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97 妖精王女、恋敵(?)と対峙する

「エリザード様……?」


 驚きに息をのむエフィニアに、突然現れたエリザードは遠慮がちに口を開く。


「突然の訪問をお許しください。……一度、エフィニア王女とお話をさせていただきたくて……」


 おずおずとそう口にするエリザードに、エフィニアは混乱した。

 まさか、エリザードが単身で会いに来るなんて想定もしていなかった。

 できることならイオネラやベリウスも立ち会った場で話をしたいのだが……ここで追い返せば自分が悪役になってしまうような気がして、エフィニアは内心でため息をつく。


「……奇遇ですね。私もエリザード様とお話がしたいと思っておりました」


 どうせなら、これを好機ととらえなくては。

 そう思考を切り替え、エフィニアは微笑む。


「あらためまして……フィレンツィア王国より参りました、エフィニアと申します。どうぞよしなに」


 先手を打ってお辞儀をすると、エリザードも慌てたようにお辞儀を返してきた。


「エリザード・レモラと申します。こうしてお会いできたこと、心より光栄に思います、エフィニア王女」


 淑女と呼ぶにふさわしい、優雅な動きだった。

 エフィニアがどれだけ礼儀作法を守っても「小さいのにすごいね!」と正当な評価をされないことが多いが、エリザードの所作には誰もが感銘を受けずにはいられないだろう。

 まだろくに言葉も交わしてもいないのに、自分と彼女との差異を見せつけられたような気がして、エフィニアは打ちのめされた。


「まずは、お礼を申し上げます。私の可愛い息子を安全にこの地へ連れてきてくださったこと、感謝の念に尽きません」

「いいえ、当然のことです。クロ――あの子はとても利発で、私も楽しい時間を過ごすことができましたから」


 そう言うと、エリザードはほっとしたように表情を緩めた。


「そう言っていただけて有難いです、エフィニア王女……あの、ところで……」


 どこか言いづらそうに言葉を切ったエリザードは意を決したように続きの言葉を口にする。


「……グレンディル陛下は、お元気でいらっしゃいますでしょうか」

(来た……!)


 彼女がこっそりここに来た時から、グレンディルのことを聞かれないわけがないだろうと覚悟はしていた。

 表情を引きつらせないように、敵意や反感を感じさせないように、最大限に気を遣いながらエフィニアは微笑む。


「えぇ、とてもお元気でいらっしゃいますわ」


 目の前にいるのは、ずっとグレンディルに恋焦がれている女性。

 対するエフィニアは、彼の『運命の番』であり妃の一人。

 できるだけ彼女を刺激しないような、悲しませないような言葉を選びながら、エフィニアは続ける。


「既にご存じでいらっしゃるかとは思いますが、少し前まで後宮は大変な事態になっておりました。でも、今はおおむね平和です。グレンディル陛下も、私たち妃の現状確認のためにお茶をしに来てくださったりするんですよ」


 あくまで現状確認のためで他意はない。そう聞こえるように祈りながら、エフィニアはそう告げた。

 その途端、エリザードは嬉しそうに表情を緩めた。


「よかった……」


 その、どこまでもグレンディルの幸せを願うような彼女の表情に、エフィニアの胸はざわめく。


「……エリザード様は、本当にグレンディル陛下のことをお慕いされているのですね」


 気が付けばそんな言葉が口から飛び出してしまって、エフィニアははっとする。


「い、今のは――」

「えぇ、その通りです」


 だがエフィニアの予想を裏切り、エリザードは毅然とした表情で頷いてみせたのだ。

 その瞳には強い光が宿っており、エフィニアは思わずどきりとしてしまった。


「私は、ずっと以前からグレンディル陛下をお慕い申しております」


 神聖な誓いのようなその言葉に、エフィニアは何も言えなくなってしまう。

 ……こんなに純粋で、強い想いを見せつけられてしまっては……自分がとてつもなくちっぽけに思えてならなかった。


「最初は、ただ遠くから見ているだけで満足でした。あの人の雄姿を目にするだけで、私の心は燃え上りました。それが恋の炎だと気づくまでに時間はかからなかったのです」


 エリザードは歌うように、うっとりとそう口にした。

 その言葉を聞けば嫌でも分かる。

 ……彼女の中で、グレンディルへの恋心は過去のものではない。

 今もまだ、燃え続けているのだと。


「ですが私はたいした地位も美貌もないただの娘。グレンディル陛下に差し出せるものなど、この身一つしかありませんでした。……愛されたいと思わなかったといえば嘘になります。ですが……たとえ一夜でも、あの御方と愛を交わすことができたのは私の中で一番幸せな時でした」


 その言葉を聞いたとき、エフィニアは自分がどんな顔をしているのかわからなかった。

 だが微笑みを取り繕えてはいなかったのだろう。

 エフィニアの顔を見たエリザードは、慌てたように自らの手で口を覆ったのだから。


「わっ、私ったらエフィニア王女の前でなんてことを……お許しください……」


 弱弱しくそう口にするエリザードに、エフィニアは一度大きく息を吸い、呼吸を落ち着けてから声をかける。


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[気になる点] 『たとえ一夜でも、あの御方と愛を交わすことができたのは私の中で一番幸せな時でした』 …コレは…? どゆ意味? グレンディルには身に覚えがなかったはずでは? エリザードの中では 言葉…
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