21 妖精王女、精霊の舞踏会を披露する
にこやかな笑顔を浮かべながらも身構えるエフィニアに、側室レオノールは嫌味たっぷりに口を開く。
「ご挨拶が遅れて申し訳ございません、エフィニア王女。イオネラを拾っていただいたようでなによりですわ。うふふ、わたくしが捨てた侍女を拾うなんて、エフィニア王女はリサイクル精神に溢れた御方ですのね。今度からはいらない物はここに捨てさせてもらおうかしら」
「それはいい考えですね、レオノール様!」
「この粗末な屋敷も華やぐことでしょう!」
「さすがはお優しいレオノール様!!」
口々にピーチクパーチクと囀る侍女たちに、エフィニアは怒りを通り越して呆れてしまった。
(こうもあからさまに攻撃されると……怒る気も失せるわね。まぁ、きっちり売られた喧嘩は買いますけど)
おほんと咳払いをして、にっこりと笑って見せる。
棘を刺すまでは、可憐な花を演じて相手を油断させなければならないのだ。
「まぁ、ここに来たばかりでまだまだ粗末な屋敷ですの。ご容赦くださいね。……そうだわ! 皆さま、どうぞ庭へいらしてくださいな。花が見頃ですのよ」
適当に理由をつけて、エフィニアはレオノールとそのお付きの者を庭先へと誘導した。
レオノールをガーデンチェアに案内し、へたり込んでぶるぶると震えていたイオネラにお茶の準備を命じる。
「イオネラ、お茶の準備をお願い。たっぷり時間をかけてね」
「エ、エフィニア様……私、私……!」
「大丈夫、すぐに追い払うから。あなたは私の侍女として、堂々としてなさい」
「はっ、はい……!?」
イオネラに喝を入れ、エフィニアはレオノールの元へと戻る。
彼女は優雅に周囲を見回し、最後にエフィニアに視線を戻すと鼻で笑う。
「ところでエフィニア様。皇帝陛下に寵愛される側室が出来たのはご存じかしら?」
「えぇ、どなたなのかは存じませんが」
「わたくしも、誰が寵姫なのか調べている最中ですの。だって皇帝陛下の大切になさっている方なのでしょう。……きっちり、もてなして差し上げなければ」
完全に獲物を狙う獅子の目で、レオノールはそう告げた。
エフィニアは動じなかったが、レオノールの背後の侍女三人は「ひぃ!」と小さく悲鳴を上げている。
(……殺る気まんまんね。誰だかしらないけど寵姫の方も可哀そうに)
「わたくしてっきり、エフィニア様がその寵姫ではないかと思いましたの。陛下はエフィニア様を皇宮に招かれたという話ですし、何よりエフィニア様は、グレンディル皇帝陛下の『運命の番』でいらっしゃるでしょう? でも……」
そこでいったん言葉を止めると、レオノールは最大限に意地の悪い笑みを浮かべて言い放った。
「ここに来てはっきりと違うということがわかりましたわ! だって皇帝陛下がこんな粗末な屋敷においでになるはずがありませんもの! オーホッホッホッホ」
勝利の咆哮……ではなく高笑いを上げるレオノールに、エフィニアは愛らしい笑みを浮かべて見せた。
レオノールははっきりとこちらに対して挑発行為を行った。
だから今から始めることは、正当防衛にあたるはずだ。
「レオノール様。せっかく来ていただいたのだから少し見世物をいかがですか?」
「は? 見世物?」
エフィニアはすくっと立ち上がると、パンパンと手を叩く。
「来て、《アルラウネ!》」
そう呼びかけると、近くの花畑からワラワラと背中に花を咲かせたハリネズミが集まってくる。
彼らは精霊の一種――アルラウネだ。植物の生育を促進する力を持つ精霊で、エフィニアは短い時間で畑や庭を整備できたのも彼らの力によるところが大きい。
足元に集まって来たアルラウネに、レオノールたちにはわからない特殊な言語――精霊語で指示を与え、エフィニアは朗らかに笑う。
「さぁ、お客様に精霊の舞踏会を御見せしましょう!」




