表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/68

ロイ・マクエル受難の日々⑱

実は週間更新になって初の回です。



         第40話



       「かつて見た夢」

 




 



 ──────今だに思い出す。その日は身体に吹き付ける北風が、やけに冷たい日だった。




「『める』? 辞めるだと!? それは一体どういう意味なんだ!? ロビン」


「言った通りの意味だ。俺は辞めると言った。ローエン」



 薄闇うすやみが辺りをおおい始める夕時刻の丘の上で、この俺フリス・ローエンとロビン・ガトリンはき火をはさんでに互いに向かい会うように座っていた。


その周りを幹部たちがやや遠巻とおまきにぐるりと取り囲んでいる。俺たち二人の会話が届く、ギリギリの所にそれぞれが腰を降ろしていた。



 ぐに俺の目を見るロビンの瞳は、驚くほどにんでいる。

 先程の単純明快な言葉とは裏腹に、瞳の奥にかなしみとあきらめの色が複雑に混じり合っているのが見て取れた。俺は心の動揺を隠すように、努めて冷静に言葉を選んだ。



「くだらんな。かの『大英雄』が簡単にこころざしを捨てるはずがない。冗談でもお前の口からそんな言葉は聞きたく無かった」


「・・・言葉が足りなかった。俺たちのやり方ではもう無理だ。ここらが潮時しおどきだと思ってる。やるべきことは十分にやり切った、もうこの中央はずいぶんと平和になった。いくさを仕掛けるべき相手も尽きている」


「まだ尽きていない。まだまだ悪名あくみょう高い豪族も悪辣あくらつな賊徒も各地に跋扈ばっこしている。まだ俺たち『中央泰平救国』軍の力を必要とする民草たみくさは多い。それに」



 ロビンは右腕を上げるとローエンの言葉をさえぎるように右手を広げた。いつの間にかロビンの視線しせんは焚き火に向いていて、その瞳を赤くめていた。



「なあローエン。『血で血を洗う』と云う言葉、みょうな言葉だとは思わんか? いくら血まみれの身体を血で洗おうともそんな事は意味がない。新しい血まみれの身体になるだけだ」


「そんな哲学はいい。いい加減にしろよロビン。天下を取り、俺たちの手でこの戦乱の世界を救おうとちかった志はどうする? その夢をここであきらめるのか? こんな中途半端に? バカな! 俺たちにとってそれは死だ。生きながらの死と同じではないか! お前だって同じ気持ちのはずだ!」


「・・・青臭あおくさい、子供じみた夢だった。つくづくそう思う。俺もお前も世間知らずの若造だった。剣を振るえばたちどころに世を救えるなどと、まつりごとの大事さなど何も知らない愚か者だったのだ。だから無為むいに死なせた。俺の息子も、お前の妻も、そして同志たちも。違うか? ローエン」


 カッとなって思わず立ち上がっていた。周りを取り囲む幹部のほとんどが同じように立ち上がった。共に死線を越えてきた同志達だ。ロビン、言っていい事と悪い事がある。わからないお前ではないだろう。


 確かに大勢死んだ。皆は平和を成すと云う戦いの途上で命を落とした。誰もが幸せに暮らせる世界をと、夢に抱きながら死んだ。誰にもその死をあざけることは出来ない。それに。


「辞めたとして俺たちの志はどうなる? 無かった事にでもするのか? それこそ死んでいった同志達は無駄死むだじにではないか! 今も現実にはか弱い女子供が俺たちの助けを待っているんだ。なあロビン。俺たちは目の前にいる罪なき民を救う道を選んだ。違うか? 」


「・・・そのこころざしも始まりはただの用心棒ようじんぼうとひとりの馬商人うましょうにんの夢物語だった。よくぞここまで大きくなった。俺たちの手で救えた人々も間違いなく居たのだ。もうここらでいい。幸せすぎる夢を俺たちは見れたんだ、ローエン。もう寄せ、それ以上はしゃべるな」


「いや、言わせろ! そんななつかしむ話はいい。そんな小人しょうじんの泣き言などを聞きたくはない。ロビン、んっくっ」


 突然胸にまったモノがあばれ出す。俺は目眩めまいを覚えるとつんいになり、思わず口を押さえた。


 ロビンがこちらに駆けてくる。やめろ。違う。お前は英雄なんだ。一人の人間をかえりみるな。こちらにくるな。


 胸の中で何かが破裂はれつする。口の中に大量の血があふれ、たまらずその場にき出した。地がたちまち赤黒く染まっていく。


 気が遠くなりそのまま倒れ込もうとする俺を誰かが抱きとめた。血の海に沈もうとする俺を懸命けんめいに押しとどめている。


 お前はいつも、いつもそうだ。優しすぎる男だった。


 今も全てを背負い込み、みずからを悪者に仕立て、ろうとしている。


 英雄をつかもうと伸ばした手はくうを切り、何も掴めぬままダラリと垂れた。







 今からおよそ30年前。その頃のこの大陸の中央には、20カ国ほどの国がひしめき合うように存在していた。


 常に国境をめぐっての争いが絶えず、【エルグパウダーケグ】、中央火薬樽とまで言われて揶揄やゆされていた。それは毎日のように、各地のどこかでいくさや反乱が発生していた為である。


