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ロイ・マクエル受難の日々㉘



         第50話



     「彷徨い続けたその先に」







「申しあげます、リーレン様。ユークリッド軍の軍勢が本陣を捨てて此方こちらに真っ直ぐ向かっております! 兵力はおよそ1000、騎馬は50騎程です。鋒矢ほうしの陣形、突入して来ると思われます」


 見事な仕草しぐさで馬から跳び降りて報告を行なった女武人は、全身に闘志をみなぎらせていた。目にはかくせない程の怒りのほのおたたえている。その姿を見てリーレンはうなずいた。いくさを前にしていい気魄きはくだった。微塵みじん怖気おじけも感じられない。



斥候せっこう役目やくめご苦労、アビス。すまぬがこのままユークリッド軍を迂回して、出陣して来ているアズ砦の軍のところまで行ってはくれんか。大魚たいぎょは此方に喰らい付いた。そちら側は尻尾を頼む。と」


「! お、お待ち下さい、リーレン様! どうか! どうか私も先鋒隊にお加えください! ユークリッド王の首ならば、私がねてみせます! アイツは姉のかたきです。私の、この手で、ユークリッド王をたしたいのです!!」



 アビスと言う名の女武人が鋭い目でリーレンを見つめながら参軍を訴えた。まだ16歳の少女ではあるが彼女の馬術の腕を買い、リーレンは軍の伝令を任せている。しかしいくさに参加するのは流石におさなすぎた。



いくさなのだ、アビス。私情が入り込むと負ける。お前はお前のすべき役目を完遂かんすいせよ。その憤怒ふんどの気持ちは儂が持ってゆこう。儂とても、お前と同じ気持ちよ」



 アビスの姉は数年前に指名を受けてユークリッド王の側室そくしつとなった。しかしその半年後に物言わぬ身体となって戻ってきていたのだった。そしてそれと交代する様に、今度はガラコ砦のおさウルグ・リーレンの娘がユークリッド王宮に出仕している。しかしその娘とも、この1年は連絡が途絶えたままになっていた。恐らくもう生きてはいないだろうと、リーレンは考えていた。



「リーレン様、・・・・どうか、後生です」



 アビスは深々と頭を下げた。噴き出しそうな怒りを抑えているのか、握った拳が少し震えている。



 アビスたち二人姉妹の事はリーレンも良く覚えていた。二輪の花が咲くように、何時いつも笑顔で一緒に畑仕事をしていた仲睦なかむつまじい姉妹であった。それがユークリッド王によって残酷ざんこくな形で引き裂かれてしまっていた。


 ガラコ砦のおさを務めるリーレンはそれでも首を横に振った。今はいくさである。気持ちは解るが私情で軍は動かせない。馬術にけたアビスは伝令役に徹するべきである。


「耐えよアビス。武人ならば耐える時は耐え抜くものだ。儂も、そしておそらく姉も、お前ならば耐え抜けると信じておる。待ちつづけたこの2年を忘れたか、アビス」



「・・・・・・・・・承知、しました。アズ砦にはユークリッド軍の背後を攻めるように伝えます。ただ・・・本当に大丈夫でしょうか、あちら側は? 信用は、しきれません」


 アビスは大きく息を吐くと握りしめていた拳を開いて答えた。ようやく吹っ切れたのか目には不敵ふてきな光が浮かんでいる。そして協力体制になったアズ砦の友軍を、うたぐる様な言葉を向ける。


「今は友軍を疑る時ではないのう、アビス。確かにアズ砦の街は昔から、それこそ先代のユークリッド王の時代からユークリッド王家を保護しておったが、実のところ砦長のバンバはその事を後悔しておるだろう。と、いうのが儂の見立てだがな」


「そうなのですか? あのバンバ殿が?」


「確かにアズの街はあの二人の王の生家せいかがあるゆえ、発展してきた。だがそれ故に目がくもっていた筈だ。心境は複雑だろうが出陣して来たところをみるに恐らくバンバの奴は腹をえたのだろう。とはいえだ、余り迂闊うかつな物言いは控えよアビス。友軍は友軍でもただの友軍という訳ではないのだ。・・・お前が可愛い顔で余計な勘繰かんぐりを入れると、反意してアズ砦の矛先ほこさきがお前に向くやもしれんぞ。」


