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迷いの森と少年R ③

 

         第11話


      「果てなき死闘」



 


 その雄叫おたけびを聞いたと同時に飛び出していた。

 

 決断した。闘うのだと。


 夫人正面にいた男を剣撃で後退させ、そのまま周囲の男たちを剣で払った。

 首が三つ四つ飛んだ。そのまま後ろに跳躍。後ろ蹴り、一人の顔面を踵で砕いた。


『よいか、カレン・リリアーヌよ。お前の長所は冷静さではない果断さにある』

 と、師父しふの言葉が頭をぎった。


 決して油断していた訳ではなかったがまたたく間に周囲を囲まれた。

 盗賊の手管てくだではない、訓練を受けた精鋭部隊に違いなかった。


 軍の精鋭部隊に囲まれ、まともに闘えるのは私一人。

 どこかであきらめに似た思いを持った。夫人に止められた時、正直ほっとしていた。



 再び跳躍。敵が固まっているところに躍り込む。

 左手で砂を掴むと大きく撒き散らした、怯まず斬りかかろうとする二人の剣を

 かわし後ろから袈裟懸けさがけに切った。

 左右からの槍、捻って躱し二人の首を切り飛ばした。

 背中に痛み、浅く切られた。

 構うものか、振り向きざま剣を相手の胸に突き立てた。

 敵の目つきが完全に変わった。そうとも、これは(・・・)いくさだ。



 後方から叫び声。子供たちが囲まれている。

 しまった、離れすぎた。

 囲んでいるの男の一人が倒れた。ロイ君。あの子が囲まれるのを防いでいる。

 ほっとした。何故か任せてもいいと思えた。

 まだ10歳になったばかりの少年に、この死地を。


 不思議な、いや驚くべき少年だった。わずか3ヶ月、武芸を教えただけである。

 あの子は教えた剣や槍、体術をぐに身に付けた。私からも剣術で一本取れるほどだ。

 闘いの天稟てんぴんを天から授けられていると思った。

 私が5年以上掛けて磨いた剣技の数々も

 あの子はあっさりと真似してみせた。


 四方から一斉に槍が来る、僅かなズレを見つけ廻りながら順番に穂先を落とした。

 一つが肩に突き立った、掴んで引き寄せ金的を蹴り潰した。白目をいて失神する。

 そのまま抱えて猛然と敵に突っ込んだ。怯んでいる、敵の剣先が鈍い。

 敵の中に放り投げる、同時に跳躍。着地とともに二人を切り倒す。

 背中に衝撃、体当たりでまりのように飛ばされ

 回転しながら木に叩きつけられる。


 視界が一瞬白くなる。槍が3方から迫る。無鳴剣を頭上の木に

 突き立て身体を浮かして躱す。

 踵落としで二人の頭蓋を割った。

 剣を抜き取り転がる、槍が次々と地面に突き立つ。

 転がりながら見える足を断ち切っていく。

 立ち上がる。身体のあちこちに傷がある。

 白かった服はすでに血で赤く染まっている。


 少し息が苦しい、この敵は兵の配置が上手い。

 遠距離を動き回るように誘導させられてしまう。想像以上の消耗であまり呼吸が戻せない。

 見渡す限りの敵、敵、敵、まだ周囲にあふれている。


 呼吸が戻せない以上ここからは死線を越える闘いになる。

 勝てたとしてもただでは済まない。


『命を掛けた闘いでは体力がすぐに尽きて息が続かない。小休止を挟まなければ

 動けなくなる。だが、呼吸や体力が尽きようとも鍛錬次第では動き続けられる。

 それを【死線を越える】という』師父の教え。

 死線を越えるとは命を削りながら闘う、ということ。闘える時間は死線を越える鍛錬をどれだけ

 積んできたかだ。命を削り切ってしまえばそこで死ぬ。

 致命傷が無くてもだ。私はどこまで闘えるのか。ふと怯えが頭をもたげる。


 チラリと少年を見る、既に囲みは破れ5〜6人が倒れている。

 ロイ・マクエル。恐ろしい少年もいたものだと思う。


 私はあの子の先生だからな。

 その前で恥ずかし闘いは見せられない。

 自然と笑顔がこぼれた。呼吸も少し戻る。


 さらに驚くべきはハウンズ夫人だ。落ちている剣を取り、

 上手く立ち回り敵から距離をとっている。

 離れ過ぎないようにしているので敵の意識は私に集中しているが嬉しい誤算だ。

 これなら、守りきれるかもしれない。


 無鳴剣を斜め正眼に構え再び敵中に切り込んだ。走りながら剣を弾き、

 一人二人と切り捨てる。押せ。力の限り押せ。



 ハウンズ家三女リリ・マーガレッタは信じられないものを見ていた。

 目の前で、人が、次々に、死んでいく。まるで悪夢の様である。

