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迷いの森と少年R ⑥

将軍のターンがようやくやって参りました。

 

         第14話


       「虎とケモノ」




「その剣。無鳴剣だな」



「・・・・・・・・・」



 丘の上にいた集団から近付いてきていた大男が声を掛けてきた。

 ・・・先程見た軍隊?の中から出てきたようだ。この丘は隣国のカーズ公国の領地だから訓練中の部隊か。特に興味はなかったが・・・。

 なぜあの男は無鳴剣の事を知っている?ひげズラの大男。何者なにものだ?

 ビリビリと肌に刺すような殺気がある。誰かは判らないが強い。本気のリリアーヌ先生に近いものを感じる。



「だとしたら、なんだ?お前に関係ない」



「・・・・まだ子供だな。声変わりもしておらん。驚いたな、なにがあった?それにその剣、どうやって手に入れた?・・・返答如何(いかん)によっては只では返せんぞ」



 わずらわしい。僕は急いでるんだ。何か知ってるかも知れないが聞いたところでもう意味がない。リリアーヌ先生はもういないのだ。

 あの自慢気な笑顔も、悪ふざけのニャニャ顔も、もう見れない。・・・だって。死んでいるのだから。



「死んだよ。リリアーヌ先ッ」


 『ガイィィィン』



 異質な空裂音が聞こえ咄嗟に剣を構えたが、剣ごと槍を受けて後ろに数メートル飛ばされた。なんだ?あの髭ズラ男が突いたのか?

 凄まじい衝撃だった。身体全体が、足の指先まで痺れている。

 ・・・しかも槍の穂先でなく石突の方で突いてやがる。これで手加減しているのか?それでこの威力。なんなんだコイツ?



「リリアーヌが死んだだと・・・・まさかとは思うがお前が殺して、その剣を奪ったのではあるまいな?」



 一段と殺気が高まる。凄い武威ぶいの圧力だ。呼び捨てにしてるとこから察するに先生の知り合いか?男の周りに黄色い何かが立ち昇るような・・・

 いや、それを内に、気力を溜め込んでいる。ように感じる。先生の全力の一太刀の前もこんな感じだった、そして考えられない斬撃を繰り出してきた。



 ふと怒りが湧いてくる。髭ズラ、お前はなんだ?それ程怒っているのなら何故あの場に居なかったんだ?こんなところで無駄に怒っても意味はない。何の役にも立ちはしない。


 ・・・・そう。僕は役に立たないクズだった。無駄に逃げている人間を何人も殺めて。家族がいたかも知れない人間達を無意味にただの肉塊に替えた。

 母様も止めたじゃないか。少し剣が使えるからどうだと云うんだ。使えないクズの剣は壊して潰すことしか出来ないのか・・・。



「どうした?何も言えんのか?」



 兄妹達も、目の前の髭ズラも、そして僕も、先生を助ける何の役にもたちはしなかった。・・・・特に僕だ。陽動をするのでなく先生のそばで闘うべきだった。母様も兄姉も人質にはなっても命までは取られ無かった筈だ。

 僕の判断の不味まずさから先生を見殺しにしたんだ。僕が殺した様なものじゃないか。

 ・・・何故か笑えた。滑稽こっけいだった。無様で頭が悪く、目の前の事でしか判断できない。このおっさんもさっきの僕と同じだ。クズロイと同じだ。




「ああ。僕が殺した、剣も貰った」



 『ブオン』



 風が足元から舞い上がる。髭ズラ男が頭上で槍を旋回して構えた。気が満ちている。ゆらゆらと槍の穂先が揺れている。・・・来る、気だ。


「餓鬼の癖に命知らずか。命を無駄にするなよ。剣だけ置いて逃げても笑わんぞ」



「言ってろおっさん。さっさと来い」



「このバルバッコスの前でよくぞ吐かした。餓鬼だが首を貰うぞ。リリアーヌへの手向けになろう」


「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」


 雄叫び。虎の咆哮。槍が生き物のようにユラリと動いた。馬上からの槍。

 唸り声のような音を起てながら右からの薙ぎ払い。なんとか寸でのところ躱した。

 が、次の瞬間頭上から槍が分裂したかのような連続突き。躱しきれず一つを剣で受ける。

 身体が地面に叩きつけられる。ぎりぎりで受け身を取り、直ぐに身体を起こす。


 目の前に槍の穂先が迫る。避けられない、剣先を槍と身体の隙間にねじ込み槍の軌道を僅かに逸らす。いなせた。だがいなした槍の軌道が突きから払うに変わり、僕を左に大きく払い飛ばした。飛ばされながらうまく地面に手を付き回転し、受け身を取って立ち上がる。



 人馬が凄い勢いで突っ込んで来る。馬上で槍の穂先を高々と天に向けている、雄叫び。

 轟音をともない槍が頭上からの振り落ろされる、必殺の一撃。受けても潰される、躱してもきっと次撃で捉えられる、なんとか剣でいなすしかない。

 穂先に集中しろ。無鳴剣を頭上に構え振り下ろしに合わせて流した。

 顔に風が打ち付ける。土煙を上げて槍の穂先が地面に刺さった。


 チャンスだ。跳躍すると正面に髭ズラの顔。目の前だ。取った。

 大砲のような拳が腹にめり込んだ。目があった、笑ってる、始めから狙ってやがった。

 視界が白くなり、死に体のようなカタチで地面に落下した。血反吐を吐いた、内臓破裂のような痛み。地面に這いつくばる、不味い。今突かれたら防げない。

・・・追撃は・・・来ない?



