物見の塔へ
学舎の終わりにリュミェールが声を掛けてきた。
「今日は、私が物見の塔の当番なんだ。ジミー達は登った事が無いんだろう? 一度は、登ってみたら!」
つまり見張り番が退屈だから、遊びに来て欲しいのかな?
「リュミェール、真面目に当番をしないと、師匠に叱られるぞ!」
ヘプトスが注意している。
「そんなの分かっているさ!」
リュミェールって、やはり幼い感じがするんだよね。二歳児に言われたくないだろうけどさ。
「物見の塔?」
ジミーは相変わらず単語だけだ。コミュニケーション能力がないと、結婚相手を見つけられないよ!
「そう、あの高い塔で、アルカディアに近づく天敵、ドラゴンを知らせたり、隣の村から出た商隊や神父さんに護衛を送ったりするのさ。五歳以上にならないと、当番は回って来ないんだ!」
目で、チビちゃん達は、当番は回ってこないよ! と自慢そう。
「行く!」とジミー。
ヨナとヨシも行ってみたいそうなので、昼食後は物見の塔だ!
ヨシが登れるかな? ちょっと心配したけど、ゆっくりなら大丈夫!
ジミーはさっさと登っていったけど、ヨナとサリーと私とヨシはゆっくりと登る。
「先に行ってくれても良いよ」
ヨシは遠慮するのが癖になっている。狩人の村でどれほど肩身の狭い思いをしていたのか分かるよ。
前世の私、偶に通えた学校で、他の子が気を使ってくれるのは嬉しかったけど、やはり気がしんどくなったんだ。
「ヨシ、私はゆっくりと登りたいんだ! だから、本当に気にしないで良いよ!」
早く登る意味はないんだ。ヨシの手を取って、二人で話しながら登る。
ヨナは気にしていたけど、サリーと一緒に、少しだけ先を登っている。
「ヨシは、いずれは神父さんになるの?」
「うん、そう思っていた。というか、神父さんになるしかないんだと……でも、他の道もあると分かったんだ。神父さんは、教師になるのも良いと話してくれたんだよ」
「先生か! それは良いね!」
「うん、狩人の村の森の人も勉強をもう少しするべきだと思う。光の魔法を習得できたら、森の人に教えて歩きたい……いや、木と木を移動できるようになりたいんだ!」
「ふふふ、なれるよ! 私も、最初は飛べなかったんだ。今も他の子より遅いけど、少しずつ飛ぶ距離も長くなっているんだ」
「僕もできるかな?」
「うん! オリビィエ師匠に体力をつける運動を習えば良いよ」
ヨシは、体力面が心配なんだ。賢いし、性格も良いから、そこだけ注意しなくてはね!
「それと、薬師になれたらなとも思うようになったんだ。それは、神父になって人間の村や町を巡回する時に、人の役に立ちたいから……でも、スキルがないのに、なれるかな?」
「神父さんが人間の殆どはスキルを持っていないんだと言っていたよ。それは、オリビィエ師匠もいつも言っている。私に弓の練習をしなさいってね!」
ヨシは、狩人の村で育ったから、弓スキルがないのにと驚いた。
「そう! 未だ下手だけど、頑張るよ! 薬師の卒業試験は、竜を討伐しなきゃいけないんだもの。弓の方が距離が取れるからね!」
「竜! そんなの無理では?」
「うん! 厳しいよね!」
話しているうちに塔の上に着いた。
「やっと来たな!」
リュミェールって、一言多いんだよ!
「色々と話していたの!」
でも、ヨシはリュミエールの言葉より、物見の塔からの景色に夢中だ。
「ほら、ヨシ! あっちがラング村よ!」
塩をとりに行くスミナ山を教えようとして、私は口を閉ざした。
一歳の夏、狩人の村の子どもは、全員がスミナ山へ行く。
でも、ヨシはきっと行っていない。森歩きのガンツ爺さんに見捨てられたから。
「ねぇ、リュミエール! 虹を作ってよ!」
サリーがリュミエールにお願いしている。
「ふふふん! そのくらい光の魔法を使えば簡単さ!」
この自慢する癖がなければね! でも、その自慢する通り、凄く大きな虹が掛かった。
「「「虹だぁ!」」」
ジミーは、驚いて目がまん丸だ。
「ふふふん! もっと作ってあげるよ!」
虹が何個も空に掛かる。一つで良かったなんて言わないよ。
ヨシが凄く喜んでいたからね!




