32 妖精王女、打開策を思いつく
「はぁ、私もカレーとかいろんなお菓子とか食べたい……」
遊びに来ていた側室たちがいなくなり、屋敷の奥に引っ込んだエフィニアは眉を寄せながらカタログとにらめっこしていた。
値段はとんでもないが、確かに掲載されている商品は魅力的だ。
他の側室のようにお取り寄せサービスを利用できれば、ますますエフィニアの後宮ライフは向上するだろうが……。
(私、お金ないんだよね!)
元々皇帝に挨拶にやってきたら、そのまま何の準備もなく後宮に放り込まれたのである。
一緒についてきてくれた従者たちは後宮に連れていくことを許されず、今頃慌ててフィレンツィア王国にことの顛末を報告に行っていることだろう。
つまり、今のエフィニアは一文無しなのである。
フィレンツィア王国は大陸の隅の隅に位置し、準備が整って祖国からの支援が受けられるのはもっとずっと後になるだろう。
それに……。
(フィレンツィア王国に、そんなお金があるわけないのよ!!)
フィレンツィア王国は大陸の片隅の、深い森の中に位置する小国だ。
竜族が攻めてきて帝国の属国となるまでは、ろくに他の国との交流もなかったガラパゴス国家なのである。
元々妖精族は自給自足を基本とし、慎ましく暮らしている種族だ。
帝国の傘下に入るまで通貨はドングリを使用しており、今でも庶民は物々交換が主流だ。
そんな状態なので、もちろんフィレンツィア王国に莫大な資産などあるはずがない。
たとえ祖国の援助が受けられたとしても、エフィニアが他の側室のようにふんだんに金を使うのは難しいだろう。
(何とかお金を手に入れる手段はないかしら……あ、そういえば前にお兄様が――)
妖精族はのほほんとした性格で、特に現状に不満を持っていない者が多いが、エフィニアの兄の一人は珍しく先進的な考えの持ち主だった。
もっと諸外国との貿易を活性化させるために、目玉となる輸出品の研究を進めていたのである。
エフィニアも彼の研究を手伝い、輸出品となる商品の開発に勤しんでいた。
(そうだわ。ここで、あれを再現出来れば……)
エフィニアの脳裏に、兄の言葉が蘇る。
――『いいかい、エフィニア。僕たち妖精族は他の種族と比べて成長が遅く、王国の外に出れば侮られることも多いだろう。でも、僕は逆にその特色を逆手に取ってやろうと思っているんだ。つまり……アンチエイジングを前面に押し出して、美容ブランドを設立するんだ!』
そう熱弁していた兄は、日々化粧品やサプリメントの開発に精を出していた。
エフィニアは勢いよくソファから立ち上がり、手紙を書く準備を始める。
(まずはお兄様に状況をお伝えして、私の方でもいくつか商品を作ってみるべきね。後は後宮に出入りする商人にコンタクトを取って……忙しくなるわ!)
わくわくと期待に胸を弾ませながら、エフィニアは準備を進めるのだった。
話のストックが少なくなってきたので、次回から少し更新頻度を落とします




