ロイ・マクエル受難の日々⑪
第33話
「激突・迷いの森」
『ピリーーーーーーーーーーーーーーーー』
部隊長フリス・レベルカからの投降の笛の音が本隊から聞こえてくる。その音色を聞いたギルド襲撃部隊の右翼副長は、構えていた槍を投げ捨てると両手を頭上に上げた。後ろには戦闘可能な2名がいたが同じ様に得物を投げ捨てた。
「マスクのあんた、俺たちは降参する。あんたと戦りあってもとても勝負にならねえ」
マスクの男は2メートルを優に超える鉄棒を油断なく構えたまま、周りを圧する程に闘気を漲らせている。降参の言葉を聞いても全く気を緩める気配はない。だが落ち着いた声色で3人に声を掛けた。
「・・・そこの3名の降参を了解した。そのままうつ伏せになり頭を抱えているんだ」
副長は首を傾げる。すでに抵抗の意思はない。武器も捨てたし、気も張っていない。だのにマスクの男は増々気を高めている。
「?。心配ならいらねぇぜ。あんなすげえ棒術を見せられたんだ。抵抗しようとか、だまし討ちにしようなんて気はさらさらないっってうお!?」
右翼副長の左側をマスク男の鉄棒が唸りを上げて突き抜かれた。驚いた副長は尻もちを付く。黒い格好をした一人が腹を撃ち抜かれていて血を吐いてドサリと倒れ込んだ。
???な、なんだ?この黒い格好のやつは?全く気配が無かった。ギルド部隊員の服じゃない。もっと手練れの奴だ。いったい誰だ?副長は一瞬 混乱する。
「お前たち早く伏せろ。黒いのに包囲されている。巻き込まれて死ぬぞ」
マスクの男の声に我に返った副長は、急いで地面に伏せる。あのマスクの男、さっきまでと口調が違っている。正体不明の黒いのと戦う気だ!其れだけは理解出来た。
『シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ』
森の八方から矢が放たれる。だがマスクの男は鉄棒をまるで小枝でも振るうように振り回すと全て払い落としていた。だがそれでも矢は続き、いくら払い落としても途切れること無く矢が放たれ続けている。
伏せながらも少し顔を上げて状況を見ていた副長はようやくあの棒術に見覚えがある事に気付く。あれは【黒弾アルト】だ。かつてギルドにいた最強の棒術使い。2年前にギルドを辞めたのは知っていたがこんなところに居たのか。だとしたらあの黒服の奴らも災難だな。あんな豪傑と戦り合うなんて命が幾つあっても足りやしない。
『キィン』、「ぅぐ」
小気味よい金属音がしたかと思うと矢が真っ直ぐに飛んで来た方向に跳ね返るように飛んでいく。そしてその奥から人の呻き声。矢を放った本人に刺さったようだった。
『キン』『キン』『キン』『キン』『キン』
【黒弾アルト】ことアルト・サラは矢と矢じりの種類を見極めると、払い落とすことをやめて鉄棒で打ち返し始めた。飛礫撃ち。囲んでいるのはおよそ20人程だろう。撃ち返す度に呻き声がしている。
こちらの力量を見極めて、接近戦を避けて矢で討ち取る事にした様だが甘い。小さい矢を幾ら打ち込もうと鉄棒を軽く払えば幾らでも払い落とせる。打ち返すのはこのまま矢が尽きてこの部隊ごと、全員撤退されても面倒だから討ち取ってやろうと考えたまでの事だ。
「らおおおおおおおおおおおお」
1人の黒服がこちらに飛び込んで来た。サラは鉄棒を横殴りに薙ぎ払う。
『ガギッッ・・・』
サラの鉄棒をその黒服が受け止める。身体ごと2メートル程 横にズレたが、サラの鉄棒を得物の戦斧で受け止めていた。そして上手く柄と斧に間に鉄棒を嵌め込んで抑えると固めた。黒服の上からでも判る程の筋骨隆々の大男だった。
「は、はっはー。ど、どうだ!もう棒は振るえまい!あとは矢と槍で仕留めてやる」
黒服の大男が勝ち誇る様に言う。確かに力が自慢のようだ、鉄棒をガッチリホールドして動かせない様に抑え込んでいる。
「お前が黒服たちの隊長か?」
サラが黒服の大男に問いかける。
