第47話 手に手を取って、力を合わせて! プリジェクションキュレーター大勝利! Aパート
国道349号線を進むと山の中にダムが現れた。
そして目的の貯水湖が見えて来た。
埼北市と寄居市に跨る湖、円良田湖だ。
観光用EPMによるライトアップでオーロラの星空の風景が。
天の川と銀河も見える。
幻想的なスペクタクルだ。
でも、わたし達は観光に来た訳じゃあない。
シンクロニシティ姉妹とダーク親バートンを見つけないと。
姉妹はダーク親バートンに操られている可能性もあるらしい。
しかし、結論から言うと。二人はすぐに見つかった。
ボートの並ぶ桟橋に白い礼服の二人の少女はいた。
ノートパソコンは持っていない。
わたし達は二人に近づいていく。
「あなた達の変身には人を操るシステムが組み込まれているかも知れないの!
すぐに変身を解除して!」
わたしは言ったのだが、反応がない。
「そこに気付いたかね」
低い男の人の声。
姉妹の後ろにノートパソコンが置かれている。
声はそこからだった。
パソコンの画面から赤い鳥のゆるキャラの映像が現れる。
鋭い眼光と紫のマフラー。
親バートンを反転させたようなカラーリング。
ダーク親バートンだ。
「だが一足遅かった」
腕を組んで、得意げな顔のダーク親バートン。
「ぶっちゃけた話、すでに支配は完了している」
女性の声。
目の前のシンクロニシティ(左)の声だった。
「ここだけの話、シンクロニシティ機能は十全に機能している」
これはシンクロニシティ(右)。
「ふむ! ぶっちゃけた話、言葉遣いまで制御できないか」
「ここだけの話、エモーションとは不思議なものだな」
彼女達の声でダーク親バートンが話している。
「見ての通り、この二人は操っている」
これはダーク親バートン本人。
「そして見せよう。
あらゆる観測データとシンクロするシンクロニシティのコーデの真価を」
ノートパソコンからシンクロニシティ姉妹に向かって、黒い光が照射される。
それを受けた二人のコスチュームが変化していく。
フリルの付いたドレスに金の刺繍のほどこされたガールズルールバージョンのコスチューム。
それに黒い魔女のような帽子と黒い翼が追加される。
マジョリティのコーデの要素が追加されたと言ってもいいのかも。
「ダークシンクロニシティ姉妹だー!」
と、セゾン姉妹。
「ダークシンクロニシティ姉妹だよ!」
と、いろちゃん。
安直だなあ。
「ぶっちゃけた話、これで終わりではない」
「ここだけの話、もっと面白いものを見せてやろう」
ニヤリと笑うシンクロニシティ姉妹。
そして……、
「プリダイムシフト……!」
ダーク親バートンの声と共に、姉妹にノートパソコンからピンクと黄色と青の光が照射される。
すると姉妹は黒いガウンと手袋とブーツを装着する。
さらに帽子の上からティアラまで。
トリニティシルエットの再現だ。
しかもそれだけではなかった。
この雰囲気、この威圧感、この強力なエモーションは!
姉妹はクルクル回転しながらノートパソコンの周りを回る。
狭い桟橋の上で落ちないかと心配したが、水の上も構わず、移動していたように見えた。
そして、一回転して戻って来ると両腕を広げ、
「ダークプリジェクションシンクロニシティ(左)~♪」
「ダークプリジェクションシンクロニシティ(右)~♪」
高音と低音で歌い分け。
安直なダーク呼ばわりは正しかったらしい。
「コンプリートシルエット~ォ~♪」
これはきれいなハモり。
それはさておき、
「ミュージカルアクト?!」
「エモい! エモ過ぎる!」
親バートンも驚いている。
「ぶっちゃけた話♪ データ通りのエモーションを発揮しているな~♪」
「ここだけの話♪ 君達のバトルの観測データあってこそだ~♪」
ただ歌ってるだけじゃない。
この伝わってくるエモーションは間違いなくミュージカルアクトだ。
ミュージカルアクトすら発動させるなんて!
