第45話 決戦は円良田湖! エモバグ軍団VSキュレーショナー B、Cパート
「ここはあたいらに任せてもらおうか!」
道を覆うほどエモバグの大群が出現。
しかし、迎え撃つために車を降りたわたし達の前に見覚えのある四人の姿が。
黒を基調にした刺々しいデザインの仮面とドレスを纏った四人の少女達。
マジョリティのキュレーショナーだ。
先頭に立つ黄緑色の髪をした背の高い女性はエキセントリック。
エモーションでできたエレキギターのようなものを背負っている。
正体はロック大好き少女、芽崎みどりだ。
おかっぱの少女はディスコード。
正体は松木いろちゃんの双子の妹、きいちゃん。
そう思ってみるとダークな感じのいろちゃんにも見える。
小柄なストレートヘアの双子はセゾン姉妹。
世拵月ちゃんと燕ちゃん。
本庄地区児玉町に住んでいる。
いたずらっ子で、かつては遊びの延長でエモバグを出現させていた。
四人ともわたし達が「さいたま・リベレーション・ストリーム」でコーデを消滅させてやっつけたはず。
「わたしがこの様な事態に備えて、コーデのデータを復元させた」
親バートンだった。
「知見が足りないので何とも言えないが、トリニティシルエットは不安定だ。
長期戦に耐えられない可能性がある。
ここは彼女達に任せて通常の変身で駆け抜けるんだ」
必ず仕掛けて来ると読んでいた親バートン。
対策も考えていたんだね。
「キュレーティン!」
変身したわたし達四人。
四人のキュレーショナーと国道で向かい合う。
「そういう訳だからよ、お前らはちゃっちゃと敵に追いつけよ」
エレキギター(的なもの)を肩に担いで不敵な笑みを迎えるエキセントリック。
「あんた達が協力してくれるなんて」
直接対決したサクラもショックを受けている。
「あたいは少年院送りの可能性もあったんだけどよ。
リョウや葵上蒼介のおっさんが頑張ってくれたのさ。
その借りは返さねえとな」
「わたしへの借りは?」
「それはあたいがアイドルになって返すんだろ。
文句あっか?」
「ないけど。
だったらしっかりやりなさい」
さばさばしたやり取りがこの二人らしい。
いつか一緒にステージに立つ日もあるのかな。
「お姉ちゃん。大丈夫?」
ディスコードこと松木きいちゃんはペアーを気遣っている。
いろちゃんはプリジェクションアンダーに敗れて一時は病院にいたのだ。
「あたしは全然だよ。
それよりまたその姿になるなんて」
「月や燕とも話したんだけどさ、やっぱお姉ちゃん達のために何かしたくって」
「そうそう。ぞっとするし」
「ぞっとしないし」
ここでセゾン姉妹が割り込んで来た。
いろちゃんの話では、上里に映画を見に来た二人と偶然出会ったりした事があるみたい。
「あんまり無茶しちゃダメだよ」
わたしはやんちゃな姉妹がちょっと心配。
「出たな、プリジェクションソーダ!」
身構えないでよ……。
まあヤバンセ美里店で三回も戦ったし、わたしが因縁の相手になるんだろうか。
「児玉千本桜に連れて行くからね。
そうじゃないとぞっとするし」
「そうじゃないとぞっとしないし」
「うん。必ず行こうね」
いろいろあったけど、根は悪い子達じゃないと思う。
「じゃあ行きますか」
近寄って来るエモバグ軍団に相対するわたし達。
「大漁、大漁!
