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ロイ・マクエル受難の日々㊺

第3部完結。


        第67話



    「ロイ・マクエルの受難」







 大戟おおげきをゆっくりと構え直すとオーカさんは周囲に鋭い視線を飛ばしていた。そうやって周りを牽制けんせいしながら呼吸を整えているのだろう。同時に今しがた払い飛ばしたリンネの挙動も視界に入れている。


 一方いっぽうで大戟で強引に飛ばされたかに見えたリンネの方も、おそらく自分から後方に跳んでいる。そうすることですんでのところで戟をかわし距離をとったのだ。そのまま戟の範囲外に間合いを保ちながらいつの間にか自分の得物えものである両手剣を抜いている。


 リンネは両手剣を持つ両手をダラリと下げ、自然体で立っている。挑発にも見えるがあれは機敏に動ける構えだ。それにオーカさんの鋭い眼光がんこう平然へいぜんと受け流していた。


 どちらもかなりの武芸を修めた武人である。そう感じるのは僕、ロイ・マクエルだけではない筈だ。きっと誰の目にも明らかだ。


 しばらく続いた沈黙を破るように、リンネがオーカさんに問いかけた。



「はて。一体どなた様かは存じませんが、お生憎様でございます。私はハウンズ家の執事を務めさせて頂いておりますリンネと申します」


「ハウンズ家の執事だと……貴様がか? 黒弾アルト、それは本当の話か?」


 やや遅れぎみで幕舎裏に現れたサラさんに、オーカさんが問いかける。


「……ああ本当だ。しかしリンネがまさかこの陣に来ていたとは驚いた。見たところ、マーガレッタ様の付き添いか?」


「はい。そのとおりですサラさん。私の主人マリアンヌ様の希望で、ハウンズ家護衛の皆さんと一緒に、ハモン様マーガレッタ様を箔山にお連れしました。この陣に来たのはマーガレッタ様の個人的な要請からです」






「……なるほど。……そうか、そうゆう事か。マリアンヌ様は箔山側が敗北した時に備え、我々ハウンズの者を逃がす為に箔山までハウンズの精鋭を寄越していたのか」


 改めてアルト・サラは感心した。ハウンズの長女ルイ・マリアンヌ様の元には、この戦のおおよその情報しかいっていない筈だ。それなのに最悪の状況をも想定して退路の確保に動いていたのだろう。


 ハモン様とマーガレッタ様を派遣したのもその為だ。もし箔山軍と我らハウンズ家がいくさに敗れて敗残はいざんで西側の何処どこにに落ちのびても二人が付いていれば西側諸国が必ず保護する。


 あのお二人はわかいながらも西側の経済交流に尽力していて、もはや名士として西側諸国において名も、顔も、知られた存在だ。この人選はマリアンヌ様の慧眼けいがんだ。


 ……しかし、想定外なのはマーガレッタ様とリンネがこの陣に来た事だろう。最悪のタイミングだ。


「そうゆう事よ、サラ。いくさが無事終わったならば早く皆で帰りましょう。ハウンズ家でもきっと祝勝会が開かれるわ。こんな野っぱらでの宴なんかよりも、ずっと豪勢ごうせいなパーティが!……って、ちょ、ちょっと! 聞いてるの!?」


 リンネと私の話に割って入ったマーガレッタ様は最初の内は明るく話し始めていた。しかしマーガレッタ様の話をまったく聞く素振そぶりのないトウ・オーカの姿に、次第に苛立ちを高めていた。


 それもその筈、トウ・オーカはマーガレッタ様などそっちのけで、ひたすらロイ様にくっつき、甲斐甲斐しく世話を焼いているからだ。






「………本当に大丈夫かロイ。身体中から葡萄ぶどうかおりがする。ひょっとしたらなにか危険な毒物でも飲まされたのか?」


「あ、うん。大丈夫だよオーカさん。ワインを被っただけなんだって。むしろさっきの大戟おおげき一閃いっせんほうがはるかにビビったよ。あれもう美女が不細工を殺人事件だよ。犯人はヤ○だよ」