 父や母、リリアーヌ先生に聞かされた戦場の話。何処かで遠い世界の物語のように

 捉えていた。

 !! 腕を捕まれた、痛い! 凄い力で引っ張られる。声が出ない。怖い。

 助けて。兄様。姉様。みんなこっちを見ていない。自分の前を見るのに精一杯だ。

 引っ張られる。殺される。下半身から暖かいものが漏れた。恐怖で身体が動かない。

 フッと力が緩んで服に真っ赤な何かが飛び散って来た。血だ。ひぅっ!震えた。

 腕を捕んでいた盗賊が手を離し倒れた。死んでいる。カタカタと歯がなった。

 頭が真っ白で何も考えられない。

「リリ姉様、もっと奥に。みんなと離れない様に。あと、一応剣を持って置くと

 良い、これを」剣を渡された。この声はクズロイ?

 あなたなにをやってんの? 一番下なんだから早くこの中に入りなさい。

 目があった。何? いつもと違う? ほ、本当にロイ・・・なの?

「じゃ」

 一瞬で消えた。あ、あなた、この中でた、戦っている、の・・・?

 うそ、でしょ?あなたまだ10歳でしょう・・・。



 無我夢中だった。

 最初に飛び上がって母様を見た時リリアーヌ先生がリーダーを押し飛ばすのが見えた。

【陽動と本命】先生の教えが頭を過ぎった。僕は死にものぐるいで闘い続ければいい。

 陽動の駒らしく。全てをここで出し切るんだ。



 いくつかの想定外が重なり状況は膠着こうちゃくしてしまった。

 第1は【無鳴剣のリリアーヌ】に剣を持たせた事、第2はあの小僧を最初に

 確保しなかった事。大きなのはこの2点だろう。


 盗賊に偽装してハウンズ夫人を東の丘に連れ出す。

 待機している()()()の本軍に夫人を奪わせる。

 私の部隊の役割はそこまでだ。


 ハウンズに紛れ込ませていた密偵から今日の外出の

 情報が届いた事であらかじめ部隊を伏せてうまくめた。

 斥候部隊とはいえ熟練の部隊だ、

 さしものリリアーヌも無謀な悪あがきは諦めていた。


 だが。

 あの小僧が全てひっくり返した。情報によるとハウンズの末子。

 あれほど剣が使えるとは聞いていなかった。


 すでに3割強の戦死者を出している。もう撤退命令を出すべきだ。

 ・・・だが、死んだのは俺が手塩に掛けて鍛え上げた部下達だった。

 こんな盗賊紛いの作戦で命を落とすべきでなく、名誉を胸に

 美しく死ぬべき男たちだった。


 斥候部隊【黒狗】の隊長として。

 此処ここでカレン・リリアーヌの首を取る。

 そして夫人を連れ出し作戦を完遂させる。


 退路を確保させていた30余名に指示をだすと

 静かに息を潜めた。



「きゃぁぁぁ」



 ハウンズ夫人の叫び声。夫人がいつの間にか捕まり引き摺られている。その周りを

 30人程が守っている。不味い、夫人を連れて撤退される。


 無鳴剣を頭上から一閃いっせんする。血のりが全て吹き飛んだ。

 あの30人はおそらくこの部隊の中核だ。

 呼吸は火吹竹ひふきたけのようだが身体はまだ動く、闘える。


 全力で追いすがりそのまま集団に突っ込んだ。

 腕、首、足、所構わず薙ぎ払った。敵も怯まない。剣や、槍が伸びてきて

 腕や身体を斬りつける。膝がガクンと落ちる。視界がボヤけた。構うな。

 もう10人は倒している。この集団を駆逐すれば退却する筈だ。

 もうあとひと押しだ。さらに奥に踏み込む。




 身体の中心に熱い何かが通った。




 槍。朱色の槍。とても美しい色だと思った。

 それを左手で掴み無鳴剣を後ろに振るう。




 男の首が真上に飛んだ。

 男と目があった、切られる時に笑っていた。

 その顔はとても美しかった。




 さらに熱いものが入ってくる。四方からだ。身体が軽くなる。もう息も上がらない。


 まだまだ闘えるじゃないか。目の前の首を払った。一つ、二つ、三つ、夫人の顔が見える。

 こちらを見て鳴き叫んでいるようだ。


 大丈夫です。

 敵を全て討ち果たし、鍛錬の見学をしましょう。


 きっと、驚きます、あの心配しておられた

 ロイ君の、上達ぶりに。


 あの子は、きっと、凄い剣士になります。

 私や、師父よりも、



 素晴らしい、男の子です。




 何かが口から溢れ出る、服が真っ赤に染まる。まるで赤いドレスを着ているようじゃないか。




 明日は晩餐会だったな。リリアーヌはふと、そう思った。








早くヲタ脳全開の主人公書きたいですね。



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