ロイ・マクエル受難の日々㉜【挿絵余談】
サブタイトル通り余談です。
戦前の箔山で極秘の会合がありました。
夢工房の面々です。果たしてその目的とは?
第54話
「ロイと夢工房ふたたび」
奇妙な形の白い面を被った小男が一人、村の中を足早に歩いていた。しかし時折足を止めては周囲を見回している。挙動は完全に不審者だが特に咎める者はいない。というのも今は夜なので、出歩いている人じたいがほとんど居ないからである。
ここは中央6カ国の北部に位置する箔山の山中。小男の居るこの村は箔山の中でも一番大きな村である。時刻は既に真夜中で、夜の帳が箔山を覆っていた。
村中の者たちは寝静まり、煌めく星空が山中を照らしてはいたが、木々が多い事もあり村全体が薄闇に身を隠しているようにも見えた。
つい先ほどまでこの村では、村の中央にある公民館でハウンズ家や中央ギルドの面々を迎え入れて【トウ・ユーナを囮にしたユークリッド王の討伐作戦】の会議が夜半まで行われていた。
だが今は既に解散し、明日から始まる戦の準備に備えて数人の見張りを残して皆が家路についていた。
そんな静まり返った村の中を、口先がななめ上に向いた白面を被った小男が一人で歩いている。
小男は名を【ヒョットコ恋丸】と云った。
何を隠そうロイ・マクエルの転生した姿である。どうゆう理屈かは分からないが、見張りに発見されることもなく目的地であろう小屋の前にたどり着いていた。
恋丸は扉の前でボソリと呟いた。
「・・・・平和を導くのは」
「「「・・・真実の愛」」」
赤面するような合い言葉が平然と交わされると、扉が静かに開いた。恋丸は滑り込むように小屋に入ると後ろ手に小屋の鍵をしめる。
恋丸の前には3人の奇妙な人物たちが四角い机を取り囲む様に座っていた。3人の目は今しがた入って来た、恋丸に集中する。
顔から黒い頭巾を被った男が机をはさんで恋丸の正面の椅子に腰掛けていた。黒いオーラを身に纏い、さながら【闇の大元締め】と云った雰囲気を醸し出している。その元締めが恋丸に向けて最初に口を開いた。
「・・・さっそくだが用件を聞こう、恋丸。先ほどの会議中に密かに渡された『今夜2時に要相談有り。集うべし』との手紙が括ってあった小剣は、恋丸のもので相違はないか?」
「え〜っと、その声はじいちゃんなの? あ、いや元締め・・・とでも呼べば良いのかな? 何故そんな格好を?」
「私から説明しよう、同志恋丸」
元締めの右手側の椅子に腰掛けていた男。【紳士仮面】がスッと立ち上がる。元締めの頭巾についての説明をしてくれるようだ。仮面の紳士の所作には隙がなく、決して戦いたくない相手である。
「新しい同志恋丸を迎えるにあたり、少しでも馴染んで貰おうとの元締めの気遣いから夢工房では素顔で恋丸と接していたでゴザル。この黒衣の姿こそが元締めの真の姿でゴザルよ」
紳士仮面の説明で納得する。なるほど、確かに初っ端から全員覆面では気が休まらない。いや、休まらないどころかストレスがハンパない。パないの!である。なんだかドーナツが食べたくなる不思議。
・・・そ、それにしてもあの狂気な状況ですら、まだ配慮があったという事なのか。空恐ろしい世界だ。まさに魔界。ゴクリと唾を飲み込む。
「改めて聞こう恋丸。小剣は恋丸のもので相違はないか? だとしたら用件はなにか?」
「相違はありません。小剣は私のモノで、私からみんなに今夜の集いを申し出ました」
恋丸は力強く頷く。朝になれば此処にいる4人のマスクメン達は解散し、再び集うのは2年後になる。そうなる前にみんなに是非見て欲しい物がある。特にじいちゃ、元締めには此れを託したいと思っている。
「ほう。新参者でありながら我ら竜騎しゅ、3人のキューピット隊に呼び出しをかけるとは。どうやらよほどの案件であるとみた。世界を燃やし尽くす日でもきたのですかな?デュフフフ」