「莫迦を言え、俺 如きがこの部隊を任されるわけがない。あの御方は中央に居られる、お前とギルド残党を仕留めてから合流するのだ」
余程鉄棒を止めたのが嬉しいのかベラベラとよく喋る。まるで既に勝ったかの様な態度だ。
ふと2年前の自分と重なる。ロイ様との立ち会い。勝利を確信した時に自分の棒を掴まれた私は、焦って無様に狼狽えた。掴むと同時にロイ様が仕掛けて来ていたら・・・。戦場で勝利を重ねるに連れて失くしていった危機感を思い起こした闘いだった。
勝利の直ぐに隣りに敗北は寄り添っている。勝ちだと思い込んだ瞬間にひっくり返る。逆もまた然り。
常に頭を柔軟に。時には拘りを捨てて勝利を引き寄せろ。
『シュ、シュ、シュ、シュ、シュ』
棒を抑え込まれたままのサラの背後に矢が飛んでくる。サラは鉄棒からアッサリ手を離すと振り向いて矢を躱しつつその矢を5本程掴んだ。
同時に飛び込んで来た槍の男達に全力で矢を投げつけるとそれぞれが顔に突き立ち、足をふらつかせながらバタリと倒れた。
そして再び黒服の大男に向き直ると顔 目掛けて最後の矢を投げつける。男は思わず片手を鉄棒から離し顔を守った。
「うおおおおおおおおおおおおお」
一瞬の隙を見逃さず再び鉄棒を持ったサラは雄叫びを上げる。鉄棒を捻るように回転させて黒服の大男を空中に大きく跳ね上げた。5メートル以上も跳ね上げられた大男は為す術もなく落下する。頭からの落下に備えて両手で頭を守るが落下寸前に【黒弾アルト】の秘技が繰り出される。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
裂帛の気合いとともに鉄棒の棒端が10個以上に分裂し、黒服の大男を包み込む様に放たれた。
「ぞんなぁ、ガ、カギョ、ビョ、ア、ブッ、」
『ビチャンッ!・・・・・・・・・・・・・』
「ひぃ!」「うう!」「あ、あ。にげろ」
アルト・サラの秘技【黒弾幕】の全弾を喰らった黒服の大男はただの肉塊に変わり果て、木に叩きつけられた。
2年前にロイ・マクエルに打ち込んだ鍛錬用の木の棒ではない、本来の得物である鉄棒での秘技。此れを受けて命のあった者はいない。
地に伏せていたギルド副長は全身を震わせていた。余りに圧倒的な技と力、間違いなく黒金棒の豪傑【黒弾アルト】だ。
「なんてすげえんだ・・・・世界一の棒術だ。どうやったって、誰もかないっこねぇ・・・」
生き残っていた黒服数名が逃げ出す。サラは鉄棒を頭上で高速旋回させて血を吹き飛ばすと肩にドッカと担いだ。2〜3人はこの場から逃げられたが此処は迷いの森だ、逃げられはしない。それに・・・。
「あ、ああーー」「や、やめ、ひ、ひぃー」
今逃げた黒服たちの声と思われる悲鳴と断末魔が森の奥から木霊する。そして静かに消えた。
おそらくだがロイ様から森の狼たちに指示が出ている。走って逃げる人間を喰い殺せ、とでも。十重二十重と森林狼に飛び掛かられては私とて手に追えないだろう。この森に入ったこと自体が墓穴に入った様なものなのだ。
「ふうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
サラはいまだに沸騰しているかの様な身体を鎮めようと大きく息を吐いた。一呼吸置いたところで顔を森の左側に向ける。左翼にはマーク様、そして中央にはロイ・マクエル様が向かわれた。
言葉は交わさずとも自然とその布陣となった。私とマーク様二人で両翼を抑える、ロイ様は自ら敵軍の最も強固と思える部分に突っ込む。
それはこの戦の総大将に、ロイ様が収まったと云う事でもあった。それが判った瞬間、血が湧き身体が震えた。
まだ13歳とはいえ我が主君だと心に定めた御方。その初陣の先鋒を任されたのだ。奮い立たない理由がなかった。
ただ、ロイ様はそんな私に気づきもして居られないだろう。サラはクックックッと笑いを噛み殺すと人知れず鉄棒を天に掲げていた。
『主君に捧ぐ一番槍。このアルト・サラが頂いた』
サラは心の中でそう呟いた。
ひゅ〜、漢だぜ。




