23 妖精王女、皇帝の寵姫に思いを馳せる
後宮ではしきりに「皇帝陛下の寵姫探し」が行われているようで、エフィニアの屋敷を見張る人影もたびたび目にするようになった。
だが、どれだけ見張っても皇帝グレンディルがこの屋敷に通うことはない。
エフィニアは無駄足を踏む者たちを眺めながら「ご苦労なことね……」と普段通りに過ごしていた。
(これだけ探しても皇帝陛下の寵姫が誰だかわからないなんて……よっぽど隠れるのが上手い方なのかしら?)
なんでも皇帝グレンディルは、朝方に後宮を出ていくところを女官や門番に目撃されたらしい。
それすなわち、後宮のどこかで夜を過ごしたということなのだが……レオノールを始めとして多くの側室やその手先が例の寵姫を探しても、手がかりすら得られていないのだとか。
皇帝の「運命の番」であるエフィニアも、寵姫の有力候補として疑われているようだ。
だが、もちろんそんな事実はないので、どれだけ見張ったとしても決定的な場面が見られるわけがないのだ。
エフィニアも少しだけ、これだけ探しても見つからない寵姫がどのような人物なのか気になり始めていた。
(もしかしたら、お相手は側室ではないのかしら……? 後宮の女官や侍女とか……。もっ、もしかしたら……警備の騎士の方なのかもしれないわ!!)
例の「寵姫」は、もしかしたら公に寵愛していると言い辛い相手なのかもしれない。
あの無駄に偉そうな皇帝も、道ならぬ愛に苦しんでいたりするのだろうか……。
そんなことを考え悶々としながら、エフィニアはアルラウネたちと共に庭の剪定に精を出していた。
するとエフィニアの耳に、聞き覚えのある小さな羽音が聞こえてくる。
「来たっ!」
ぱっと顔を上げると、空の向こうから小さな影が近づいてくる。
「きゅーぅ!」
やって来たのは、あの小さな幼竜だ。
朝起きたらいなくなっていた時は焦ったが、あれからも幼竜は時折エフィニアの元へ遊びに来てくれる。
あの時のように長時間滞在することはないが、わずかな時間でも顔を見せてくれることをエフィニアは嬉しく思っていた。
「おいで……今日も元気いっぱいね!」
腕の中に飛び込んできた幼竜を抱きしめ、エフィニアはついつい頬ずりしてしまう。
「きゅう!?」
途端に驚いたような声を上げる幼竜にくすりと笑い、エフィニアは踊るように軽やかに歩き出した。
「今日はケーキを焼いたの。少しティータイムをする時間くらいはあるでしょ?」
「くるるぅ」
幼竜は嬉しそうに喉を鳴らす。
イオネラにお茶とケーキを頼み、エフィニアは幼竜を抱いたまま庭に備え付けられたガーデンテーブルへと足を進める。
「それでね、今の後宮は皇帝陛下の寵姫探しでピリピリしていて……本当に参っちゃうわ」
「…………きゅぅ」
何の気はなしに最近の出来事を零していると、幼竜は居心地悪そうにくるんと尻尾を丸めてしまった。
「ごめんね、あなたにはつまらない話だったわね。それよりももっと面白い話を……そうだわ。私の故郷の話はどう?」
「くるるぅ!」
途端に嬉しそうに尻尾をパタパタさせる幼竜に、エフィニアは表情をほころばせた。