「ぶっちゃけた話♪ これこそ~♪」
「ここだけの話♪ これこそ~♪」
両腕を広げたまま、片膝をついて歌い上げる姉妹。
それから、
「真の革命のー♪ 闘士~~~♪」
勢いをつけて空に舞い上がる姉妹。
やっぱりさっきも本当に飛んでたんだ。
インフルエンサーですら空を飛んではいなかった。
一体どれほどのエモーションなのだろう。
「このシステムを完成させれば~♪」
ダークシンクロニシティ(左)は歌う。
「全てはわたしの思うまま~♪」
ダークシンクロニシティ(左)は歌う。
「一切の誤謬も無駄もなく~♪」
「速やかに世界を変革する~♪」
空中を自在に飛び回る姉妹。
「それがレ~ボ~……」
飛び回りながら、歌う姉妹。
「レボレボレボ……」
空中でステップのような動きまで。
「レボレボレボレボレボレボレボレボリューーー……♪」
息継ぎと共にぐっと拳を握る姉妹。
「ショ~~~~~~ン♪」
空中でも両腕を広げて決める姉妹。
とても満足そうな笑顔だ。
「……………」
言葉の出ないわたし達。
最強の敵の出現で大ピンチ。
ってのはそうなんだけど。
それはそれとして、
……なんかしんどい。
「ぶっちゃけた話♪ 圧倒的なエモーションを思い知ったかね~♪」
「ここだけの話ー♪ データ化してしまえばエモーションなどどうにでもできる~♪」
姉妹の姿で好き勝手言うダーク親バートン。
ちなみに口癖は勝手に再現されてしまうみたい。
「こんな事だって~、できる~♪」
姉妹のブローチが光輝いて、
「ソーダスプラッシュ!」
「サクラブリザード!」
わたしとサクラの必殺技を発射してきた。
エモーショナルな炭酸と桜吹雪が飛んでくる。
「何でもありなの?!」
回避するわたしだが、
「まだまだ~♪」
連発で飛んで来るエモーショナルな炭酸と桜吹雪。
プリダイムシフトの手袋とブーツの力もバッチリ再現してる。
おまけに姉妹は空を飛んだままなのだ。
これは手強い。
「みんな!」
後ろに下がっていたケラサスが叫ぶ。
「少しだけ時間を稼いで下さい」
「あんなとんでもない奴相手に、何か考えがあるの?」
サクラの問い掛けに、
「はい。わたくしは勝てると考えています」
あっさりと答えるケラサス。
「じゃあやってみようよ!」
いろちゃんはノリノリだ。
「そうね。任せたわ」
サクラとペアーが前に出て、わたしに合流する。
「ぶっちゃけた話~♪ 三人になったところでどうと言う事はない~♪」
「ここだけの話~♪ 君達に勝ち目はない~♪」
ソーダスプラッシュとサクラブリザードを次々と降らせながら、シンクロニシティ姉妹は言う。
「そんな事ない! 三人いれば!」
とは言ってみたものの、できて時間稼ぎくらいだろうなあ。
「サクラは右に!」
そう言ってわたしは左に。
すると姉妹の攻撃も二手に分かれる。
そこで!
「ペアークラッシャー!」
ペアーのジャンプキック。
フリーになったペアーの空中戦。
「ぶっちゃけた話♪ そう来ると思っていた~♪」
「ここだけの話♪ そうはいかない~♪」
わたし達に注意が向いているように見えたのもフェイントだった。
瞬間でペアーに向き直るシンクロニシティ姉妹!
「ペアークラッシャ~♪」
シンクロニシティ姉妹Wキックにペアーは迎撃されてしまう。
「ダメだったよー!」
落下するペアーをわたしとサクラでキャッチ。
やっぱり三人でもどうにもならない。
しかし、
「お待たせしました」
ケラサスの声に振り向くわたし達。
早かったけど、どんな準備をしたんだろう。
ところが、ケラサスとわたし達の間にいたのは太陽の描かれた白いドレスを着た金髪の女性。
旭日照子だった。
拘束をしたはずなんだけど、それも解かれてるみたい。
「どういう事ですか? あかね」
拘束されていた手首を抑えながら、怪訝な顔をしている旭日照子。
「一緒にダーク親バートンを倒しましょう」
ケラサスが旭日照子を解放したのだろうか。
そのための時間稼ぎ?
さらに後ろでお父さんが怒っている警察の人をなだめている。
強奪して解放したようだ。
「わたくしとあなた達が協調するですって?」
「協調できるはずです。
シンクロニシティ姉妹を救出すれば、あなた方の幸魂係数も上昇します」
あかねは人間を幸せにするのが本能だからね。
でもさすがにやり過ぎな気もする。
「わたくしも天子と地子は助けたいです。
でも、変身アプリはさきほど削除されました」
わたしが削除しました。
「協調と言われても何もできませんよ」
かぶりを振る旭日照子。
「イノベーション!」
あかねは両足を肩幅に開き、右手は腰、左手を高らかに掲げる。
さらに親指と人差し指を90度に開き、天を指差す。
わたしのイノベーションポーズだ。
あかねのメモリに入ったお母さんの映像の中に、幼い頃、わたしが初めてイノベーションポーズをした時のものがある。
このポーズを知ってる事自体は不思議じゃない。
「アプリはわたくしが新しく制作します。
心配は無用です。
と言うよりもう完成しています」
「だ、そうですがあなた方はいいのですか?」
こっちに話しかけて来る旭日照子。
「猫の手も借りたいと言うか、藁にもすがりたいというか」
わたしとしてはわだかまりはないし、そんな事言ってられない。
「サクラとペアーはどう?」
「確かにこのままじゃ埒が明かないわね」
「いいよ。あたしは。ケラサスちゃんが言うなら」
考えはまとまった。
「一緒にシンクロニシティ姉妹を助けよう!」
わたし達は旭日照子と協調する事を決めた。
「プリジェクションケラサス。葵上あかねではないか~♪」
ダーク親バートンもあかねに気付いたようだ。
「ぶっちゃけた話♪ あかね君ー♪ 君の持っているプリジェクションキュレーターのデータは価値がある~♪」
「ここだけの話ー♪ わたしに従え~♪」
何やらあかねに呼びかけている。
「あなたは間違っています」
「そうかね」
「そして、わたしがあおい達と過ごした日々はデータなどではありません。
みんな、大切な思い出です」
「ぶっちゃけた話♪ 言い方などどうでもいい~♪」
「ここだけの話ー♪ 言い方にこだわるような無駄をAIがすべきではない~♪」
「これが分からないあなたには、エモーションを本当に理解する事はできません!」
決然と言い放つあかね。
「解析して運用する。
これ以上の理解があるものか」
「わたくしが、いえ!
