迷いの森と少年R ⑫
「超絶!コミュ障騎士!」第20話お届けします。
これが本作の略称です。(๑•̀ㅁ•́๑)✧キリッ
第20話
「掛け違えた想い」
「「「やめてぇぇぇぇぇぇぇ」」」
三姉妹の絶叫がエントランス内に木霊する。
その絶叫とほぼ同時に、黒い影がロイ・マクエルを横から襲う。黒い影はロイを抱きしめるように跳びつくと、折り重なって丸まりエントランスの床の上を数メートル先まで転がった。
その影は三姉妹より数瞬だけ遅れて飛び掛かった、カーズ公国元兵士のリンネだった。
重なり合ったまま倒れ込んだ二人だったが起き上がってきたのはリンネ一人で、ロイはそのまま倒れ込んでピクリとも動かなかった。
「コイツ、息してないよ!」リンネがロイの異変に気づいて叫んだ。涙目になりながらで必死に身体を擦っている。身体が氷のように冷え切っていた。
ロイの異変に家族が我先にロイの元に集まる。ガントス侯がロイの胸元を広げ心臓マッサージを始めた。
誰か人口呼吸、と言い終わらないうちにリンネはロイの頭に縋り付いて唇を合わせると、懸命に息を送り込んでいた。
「ちょ、な、んですの?このおと、女?」
「な、・・・・・・よ、よそ者の分際で」
「!!!だ、誰?な、何?な、なんで?」
三姉妹がその様子を見てにわかに色めき立つ。リンネが息を吸い、ロイに息を吹き込む為に口を重ねる度に三姉妹から溜息のような吐息が漏れる。
・・・なにを考えてるんだ。ラズとマークの兄二人は呆れたように三姉妹を見ていると。
「かっはっ・・・」
ロイの口が動く。兄妹が一斉に心臓マッサージをしていたガントス侯爵に目を向ける。ガントス侯はロイの胸に耳を当てた後、皆の顔を見て大きく頷いた。兄妹や周りの使用人達から安堵の声が上がる。
エントランス内は一気に歓声に包まれた。何も出来ずに成り行きを見守っていた執事たちや使用人たちも隣の同僚と喜び合っているようだ。
リッケルンはその光景を微かな羨望を感じながら見つめていた。その情景こそ、カーズ公国の王家や家臣団で見たかったものだった。
もはや叶う筈のないものだ、リッケルンはゆっくり立ち上がるとガントス侯に近寄っていく。
「ガントス侯。この薬を彼に飲ませられますか?温熱効果もありますが鎮静剤です。目を覚ますとまた暴れるかもしれませんので今のうちが良いかと」
リッケルンは懐にあった薬をガントス侯に手渡した。戦地で子供を助ける時は大体これを飲ませるので、いつの間にか常備薬の様になっている。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
皆が訝し気な視線を向けてくる。当然だろう。私はカーズ公国の人間で、ハウンズ夫人の仇の様な存在だ。
あの黒い服の少年、いや少女は使われていた一兵士だが私は宰相補佐の肩書きがある。断罪されて然るべき立場の人間なのだ。
己の置かれている立場は解ってはいたが、それでも協力せずには居られなかった。
私の短剣を奪った時に見たあの子の目は、限りない優しさに溢れていた。心が震えた。このままでは目を開けても死ぬまで闘うかも知れない、まずは気持ちを落ち着かせる事が先決なはずだ。
ガントス侯爵はわずかに沈黙するも、明快に答えた。
「有難う、リッケルン殿。拝借しよう。しかしどうやって飲ませるとよいかな?」
「息も戻ったことですし喉に詰まらせない様に上半身を少し起こして、え〜、口付けで飲ませることが良いと思います。即効性のある薬ではありますが少しでも早目がいいかと」
リッケルンは落ち着いて説明をしていたが周囲から鋭い視線を感じ始める。特に口付け、の下りの話が出たあたりからな気がする・・・。
「コホン。ここは長女の私が適任ですわね」
そう言うとガントス侯の手から素早く錠剤を取ろうとするルイ・マリアンヌの右手を雷光の如き素早さで二女のアン・ブリジットが掴んだ。
「姉様はお疲れでしょう?先程両手で私やリリの手首を全力ホールドしておられました。私がやりますからどうぞ姉様はお休みになられて下さい」
「あら?アン。あのくらいなら大丈夫よ。さあその手をお離しなさいな」
「いえいえ。そうおっしゃらずに、その役目は私に」
二人はお互いに微笑みながらも、まったく引く素振りをみせない。視線で火花が散っている様に見える。こちらもある意味、竜虎相打つ戦いを繰り広げていた。
「ちょ、ちょっと貴女。もう息を吹き返したんだからもう人口呼吸はい、い、の、よぅ」
「ま、待て。まだ何があるかわからん。ま、万一に備えて俺が錠剤を口付けでの、飲ませるのがい、い、は、ずぅ」
三女のリリ・マーガレッタはいつまでもロイの頭を膝枕しているリンネを半ば力尽くで引き離そうとしていた。
「し、白々しい。な、何なの貴女の顔?ま、真っ赤になって、す、すごい動悸じ、ゃないの。か、完全に、トゥンク♡な、表、情、じゃ、ないのぉ〜」
「な、なんだよ、トゥ、トゥンク♡顔って?こ、言葉つ、作んな。お、俺は、ただコイツが、心配、で、ぇ」
