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また、つまらぬものを斬ってしまった……で、よかったっけ? ~ 女の子達による『Freelife Frontier』 攻略記  作者: 一色 遥
第五章『サヨウナラが言えない』

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霧の中に消える

前回のあらすじ

・消えたケートを探すため、セツナが奔走中

・身体じゃなくて頭を使う戦いには、相方が必要

「……スト、ジョーカー』」


 背を向けていたら聞き逃していただろう小さな声が、ケートの口から溢れ出る。

 その瞬間、私達だけでなく、周囲を囲んでいたゴリラすら巻き込むほどに、広く深い霧が辺りに立ち込んだ。


「これって……」


「【霧魔法】、だぜ」


 眼前すら見えない霧の中で、ケートの声だけが鮮明に届く。

 そして、何かに引っ張られたと思った瞬間――触れるほど近くにケートの顔が迫り、私の口が、ケートの口で塞がれた。

 ……んん!?


「△$#¥ヰ●――!?」


「んんっ……ったくセツナ、暴れすぎだぜー」


「だ、だだ、だっていま、いま!?」


「真っ赤になっちゃって可愛いにゃー。そんなことより、周囲のゴリラの気配はどうかにゃ?」


「そ、そんなことよりって、そんなことって!」


「あーはいはい、あとで説明するから。とりあえず気配みて、気配」


「ぐぬぬぬ……」


 強引にき、キスしたくせに、そんなことってなんだ、そんなことってー!

 あとでちゃんと説明しなかったら、絶対に斬るからね!?


 とかなんとか心の中で叫び倒し、むりやり心を静めてから周囲の気配を探る。

 すると、どうしたことでしょう……あれだけたくさんのゴリラで埋め尽くされていた村から、ゴリラの気配が激減していた!


「……あれ?」


「どう? 変化あった?」


「ゴリラが消えた」


「んんん……説明が下手だけど理解したぜ。やっぱりかー」


 間違いとか勘違いじゃないかと、何度も確認してみるも、やはり無数とあったゴリラの気配は跡形もなく。

 いや、少しだけある……?


「村の四方にひとつずつ。あと、中心にもひとつ?」


「合計五体ってことだにゃー。よしよし、そんじゃ『グロウアップマインドネス』っと」


 私の呟きに一人納得したような素振りを見せたケートは、そのままなにやら魔法をひとつ、私に向けて発動させた。

 ……おや?


「頭が少しすっきりした、かも?」


「ういうい、それでオーケーだぜ。『グロウアップマインドネス』ってのは、精神耐性を高める魔法だからにゃー」


「精神耐性?」


「うむ。簡単に言えば“洗脳抵抗”ってやつだぜ」


 洗脳!?

 え、洗脳されてたの、私!?


「セツナだけじゃなくて、私もにゃー。むしろ、私の方が強く洗脳されてた感じだぜ」


「お、おお? どゆこと?」


「あー、『ミストジョーカー』の効果時間がヤバそうだから、とりあえず手短に説明するぜー。村とか村人ゴリラとかは全部幻覚で、私達はゲートから出てきた直後に洗脳されてた。んで、洗脳したのは」


「村長、かー。幻覚ねー、なるほど。それでさっきから、戦ってるゴリラに手応えが無かったのか」


 てことは、今気配をとらえてる五体が、このエリアのボスってことだねー。

 うむうむ、理解した!


