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すしプロ:涙と慰めで交わす最初の握手。  作者: 千石杏香
第一章 一年ぶりの「はじめまして」
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Ⅺ 多分、これからもちゃんと仲良くやっていけると思う。

新学期が始まろうとしていた。


風は冬の名残のように冷たかった。桜の樹のない場所にも花弁は落ち、風に舞って吹雪を作っている。そんななかを司は登校してゆく。


昇降口へ這入ると、そこには玉子と代美の姿があった。


「おはよー、玉子、代美。」


司が声をかけると、二人は同時に振り返り、おはようと返事をした。


「おはようっていうか、久しぶりって感じだね。」玉子は微笑みかけた。「やっぱり、何日も司の顔見てないと寂しくなっちゃうよ。」


「ふぬ? たった一週間会わなかっただけなのに?」


「それは君、春休み中ずっと家に居続けたからじゃないか?」


「だって、花粉症だったんだもん。」


玉子は不機嫌そうな顔をし、そして階段のほうへと視線を遣る。


「そんなことより、一緒に新しいクラス替えの発表、見に行かない? 今年も、三人一緒に同じクラスになれたらいいんだけどね。」


そうだね、と司はうなづいた。新生活に対する感情は、何も期待ばかりではない。仲のよかった者同士が離れてしまうこともあるのだ。


透明な朝日がリノリウムを照らす中、教室棟を二階へと進んでゆく。


廊下の掲示板にクラス表が貼られていた。その前には既に人だかりができている。男子は墨の色の学ラン、女子は紺色(こんいろ)(えり)に桜色のリボンがぶら下がったセーラー服である。


いや、ガリの色と言うべきか。そう思えば、学ランの色は海苔(のり)の色であった。生徒達の頭には、寿司ネタを模した飾りや、本物の寿司ネタが載せられている。なぜこんなものが流行っているのか誰も知らなかったし、疑問にさえ思わなかった。


人だかりを分け、司たちはクラス表に近づく。


しばらくして玉子が声を上げた。


「あ、私、A組だ。」


A組のクラス表へ目を遣ると、確かに玉子の名前が載っていた。そして、司と代美の名前もまたそこにあった。


「やたー! 今年も玉子と同じクラスだ。」


司は玉子と両手の平を重ね合わせた。


「うん、私もマジよかたよー。」


「君ら、小さい『つ』を入れろよ。」


三人は新しい教室へ這入った。始業時間まではまだしばらく時間がある。席順は出席番号順だ。席へと荷物を置き、三人は窓辺に寄り添って雑談を始めた。熾子のことについて玉子が訊ねてきたのは、そんなときであった。


「そういえば、例の韓国人とは会ってきたの?」


「うん、会ってきたよ。」


「本当に女子大生だったの? おっさんじゃなかった?」


「女子大生だったよ。まあ、おっさんだったらどうしようかと思ったけど。」


玉子は詰まらなさそうな顔をし、そう、と言った。


啓史(けいし)大学の文学部なんだっけ?」


「うん。」


「変なことは言われたりしなかったの?」


「そういうのも全くなかった。むしろいい人だったよ。」


まあ、普通はそうだろうなと代美は言った。


「韓国人だからって、全員が全員、反日なんかじゃないだろ。」


「だね。多分、これからもちゃんと仲良くやっていけると思う。」


しかし玉子は無表情のまま、冷たい眼差しを司へと向けていた。


「で――どんな話してきたの?」


「んー、最近の音楽とかアニメとか、掲示板の話とかかな。」


「例えば――」


「うむ? 例えば――Tilacisとか『まほつゆ』とか、イルペとかのことだけど?」


「日本のアニメとか、音楽とかについてということ?」


「そうだけど?」


「Tilacisとか『まほつゆ』とか好きなの?」


「みたいだよ?」


「――そう。」


そして玉子はスマートフォンを取り出した。


「その人、呟器やってるんだっけ? アカウント教えてくれる?」


「うん? いいけど――?」


代美は不思議そうな顔で、どういう風の吹き回しだいと言った。


「君、韓国人、嫌いじゃなかったか? 司と会うって知ったときも、あれだけ反撥してたのに――。アカ知ってどうするんだ?」


「もちろんフォローするに決まってんじゃん。」


それ以外に何もしないよ――と玉子は言った。


「確かに韓国は嫌いだけど、国と個々人とは違うのかなって思って。それなら、どういう人なのか私も知っとくべきじゃん。いい人なら知り合っといて損はないでしょ。」


「んまあ――そうだなあ。」


じゃ、僕もフォローしとくかと言って、代美はスマートフォンを取り出した。


代美の一人称は、どういうわけか「僕」であった。


司もスマートフォンを取り出し、熾子のアカウントを二人に教えた。そして熾子には、今フォローしてきた二人の日本人は自分の友人である旨を伝える。


代美は画面から顔を上げ、玉子に視線を遣る。


「けれど、君のアカって嫌韓的なつぶやきが多くなかったか? もし君の過去のつぶやきを見たら、その人、気分悪くしないかな?」


「大丈夫だよ。そういうのはちゃんと削除したし。」


「へえ――用意がいいんだな。」


「うん。結局のところ、私は韓国人と話したことないわけだし。ネット上の情報だけで文句を言うのもどうかなって思ったから。」


そして玉子は司に向き直った。


「どうせなら、今度は私たち四人で会うっていうのはどう? 司、打診してもらえる?」


「あ――うん。全然構わないけど。」


そう言ったものの内心では司は不審に思っていた。玉子がここまで外交的な反応を示すことは珍しいからだ。もし先ほどの言葉が本音なら何も問題はない。玉子にもよりリアルな韓国を知りたい気持ちがあるのかもしれない。しかしそうでなければ、


――敵情視察かな?

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