛い顔して、どんな事でもやってのける。自分をネタにする事なんか全然平気。恥ずかしくないのか?って聞いても

『全然!』って、キッパリ言い切るんだ。つぇ~奴だよ。


 彩には、『加州雄、女の子みたい!』って、よく言われた。いつも怒ってたな……俺には。

 だから、苦手だった。

 俺が学校で遊ぶのは、基本男友達だから小学校の高学年にもなるとお互い離れていった。


 で、中3で同じクラスになった時。アイツは晴華の横にいたんだ。俺は、


『よぉ! 彩じゃん。1年間よろしくな!』


 なんて、調子のいい事言いに行った。

 そうしたら、アイツ


『あ~ら、変態カズオ。今日はヘヤピンついてないじゃん』


 って、言いやがった。

 まぁ、俺も自業自得なんだけど。そんなに有名だったのかって凹んだよ。

 その時は、


『うるせーよ!』


 って、強がって見せたけど。内心、恥ずかしくて……。

 それからは、晴華を遠巻きで眺めるだけになってしまったんだ。


 だから夏のキャンプで、晴華と同じ班になった時は嬉しかったねぇ。

 一緒に水汲みに行ったり、飯を炊いたり、楽しかった。

 俺は、犬のように着いて回ってた。


 食べ終わった食器洗ってると晴華が、


『吉村君の手。綺麗ね』


 って、言ってくれたんだ。

 俺はその時、微妙なとこに(変態かどうか……)いたから、綺麗って言葉に敏感だったんだ。

 嬉しかったよ。誰に言われるより嬉しかった。でも、


『そうか? 女みたいって、よく言われるんだ』


 って、嫌なふりした。晴華は、


『そう? 私は、羨ましいな。吉村君の手を見たら私の手、見せれなくなる』


 って言って自分の手を後ろに隠したんだ。

 その仕草が可愛くて、もっと好きになった。

 その後、色々話してる時に、


『カズオでいいよ』


 って、俺から言ったんだ。

 俺、小さい頃から加州雄って名前が大っきらいでさ……。

 だけど晴華が、『加州雄』って呼んでくれてからはマシになった。好きにはなれなかったな。

 今でもだ。

 名前を替えたいっていつも思う……。そもそも、何で嫌なのか?

 ○○雄ってのが気に入らない。兄貴は正和。まるで、しりとりゲームだ。

 マサカズ→カズオ。絶対、ふざけてるよなぁ。



 はぁ~。言えなかったなぁ。『付き合ってくれ』って……。

 絶対、チャンスだったよなぁ~。


 ああぁ! ダメだ、ダメだ。まず、俺だ!

 でもこのままいけば、結局は話すことになるんだよな。


 カミングアウト。


 晴華に? マジで? そんな勇気ねぇよ……。


 その時、いきなり閃くものがあった__。

 なぜか、縁の赤い眼鏡が頭の中に浮かんだ。


 あの……脇毛の女医(せんせい)

 俺に、興味持ってなかったか? 俺の体毛に……。

 背筋が寒くなった……あの、眼光。

 確かに、あの時キラリと光った物を見た。間違いない。


 予約は2週間後だが……近いうちに行ってみよう。


 もしかしたら……。


 俺は、本当の俺に会えるかも知れない。


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