ロイ・マクエルを巡って女4人がまるで奪い合いの痴話喧嘩の様相を呈してきた。側で成り行きを見ていたベルフローラ共和国のバルバッコス将軍は思わず吹き出しそうになりガントス侯爵を見るとこちらも呆れ顔で溜息をついていた。
壮年のバルバッコスから見るとまだまだ乳臭い小娘達だが、流石は傾国の美女と謳われたハウンズ夫人の娘達だけあって将来はかなりの美人に育つと思える美形揃いだ。
それだけにもみくちゃで囲まれているロイのブサイクが目立つ。美女と野獣、いや、月となんだ、潰れカエル?とかか?我ながら酷い言い草である。・・・・・・・・とは言いながらもこの少年に関してはバルバッコス自身も手元に置いて鍛え上げてみたいと思える程に、この少年の事を気に入っていた。
手合わせから感じた事だが、戦い方は常に果敢で冷静さも見て取れた。決断力もある。何より武人としての成長スピードがべらぼうに早い。闘いぶりが丘の上の時と、先程のガントス侯の時とでは雲泥の差があった。死地を乗り越える度に強くなっているかの様だ。それに加えてあの目。優しさと哀しみを内に秘め、強い意思を感じる瞳。思わず惹き込まれそうになる。
これでまだ10歳。どこまで強くなるのか?どれだけの軍勢を率いる将になるのか?器が知れぬ。ひょっとすると儂は今、伝説となる英傑を見ておるのではないか。と感じるほどだ。
この麒麟児を今の内に祖国ベルフローラ共和国に迎え入れておきたい。ハウンズの財力に我が国の軍事力が加われば、・・・西側諸国を統べる事ができるやもしれん。
今の内に恩を売っておくか・・・。
「姉妹での諍いはいかんな。どれ、儂が飲ませてやるからみておれ」
そう言うとバルバッコスはガントス侯の手から小さい錠剤を受け取る。そして無造作にロイ・マクエルの鼻をつまむと大きく開いた口に小さな錠剤を放り込んだ。
「ん、んぐっ」
「「「「ああ〜〜〜」」」」
何故か残念そうな吐息を4人が漏らした。バルバッコス将軍の後から小さく舌打ちや「老害ね」などの声が聞えた。きっと空耳だろう。
無意識に飲み込んだ薬に驚いたのかロイが目を覚ました。その途端に三姉妹はパッと離れて悪態をつき始めた。
「と、父様に剣を向けるだなんて、どこまで身の程知らずなの?ボ、ボロボロの身体の癖して無茶ばっかりして・・・も、もう!頭、悪いわね」
「は、早く治療して貰いなさい。あ、あと臭くて堪らないわ。そのあとお風呂に行きなさい。わ、私は一緒にはいかないからね・・・い、いかないから」
「そ、それとど、どこでこんなど、泥棒猫ち、ちが、女狐を誑かしたのよ?ブ、ブサイクだからって汚らわしい」
「んんんんん。ん〜んんん(口を塞ぐな、引っ張るな)」
4人ともさっきとはうって変わってソワソワキョロキョロし始めた。リッケルンも思わず含み笑いが漏れてしまう。
明らかに4人ともロイ少年を意識しまくっている。しかし実の弟であったり、仇であったりするためなのかかなり捻くれた物言いになっている。醜男なのに罪な男だ。
一方イマイチ事態が飲み込めないロイ・マクエルは呆然としたまま周りを見回している。
「大丈夫か?どうやら薬が効いとるようだの。なんせ君のファーストキッスを貰ってまで儂が口付けで飲ませた薬じゃからのう。家族と儂に感謝するように。ガッハッハッ」
「!」「!」「!」「!」「!」「あっ!」
バルバッコス将軍の悪趣味な冗談に周りが凍り付く。
その中でリッケルンだけは思わず声が出た。不味い。あの薬は鎮静剤の成分だけでなく、人の言う事を素直に信じさせる効能のある薬草も入っている。早く説明を。
呆けていたロイ・マクエルの顔から徐々に血の気が引いていくのが解かる。ワナワナと震えだしている。
「ち、違うんだロイ君!将軍は薬を、鼻をつまんで飲ませただけなんだ!君を心配してのことなんだ!」
その説明じゃ誤解とけないじゃん!三姉妹は心の中で、リッケルンにツッコミを入れた。
「そう、か。・・・・・・・・・家族がみんな揃っているのに寄りに寄ってこんな髭ズラのおっさんの口付けで、僕に気付け薬を飲ませたんだね」
「「「「ち、違うのよ。そうじゃなくて」」」」
『シュカ!』『バンバタン!』
ロイの姿が掻き消えた。ほぼ同時に一階奥の扉が開閉する音がした。余りの速さに誰もロイを止められなかった。
本邸の奥からなにやら悲鳴と騒ぎの声が聞こえた後、パリーンとガラスの割れる音が響いた。最初にガントス侯爵が我に返り周りの使用人たちに様子を見てくるように指示を出そうした時、一階奥の扉が大きく開かれた。
「た、大変だよ!今しがたロイの莫迦がリリアーヌ先生と無鳴剣を持って窓から逃げて行ったよ!何があったの?早く捕まえに行かないと!」
ハウンズ家の3男レイ・ハモンがエントランスの全員に向けて大声でそう叫んだ。
バルバッコス以外の全員が思わず天を仰いだ。
ラブコメパート(モテモテハーレム編)を
少しだけですが書けたので良かったです。