 リーレンはニヤリと口角を上げた後、カカカと笑った。最後の部分はからかわれたと思ったアビスはつい、憎まれ口をきいた。



「おたわむれを。例えそうでもこのアビス、アズ砦の者如ものごときに遅れは取りません」


「カカッ! 大言たいげんきおる。お前の剣の腕前は知っておるが自信過剰はいかんぞアビス。今、あやつらのそばにはこの話を持ってきたマーク・ザインがおるであろう。あれはただ者ではないぞ。余計ないさかいなどを起こしてあの男に剣を抜かさせるなよ」


「私はじかに見ておりませんが、それ程に? 虎殺しの異名を持つ猛将リーレン様でも一目いちもく置くほどなのですか?」


強者ツワモノの持つ特有の気配とでも言おうかの。あいつが2日前にふらりと、儂の屋敷に来た時、先代のユークリッド王の顔が一瞬頭に浮かんだ。だからと云う訳でもないが、あのマーク・ザインが持ってきた今回のユークリッド王打倒の話に乗ってみようと思ったのだ」


「・・・気のせいかそれってただのかんだけで決めてるようにも聞こえます、リーレン様。戦略などのお話もしておられるのでしょうね?」


「カカカ、案ずるな。勿論もちろん戦略の話もしとる。だが人物を観る事に関しては嗅覚きゅうかくと勘こそが大事なのだ。その嗅覚で、かつて一人の英雄を見出みいだしたこともあったのだ」



「・・・それが先代のユークリッド王ですか?」


 リーレンは話の途中でアビスから顔を背け、眩しそうに太陽に顔を向けていた。そんなリーレンに思わずアビスは問いかけてしまっていた。



如何いかにも。その英雄の力と我ら豪族の鉄の結束によって、ユークリッド地方は中央列強の一国としての独立を勝ち取れたわけよ。まあ、残念ながら英雄がそのまま名君にはなり得なかったわけだがの・・」


 ウルグ・リーレンは小さくため息を吐くと少しうつむいた。英雄の姿に魅せられて、我ら豪族は少しずつ、間違えていったのだ。その過去を思い出していた。








 ユークリッド国内にはいくつかの城塞都市とも云うべきとりでが点在している。それぞれの砦は豪族の手で独立運営されており、代々その周辺を治めている力のある豪族が砦長として砦と街の統治とうちを任されていた。


 ユークリッド地方は昔から豪族の力が強く、他の地域のように一国が突出とっしゅつして中央集権国家体制の国を築くにはいたらなかった。しかし他の中央周辺国で乱世の世を勝ち残った国々が領地を広げ、地方の豪族を併呑へいどんしてさらなる大国となっていった。そうして中央のほとんどをそのような大国家だいこっかが支配する世になっていった。


 豪族の相互協力体制のままでは近い内に他の国に力尽くで合併がっぺいさせられると考えたユークリッド地方の豪族たちは、ユークリッド出身の若武者、のちの『弓使いの英雄』イル・バルバロンに白羽しらはの矢を立てたのである。


 有力な豪族たちは連名の誓書を彼に託し、ユークリッド国の建国と初代国王への就任しゅうにんを求めたのである。


 イル・バルバロンは豪族の求めに応じ、ユークリッド国を建国、初代国王のかんむりいただいた。またそのまま地方豪族の自治も認めた。そして周辺の他国も正式な王家の誕生をかんがみ、ユークリッド国を承認する事に至ったのである。





「確かにするどい嗅覚でありました。豪族の誇りを捨てる事なくユークリッド国をり立てて、他国の脅威きょういからも民を守ったのですから。リーレン様を始めとしたユークリッドの豪族は素晴らしいと思います。こんな国は世界にもありません」