 だが、この20カ国程の少国家群はある英雄と、その同志たちの出現によってわずか5年余りでその数を6カ国にまで減らしていた。


 無敵無双の英雄を首領かしらあおいだ男たちの一軍。『中央泰平救国』の旗を掲げた義勇の軍が立ち上がり、悪政無法を働く国々を討ち滅ぼしていったからだった。


 世をうれう者たちが集まり戦うその姿に、高潔な戦いぶりに、世界中の虐げられていた者たちからの惜しみない喝采かっさいが送られた。またたく間にその名は全世界を駆け巡った。


 今でも語り草になる、英雄たちの時代であった。彼らの手で、誰もがこの戦乱の世が終わると期待した。それほどまでにその英雄は強く、民から絶大な支持を集め、慕われてもいた。

 その首領の事を民は皆、敬意を込めて『大英雄ロビン』と呼んだ。



 だが、英雄ロビンは突如として姿を消す。



 死んだとも、逃げたともうわさされた。そうしてあまりに突然に、あまりに不可解に、あまりに鮮烈に、英雄の時代は終わりを迎えたのだった。


 わずかに『中央泰平救国』の旗は同志たちの手で遺された。そして『中央泰平コネクション』と姿を変えて、今の中央ギルドとなって残るにいたっていた。













 ────────────再び、箔山公民館





「・・・・・・・・・久しいな。ローエン」



「・・・・・・・・・老いぼれたな。ロビン」



 ロビンとローエン、二人の視線が鋭く交錯こうさくした。強者ツワモノのみが発する武威の気が箔山の公民館内に充満する。


 ロビンはおもむろに椅子いすに座るとローエンにも座るよううながした。ローエンの殺気がかすかに収まり、同じ様に座る。

 周りで固唾かたずをのんで見守っていた面々も改めて椅子に腰掛けた。この二人の交わす会話に注目する。古い顔馴染かおなじみであることはさっせられた。



やまいえたとの話は聞き及んどった。そこの眼鏡っ子、お主の娘だろう? なんとなくだがしゃべり方が似とるわい」


「・・・・・・・・・お前の息子のレム・ガントスも壮健じゃな。まさか『英雄ロビン』がハウンズ家の人間だったとはの。あの息子は凄いな。最早もはや一国を簡単に討ち滅ぼすぐらいの影響力は持っとる」


「どうかの? まあ仮に出来るとしてもアレはそんなマネはせんよ。儂らの時代とは違う」


「・・・時代か。ところでロビン。レベルカに出した傭兵派遣の依頼、あれは一体何のマネだ? 武を持って解決する時代はもう終わっとるだろ。 国王の命を狙ってのいくさなどと常軌じょうきいっしとる」


 ローエンは周りをグルリと見回した。なるほど。【英雄ロビン】、今度はこやつらにかつがれたという訳か。お前はいくつになっても優しい男だな。

 だがもういいのだ。これ以上人のために剣を振るな。今度はお前が命を落とす。


 ローエンは軽いため息を付くと、この依頼を断ろうと立ち上がる。



「ホッホッ、なんじゃローエン。ボケとるのか? 儂がかつがれた訳でもそそのかした訳でもないぞ。十分な考えあって国王を討つ気じゃ。それにこ奴らの顔を良く見てみい。人にすがって何かしてもらう様なつらに見えるのか?」


「・・・ぬう?」


 喜色満面きしょくまんめんといった口調で声を上げるロビン。その言葉でローエンは改めて周りを見回す。なるほど、誰もが性根の座った良い目をしている。

 もう英雄ロビンの時代ではない、杞憂きゆうだったと云う事か。


「抜かすじゃねえかロビン。耄碌もうろくジジイがいきがって棺桶かんおけに突撃でも仕掛けるつもりなのかと焦って来たんだが、まあコイツらが働くってんなら一安心ひとあんしんだ」


「久々に会ったとゆうに、お主は口が減らんの〜〜。ところで業突ごうつりは少しは治ったのか?ジジイの上に金の亡者では救われんぞ?」


「いちいちとかんさわる糞ジジイじゃな。お前こそ小娘のケツばかり追っかけて性犯罪で捕まっとったんじゃないのか?あん」


「いやいやお主が」「なんのなんのお前が」


 ハウンズ家のロビン・ガトリンとギルドのフリス・ローエンの軽いののしり合いが一向に収まらない。

 サラは苦笑する。今回の戦はお互いに協力して事に当たるほかない。今日の内に作戦を煮詰につめておく必要がある。


 だのに影響力のある二人がこれでは少しも話が進まない。あまりひどくなるようだと連携にも齟齬そごが出るかもしれない。しかしどうすれば良い?