元締めの左手側の椅子に腰かけたマスク・ド・ドリーマーが鼻息も荒く、いきなり羽の生えたモンスターみたいな事を言い出した。あなた此処に集まる前に、勇者の少年が成長していく大冒険を読んで来てますよね。やたらと手の甲ばかり見てるけど紋章とか浮き出てくるわけないですからね。
「コラコラ。燃やし尽くしたら平和も糞もないですよ、マスク・ド・ドリーマー。愛と平和の使者である我らの存在意義を叩き壊さないで欲しいでゴザル」
元締めの右手側、つまりマスク・ド・ドリーマーの対面の椅子に腰掛けた紳士仮面がすかさず突っ込む。的確なツッコミだ。有り難い。これでようやく脱線せずに話を進められる。コホンと一度 咳払いして懐からあるブツを取り出し、机に置いた。
3人それぞれがソレを覗き込み、感嘆とも矯声とも取れる声が上がった。
「ええっと、その、【美少女㊙大年鑑】を製作中にだね、神絵師の絵とか【P】の書いた美しい文章とか、そんなのを見たり読んだりしている内に、なんかほら、こんな絵や文章が書けたらいいなぁ~~って思ったんだ。そんでもって熱いパトスの赴くままに4ページ程の挿絵付き小説を書いてみました」
恋丸がテレテレと差し出した小冊子は4ページ程の手作りの本だった。淡い恋の物語が表紙絵、挿絵付きで描かれていた。3人は5分程で物語を読み終えると表紙や挿絵を見ながら唸っていた。
「これを恋丸が書いたのかい。お話も絵も?」
「あの製作日から2日しか経ってないよ?その期間で?」
マスク・ド・ドリーマーと紳士仮面はほとんど同時に食い気味に話しだす。恋丸は少し驚いたがコクリと頷いた。
マスク・ド・ドリーマーは再び唸る。確かに神絵師の絵などとは比べるべくもない。髪の毛や服のシワなどが想像だけで描いていて雑だし、全体の魅せ方もさらなる工夫が必要だろう。だが、ド素人がいきなりコレを描いたのには驚きを隠せない。生き生きとして魅力的なキャラを上手く描いている。
同時に紳士仮面も唸っていた。超短編の小説なので起承転結や序破急はない、5W1Hも抜けている。物語としてはかなり読みにくい文章だ。だが、話は面白い。この二人のラブコメに続きがあるのなら、迷わず読みたいと思わせるエネルギーがあった。
「こ、此処にいる3人にこの本の評価を下して欲しいと思ったんだ。で、勝手だけれど寸評を貰えるなら嬉しい。その感想を聞いてからコレを元締めに預けて美少女㊙大年鑑を作る時に一緒に一冊の本に製本してほしいんだ。僕の今のパトスを形として残して置きたいから・・・」
そう言った恋丸は恐る恐ると云った風に3人を見る。最後まで小冊子を見ていた元締めがその本を静かに机に置いた。
「それは拒否する。ヒョットコ恋丸」
元締めは恋丸の目を見てキッパリと言い切った。微かに上気していた恋丸の顔が一瞬で青ざめる。両拳を握りしめ、諦観の表情を浮かべながら下を向いた。
驚いたのは元締めの両側に座るマスク・ド・ドリーマーと紳士仮面であった。創作が出来る人材は得難い。我ら夢工房に必要な同志である。その程度のお願いなら、聞くべきであろう。
元締めは何を考えている? 二人の視線が鋭く元締めを突き刺した。拒否すると云うのなら明確な理由を述べるべきだ。2人は納得いかない表情のまま元締めの言葉を待った。
「恋丸よ。お前はこの本の事についてトウ・オーカから使用の許可を得ておるのか? 架空とはいえ彼女を物語に出演させ、イラストとはいえ姿まで描いているんじゃぞ? そこのところはどうなのじゃ?」
「え?・・・・・・・ま、待って。りょ、了解なんか得てないよ。こんな本見せたら殺されちゃうよ、僕。で、でも元締め、美少女㊙大年鑑だって勝手に作って・・・あれ違う?そうじゃないの、か。本人か親に了解を得ているんだったっけ?」
「ひょっとして肖像権と云うものですか?元締め。二人は知り合い同士ですし、多少の事は許されるのではないでゴザルか? 私的なものですし」
