竜、竜、竜、竜!
師匠達が帰って来たので、私達は走り出た。
アルカディアの全員が集会所の前の広場に集まったんじゃないかな?
「先ずは、一頭出すよ!」
オリビィエ師匠がマジックバッグから、竜を一頭取り出した。
「「大きい!!」」
私もだけど、サリーも、ヨナもヨシも大きな声で叫んだ。
ジミーは、目を輝かしているけど、私的には、一生、弟子のままだぁ! って気分になったよ。
「前にアリエル師匠が討伐した竜より大きいわ」
サリーも一生卒業できないかもというような顔で呟く。
「あれは、アルカディアの近くに飛んできた馬鹿な若い竜だったから!」
アリエル師匠って、日頃はソファーでダラダラしているのに、竜を狩るのが趣味だなんて、サリーに同情しちゃうよ。
風の魔法使いの修業に竜の討伐が入りそうだからね。
そんな事を考えていたら、オリビィエ師匠から声が掛かった。
「ミク、肝だけ先に取り出して、水に漬けるよ! 桶を持って来ておくれ!」
そうだ! 薬師の修業にも竜の肝が必要なんだ。つまり、竜討伐しなきゃいけないって事。
「一つで良いですか?」
だって、先ずは一頭って言っていたよね?
「ああ、そうだな! 四頭、討伐したから、桶を四つ持って来てくれ」
ひぇぇ! 四頭! 帰って来るのが遅いと思ったよ!
ジミーが手伝ってくれたので、大きな桶を四つ走って持って行ったら、解体が始まっていた。
うっ、オリビィエ師匠もだけど、アリエル師匠も大きな声で解体の指揮を取っている。
ジミーも参加したいみたいだけど、アルカディアの大人には知り合いがいない。
それに、貴重な竜の皮とかを傷つけてはいけないので、子どもは触らせてくれない感じだよ。
「ミク、桶に水を入れてくれ! もうすぐ肝が取れる!」
水を汲んで来ようとしたら、サリーが桶に水を出してくれた。
「他の竜も解体は後にするけど、先ず肝だけ取り出したい。行商人に回復薬を作っておくと約束したからな」
多くの大人が集まっているので、解体の人数は足りていそう。
師匠が次に出したのは、最初のよりも大きかった。
「「大きい!!」」
でも、師匠はさっさと腹を切って肝を取り出す。
「これを桶に入れておいて!」
ドシンと重い肝を桶に入れたら、サリーが水を入れてくれる。
二頭目をマジックバッグに仕舞うと、三頭目を出した。
今度のは、最初のと同じぐらいの大きさだけど、皮が赤い。
「「レッドドラゴンだ!!」」
アルカディアでも珍しいみたい。大人も驚いている。
師匠が肝を取り出して、マジックバッグに仕舞う。
「どんだけ入るんだろう?」
隣で見ていたヘプトスが驚く。
「アリエル、出してくれ!」
流石に四頭は入らなかったのかな? アリエル師匠は、解体している手を止めて、マジックバッグから巨大な竜を出した。
「「「エンシェントドラゴンか!!!」」」
巨大な緑の竜! 全員が驚く。
「いいえ、これはエンシェントドラゴンではないわ。こちらに向かって来るぐらいのお馬鹿さんですもの」
オリビィエ師匠は、そんな騒ぎにも動ぜず、腹を切って肝を取り出した。
「ミク、後で肉を持って帰るまで、水が血で濁ったら綺麗な水に取り替えてくれ!」
四つの桶を皆で協力して木の家に持って帰る。
ジミーは手伝ってくれたけど、心ここに在らずだ。
初めて見た竜に驚いているのだろう。竜を討伐したいだなんて、止める気になったら良いのに。
怖いし、怪我をするかもしれないじゃん。
サリーに手伝ってもらって、水を換える。
二回ほど換えたら、血で濁らなくなった。
「帰ったよ!」
解体の血で汚れている師匠達が帰ってきた。
「お風呂、二つとも沸かしてあります」
ジミーやヨナやヨシがお風呂を沸かしてくれていたんだ。
「それは嬉しいわ!」
「ありがとう! これ、ドラゴンの肉だ! 一番良い部位を持って来た」
オリビィエ師匠からドラゴンの肉を受け取る。ずっしりと重い!
「今夜はドラゴンステーキよ!」
全員が期待で目が輝いている。勿論、私もね!
師匠達がお風呂に入っている間に、ドラゴンステーキを焼く。
「先ずは、ステーキに相応しい厚みに切らなきゃ!」
厚ければ良いってものじゃない。中まで火が通りやすく、それでいて薄いピンクになる感じが良いんだよね!
調理オーブンがあって良かったよ。両面をフライパンで焦げ目をつけてから、オーブンに入れて、ゆっくりと中まで火を通す。
ステーキを焼いているうちに、魔導コンロでスープを温めて、小さな蒸しパンをいっぱい蒸す!
まだまだ解体は続いているみたいだから、私たちが夕食を終えた後に売っても良い!
ドラゴンステーキ、ほっぺたが落ちるほど美味しかった。
「ミク、焼くのが美味いわね! 前より美味しくなったわ」
アリエル師匠は味の違いに気づいた。
「調理オーブンで焼いたので、美味しく焼けました!」
調理オーブンを作ってくれたルシウス師匠にまたケーキを焼いて持っていかなきゃね!
食べた後は、小さい蒸しパンをいっぱい蒸す。
これは、外で蒸したんだ。人が来やすいようにね!
元々あった蒸し器に、この前ヘプトスがくれた蒸し器、二段に小さな蒸しパンをいっぱい並べる。
「ミク? 何を売るの?」
隣の家のヘプトスが、竜の肉を買ってきて声を掛けた。
「小さな蒸しパンよ! ドラゴンステーキと一緒に食べたら美味しいわ。ヘプトスは、この蒸し器をくれたから、プレゼントするわ」
小さな蒸しパンを葉っぱに四つ乗せて渡す。
「へぇ、肉まんじゃないんだね!」
「肉はドラゴンステーキがあるでしょう!」
そんな話をしていると、目敏い学舎の友だちがやって来る。
「小さいから一個、一銅貨で良いわ!」
サリー達にも手伝って貰って売る! 私は、小さな蒸しパンを蒸すので忙しい。
「もう、無いわ!」
後から蒸しパンの販売を聞いた大人が来たけど、オリビィエ師匠が顔を出すと、大人しく帰って行った。
竜を四頭、討伐する師匠に逆らう森の人はいないよ!
手伝ってくれたサリー、ヨナ、ジミー、ヨシに五銅貨ずつ渡す。
「良いのか?」
「うん! もうすぐ行商人が来るから、お金を貯めておいた方がいいよ!」
「秋にも来るのね!」
ヨナが驚いている。サリーが何回も来るのだと説明しているけど、私とヨシは、オリビィエ師匠の手伝いだ。
「竜の肝から回復薬を作るんだ! 水を何回も変えてくれたから、もう作れるよ!」
肝を薄く切って、陰干しするまでやっておく。
風の魔法で速攻で乾かさないのがオリビィエ師匠のやり方だ。
「お疲れ様!」
途中でヨシは、お風呂に入るようにとオリビィエ師匠が言った。お昼寝はしたけど、体力が無いからね。
私も疲れたので、お風呂に入って寝たよ! 明日は、ドラゴンの筋肉を買って来なきゃ! シチューにしたら美味しいんだよね。
でも、マジックバッグの手入れもしなきゃ、中が汚いんだ!
あれこれする事がいっぱいだけど、友だちに手伝って貰っても良いんだと思うと余裕ができる。




