表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/68

ロイ・マクエル受難の日々⑪


         第33話


         「激突・迷いの森」





『ピリーーーーーーーーーーーーーーーー』



 部隊長フリス・レベルカからの投降のふえが本隊から聞こえてくる。その音色を聞いたギルド襲撃部隊の右翼副長は、構えていた槍を投げ捨てると両手を頭上に上げた。後ろには戦闘可能な2名がいたが同じ様に得物えものを投げ捨てた。


「マスクのあんた、俺たちは降参こうさんする。あんたとりあってもとても勝負にならねえ」


 マスクの男は2メートルをゆうに超える鉄棒てつぽうを油断なく構えたまま、周りを圧する程に闘気とうきみなぎらせている。降参の言葉を聞いても全く気をゆるめる気配はない。だが落ち着いた声色で3人に声を掛けた。


「・・・そこの3名の降参を了解した。そのままうつ伏せになり頭を抱えているんだ」


 副長は首をかしげる。すでに抵抗の意思はない。武器も捨てたし、気もっていない。だのにマスクの男は増々(ますます)気を高めている。


「?。心配ならいらねぇぜ。あんなすげえ棒術を見せられたんだ。抵抗しようとか、だまし討ちにしようなんて気はさらさらないっってうお!?」



 右翼副長の左側をマスク男の鉄棒がうなりを上げて突き抜かれた。おどろいた副長は尻もちを付く。黒い格好かっこうをした一人が腹を撃ち抜かれていて血をいてドサリと倒れ込んだ。 


 ???な、なんだ?この黒い格好かっこうのやつは?全く気配が無かった。ギルド部隊員の服じゃない。もっと手練れの奴だ。いったい誰だ?副長は一瞬 混乱こんらんする。


「お前たち早くせろ。黒いのに包囲されている。巻き込まれて死ぬぞ」


 マスクの男の声にわれに返った副長は、急いで地面に伏せる。あのマスクの男、さっきまでと口調が違っている。正体不明の黒いのと戦う気だ!れだけは理解出来た。



『シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ』



 森の八方はっぽうから矢がはなたれる。だがマスクの男は鉄棒をまるで小枝こえだでもるうように振り回すと全て払い落としていた。だがそれでも矢は続き、いくら払い落としても途切とぎれること無く矢が放たれ続けている。


 ふれせながらも少し顔を上げて状況を見ていた副長はようやくあの棒術に見覚みおぼえがある事に気付く。あれは【黒弾こくだんアルト】だ。かつてギルドにいた最強の棒術使い。2年前にギルドを辞めたのは知っていたがこんなところにたのか。だとしたらあの黒服の奴らも災難だな。あんな豪傑ごうけつり合うなんて命がいくつあっても足りやしない。


『キィン』、「ぅぐ」


 小気味こぎみよい金属音がしたかと思うと矢が真っ直ぐに飛んで来た方向にね返るように飛んでいく。そしてその奥から人のうめき声。矢を放った本人に刺さったようだった。 



『キン』『キン』『キン』『キン』『キン』


【黒弾アルト】ことアルト・サラは矢と矢じりの種類を見極めると、払い落とすことをやめて鉄棒で打ち返し始めた。飛礫つぶて撃ち。かこんでいるのはおよそ20人程だろう。撃ち返すたびに呻き声がしている。


 こちらの力量を見極めて、接近戦をけて矢でち取る事にしたようだが甘い。小さい矢をいくら打ち込もうと鉄棒を軽くはらえば幾らでも払い落とせる。打ち返すのはこのまま矢が尽きてこの部隊ごと、全員撤退されても面倒めんどうだから討ち取ってやろうと考えたまでの事だ。


「らおおおおおおおおおおおお」


 1人の黒服がこちらに飛び込んで来た。サラは鉄棒を横殴よこなぐりにぎ払う。


『ガギッッ・・・』


 サラの鉄棒をその黒服が受け止める。身体ごと2メートル程 横にズレたが、サラの鉄棒を得物の戦斧で受け止めていた。そして上手くおのに間に鉄棒をめ込んで抑えると固めた。黒服の上からでも判る程の筋骨隆々の大男だった。