 無様だが地面を転がりながら少し距離を取って立ち上がる。


 ・・・足元がふらつく。まともに槍を受けてもいないのに身体中がバラバラになりそうだ。腹も痛む。凄まじいまでの槍の技と怪力。完全に防戦一方だ。

 まともに攻撃もさせて貰えない。


・・・・・・・・・相打ちでなら、倒せるか?

 この髭ズラは死にもの狂いでないと歯が立たない。ロイ、覚悟を決めろ。

 気をみなぎらせろ。剣先に全神経を集中しろ。思い出せ、リリアーヌ先生から一本取ったあの呼吸だ。







 バルバッコスは正直驚いていた。

 剣の扱いが巧みだ。身体の扱いにも長じている。

・・・小さいが14〜15といったところか。殺すのは惜しい。俺の部隊の将校にも引けを取らない腕前だ。最初は死んだ様な眼だった、惨憺さんたんな笑みを浮かべていた、だが今は・・・驚くほど活き活きとした眼をしている。

 それに、どことなく戦い方がリリアーヌに似ている。あの跳ねっ返りの姪っ子(・・・)が死んだとは信じられんが、なにか事情があるようだ。



「よく聞け、お前のような命知らずが戦場では一番最初に死ぬんだ。あるいは味方を道連れにして部隊を危機に陥れる。」

 バルバッコスは殺気を解くと槍を地に着け、そう言った。




「・・・・・・・・・なにが言いたい?」

 呼吸が乱れる。ロイの胸にグサリと何かが刺さった。



「ただの阿呆ならばそれだけの剣は使えん。だがまだ餓鬼だ。目的もこころざしもない剣などいくら振っても意味がない」



「・・・・・・・説教か?お呼びじゃない。」



「そうじゃない。人の有り様を説いている」



「?」



「餓鬼にはわかるまいが自分の道を見つけろ、男の道をだ。そうすればその失望の剣も活きるだろうて」




「・・・・・・・・・・・・・・失望の剣」


 少しショックだった。この髭ズラ男に先生の剣を失望の剣と言われた事に。今は僕が使っている。僕が言わせた様なものだ。




 『グオーーーーーーーーーーン』




 遠くで熊の鳴き声。いや、威嚇の鳴き声。

 !!!ロイは総毛立った。あの方向は僕が駆けてきた方向だ。巨大熊は人以外にはほとんど威嚇で声を上げない。まずい!まずい!!








 リンネは最後の小剣を顔に向って投げつけた。

 だが顔を庇った右手の毫毛に阻まれる形で致命傷はおろか、まともに傷も負わせられない。いたずらに巨大熊を怒らせただけだ。



 気づいた時には巨大熊の接近を許していた。

 泣きくずれている夫人や副長の遺体が気になり中々この場を離れられず、警戒音を鳴らすのも忘れていたせいだった。血の臭いに釣られてきたので始めから凶暴でこちらに襲いかかってきた。


 ハウンズ夫人には命を救われた借りがあった。なんとか夫人から引き離そうと試みたが上手くいかなかった。

 もう投げられる小剣も尽きた。巨大熊と剣で立ち会うなんて自殺行為だ。

 一掻きで剣を持ったまま両腕を折られるか、頭が鞠の様に胴から千切れ飛ぶかだ。

 絶望感が心を埋めていく。唇を噛み締める。自分はなんて無力なんだ。



「逃げなさい!私とこの方がいれば熊は見逃すはずです!貴方だけでも生き残りなさい!」


 ハウンズ夫人が後ろからそう叫んだ。


 出来ない。この二人は自分の恩人なんだ。見捨てて逃げたら自分は死ぬ。

 身体でなく心が。心が壊れた隊員も見てきた、皆廃人のようなって死んだ。あんな無様な死に方はごめんだ。


 両腕を横に広げた。自分と副長を喰らえば満足して去るかも知れない。

 巨大熊は満腹なら狩りはしない筈だ。自分に出来る最後の戦いだ。

 歯がカタカタと鳴る。足が震える。もし地獄で会ったら副長に何て言おう。

 言い訳嫌いだからな。頭を小突いてバカ野郎って叱ってくれるだろうか?

 腹がたったが小突かれるのが何故か嬉しくもあった。自分を見ててくれている。

 自分を導いてくれてる。そう思えた。


 目を閉じた。きっと痛いのは数秒だ。ごめん副長ごめん。



「グオーーーン」



 威嚇。ドスドスと近付く足音。目の前が暗くなる。暖かい何かが触れる。

 衝撃。身体ごとすっ飛んだ。



「ウオオオオオオオオオオオオオオオオ!」



 奇声が聞こえた。俺は生きてる、のか?どこにも痛みはない。目を開けた。

 何かが俺の上に乗っていた。



「!!」



 ハウンズ夫人だ。俺を抱きしめる形で事切れている。・・・・庇った?

 そんなばかな!?おれ、俺は見ず知らずの他人じゃないか!!なんで、なんであんたが死ぬんだよ!!?

 涙が頬を伝う。あまりの衝撃で声もでない。そんな・・・そんなこと・・・・・。


 誰かがそばに立っていた。涙でよく見えなかった。




 『カラン、カラン』




「母様・・・」




 何かが落ちる金属音と誰かのつぶやきが聞こえた。




 何かが心に触れてくる。それは何故か絶望と云う感覚だと思えた。










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