ロイ・マクエル受難の日々⑨
キモヲタ爆誕編と言えるかもしれません。
第31話
「爆誕の鼓動」
「ほ〜い、じいちゃん。この娘の写真はこれで〜。この寝起きを見られて、はにかんでる感じが一番魅力的な顔だと思うよ。このアングルがまたいいんだ〜。コレコレこの表情が」
「ほうほう?どれ見せてみい・・・お、意外な写真を選びおったの、しかしこれはううむ」
「さすがはロイ氏。目の付け所が違うでゴザルな」
「ロイ様、くんは選ぶ視点が人と違っていて、意表を突いてきますよね。なのに不思議と魅せられてしまう。チョイスがマーベラスだ。デュフフ」
「マーク兄さん。サラさん。もういい加減マスクと仮面を外して作業しませんか?もうバレバレですから・・・」
「・・・・私は夢追い人、紳士仮面でゴザル」
「・・・・私はマスクドドリーマーでデュフ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
あの捕物劇の後、この三人組にとっ捕まった僕 ロイ・マクエルは『夢工房』へと連れ込まれた。じいちゃんがリュックサックから出したのは写真と絵、それと数冊のノートだった。どんな暗黒物質が出てくるのかと震えていたのだが案外大人しいブツで安心した。だが。
出てきたのは美少女の写真ばかりと絵である。ある種の悪寒が走り再び脱出を試みたが、すでに僕の足には鉄球付きの鎖が繋いであった。囚人かよ。
どんな犯罪に手を貸すのか?誘拐も拉致監禁も断固拒否する。僕は無実だ。弁護士を呼べ!そうか、だから顔を隠してるのか!真実はいつもひとつ!・・・などと考えていたらじいちゃんに頭を叩かれた。
「なんちゅう表情をしとるんじゃ?言っておくが別に疚しい物ではないぞ。本人と親御さんの同意の元に撮影した写真じゃ」
「え?ウソ?正攻法で?盗撮とかじゃないの?」
「王族貴族にはハウンズ家の威光で、平民には金を積んで理解を得た。なにも問題は無い」
「問題だらけじゃん!超悪辣じゃん!無理を通して道理を蹴っ飛ばす!もうシモン合体じゃん!」
「ロイ氏。言葉が過ぎる、でゴザル。同意があり法に触れないなら、なんら問題はないのでゴザル。ニンニン」
・・・上手く誤魔化そうとしてるとしか思えない。それにどうやら複数の女の子の色々な表情の写真があるようだ。あっ、この子かわいい!僕のタイプ・・・・おおっと!不味いぃ!
お・・・恐ろしいブツじゃないか。侮っていた。僕みたいな子供からじいちゃんみたいな老人に至るまで、美少女とはある種、憧れの存在だ。
そんな彼女たちが垣間見せる自然な笑顔や飾り気のない素顔がこの写真たちには納められている。一瞬で心を捉えて離さない。男性が皆、一目惚れするような表情が納められている。ああ〜心がフワフワするんじゃ〜。
「呆けとる場合か!よいかロイ。此等の写真と神絵師イラストを選りすぐり、其れにプロフィールを載せて一冊の本に昇華せしめる。其れがこの【夢工房】の成す御業じゃ!」
『ガーーーーーーーーーーーーーーーーーン』
「僕の代わりに驚かないで下さい、サラさん」
「なんだ、アッサリしてるなロイくんは。驚かないのかい?私は2年前に初めて手伝いを頼まれた時は驚いたけどな。ハウンズ家のご隠居様がこんな本を作っているなんて・・・ってね」
「・・・・・・・・・ひょっとしてじいちゃん。その本って、この娘たちのお見合い用の身上書。みたいなモノ?」
「ほっほっ、察しがいいの。その通りじゃロイ。悩み多き若き男女に美しき理想の出会いを提供する。それこそが今から製作する儂が総監修を務めるこの『美少女㊙大年鑑』の本当の姿なんじゃ!」
なっ・・・なんだってー!!美しい理想は何処に消えた?コンセプトを完全に破壊する、MMRもビックリの『ネーミングセンス』だ。どう聞いても如何わしい内容しか連想できねぇ。頭に何か湧いてるのか?何でそんなタイトル付けるんだよ?せめてブライダルエールとかマリッジハニーとか夢溢れるモノにしろよ。知らんけど。
「まあ、本のタイトルは私もどうかと思うでゴザルが、幸いこの娘たちはこの本は見ない。そして我等キューピット隊によって選抜された、容姿端麗、頭脳明晰、由緒ある家柄の男性のみがこの本を閲覧可能となるでゴザル」
「この世界はまだまだ戦乱が収まっておらん。王族貴族にこだわる気はないが愛のある婚姻を少しでも増やして世界を平和に導くのじゃ」
・・・とても導けるとは思わない。宝塚歌○団でも不可能だろう。ましてやこの三人組では天に唾するようなものだ。