「あう、す、済まない。お前におんなが……ウゥン! 危険がせまっているかとあせってしまった」


 オーカさんは僕の肩に手を置いて、本当に心配そうな顔を浮かべていた。これじゃなんだか逆に申し訳ない気持ちになる。僕はワインをかぶっただけで特に身体は何ともない。むしろワインを被った事により1%ぐらいは匂い差分でいい男になっているまであるかもしれない。


 いつもの燃えるような赤いひとみは影をひそめ、今は弱々しく揺れていた。オーカさんは本心から心配してくれている。


 え? 何故わかるのかって? ちょっと見て下さい。あの潔癖症気味のオーカさんとは思えない程、僕に近づいてるんです! 二人は只今ゼロ距離です。キュワキュワプリプリです。今にも鼻と鼻が触れそうです。ここからは大人の時間です。



『フォンフォンフォン』『カッ』



 ゼロ距離で言葉をわす僕とオーカさんの前に一人ひとりの女性が歩み出た。


 リンネはその場を女性にゆずるように横にひかえると両手剣を鞘に収めた。女性は更に一歩踏み出すと、怜悧れいりてつくような冷たい声を上げた。



「『スタンピ・バーバリー』は私よ。貴女あなたこそだれ? れしくロイくんに触れないで頂戴。けがらわしい」


 スタンピ・バーバリーさん。怖い。超が付くほどバリ怒っている。表情こそ静かだけど瞳からは憤怒の炎が上がって見える。バーバリーさんは自己紹介を言う前から、こちらに見せつける様に得物えもの龍戟りゅうげきを頭上で振り回していた。今はすきのない万全ばんぜんの構え、はす構えだった。


 ……強く、なっている。今の龍戟捌きは見事だった。怒りに気持ちや技が左右されていない。戟先は異常なほどに()()()()()


 ついさっき、マーガレッタ姉さまに見せた遊びでの威嚇いかくとはまるで違う。本気の殺意がバーバリーさんの身体から発せられていた。


 今のバーバリーさんは……、オーカさん以上かもしれない。僕は思わず唾を飲んだ。


「……ほう。お前か、ロイ・マクエルにおかしなモノを飲ませたのは? 何を目論もくろんでいたかは聞かんが、この大戟のびになりたくなければこのじんからね」


「面白い冗談ね。貴女あなたこそ、いつまでロイくんにへばり付くお積もりなんです? 今すぐこの場から去らないのであれば……おわかり?」


 オーカさんとバーバリーさんはどちらも引く様子はない。黙して何も語らないけどリンネとマーガレッタ姉さまもこのあらそいに口を出す素振そぶりはない。マジか。世界の中心で愛を、いや平和をさけびたい。誰か! この世紀末を止めてくれ! YouはShock!







「……おいブザイク。これは一体どうゆうことなんだ? 何がどうなってお前みたいな顔面ウジ虫男をあの女たちがあらそっているの、んだ」


 さっき幕舎裏に来た失礼な餓鬼がきが話しかけてきた。なんなんだコイツは? ナチュラルに人を侮辱するのが趣味なのか? こっちは緊急事態だってのに餓鬼んちょの相手はしてられない。


「どうもこうも、僕が余りに情けない男だから、みんな気に掛けてくる。それはうれしいんだけど、正直余り僕にはかかわって欲しくないんだ。だからお前もあっちいけ」


「情けないのは違いないな。今もアタフタしているだけだし。でも関わって欲しくないってなんだ? 沢山の綺麗な女性から気に掛けて貰えたなら、うれしいじゃないか? 男ってそうゆうものでしょ、だろ」


 失礼餓鬼はキョトンとした顔で問い直してきた。ゆとりか。なんでも答えがあると思うなよ? しかもコイツ、よく見るとかなりのイケメンだ。僕とほぼ同じ身長だから年も近いだろう。服装からみてもエグルストンのエリート少年兵ってところだ。イケメンエリートで神経毒舌しんけいどくぜつとか、久しぶりにいらつくのが出て来たな。乙女○ーの世界に帰れ。


あわれみとか同情から寄せられる好意なんて欲しい訳じゃない。ましてやいくさ最中さなかばし効果で得た好意なんて偽物なのさ。それってわかるかイケメン少年兵? そもそもブザイクコミュ障なんかが女性にモテる訳がないんだからな。自明の理さ」


