第44話 本当の友達になりたかった Aパート
これは後で聞いた話なんだけど。
ここは、ガールズルールの新しいアジト。
大槻月姫は学校のバッグに伝説ゲーム、「マインドサーチャー」を入れていた。
松木いろに貸すためだった。
松木いろは超高難度を誇る「未来の神話マジヤーバス」もクリアしてしまった。
超能力者にならないとクリアできないと言われている「マインドサーチャー」もなんなくクリアしてしまうかも知れない。
そしてコスプレ仲間でもある。
自分のコンプレックスである銀髪を生かせるただ一つの趣味。
一人でやる勇気がなかったが、いろと一緒に初めて撮影会に臨んだ。
松木いろがサブカルチャーにここまで精通しているとは思わなかった。
ただのヒーローオタクだと思っていた。
漫画と特撮が好きなくらいだと。
それどころか、ライトノベルを読み、自分でコスプレの裁縫をこなし、伝説ゲーまでプレーする。
ソーシャルゲームはしないと言うのも、自分と趣向が合っている。
自分は詳しくないが、BLにも詳しいらしい。
さらに、プリジェクションキュレーターまでやっている。
その上、漫画家を目指していて、一度投稿もしたと言う。
とんでもないバイタリティーだと思う。
天才的と言ってもいい。
彼女から渡された新作の下書きを眺める。
近々、二度目の持ち込みをするらしい。
ヒーローものの少年漫画。
漫画にしてもちょっと子供向けな感じがする。
でも、彼女の個性がしっかり出ていると思った。
前回はダメ出しばかりされたらしいが、今度は上手くいって欲しい。
「げっきーさ。あいつら敵だって分かってる?」
不意に聞こえて来た声は小沼雅湖。
と、言ってもずっとここにいた。
スマホゲームをプレーしている。
この発言もスマホを見ながらだ。
「分かってるよ。油断させるためでしょ」
油断させるために近付いて、順調に親密になった。
何も間違っていない。
リホームを考えていた両親に旭日照子の祖父がその財力を利用して、上里への引っ越しをさせた。
松木いろに接近させるためだった。
「すでにあんたは神川行きの情報をリークした。
いつか縁を切るんだよ」
「う……」
いつか縁を切る。
正体を明かす。
正体を隠して近づいた事を知ったら、もちろん嫌われるだろう。
月姫は胸が苦しいのを感じていた。
「わ、わたしのしてる事に、文句あるの?」
「あたいはあんたに干渉しないし、あんたが不利になるような告げ口もしないよ」
やはりゲームをしながら言うジコチュー。
「でもさー、あんたをかばう事もしないからね」
そこで月姫をじろっとにらむ。
「あたい、ジコチューだし」
またゲーム画面を見つめるジコチュー。
月姫は何も言えなかった。
自分を受け入れてくれたガールズルールの仲間達。
自分のただ一つの繋がり、ただ一つの居場所。
松木いろとの関係は偽りのもので、たまたま趣味が合っていただけ。
比べられるものではない。
いつか裏切り、いつか正体を明かす日が来る。
計画は上手くいっている。
しかし……
どうしてこんなに胸が苦しいんだろう。
このまま、正体を明かさずにレボリューションが終わればどうだろう。
その後は今度こそ松木いろと本当の友達になれるのではないか。
そんな未来があればいい。
月姫はそう思った。
ところが、そこに綺羅星子が血相を変えて現れた。
「天子と地子の変身が解除された!」
変身の解除。
これをされればどれだけ強くても無意味になってしまう。
「ミュージカルアクトに達したという話もある。
彼女らをこれ以上野放しにはできない」
月姫の情報で神川に向かった日照子と、世折姉妹だが、葵上あおいのプリダイムシフトは阻止できなかったようだ。
「幸い、一人でも変身できなくすればあの力は使えないらしい。
月姫、松木いろをおびき出すんだ」
事態は急転直下に動き出し、月姫に決断を強いるのだった。
☆☆☆
これも後で聞いた話なんだけど。
松木いろは放課後帰るところだった。
二階の教室から一階に降り、昇降口に向かう。
下駄箱に寄りかかっている銀髪巻き毛の少女がいた。
いろと同じく小柄な女の子。
最近、友達になった大槻月姫ちゃんだ。
今日は伝説ゲーム「マインドサーチャー」を貸してくれる約束になっていた。
「月姫ちゃん、お待たせ」
「あ……あのね、いろちゃん。
『マインドサーチャー』家に忘れてきちゃった」
「そうなんだ」
いろは特に気にしなかった。
ライトノベルの話でもして帰ろうと思っていた。
「かまフラ」の新刊発売も近いのだ。
楽しくおしゃべり、と言いたいところだが、今日の月姫は元気がない気がする。
「『未来の神話マジヤーバス』は壮大だよね。
宇宙飛行士が世界征服しちゃうんだもん」
「うん」
「今度コスプレしようかな!」
「そうだね」
「なーんて、やるなら『星座を見まくる人』のあいねとみさ、やろうよ」
「うん」
いろが違和感を感じたところで、小さなトンネルが見えて来た。
月姫の家がもう間近の位置だ。
埼北市は関越自動車道が通っている。
高速道路の下の小さなトンネルが無数にある。
これはその一つ。何の変哲もないいつも通る短いトンネルだ。
「やっぱり家まで来てもらうのは悪いから、今日はここでさよならしよ」
家が目前の位置でこんな事を言うなんて。
いろはいよいよ月姫が心配になってきた。
悩みがあるならじっくり聞いてあげなきゃ。
「何言ってんの? ほら、行くよ!」
トンネルまで走っていくいろ。
「ダメ! いろちゃん!」
嫌がっているにしても必死過ぎる。
一瞬、いろはそう思った。
そして、トンネルの中には……、
「やあ。松木いろちゃん」
短髪の、端正な顔立ちの、体格のいい、男性のような、イケメンのような女性。
「綺羅星子、さん……」
ジャケットと紺のジーパンの姿は、さっぱりとしていてセンスがいい。
しかし、最近は別の姿でよく出会う。
「キュレーティン」
彼女がスマートフォンを操作するとEPMの光を纏い、銀色の貴族のような礼服に姿が変わる。
「綺羅星のキュレーター。プリジェクションアンダー」
そう。よく見るのはこの姿と名前だ。
優美で堂々とした、洗練されたかっこよさだと思っている。
でもあまり出会いたくない。
出会うのはいつもバトルをする時だからだ。
「いろちゃん。
……ダメだって言ったのに」
追いついて来た月姫。
これは下がってもらわないと危険だ。
「危ない。げつ……」
「来たね、月姫
さあ二人で仕掛けるぞ」
プリジェクションアンダーから月姫の名前が。
いろは状況が呑み込めない。
頭を抱えて、首を振る月姫。
やがて彼女はスマートフォンを取り出した。
「キュレーティン……」
月姫もEPMの光に包まれた。
黄色いドレスのキュレーターが現れる。
いろも黄色いキュレーターだが、目の前の姿はガールズルール仕様の刺繍の施された優美な姿だ。
それに銀髪の巻き毛が嫌でも目に付く。
「月姫ちゃん……?」
「月明かりのキュレーター、プリジェクションバレッタ」
まだ目の前の光景が信じられないいろ。
しかし、伏し目がちだったプリジェクションバレッタはきっと顔を上げた。
「わたし、いろちゃんと本当の友達になりたかった」
<つづく>