「デュフフ。疑う気持ちもわかるがロイくん。昨年この本をきっかけに40回以上のお見合いが行われ実に22組が婚約や結婚に至っている」
「えっ・・・・・・・・・・・・・・マジ?」
僕はその結果に軽い戦慄を覚えた。す、すげえ、そんな事あり得るのかよ。何故か胸がドキドキしてきた。たった一冊の本から全てが始まりそして世を救う。ドラ○ンボールかよ。
「儂の信念は既にお前に伝えた、ロイ。『赤心を推して人の腹中に置く』じゃ、まずは儂らを信じるとこから始めてはどうじゃ?儂らはお前の力を是非借りたい」
人の足に鉄球をはめて置いて、カッコイイ事言い出しちゃったよ。・・・・・・・・・この戦乱の世を戦でなく、こんな方法で終わらせる。
そんな馬鹿な、とも思う。でも確かに出会う筈の無い男女が結ばれたのだ。西側諸国の戦の減少に何らかの影響もあったのかも知れない。
「・・・・・・僕は何をすればいいのかな?」
「良いぞ良いぞ。ロイ、お前には複数枚ある写真からその娘のベストショットを一枚選び出せ。ただかわいいのを選ぶのではないぞ。プロフィールも確認して、最も男性を惹きつける写真じゃぞ。お前の眼力に期待しておる。今年度の掲載美少女は30名、妥協は決してゆるさん。良いな」
「それって一番重要な役目じゃん。第一印象がかなり大きな要素だろ?いいのかよ、僕が担当して」
「こう見えて私は一応王族でね。絵画に関してはうるさいんだ。この一年、美少女達のセクシーポーズの絵を神絵師達と交渉してきていてね。今日はその最終チェックをするんだ。デュフフ」
マスクドドリーマーはニヤリと嫌な笑いを向ける。
「私はプロフィールを上手く編集して見事な紹介文にして魅せるでゴザル。『P』と呼んでクレメンス」
変態仮面、違った。紳士仮面が変な決めポーズで言った。フォーー。
「まあ、そう云う事じゃ。それぞれ得意な担当分野があり、お前は人を観る事に長けていたであろう?責任は儂が取る。精一杯やってみよ。全体の編集作業は儂が担当する!みんな、期限は本日中じゃ。ゆくぞぃー!レディゴー!!」
なにやら聞き捨てならない言葉が聞こえたが、こうなったらもうやるしか無い!僕も男だ、引き受ける以上は全力を尽くすだけだ。
「「「オオーーーーーーーーーーーーーー!!!」」」
漢たちの奇声が天空に大きく轟いた。
────── その日の夜、丸太小屋横。
「おー、こんなところにいたのかい。お疲れさん、ロイくん。もう殆ど全員の写真を選別し終わってたね。流石だよ・・・デュフフ」
「ああサラ・・・ドリーマーさん。いえ、まあある意味好きな写真を選んだだけみたいな所ものありますから・・・早いのだと思います」
丸太小屋横のベンチで小休止を入れていた僕の側に、サラさんが寄ってきて声を掛けてきてくれた。
「そういえば君はまだ知らないかも知れないがハウンズ家の三人姉妹、全員お見合いしてるんだぜ。この本の前号がキッカケになってね」
「え!!?マジっすか!?知らなかったです。意外だな〜。いや、確かに顔はいいですもんね」
「マリアンヌ様もブリジット様も相手の熱心なラブコールに満更でもないようだ。西側に属する国の第一王子に宰相の長男でどちらも将来有望。家柄も当然、申し分ない。何度か食事やデートをされている、尚且二人ともとても誠実だ」
「すげえ・・・。そんな優良物件男子、よく探してこれますね」
「美少女情報は入手に苦労するが男子は意外と手に入れやすいんだ。優良物件の情報は巷の女性に聞けば簡単に手に入るくらいだ」
「ほえ〜〜なるほど〜。そう云うものなんですね。」
「まあ地元の協力者も雇っているし、各国にはハウンズ家と懇意にしている要人も多い。話によると20年前からガトリン様やガントス様が作り上げてきた人脈がここ数年で実を結び始めてきたらしい」
じいちゃんも父様も昔は戦場で武者として名を馳せていた、と母様から聞いたことがある。
でも武者でいる事をある時から辞めた。きっと戦にいくら勝とうと平和にはならない。無意味だと考えたからではないだろうか。
じいちゃんは国を越える沢山の婚姻を、父様は国境を跨いで人脈や信頼関係を縦横に築いた。それらをやり遂げるのは綺麗事ばかりではなかったはずだ。
母様やリリアーヌ先生がある王族の思惑で横死する事になったように、水面下できっと情報戦や調略戦、謀略戦をくぐり抜けてきているのだ。そうして掴んだ今の平和なのだ。
僕もリリアーヌ先生が死んでしまった時、絶対に相手を許せないと思った。憎しみは憎しみを呼び、戦は戦を呼ぶ。だけども同じ様に、愛が愛を呼ぶのならば、今しているこの本づくりは永遠に続く平和への架け橋だ。・・・・・・・なるほど。
