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第42話 なっちんに会いたい! キュレーター達再び神川へ! Aパート

「あおいちゃん、あおいちゃん」


 男の子の声が聞こえてきた。


 目の前にいるのに顔は分からない。


「どうしてわたしの名前を知ってるの?

 どうしてわたしを呼ぶの?」


「違うよ。僕があおいちゃんに呼ばれたんだ。

 あおいちゃんに呼ばれて、僕はここにいる事に気付いたんだ」


 聞いた事のある声のような気もするけど、誰なのか分からない。


「あなたは…、あなたは誰?」


 手を伸ばすけど、男の子には届かない。


「僕に会いに来て……」


「待って! あなたは一体?!」


 ベッドから上半身を起こしていたわたし。

 どうやら夢だったみたい。


 部屋はまだ真っ暗。


「大丈夫ですか? あおい」


 あかねが話しかけてくる。


「うーん、変な夢みちゃった」


 男の子が近くにいて。

 そう、ちょうど今あかねが立ってるくらいの位置に……。


「あれ? あかね、なんでそんなとこに立ってるの?」


 わたしはいつもあかねと一緒にベッドで寝てる。

 あかねには睡眠は必要ないが、理由もなく一人で出歩いたりしない。


「……なんででしょう? 分かりません」


 ここであかねの頭のハードディスクがキ、キ、キーと音を立てる。

 これはログを調べている音、言うなれば思い出している音だ。


「わたくしへの不審なアクセスが記録されています。


 わたくしは何かされたのかも知れません」


 まさかさっきの夢で聞いた声は実際にあかねが?

 しかも、本人の意思ではなく。


 あかねの音声は自由に変更できる。

 男声に変える事だって可能だ。


「お父さんに調べてもらいましょう」


 部屋を出ようとするあかね。


「明るくなったらね。おいで」


 ベッドに横になったあかねをわたしは抱きしめた。

 あかねのハードディスクはまだキ、キ、キーと鳴っていた。

「不審なアクセス」がまだ怖いんだろう。


「わたしがいるからなんにも怖くないからね」


「はい」


 わたしの胸に響くあかねのハードディスクの音は少しずつ収まっていく。

 わたしもうとうとしてきて、そのまま眠ったのだった。



 ゆうべの話を父さんにしたら、あかねのログを親バートンに調べてもらう段取りに。

 すると学校に行ってる間にメールがあって、集合する事になった。


 放課後、本庄コミュニティセンターに向かったわたしとあかね。


 ももといろちゃんも現れた。


 子バートン(お父さん)と親バートンを含むゆるキャラ達も一緒だ。


「あおい君が夢で聞いた声は、あかね君を通して発生されたものだ」


 やっぱりね、とは思うけどちょっと怖い。


「声の主は神川地区から通信している」


 神川地区は下久保ダムを擁する関東の水瓶とも言える場所。

 また、マジョリティのアジトのあった場所でもある。

 そして、実はガールズルールの幹部だった綺羅星子(きらほしこ)と初めて出会った場所だ。


 わたし達にとってはまさに因縁の地だ。


「そして、もう一つ。


 あかね君のコントロールを乗っ取り、会話すできるものはそうはいない」


「だったら一体なんだって言うの?」


 ももが尋ねる。


「声の主は自律型AIだ」


「それって……」



「あおい君が自我を与えた54体のAIの一体という事だ」


 わたしが暴走したアンビバレントゴッドGを倒すために自我を与えたAIの中の一体。


「でも神川にPSYシリーズのロボットは配備されてたっけ?」


 自律型AIになる事を想定されて作られたPSYシリーズ。

 このタイプのロボットでなければ自律型AIにはなれない。


「配備されていない。


 だが、54体の一体は神川からやって来た事は観測されている」


 ちなみにこの「やって来た」はデータ通信的な意味ではなく、文字通り空中を飛んでわたしの元にやって来た。

 サイスフィアが星になってわたしに降り注いだのだ。


「PSYシリーズではないが、自律型AIになれる存在がまさに神川地区には存在する」


「そ、それは一体?」


 その場の全員が親バートンに注目する。


「『なっちん』だ」


「そっか! 『なっちん』なら!」


 わたしは思わず叫んでしまった。


 そうだ!神川にはなっちんがいる!