わたくし達がエモーションの本当の力を見せます。
親バートン、赤いサイスフィアをわたしに!」
「いいだろう」
親バートンはサイスフィアをケラサスに投げる。
「サイホックメモリー!」
ケラサスは自分の袖口のホック型メモリーを取り出した。
そして、サイスフィアを格納する。
「プリダイムシフト!」
ケラサスの目が赤く輝く。
「イノベーション! タイプ:フューチャー!」
目から光線を出す代わりにケラサスの全身が赤紫に輝く。
あかねのイノベーションだった。
そして、ケラサスのツインテールが巨大化。
まるでマントかカーテンのよう。
さらにヘッドパーツから角のようなものが。
「サクラ! ペアー!
戻って下さい!
こちらで重要な役割があります」
ケラサスに近寄るサクラとペアー。
「わたしのアンテナに触れて下さい」
新たに生えてきた角を指差す。
これ、アンテナなんだね。
「これでいいの?」
「すり抜けちゃうけど。」
触ると言ってもプロジェクションマッピング。
実体はない。
サクラは右に。ペアーは左に。
二人がアンテナに触れる。
「マジョリティとガールズルールの皆さんも二人に触れて下さい」
あかねはさらに呼びかける。
あの後、大槻月姫ちゃんも駆け付けてくれた。
マジョリティのメンバーもいる。
でも、
「綺羅星子と小沼雅湖は拘束されてるよ」
親バートンが指摘する。
「お父さん、解放して下さい」
「残りの二人もかい?」
「緊急事態です。早く!」
すでにカンカンの警察の人と交渉するお父さん。
ほどなく綺羅星子と小沼雅湖が連れて来られた。
「皆さん、サクラとペアーに触れて下さい。
わたし達のエモーションをあおいと日照子に送るんです」
マジョリティの四人はサクラの側に。
サクラの肩に目崎みどり。
目崎みどりの肩に松木きいちゃん。
きいちゃんの肩に世拵月ちゃん。
付きちゃんの肩に世拵つばめちゃん。
ガールズルールの三人はペアーの側に。
ペアーの肩に大槻月姫ちゃん。
月姫ちゃんの肩に小沼雅湖ちゃん。
雅湖ちゃんの肩に綺羅星子。
みんなが繋がってケラサスが頂点の逆V字に並んだ。
「わたくし達のエモーションを繋げて、あおいと日照子に送ります。
トリニティシルエットにはエモーションをまとめる機能をがあります。
それを媒介にします」
だからサクラとペアーには戻ってもらったのか。
「みんなのエモーションを合わせた力で、あおいと日照子が戦います。
その力でシンクロニシティ姉妹を助けるんです」
わたしと旭日照子の二人で戦う。
うまくいくのかなあ。
「落ち着きなさい。葵上あおい」
わたしの肩に手を置く旭日照子は楽しげな顔だ。
「あかねは不思議な子。
ロボットなのに誰よりも柔軟な発想力を持ってる。
わたくしはあかねを信じています」
「……そうだね。
いつもとんでもない事ばっかりする子だけど。
でも、すごい事をやっちゃうんだ」
「いつかあなたとあかねの物語を聞かせて下さい」
「わたしだって日照子ちゃんの事、もっと知りたい」
敵のリーダーと協力して、楽しく会話して。
不思議。こんな日が来るなんて。
これもあかねのおかげ。
うん。
あかねの考えた事ならきっとうまくいく。
わたしもあかねを信じてる。
「では始めましょう」
みんなで手に手取って、力を合わせて。
必ず世折姉妹を救出し、イノベーションを達成しよう。
あかねの合図と共にみんなのエモーションが。
そして、
「あおいちゃんはいつもヒーローだったよ。
あおいちゃんがいたから、あたしはこの街がこんなに好きなんだよ」
松木いろちゃんの声がする。
わたしこそいろちゃんにいっぱい助けてもらった。
きいちゃんや月姫ちゃんの事も助けた。
いろちゃんこそ本当のヒーローだよ。
さらに、
「しっかりやんなさい」
次は梅桃もも。
ももももはいつも凛としている。
しっかり者のわたし達のリーダー。
「うん!」
短いやり取りだけど、これでいいと思う。
わたしは気合が入った。
けど。
「あとは任せたわよ。あおあお!」
後から絞り出すような声が。
はにかんだ顔が浮かんでくる。
わたしは満面の笑顔で答えた。
「あおあおって言うなー!」
<つづく>