「まあ、あまり深く考えすぎるなよ。ロイ。剣が鈍るようでは命取りになるぞ」
「あ、変態仮面。もう落ち着いたのかい?」
「紳士仮面だロイ。シレっと言い間違えるな。まあだいたい終わった。でゴザル」
いつの間にか丸太小屋から出てきていたマーク兄さんも話しかけてきた。
「いくら平和を望もうとも世界に目を向ければあちこちで戦も、国境を巡っての小競り合いも起きている。私は中央国家群や東方異国にも足を伸ばしているが、まだまだ戦乱の世であるのだと痛感している。剣を向けてくる相手には一片の情けも要らない。・・・まあこれは釈迦に説法だったかな?この森に住んで、狼達を使い、この2年間侵入者からハウンズ家を守ってきているのは誰であろうお前だもんな」
「・・・・・・・・大したことはしてないよ」
「そう云う事にしとくよ。ありがとうな、ロイ」
「さて、明日の早朝には全ての作業を終わらせて、資料を印刷所に持ち込む予定だ。今回はロイの写真選別が神作業だったから余裕があるでゴザルよ」
自分としてはただ好みの写真、一番惹かれる写真を選んだだけだ。あまり褒められ過ぎるのも逆に何だか申し分けない。
神絵師の描いた娘の服や背景に修正を加えて、より引き立たせているドリーマー。グッとくる紹介プロフィールを次々書き上げていく紳士仮面。
僕よりずっと凄いと思うんだ・・・。
「何だか複雑そうな顔をしてるなロイ。私らに取ってみたらベストショットの写真を選ぶ事が一番難しいんだぜ。2年前の編集作業でもメインの写真の意見が対立し合って現場は修羅場と化していたんだ。誰もが自分の好みをどうしても選んでしまうからね。でゴザル」
「そう云う事。ロイくんが選んだ写真と理由を聞いたら、ことごとくが全てストンと心に収まった。私達も期待していたが、それ以上の眼力だと思うよ。ご隠居様が絶対に迎えたい同志であると言った事がよく解った・・・デュフフ」
やっぱりあのジジイが主導して僕を嵌めていたか。人をナンだと思っているんだ。同志ってなんだよ・・・・・・・・・。
この写真選びを任される事になった僕は、とある選別法を閃いて実行に移した。それは正しく天啓。それによって新しい世界へ覚醒しつつあるかもしれない。これはヤバいと云う自覚は十分ある。ざわ・・・ざわ・・・・・。
僕は写真に映るの女の娘一人ひとりに恋をした。
二人の出会いを想像する。ほのかに灯る淡い憧れ。淡雪のように募り始める想い。それが本気の恋なのだと自覚してしまう自分。そんな一瞬を切り撮るように、そんな写真を選び抜いた。
つまりさっきまで僕は30人の女の子達と出会い、恋をし、そして別れたのだ。大粒の涙を堪えながら。別れる運命を悔やみながら。
あの時の僕を周りの人が見たら、絶対超絶にキモチ悪い人に見えたに違いない。断言できる!写真の女の娘に純愛プラチナラブ!もちろんその娘たちは僕を知らないっ!!!m9(^Д^)プギャー!!!!
マジスカ?マジスカ?僕超ヤッベーーーー!完璧なヲタ的、超☆恋☆愛!ココに爆誕ス!!!!!!
いっそもう殺してくれ・・・。
・・・や、でもこの方法が僕は一番良いと思ったんだ。いや、コレしかない!写真を見て恋心を持ってくれる相手を探すんだ、なら先ずは僕がこの娘達を好きにならなくちゃならない。本気の恋する気持ちをこの娘たちに抱く、そして募る想いと燃え始めた恋心で写真を探して選び抜く。
きっとそうしないと本物の恋人を探す男性の心に届く写真は選べない。その心を掴めない。そう思ったのだ・・・。くそっまた涙が、
正直かなり疲れてはいる、本気の恋と別れを30回繰り返したのだ。彼女いない歴=年齢の筈なのに失恋による大ダメージを心に受けてる。これでいいのか僕の青春。誰か助けろ下さい・・・・・・・・・。
『ポン』『ポン』
自然と肩に置かれた手は口に出さずとも、労いの意味が籠められているのが判る。ありがとう同志よ。
僕らは互いに今日の健闘を称え合い、拳を合わせると揃って丸太小屋の横で夜空を見上げる。
降るような星空は、ただそこで瞬いているだけで心が満たされる気持ちになる。そんな不思議な充実感を僕たちは共用していた。
『ガサッ』
そんな中、森から静かに森林狼が姿を現した。
僕以外に人がいる時は決して姿を見せないこの一帯を仕切るボス狼だ。それが今、姿を見せた。
「・・・ロイ。これは」
「・・・ひょっとして」
ドリーマーと仮面の問いかけが重なる。流石に二人は一瞬で今の事態を察した。
この迷いの森に、不自然な真夜中に、気配を消した侵入者が、入り込んでいる。
そして今、この小屋に迫っている。