「は、はっはー。ど、どうだ!もう棒はるえまい!あとは矢と槍で仕留しとめてやる」


 黒服の大男が勝ちほこる様に言う。確かに力が自慢のようだ、鉄棒をガッチリホールドして動かせない様に抑え込んでいる。


「お前が黒服たちの隊長か?」


 サラが黒服の大男に問いかける。


莫迦ばかを言え、俺 ごときがこの部隊を任されるわけがない。あの御方は中央にられる、お前とギルド残党を仕留しとめてから合流するのだ」


 余程よほど鉄棒を止めたのがうれしいのかベラベラとよくしゃべる。まるですでに勝ったかの様な態度だ。

 ふと2年前の自分とかさなる。ロイ様との立ち会い。勝利を確信した時に自分の棒を掴まれた私は、あせって無様ぶざま狼狽うろたえた。掴むと同時にロイ様が仕掛けて来ていたら・・・。戦場で勝利を重ねるに連れて失くしていった危機感を思い起こした闘いだった。


 勝利の直ぐに隣りに敗北は寄り添っている。勝ちだと思い込んだ瞬間にひっくり返る。逆もまた然り。


 常に頭を柔軟に。時にはこだわりを捨てて勝利を引き寄せろ。


『シュ、シュ、シュ、シュ、シュ』


 棒を抑え込まれたままのサラの背後に矢が飛んでくる。サラは鉄棒からアッサリ手を離すと振り向いて矢をかわしつつその矢を5本程(つか)んだ。


 同時に飛び込んで来た槍の男達に全力で矢を投げつけるとそれぞれが顔に突き立ち、足をふらつかせながらバタリと倒れた。


 そして再び黒服の大男に向き直ると顔 目掛めがけて最後の矢を投げつける。男は思わず片手を鉄棒から離し顔を守った。


「うおおおおおおおおおおおおお」


 一瞬のすきを見逃さず再び鉄棒を持ったサラは雄叫おたけびを上げる。鉄棒を捻るように回転させて黒服の大男を空中に大きくね上げた。5メートル以上も跳ね上げられた大男はすべもなく落下する。頭からの落下にそなえて両手で頭を守るが落下寸前に【黒弾アルト】の秘技が繰り出される。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 裂帛れっぱくの気合いとともに鉄棒の棒端ぼうたんが10個以上に分裂し、黒服の大男を包み込む様に放たれた。


「ぞんなぁ、ガ、カギョ、ビョ、ア、ブッ、」


『ビチャンッ!・・・・・・・・・・・・・』


「ひぃ!」「うう!」「あ、あ。にげろ」


 アルト・サラの秘技【黒弾幕】の全弾を喰らった黒服の大男はただの肉塊にくかいに変わり果て、木に叩きつけられた。

 2年前にロイ・マクエルに打ち込んだ鍛錬用の木の棒ではない、本来の得物である鉄棒での秘技。れを受けて命のあった者はいない。


 地に伏せていたギルド副長は全身をふるわせていた。余りに圧倒的な技と力、間違いなく黒金棒の豪傑【黒弾アルト】だ。


「なんてすげえんだ・・・・世界一の棒術だ。どうやったって、誰もかないっこねぇ・・・」


 生き残っていた黒服数名が逃げ出す。サラは鉄棒を頭上で高速旋回させて血を吹き飛ばすと肩にドッカとかついだ。2〜3人はこの場から逃げられたが此処ここは迷いの森だ、逃げられはしない。それに・・・。



「あ、ああーー」「や、やめ、ひ、ひぃー」



 今逃げた黒服たちの声と思われる悲鳴ひめい断末魔だんまつまが森の奥から木霊こだまする。そして静かに消えた。

 おそらくだがロイ様から森の狼たちに指示が出ている。走って逃げる人間を喰い殺せ、とでも。十重二十重とえはたえと森林狼に飛び掛かられては私とて手に追えないだろう。この森に入ったこと自体じたいが墓穴に入った様なものなのだ。



「ふうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」



 サラはいまだに沸騰ふっとうしているかのような身体を鎮めようと大きく息を吐いた。一呼吸ひとこきゅう置いたところで顔を森の左側に向ける。左翼にはマーク様、そして中央にはロイ・マクエル様が向かわれた。


 言葉は交わさずとも自然とその布陣ふじんとなった。私とマーク様二人で両翼をおさえる、ロイ様はみずから敵軍の最も強固と思える部分に突っ込む。


 それはこのいくさの総大将に、ロイ様が収まったとう事でもあった。それが判った瞬間、血がき身体が震えた。


 まだ13歳とはいえ我が主君だと(・・・・・・)心に定めた御方。その初陣の先鋒を任されたのだ。ふるい立たない理由わけがなかった。


 ただ、ロイ様はそんな私に気づきもしてられないだろう。サラはクックックッと笑いをみ殺すと人知れず鉄棒を天にかかげていた。



『主君に捧ぐ一番槍。このアルト・サラが頂いた』



 サラは心の中でそうつぶやいた。








ひゅ〜、漢だぜ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