「そうですよ。元締め。固い事ばかり言っていたらなにも実現出来ません、デュフ」
恋丸の余りの落胆ぶりに、二人の同志が思わず助け舟を出した。ところが元締めはそれらを一喝すると拳を顔の前に突き出した。怒りからか元締めの目が赤い。
「・・・やはり無許可か。田分け者め、恋丸」
そう言うと元締めはゆっくりと突き出した右拳の甲を、前に向けた。左脚を後方に引き、身体中の気を高め始める。右の拳が微かに紅い闘気を帯びた。
「儂のこの手が真っ赤に燃える。美少女守れと轟き叫ぶ、萌え尽きよ!! 灼熱拳! ゴールデンナァァクルーーー!!」
「そ、そんな!あの技は幻の拳ーー!?」
「きょ、巨大ロボットすら素手で打ち倒す!」
「え?あれこそなにかの侵害ではぁァァァ」
元締めの萌える拳が3人に炸裂した。マスクメンたちは「ぐぎゅぅぅ」と言いながら気づいたら小屋の壁まで吹き飛ばされていた。
「ぶぅぁか、もんがぁぁぁ!! 愛と平和を導く我らが、美少女を自分勝手に作り変えていい理由がなかろうが! 何故! 其れがわからん! 同志たちよ! 己の欲望を優先してはユークリッド王と何ら変わらん! 皆まで言わせるでない」
元締めはそう言って拳を下ろすと3人に背を向け、カーテンを開けて外を見た。思い掛けず少し騒ぎになってしまったが、誰も起きてはいないようだ。
3人は項垂れていた。一見、無茶苦茶な論理にも聞こえたが、確かに本人の了承もなく勝手にキャラクター化されては迷惑だろうし、気持ち悪い。配慮が足りなさ過ぎた。
「す、すいません元締め。確かに僕が浅はかでした。い、一か八かオーカさんに話してみます。僕のほとばしる情熱を知って貰います。皆さん、僕の屍は拾って下さい」
恋丸は立ち上がると元締めと二人の同志にそう告げた。其れは戦う覚悟を決めた勇者の目であった。恋丸は今ならば、○○○ストラッシュですら撃てそうな気がした。
「いつでも良い、行って来い。必ず骨は拾ってやる。決して振り向くでないぞ」
4人は熱い眼差しを交わし合い、お互いに手を取り合った。そうこうしている間に夜が明けて、空は白み始めている。今日から【ユークリッド王討伐作戦】が始まる。元締めは合わせていた手を離すと3人の同志に告げる。
「儂はこのままエグルストン皇国に行く。【美少女㊙大年鑑】の原稿を製作会社に届けねばならん。そして今回の【ユークリッド王討伐作戦】でもやることがあるしの」
3人はしっかりと頷いた。
「恋丸。トウ・オーカを説得できたらその原稿を儂に託せ。㊙大年鑑に負けない造りの本にしてやる」
「じいちゃ、元締め・・・いいの?」
予想もしていない言葉に恋丸は一瞬固まる。
「じつに良い絵、良い話であったぞ。恋丸」
その言葉を聞いた恋丸は、目頭が熱くなるのを感じた。
朝日が窓から差し込み、部屋の中が光に満ち溢れる。4人の別れはその光の中でとなった。天が、愛と平和のキューピット隊の未来を明るく照らし出している。
光の射す方を見ながら4人はそう思ったのだった。
部屋に戻る道すがら、ロイ・マクエルは考えていた。オーカさんが僕に気を許すタイミングを上手く見計らって、本に描かれる事の許可を取ることができたら成功だ。ミッションコンプリート!
なあに、僕が甘く囁けばきっと・・・囁けば・・囁け・いやちょっと待て。オーカさんは間違いなくブチ切れるだろう。夜叉の顔が目に浮かぶ。
命を捨てて愛と平和を取るとかもう少し選択肢があってもよくなくない? よく考えたらオーカさん説得とかかなり無理ゲーじゃね?
ロイ・マクエルは軽い絶望感を感じながら重い足を引き摺り、部屋に戻っていったのだった。
最後までお読み頂き有り難う御座います。
FAなど貰えるわけもない本作なのでイラストは
ロイ・マクエルが用意しました。
ロイの妄想にいいね、お願いします(笑。