 アビスは少し俯いていたリーレンに、明るい言葉で答えた。ユークリッド国こそが理想の国家である。と思っているのだろう。


 だが、物事はそうそう上手うまくばかりは進まなかったのだった。


 先代ユークリッド王は全く内政や外交をかえりみずにいくさを繰り広げる王であったのである。わずかな土地を得んがために周辺国との紛争を繰り返した。確かに領地は格段に拡がったが、東の東方異国から南のエグルストン皇国、西はカーズ公国と、関係は徐々に悪化。物流のほとんどがストップしてしまう事態となり、ユークリッド国はまたたく間に貧しい国と成り下がってしまう。


 豪族たちは先代ユークリッド王に何度も諫言かんげんしたが聞き入れられず、逆に叛逆はんぎゃくで攻め滅ぼされる砦も出て来るほどであった。そして豪族とユークリッド王家の関係が抜き差しならない程最悪の状態の時に、あろうことか先代ユークリッド王があっさりと病死したのであった。


 せっかく建国したユークリッド国をつぶす訳にもいかず、豪族たちは18歳の王子にあとを継がせた。この王子は幼い頃から領地をよく見てまわっており、思慮しりょぶかい王子であると豪族たちの評判はよかった。


 だが、穏和おんわに見えた王子は、心の内に凶悪な餓狼がろうを育てていたのだ。豪族の誰もがそれに気づけなかった。いや、違う。王子の辛い境遇は恐らく皆が知っていた。誰しもが助け無かったのだ。我が家に累が及ぶのを恐れたが為に。


 唯一、王や王子の身内であるアズ砦のイル・バンバが止めたのだが、結果腕を失くし、王族からも外された。そのような事があり、とうとう誰も何も言えなくなった。そして若きユークリッド王もいつの間にか先代のように、領地の砦を攻める様な愚かな王になり果てたのだ。






「すまぬなアビス。確かに豪族の独立や誇りを守れはした。他国の侵略行為にも対抗は出来た。だが、代わりの犠牲が余りに大きすぎた。儂たちにもう少し人を見る目と覚悟がありさえすれば、お前の姉も死なせずに済んだやもしれん」


「リーレン様は精一杯努力されたと思います! 私を含めガラコの街の者たちはそれを分かっています! ユークリッド王。あの下劣げれつな王さえ消えればユークリッド国は良き国となります。そう、私は思います」



「武勇の程しかぎ取れ無かった無能者である。それならばおのが不始末も、武勇で着けるしかあるまいよ。アビス」



「今日! 始末を着けましょう、リーレン様! あの好色王を倒して姫さまを取り戻し、リーレン様が3代目のユークリッド国王に就かれるのです! ハウンズ家のあの男がそれを後押しすると申したのでしょう?」



 確かにその通りだった。『ユークリッド王を討ち果たした者が次代の王となる。そしてハウンズ家がその後ろ盾となる』屋敷やしきにおいて戦略の話をしたあとで、あの男はそう言った。

 無論、他の豪族やちかしい者にもこの提案をする。とも言っていた。ユークリッドいちの豪族としては立たねばならなかった。



「あの男の事は今はよい。人にすがってなにせようか。おのれ身体からだも張らずして、誰も導けはせぬ。悔恨も後悔も、何の解決にもなりはすまい。アビスよ。しかと伝令を頼む。このリーレン、再び虎殺しリーレンに戻るとアズ砦の者に伝えよ」


「委細承知しました! ご武運を。リーレン様」


 アビスは一瞬で馬に乗ると駆け去っていく。驚くほどの馬術の腕前であった。




 改めてリーレンは眼下に目を向けた。すでに半里先にまでユークリッド軍が迫っている。ほとんど歩兵であるのに驚くほどの速さだった。先頭はユークリッド王。敗残軍であるにも関わらず、王も軍勢も中々の気を放っていた。


 油断はならん。くさっても弓の英雄の息子なのだ。


鶴翼かくよくの陣を取れ! 敵は正面から真っ直ぐ来るぞ! 受け止めて押し包む! ユークリッド王には儂がみずからが当たる!」


 リーレンは赤い鉄槍てっそうを力強く二度三度振り回すと息を吐き、気を高めた。ゆくぞ青二才。森林虎を幾十匹も仕留めたこの朱槍、馳走ちそうしてくれるわ。




 リーレンの獣の如き雄叫おたけびが原野げんやとどろいた。そのリーレンに向けて全く怯む事なくユークリッド王の軍勢が真っ直ぐに突っ込んだ。

 ほどなくユークリッド王の雄叫おたけびも響き渡る。直後、両者の槍が火花を散らして激しく交錯こうさくした。

 













