27 妖精王女、後宮のボスから招待を受ける
「うふふ……陛下ったら珍しく慌てていらっしゃるように見えたわ。よっぽど寵姫のことを大事になさっているのね」
まさかその「寵姫」が自分であるなどとは思わず、エフィニアは機嫌よく屋敷へ戻ってきた。
あの冷血皇帝も愛する者のこととなると、多少は感情的になるようだ。
とりあえず、エフィニアがグレンディルの恋路を応援するということは伝えられたはずだ。
後はエフィニアが盾となっている間に、うまくその寵姫を皇后へと選出する手筈を整えてくれるとよいのだが。
「お帰りなさいませ、エフィニア様。皇帝陛下とはうまくいきましたか?」
「ちょっとイオネラ。私がうまくいくわけないじゃない。陛下には別に寵姫がいらっしゃるのだから」
「えー、エフィニア様は陛下の運命の番なんですよ? 結局最後はエフィニア様の所に来るんじゃないですか?」
「竜ってそんなに可愛げのある生き物じゃないと思うわ」
そんな雑談を続けていると、不意に屋敷の呼び鈴が鳴った。
「はーい!」
慌てて出ていくイオネラを横目に、エフィニアは耳を澄ませた。
聞こえてくるのは、イオネラともう一人……女性の声だ。
(女官長……ではないわね。いったい誰なのかしら?)
そんなエフィニアの疑問に答えるように、すぐにイオネラは戻ってきた。
その手に、招待状を携えて。
「たたた、大変です! エフィニア様!! ミセリア様よりお茶会への招待状です!!」
「…………誰?」
ミセリア――聞いたことのない名前だ。
首をかしげるエフィニアに、顔を青ざめさせたイオネラが震えながら告げる。
「ミセリア様と言えば……側室の一人で、現時点で最も皇后に近いと言われている御方ですよ!」
ミセリア・ファルサ――マグナ帝国の公爵令嬢で、生粋の竜族の姫君。
帝国の公爵令嬢といえば、下手な従属国の王女よりもよほど地位が高い。
後宮の中でも最も美しく大きな住居を与えられているという。
容姿も美しく、知性と気品を兼ね備え、多くの者が「彼女こそが皇后にふさわしい」と称え、一大派閥になっているのだとか……。
イオネラの説明を聞きながら、エフィニアは形の良い眉を寄せた。
「そんな御方が私に招待状、ねぇ……」
皇帝の寵姫探しに躍起になっているこの状況だ。
……どう考えても、友好的な誘いだとは思えなかった。
「どどど、どうしましょう……?」
慌てふためくイオネラに、エフィニアはくすりと笑う。
「招待されたからには、断れば角が立つし何を言われるかわからないわ。仕方ないから行ってやろうじゃないの」
また面倒が増えた……と、エフィニアはため息をつく。
真の寵姫は雲隠れして、側室同士で潰し合いとは……なんともむなしい限りだ。
(まったく、皇帝はさっさと寵愛なさる方を皇后に立てるべきよ! そうすれば、この馬鹿げた争いも少しは収まるかもしれないのに……)
心の中で皇帝に文句を垂れつつ、エフィニアはどう動くべきか頭を巡らせた。




