霧の中に消える
前回のあらすじ
・消えたケートを探すため、セツナが奔走中
・身体じゃなくて頭を使う戦いには、相方が必要
「……スト、ジョーカー』」
背を向けていたら聞き逃していただろう小さな声が、ケートの口から溢れ出る。
その瞬間、私達だけでなく、周囲を囲んでいたゴリラすら巻き込むほどに、広く深い霧が辺りに立ち込んだ。
「これって……」
「【霧魔法】、だぜ」
眼前すら見えない霧の中で、ケートの声だけが鮮明に届く。
そして、何かに引っ張られたと思った瞬間――触れるほど近くにケートの顔が迫り、私の口が、ケートの口で塞がれた。
……んん!?
「△$#¥ヰ●――!?」
「んんっ……ったくセツナ、暴れすぎだぜー」
「だ、だだ、だっていま、いま!?」
「真っ赤になっちゃって可愛いにゃー。そんなことより、周囲のゴリラの気配はどうかにゃ?」
「そ、そんなことよりって、そんなことって!」
「あーはいはい、あとで説明するから。とりあえず気配みて、気配」
「ぐぬぬぬ……」
強引にき、キスしたくせに、そんなことってなんだ、そんなことってー!
あとでちゃんと説明しなかったら、絶対に斬るからね!?
とかなんとか心の中で叫び倒し、むりやり心を静めてから周囲の気配を探る。
すると、どうしたことでしょう……あれだけたくさんのゴリラで埋め尽くされていた村から、ゴリラの気配が激減していた!
「……あれ?」
「どう? 変化あった?」
「ゴリラが消えた」
「んんん……説明が下手だけど理解したぜ。やっぱりかー」
間違いとか勘違いじゃないかと、何度も確認してみるも、やはり無数とあったゴリラの気配は跡形もなく。
いや、少しだけある……?
「村の四方にひとつずつ。あと、中心にもひとつ?」
「合計五体ってことだにゃー。よしよし、そんじゃ『グロウアップマインドネス』っと」
私の呟きに一人納得したような素振りを見せたケートは、そのままなにやら魔法をひとつ、私に向けて発動させた。
……おや?
「頭が少しすっきりした、かも?」
「ういうい、それでオーケーだぜ。『グロウアップマインドネス』ってのは、精神耐性を高める魔法だからにゃー」
「精神耐性?」
「うむ。簡単に言えば“洗脳抵抗”ってやつだぜ」
洗脳!?
え、洗脳されてたの、私!?
「セツナだけじゃなくて、私もにゃー。むしろ、私の方が強く洗脳されてた感じだぜ」
「お、おお? どゆこと?」
「あー、『ミストジョーカー』の効果時間がヤバそうだから、とりあえず手短に説明するぜー。村とか村人ゴリラとかは全部幻覚で、私達はゲートから出てきた直後に洗脳されてた。んで、洗脳したのは」
「村長、かー。幻覚ねー、なるほど。それでさっきから、戦ってるゴリラに手応えが無かったのか」
てことは、今気配をとらえてる五体が、このエリアのボスってことだねー。
うむうむ、理解した!