結構な事じゃねえか」
エキセントリックは真っ先に向かって行く。
「エモバグの相手はあたし達がするから。
お姉ちゃん達はとにかく先に向かう事を考えて」
ディスコードも後に続く。
静かだがしなやかな動きだ。
「じゃああたし達も行くよー!」
セゾン姉妹も張り切っている。
「白いエモバグなんてぞっとするし!」
「エモバグ出すならやっぱピンクか黄色か青じゃないと。
ぞっとしないし!」
それは色味とは関係なく出て来ないで欲しいです。
そんなこんなでエモバグ軍団とキュレーショーナーの戦いは始まった。
「うらあああああ!」
エキセントリックがエレキギターを振るうとエモバグが数体まとめて吹っ飛んで行く。
殴りかかってきたエモバグにも、ギターで防御したかと思ったらそのまま押し返して蹴散らしてしまう。
そう言えば敵対時も直接のバトルで強敵だったっけ。
ディスコードは素早くエモバグの首に組み付くと自分を軸にエモバグを回転させる。
エモバグを転倒させたのかと思ったら、そのまま他のエモバグ群れに投げ付けた。
そして、素早く次のエモバグに組み付いて関節技を仕掛けていく。
セゾン姉妹もパンチとキックの協力技で戦う。
息の合った連携でエモバグを次々と攻撃。
「あの方達から強力なエモーションが観測されています」
あかねもビックリしてるみたい。
ダメージを受けて消滅するエモバグもいる。
四人の活躍で、エモバグ軍団の陣形は崩れ、わたし達の道は開かれていく。
わたし達も走り抜けながら邪魔なエモバグを蹴散らして行った。
そして、エモバグ軍団をかき分けて進むわたし達の前に、ついに待ち構える二人のレボリューショナーの姿が現れた。
「君達、ここでプリダイムシフトだ」
親バートンの指示でとトリニティシルエットになるわたし達。
こうして、ガールズルールとの最後の決戦は始まったのだった。
☆☆☆
これはあとで聞いた話なんだけど。
エモバグ軍団が倒されている事は、埼北市の脱出を図るガールズルールの側からも確認された。
「キュレーショナーが相手に協力している。
マジョリティのコーデシステムを復元したようだ。
全く彼は抜け目がないな」
アンダーの持ったノートPCから、ダーク親バートンの声がする。
「追いつかれるのも時間の問題か」
アンダーは思案して、言った。
「日照子。君だけは何としても逃がす。
世折天子、これを」
アンダーはシンクロニシティ(左)にノートPCを渡した。
「雅湖、わたしと共に残ってくれるか?」
ジコチューは無言で立ち止まった。
「ここはわたしと雅湖が食い止める。
行ってくれ」
「申し訳ありません。星子」
インフルエンサーとシンクロニシティ、そしてPCの中のダーク親バートンは先に進む。
「済まないな、雅湖」
しばらく冷たい沈黙が流れた。
そして、
「……あたいはげっきーを殺そうとしたお前を許さねえ」
「そうか」
星子は静かに言った。
「お前もダーク親バートンも狂ってるよ。
革命だったら何やってもいいのかよ?」
「君の言う事は分かる。
革命の歴史などわたし達には関係ない。
それでもわたしは日照子のためならば何でもやると決めたんだ」
「お前と日照子はどういう関係なんだ」
「日照子は文字通り太陽のような存在さ」
羨望のこもったまなざしでアンダーは言った。
「彼女は幼い頃から転校を繰り返していた。
それでも小学校の頃、一年近くクラスメートだった事がある」
転校が多かったのは犯罪者の娘だったためだと、アンダーは日照子本人から聞いた事がある。
学校からの要請で転校を余儀なくされたケースもあると。
「その時、彼女は学級崩壊していたクラスを立て直した。
担任の教師すら匙を投げていた状態からだ。
日照子は生まれながらのレボリューショナーで、インフルエンサーなんだ」
革命の系譜、それは彼女にかけられた呪いであると共に彼女の才能だったのだろう。
「高校生の時に再会してレボリューションを持ちかけられた。
彼女に選ばれた事に、わたしは身体が熱くなって震えたよ。
わたしは彼女のステージを支えるために汗を流すと決めたんだ」
「そうかい。
あたいはエモーションに目を付けられただけさ。
面白そうだから乗っただけだ」
ジコチューはスマートフォンをいじりながら言った。
「ジコチューだからね」
「なら君がここに残る必要はもうないだろう?
本当は月姫と一緒にいたいんじゃないのか?」
「げっきーは本当の友達ができたんだ。
あたいはもう必要ない」
雅湖は自身の過去を思い出していた。
雅湖の親は何でも買い与えてくれたが、子供に無関心だった。
中学に入った頃離婚してからは、父親とは会ってもいない。
大槻月姫はガールズルールを去った。
自分自身にとってもガールズルールはもはや居場所ではない。
でも、それでいい。
自分はそれでいい。
やりたい事をやるだけだ。
自分は……
ジコチューで行こう。
「あたいは好きにやるよ」
「そうか」
エモバグの群れが蹴散らされる様が段々近づいて来た。
そして輝きと共に、プリジェクションキュレーターのプリダイムシフトを視認する。
「トリニティシルエットになったプリジェクションキュレーターに、我々は恐らく勝つ事ができない。
日照子のためにどれほど力を削ぐ事ができるかの戦いになる。
それでもいいか?」
「レイドボス形式には慣れてるんでね!」
アンダーとジコチューはプリジェクションキュレーターを迎え撃つのだった。
なんだかすごいね!
【あおいちゃんのイノベーティブ現代用語講座】
・レイドボス形式
ソーシャルゲーム用語。
レイドバトルとも言う。
制限時間内に強力な敵を、仲間と協力して倒すゲームの形式。
ゲームオーバーになってもボスに与えたダメージが残り、ダメージを与えた人はみんな撃破報酬がゲットできる。
実際に協力してプレーする訳じゃないみたい。
対戦で競争させる事と違って、みんなが得をして損をする人がいない、WIN-WINの関係を演出できるので便利みたい。
プリジェクションジコチュー「もっとも薄い繋がりの人間関係じゃないかって、あたいは思うねえ」
だ、そうです。