「おーーーーーーーーーーーーーーーーい、オーカさーーーーーーーーーーーーんーーーー」


 後方から此方こちらの騎馬隊を目指めざして単騎たんきけてくる騎馬がいた。遠くからだが自分の名を呼んでいる事に気づいたトウ・オーカは、走らせていた馬の足を止める。かすかに聞こえる程度だがオーカは静かに耳をます、聞き覚えがある声だった。




 敗北して退却中のユークリッド王の一団を討伐とうばつする為に、トウ・オーカとアルト・サラは箔山部隊とギルド部隊の混成こんせい騎馬隊を指揮しきしていた。すでに箔山峡谷から5km以上離れた原野げんやを進軍中であった。



 となりで走っていたアルト・サラがトウ・オーカを見てから、軍に停止の指示を出す。騎馬隊300が指揮に従い、その場に停止。僅かだが風で土煙つちけむりい、声のした後方が少し隠れてしまった。




『デ、ドォンッッ!!』



「わっ、きゃあ!?」



「!! あ、ロ、ロイ様! ご無事でしたか」



無事無事ぶじぶじ。さっき身体中に矢が刺さったぐらいだよ。オーカさんサラさん。ユークリッド王に用事が出来たんで、軍の指揮はサラさんに任せてオーカさんと僕で川を越えて王の元に急ぎましょう。出来るだけ急いでいきたいです。王が昇天する前に着きたいですから」


 ロイ・マクエルが土煙つちけむりの中から飛び出して来たかと思ったらトウ・オーカの騎馬に同乗どうじょうするように飛びうつって来た。そして用件を早口でまくし立てるとトウ・オーカの両腰を後ろからしっかりとつかんでいた。有無を言わせない雰囲気だ。何だ?随分と積極的だ。ロイ様らしくない。一瞬、目が合った。


「・・・色々と聞きたいところですがロイ様。なぜ、わざわざ二人乗りで向かうのですか? ロイ様の乗ってきた馬が、・・・ああそうかなる程、潰れかけてますね」


 箔山峡谷の野戦病院からロイは駿馬しゅんめを借りてきて、全力疾走で駆けてきたのだ。その為ロイの乗って来た馬はフラフラになって膝を付いていた。


「無理をさせちゃたからここで休憩取らしてやって。さあ時間がありません。オーカさん急ぎましょう」


「あ、ん。ちょ、ちょっと待てロイ・マクエル。腰をあんまりするな! な、なんでアタシと同乗なんだ? アルト・サラでも他の奴でも、んん、いいだろうが?」


 トウ・オーカは顔を真っ赤にしてしどろもどろで悪態あくたいを突いている。サラはその狼狽うろたえぶりに思わず吹き出した。如何いかなる時も勇猛な女傑じょけつの仮面をはずさないトウ・オーカが、ロイ様には振り回されていた。


「男の人との同乗はもういやです。マリオさん、手綱たずなさばきはあらいし身体が何度も宙に浮いてお尻が痛かったです。何より汗やつばが飛んで来て気持ち悪かったです。オーカさんなら女性ですから大丈夫です。それと走りながら話したいこともあります」


「そ、そう、か。だ、大丈夫なのか? りょ、了解した。あまり腰は強く掴むなよ?ロイ。よわい、いや、くすぐったいから。・・・・・・おい。アルト・サラ。何がそんなに可笑おかしいんだ?」


「いや、クク、すまん。何でもない。二人は全力でけてくれ。私も騎馬隊を率いて出来る限り急ぐつもりだ」



 もしもかりに、だ。私や他の男性がいきなりオーカの馬に同乗したら次の瞬間にはげきで首が飛んでるだろう。無防備で飾らないロイ様だから出来た芸当げいとうだ。それにオーカ本人は気付いていないのかあの極端なあわてよう、ロイ様を意識し過ぎだ。