「で、どうするの?」
「さっきも言った通り、もうすぐ『ミストジョーカー』の効果時間が切れるにゃ。だからセツナには、今すぐ四方にいるゴリラを倒しに行ってほしいぜ」
「……構わないけど、それってケートが」
「村長は私がやるぜー。ま、今回はちょーっとカッコ悪いところ見せちゃったしにゃー。村長で挽回させてもらおうかと」
「それは別にいいけど、大じ」
「問題ない。……それにちょっと私もイラついてるから」
心配しようとした私の言葉を遮って、ケートが微笑みつつそう口にする。
顔は笑ってるのに、目に宿す光は鋭くて……私はそれ以上、なにも言えなかった。
「そんじゃ、セツナ。頼んだ」
「うん、行ってくる」
短く交わした言葉のあと、私はケートから少し離れ、後ろを振り返る。
そこには白く視界を埋める霧が、ケートの姿を隠していた。
□□
「くっくくく……今までにお前が倒した戦士は、四天王の中でも下から数えた三人だ。最強はこの俺、ゴリ雄様だ!」
「あー、ケートが賭けてたゴリラかー」
「おお、そうなのか! お前の相方は、見る目があるな!」
「まーねー。私の親友だから」
互いにケートを褒めたあと、私達はゆっくりと構え、精神を集中させる。
このゴリラ……言うだけあって、他の三人とは格が違う。
ただ構えてるだけで、その身から噴き出される闘気に気圧されそうだ。
でも、ケートが精神耐性を上げてくれたからか、私の心には、まるで波は起きなかった。
「……ほう、強いな。恐怖に駆られて打ち込んでこないのは、お前が二人目だ」
「へー、もう一人は?」
「我が主、キングスゴリラ様だッ!」
「――ッ!」
声と共に打ち込まれた棍棒を、鞘から半身だけ抜き出した刀で受け止める。
そして、流すように身体を反転させ、空いた腹部へと右足を叩き込んだ。
「ぐ――ッ!」
「その話、詳しく聞きたいところだけど……あんまり時間を掛けたくないんだよねー」
「はっ、なら倒してみるが良い! やれるものならな!」
□□
side.ケート
効果時間が切れ、霧が晴れる。
仕込みは万全、HPは……気絶していた間に多少回復出来ているものの、50%は切ったまま。
でも、MPは防具のおかげか、魔法を使ったうえで80%まで回復していた。
ま、殴られたら終わりっていうのは、分かりやすくていいぜー。
「ほっほっほ。よもや、あなたの方が残るとは、少々予想外ですな」
「ま、そうだろうぜー。残り体力とか考えたら、身を隠したりするのがセオリーってやつだしにゃー。でもな、あんたの相手は、私がやりたかったんだよ」
「ほう……一応、理由を聞いておきましょうか」
「乙女の夢をぶち壊した。そして、セツナを苦しめた。この二つだけで、あんたを倒す理由には充分過ぎる」
私の言葉が予想外だったのか、村長は少し呆けた後、「ほっほっほ」と笑いだす。
そして数秒ほどおかしそうに笑い、「その程度のことで、実力差も見誤るとは……まったくもって、あなたは愚かだ」と、どこからともなく杖を取り出し、私を睨みつけてきた。
――――まったく、愚かなのはどっちだ?
――――こんなにも、私は怒り狂っているのに。
「……なんですか、その笑い顔は。どうやら本当に、恐怖でおかしくなってしまいましたか?」
「その言葉は、そっくりそのまま返すよ。――【霧魔法】『ナイトメアシープ』」
呟くように発動した魔法は、『ミストジョーカー』と同じように周囲へと霧を発生させる。
ただし、その霧は……まるで闇を濃縮したかのような黒い霧で、
「ほっほっほ、また霧に紛れて隠れ……な、なんだこの霧は!? おい、やめろお前ら! やめ、やめろオォォ!?」
私の周りではなく、相手の周りへと纏わりつくように広がっていった。
『ナイトメアシープ』……それは悪夢を見せ、相手の心が折れた瞬間、防御を無視してHPに15%ダメージを与える黒い霧。
とても強力だけど、いくら8倍に出来る私とはいえ、ボス相手に簡単に掛けられる魔法じゃない。
だからこそ霧の中で仕込みをしたのだ。
【呪術】『マインドクラック』。
相手の精神耐性を、一時的に下げる魔法。
成功するまで何度も弾かれたけど、効果はあったみたいだにゃ。
しっかし――――
「……はあ。ファーストキス、だったのになー……」
呟いたその言葉は、誰にも聞かれること無く。
私はただひとり、左手で目を拭った。
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名前:セツナ
所持金:99,920リブラ
武器:居合刀『紫煙』
防具:戦装束『無鎧』改
テイム(使用不可):ブラックスコーピオン(幼体)『ハクヤ』(所持スキル:【切断Lv.3】【刺突Lv.3】【神速Lv.2】【蠍蟲拳Lv.3】)
装着スキル:【ゴリラ語理解】【ゴリラの枷(現在6枠)】【見切りLv.7】【抜刀術Lv.16】【朧霞閃影Lv.3】
未装着スキル:【幻燈蝶Lv.6】【蹴撃Lv.11】【カウンターLv.10】【蝶舞一刀Lv.11】【秘刃Lv.2】【符術Lv.3】【八極拳Lv.5】
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名前:ケート
装着スキル:【ゴリラ語理解】【ゴリラの枷(現在6枠)】【付与魔法】【呪術】【霧魔法】
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