 違う。


「………………ほーー、あきれたな。お前って自分の事をそうゆうふうに理解しているのか? 自分差別かよ。何処どこまでひねくれたモノの見方してるんだ? そんな狭い了見りょうけんじゃあの娘たちも救われないね。あれはガチでマジにお前にれているぞ。いっそのことお前は死んだ方がいんじゃね?」


「結論を死ぬ方にもっていくな! だいたいお前みたいなイケメンに、ブザメンの苦悩がわかるのかよ。顔のいい奴なんざ僕からしてみればまるで別世界の人間なんだ。そんな奴等やつらは綺麗な世界で理想的な人生を見つけて好きに生きてりゃいいんだ。なんで僕にからんでくるんだ」


 違う。


要領ようりょうないな。つまり何が言いたいんだ?『あの綺麗な女性たちの愛情には応えられない。だからここから消えろ』ってそう言いたいのか? つまらないな。今のお前はモテモテハーレムじゃないか。来る者拒まずで全員受け入れちゃえよ? リアル酒池肉林だ」


 このイケメン餓鬼。なんでこんなにあおるんだ? こっちは平和的に解決をしたいんだ。酒池肉林とかオーカさんにはNGワードだろうが!


「ハーレムなんてくそだな。あんなことしていても何もうれしさを感じない。何度もいうが僕はコミュ障なんだ。それにぼっち体質だ。人と絡むのが苦手なんだよ! それに、」


 違う。


「それに? なんだいロイ・マクエル? 君は一体何を望んでいるんだ? 面白いから教えてくれよ。口数が多いのはなんでだい? 何か隠そうとしてるんじゃ……!?」


 僕が原因でいがみ合う姿なんかは見たくないんだ!



「言ってやらあ!僕は女より男の子が大好きなんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」



 僕はそうさけぶとこのクソにくたらしいイケメン少年を抱き寄せて思いっきりくちびるにキスをした。意外とやわらかだった。


【コミュ障ブザイクひきこもり】それに加えてロリショタ好きの変態腐男子。完璧なる殺人コンボが決まる。もはや正常な女性の入り込む余地はない。何とか唇をはずそうとする少年を無理矢理押さえ込んて舌まで絡める。こうなったら死なばもろともだ。絡んで来たことを後悔してトラウマにでもなりやがれ!


 ここに腐った愛の貴公子、腐死鳥ロイ・マクエルが降臨した。そしてやっぱり涙が出た。



 これで、このいがみ合いは終わる。彼女たちもあきてて目をますんだ。自分の目がくもっていたんだと。傷つくことも最小限なはずだ。それでいい。だってそれは正しい事なんだから。僕に向けてくれたその愛は、泡沫うたかたの夢の中にしかなかったのだから。




 



 いつかいくさのなくなった平和な世界で。




 素敵な新しい出会いがあり。




 その素晴らしい男性と笑顔で過ごす。



 

 そんな女性の幸せをつかんで欲しい。



 

 そんな事こそが僕のねがいなんです。















 この少年にキッス事件のあと、僕はたった一人で迷いの森に戻った。それから森で過ごした3年間、誰も、森を、僕を、おとずれる事はなかった。





 あの【近衛騎士団】招待の封書がくるまでは。






最後までお読み頂き有難う御座いました。


長過ぎる第3部がこれにて完結です。

此処までお付き合い頂いた読者の皆様、

本当にありがとう御座います。


次回以降のお話に関してはちょっと

事情がありまして少し空きます。


事情は近い内にお知らせさせて頂きます。

それまで少しお待ち下さい。


しばらく空きますが、ブクマ、☆評価、

いいね、などは是非宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 返信有り難うございます。今回あまりにもロイくんの斜め上の行動で始めて感想を書いてしもた。更新気長に待ってます。
[良い点] あの女傑達が簡単に諦めるとは思えない。ロイが結婚出来る歳まで待っていて抜けがけするため居場所調べてお仕掛けてきそう。 [気になる点] あの時のイケメンが第二皇女だとロイはいつ気づくのかな?…
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