 年頃の女性を思わせるオーカの恥じらう姿に、思わず笑顔が浮かんだ。その姿は可笑しくもあり嬉しくもあった。


 実のところトウ・オーカはユークリッド王を逃がした事に、何処どこかに苛立いらだちを抱えていた。上手く隠してはいたが、横で駆けていた私にはよく分かった。だが、今はそんな気持ちは何処かに吹き飛んでいる。オーカは女傑ではあるが、若い女性だ。これでいいのだ。






 それと気がかりが一つできた。さっき話した時に、ロイ様が私にだけ真剣な目を一瞬向けてきた。何かを訴える瞳だった。意図を図りかねてロイ様の姿をよく見ると、脇下から服に血が滲んでいた。同乗を申し出たのも、オーカの腰をいきなり掴んで後ろを振り向けない様にしたのも、気付かせないための方便だとそこで気付いた。恐らく手負いのまま、乗れない馬に乗りここまで走らせて来ていたのだ。


 妙な明るさを振りまいて、やたらと積極的だったのも怪我を隠す為だと瞬時に理解した。

 頭の痛い事ながら、またこの方は何かを背負って来ている様だ。己の身体も顧みず。


「じゃいくよ〜。サラさんも無理しない範囲で付いてきてよ〜」


「こ、こら。ぼーっとするなアルト・サラ。呆けている場合ではないぞ!」


「承知しました、ロイ様。トウ・オーカ、遠慮なく飛ばして行け。しっかり付いていく。デートでもするつもりで楽しく行けば良い」


 照れ隠しなのか憎まれ口のトウ・オーカに、からかい半分の返事を返した。ひとまずロイ様に合わせておくことにした。その明るさを望まれている筈だ。


「デ、デ、デートだぁ!? ふ、ふざけるな! アルト・サラ! 今は戦の真っ最中なのだぞ! い、言っていい冗談がだな、」


「ハッハッハッハッ、ナイスジョーク!サラさん。大丈夫ですよ。僕が付いてるんでオーカさんはしっかり守ります。緊張はしないでいいですから、オーカさん」


「え、あ、はい。お、お願い、する、します。ロイくん」


「ぶっはっ」「はははは」「オーカさん可愛いッス」


 後方の騎馬隊から笑い起こる。生娘きむすめ初夜しょやか? 私まで可笑おかしさで腹がよじれそうだ。トウ・オーカに凄いにらまれてる。他の騎馬たちも全員下か横を向いて笑いを堪えてふるえていた。


 ロイ様。重苦しい雰囲気は既に消し飛びました。もうこの辺で良いでしょう? 天然の道化役もほどほどにして下さい。サラは一度大きく息を吸い、一喝いっかつする様に騎馬隊に指示を飛ばした。 



「良し。軽口かるくちをほざくのはこれで終わりだ! これより再度ユークリッド王の討伐に向かう。ロイ・マクエルとトウ・オーカの騎馬は先行する。残りは私の後ろに二列縦隊で整列しろ、後を追うぞ。直ぐ隊列をつくれ!」



「「「応」」」


 先行して駆けていったロイ様とトウ・オーカの騎馬を追う形で混成騎馬隊も進発した。







 ・・・本当ならば止めるべきであろうことは解ってはいた。いかに規格外の少年であろうとも、まだ13歳の子供なのだ。しかも怪我けがを負っていて、向かう先は新たな戦場である。だがえて止めようとは思わなかった。



 世はいまだ、戦乱が続いている。



 恐らくハウンズ・ロイ・マクエルはちかい将来、英雄として世に屹立きつりつするだろう。その時世界の英雄や豪傑を相手に、五分ごぶたいしていかねばならないのだ。

 そう云う意味ではロイ様はまだまだ小さいし、修羅場をくぐり抜けてもいない。つまりは圧倒的に足りていないのだ、英雄としての経験が。


 それを、少しでも埋めてもらいたいと思っている。


 サラは苦笑した。私はいつの間にか意地の悪い大人になっているのかもしれない。主君を敢えていばらの道に進ませるなどと、まったひど悪臣あくしんも居たものである。






 いつかロイ様が大人になった日に、この日の悪臣の意地悪いじわるを語りたい。そうアルト・サラは思った。







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