 ガトリン様は当然だが、ローエン殿もかなりの使い手である。伊達だてにギルドマスターを長く務めてはいない。何人もの刺客を返り討ちにしている強者ツワモノだ。どうする・・・?どうやって上手くおさめる。



『タタタタン』



 4本の小剣が老人二人の目の前の机に突き立つ。



「いい加減にしてくんない、じいちゃん達。皆で黒雲こくうんを見に行きたいんだ。ジジイ二人の茶飲み話なら、馬を見ながらでもいいんじゃないの? あとこの小剣のせいで僕のジュースがこぼれちゃったんだけど」


 小剣を投げつけたのはロイ・マクエル。確かにロイ様のジュースだけがこぼれている。


 ・・・・・・・・・が問題はそこじゃない。


 公民館に入りばなに、ローエン殿から矢継やつやに繰り出された小剣をロビン様が弾き飛ばしたのは見た。

 飛ばされた小剣がロイ様にせまり、一瞬ギクリとしたが全てが消えたのでロイ様が叩き落としたとばかり思っていた。

 が、どうやら4本全てをガラスコップですくい受けていた・・・のか?。


 にわかには信じられない離れ技だ。軌道も速度もバラバラの小剣を4つともコップを割らずに掬い受ける。それを理解したのかローエン殿は口をポカンと開けて呆然ほうぜんとしている。




「ガッハッハッハッハッハッハッハッハッ〜いやすまん、すまん坊主。悪気はなかった許してくれ」


フリス・ローエンは大笑いすると殺気を解いて、机に刺さった小剣を回収した。


「ところで坊主は・・・ロビンの孫じゃないのか? 昔のこいつによく似ておる」


「坊主じゃなくてロイ・マクエル。確かにロビン・ガトリンは僕の祖父だけど、そんなに似てるかなぁ?」


「容姿じゃなくてだな。大昔にコイツに初めて会った時も同じ様に小剣を投げつけたんだが、これまた同じ様にコップで掬い受けよったんじゃ。いや〜、思い出した思い出した、カッカッカッカッカッ」


「ええ? そうなのじいちゃん?」


「・・・・・・・・・大昔の話じゃ、忘れた」


 3人のやり取りで館内は急速に落ち着いた。作戦の話はマリオの黒雲を見てから進めることに決定して、ローエンもそれに加わり全員が公民館を出る。





 道中フリス・ローエンがロビン・ガトリンに声を掛けるので会話が皆の耳にも入ってくる。


「ところでまた寡兵かへいでのいくさか? ロビン。出来る範囲内で一応は馬と武具。傭兵や食糧を揃えてはきた。ただ、あんまり大戦おおいくさはできんぞ?局地戦を1〜2回じゃ。兵の数も食糧も足らん」


「ケチくさいのう。まあ心配いらん。一戦で決める。工兵部隊も連れて来とるんじゃろ?罠の仕掛けを後から打ち合わせするからそんとき呼んでくれ」


「うるさいわ。2日でかき集めたんだぞ、これが限度じゃ。それよりやっぱり策にめる気か、レベルカからあった要請の物資量じゃ小人数こにんずしか動けんからの。罠に嵌める事もあると思って工兵は用意はしとる」



 老人二人は道すがらでも会話が全然止まらない。30年の空白を埋めるかの様に不敵ふてきな笑いを浮かべつつ軽妙なやり取りを交わしていた。


 レベルカの目には二人はとても楽しそうに見えた。


 いつもいかめしくもさびしげな父がこんなにも楽しそうに笑う事があるのだとレベルカは驚いていた。

 ・・・きっと、昔も二人はこうやってやり合いながらいくさの世を生き抜いてきたのだろう。


 私達同僚3人の在り方とは全く違う。戦乱の世の【同志】や【戦友】とはこういったものなのかもしれないとレベルカは思った。


 荒々しくも温かい・・・、そんな仲間たち。


 レベルカには今の父の楽しげで嬉しそうなやり取りが、とてもまぶしく感じられた。


「あっと」


 よそ見をして歩いていたレベルカに何かがぶつかった。それは(・・・)、その巨大な生き物(・・・・・・)は、道の真ん中に堂々と立ちふさがっていた。



「おおお・・・」「これは・・・すごいな」



 トウ・オーカとマーク・ザインはその姿に圧倒され、思わず声を上げた。



「なんだよ、黒雲。わざわざ出迎えか?」



 マリオが近寄るとその巨馬きょばは尻尾を一度払い、知らぬ顔を決め込んだ風に横を向いた。

 通常の馬の2倍近くはあるだろう堂々たる体躯たいくの巨馬の姿に、初めてみる者たちの視線は釘付けになった。



 レベルカとルベルを除く全員が、ほほ上気じょうきさせてうなずき合う。二人騎乗の殿しんがり作戦がこれで決まった。





1話分爺さんの昔話で引っ張りました。次回からはとうとう戦いが始まります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