「で、どうするの?」


「さっきも言った通り、もうすぐ『ミストジョーカー』の効果時間が切れるにゃ。だからセツナには、今すぐ四方にいるゴリラを倒しに行ってほしいぜ」


「……構わないけど、それってケートが」


「村長は私がやるぜー。ま、今回はちょーっとカッコ悪いところ見せちゃったしにゃー。村長で挽回させてもらおうかと」


「それは別にいいけど、大じ」


「問題ない。……それにちょっと私もイラついてるから」


 心配しようとした私の言葉を遮って、ケートが微笑みつつそう口にする。

 顔は笑ってるのに、目に宿す光は鋭くて……私はそれ以上、なにも言えなかった。


「そんじゃ、セツナ。頼んだ」


「うん、行ってくる」


 短く交わした言葉のあと、私はケートから少し離れ、後ろを振り返る。

 そこには白く視界を埋める霧が、ケートの姿を隠していた。


□□


「くっくくく……今までにお前が倒した戦士は、四天王の中でも下から数えた三人だ。最強はこの俺、ゴリ雄様だ!」


「あー、ケートが賭けてたゴリラかー」


「おお、そうなのか! お前の相方は、見る目があるな!」


「まーねー。私の親友だから」


 互いにケートを褒めたあと、私達はゆっくりと構え、精神を集中させる。

 このゴリラ……言うだけあって、他の三人とは格が違う。

 ただ構えてるだけで、その身から噴き出される闘気に気圧されそうだ。

 でも、ケートが精神耐性を上げてくれたからか、私の心には、まるで波は起きなかった。


「……ほう、強いな。恐怖に駆られて打ち込んでこないのは、お前が二人目だ」


「へー、もう一人は?」


「我が主、キングスゴリラ様だッ!」


「――ッ!」


 声と共に打ち込まれた棍棒を、鞘から半身だけ抜き出した刀で受け止める。

 そして、流すように身体を反転させ、空いた腹部へと右足を叩き込んだ。


「ぐ――ッ!」


「その話、詳しく聞きたいところだけど……あんまり時間を掛けたくないんだよねー」


「はっ、なら倒してみるが良い! やれるものならな!」


□□


 side.ケート


 効果時間が切れ、霧が晴れる。

 仕込みは万全、HPは……気絶していた間に多少回復出来ているものの、50%は切ったまま。

 でも、MPは防具のおかげか、()()()使()()()()()()80%まで回復していた。


 ま、殴られたら終わりっていうのは、分かりやすくていいぜー。


「ほっほっほ。よもや、あなたの方が残るとは、少々予想外ですな」


「ま、そうだろうぜー。残り体力とか考えたら、身を隠したりするのがセオリーってやつだしにゃー。でもな、あんたの相手は、私がやりたかったんだよ」


「ほう……一応、理由を聞いておきましょうか」


「乙女の夢をぶち壊した。そして、セツナを苦しめた。この二つだけで、あんたを倒す理由には充分過ぎる」


 私の言葉が予想外だったのか、村長は少し呆けた後、「ほっほっほ」と笑いだす。

 そして数秒ほどおかしそうに笑い、「その程度のことで、実力差も見誤るとは……まったくもって、あなたは愚かだ」と、どこからともなく杖を取り出し、私を睨みつけてきた。


 ――――まったく、()()()()()()()()()

 ――――こんなにも、私は()()()()()()()のに。


「……なんですか、その笑い顔は。どうやら本当に、恐怖でおかしくなってしまいましたか?」


「その言葉は、そっくりそのまま返すよ。――【霧魔法】『ナイトメアシープ』」


 呟くように発動した魔法は、『ミストジョーカー』と同じように周囲へと霧を発生させる。

 ただし、その霧は……まるで闇を濃縮したかのような黒い霧で、


「ほっほっほ、また霧に紛れて隠れ……な、なんだこの霧は!? おい、やめろお前ら! やめ、やめろオォォ!?」


 私の周りではなく、相手の周り(・・・・・)へと纏わりつくように広がっていった。

 『ナイトメアシープ』……それは悪夢を見せ、相手の心が折れた瞬間、防御を無視してHPに15%ダメージを与える黒い霧。

 とても強力だけど、いくら8倍に出来る私とはいえ、ボス相手に簡単に掛けられる魔法じゃない。

 だからこそ霧の中で仕込みをしたのだ。


 【呪術】『マインドクラック』。

 相手の精神耐性を、一時的に下げる魔法。

 成功するまで何度も弾かれたけど、効果はあったみたいだにゃ。


 しっかし――――


「……はあ。ファーストキス、だったのになー……」


 呟いたその言葉は、誰にも聞かれること無く。

 私はただひとり、左手で目を拭った。


-----


 名前:セツナ

 所持金:99,920リブラ


 武器:居合刀『紫煙』

 防具:戦装束『無鎧』改


 テイム(使用不可):ブラックスコーピオン(幼体)『ハクヤ』(所持スキル:【切断Lv.3】【刺突Lv.3】【神速Lv.2】【蠍蟲拳(かっちゅうけん)Lv.3】)


 装着スキル:【ゴリラ語理解】【ゴリラの枷(現在6枠)】【見切りLv.7】【抜刀術Lv.16】【朧霞閃影Lv.3】


 未装着スキル:【幻燈蝶Lv.6】【蹴撃Lv.11】【カウンターLv.10】【蝶舞一刀Lv.11】【秘刃Lv.2】【符術Lv.3】【八極拳Lv.5】



 名前:ケート


 装着スキル:【ゴリラ語理解】【ゴリラの枷(現在6枠)】【付与魔法】【呪術】【霧魔法】

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― 新着の感想 ―
[一言] まさかキスがくるとは思わなかった(驚愕) 静かに怒り狂うケートがカッコイイですね。 口調でマジなのがよく分かります。
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