 なっちんなら自律型AIにもなり得る!


「ちょ、ちょっと待って!」


 ももが会話に割り込んで来た。


「あんた達だけで勝手に話を進めないで。

 当たり前のように言ってる『なっちん』について教えてくれる?」


「えー、『なっちん』は『なっちん』だよ。

 神川って言ったら『なっちん』だよ」


「神川にいる事まで知ってるの?」


「うん」


「なんでそれを黙ってるの!?」


「えー、みんな知ってると思ってた」


「知る訳ないじゃない!

『なっちん』って何?」


「もう! これだよ!」


 察しの悪いももにわたしはスマホで埼北市のサイトを開いて見せた。


 埼北市のゆるキャラ紹介のページだ。


 本庄地区のキャラクター、はにぷー。

 美里地区のキャラクター、ミムベェ。

 神川地区のキャラクター、ゴッド(ジー)となっちん。

 上里地区のキャラクター、こむぎっちゃん。


「神川の……ゆるキャラ?」


「うん」


 そんな馬鹿な、という顔をしているもも。


「前も似たような事があったね」


 と、いろちゃん。


「つけ加えておくが、ただのゆるキャラの話ではない。


 この『なっちん』は『ゴッドG』のデータと共にハッキングされたものだ」


「ゴッドG」。

 マジョリティ首領、日上一平博士の使っていたアバターだ。


 神川のゆるキャラに由来して、白いひげを伸ばした仙人のような姿をしている。


「ここからは僕が話そう」


 子バートン(お父さん)だった。


「日上一平博士の供述によると、なっちんはアンビバレントのコーデの制御ユニットらしい。

 本来ならエモーショナルビーストすら制御したはずだという話だ。


 しかし、あの対決の最中、神川のなっちんからの連絡が途絶えたと」


 あの山のような大きさのエモビーストの制御ユニットなんて。


「自我に目覚めたなっちんは日上博士の元を去ったという事なのかも知れないね」


「なっちんから連絡を取ってきたなら、神川に行くしかないだろう」


 と、親バートン。


「あおい君も分かっているだろう?」


「うん、そうだね」


「また二人だけで何の話?」


 ももが尋ねてきた。


「あおい君のプリダイムシフトについてだ」


 と親バートン。


 プリジェクションサクラのタイプ:スタイリッシュ。

 プリジェクションペアーのタイプ:クリエイティブ。


 ももといろちゃんはプリダイムシフトでパワーアップした。


「実際のところ、あおい君はすでにプリダイムシフトを終えているのだ」


「どういう事?」


「プリジェクションソーダのプリダイムシフト。

 それは『モード:アンビバレント』以外にあり得ない」


「アンビバレントって!」


「それってゴッドGの!」


 ももといろちゃんがそろって驚く。

 無理もない。敵であったゴッドGのコーデの名前だ。


「あおい、そうなの?」


「…………うん」


 わたしはうなずいた。

 親バートンの言う通り、分かっていた事だ。


「ゴッドGと対決した時のエモーションをなぞれば、それが恐らくプリダイムシフトになると思ってるよ」


 エモーションを解き放つ。

 わたしがそれをしようとするなら、アンビバレントという言葉になるだろう。


「なら、なんで今までやらなかったの?」


「暴走したゴッドGを見たら怖くなっちゃったんだ。

 わたしもああなるかも知れない」


 他の方法でプリダイムシフトできたかも知れないし。


「仮にあおい君が使おうとしてもわたしが止めただろう」


 と、親バートン。


「だがなっちんの協力が得られるなら話は別だ」


「なっちんがいればあの能力をもう一度使えるって事?」


「そうだ。ミュージカルアクトを起こすほどのインフルエンサーのエモーションに対抗するにはこれしかないだろう」


 かくしてわたし達は再び神川地区に向かう事になったのだった。


 お父さんの車が国道462号線を南下する。

 その車内でいろちゃんがメールを送っていた。


「例のコスプレ友達?」


「うん。今日はあたしの漫画を読んでもらう約束だったんだ」


「ごめんね、いろちゃん。急な話で」


「ううん。大事な事だもん。

 その子もあたし達がプリジェクションキュレーターだって知ってるし」


 そこでスマホが振動した。


「ほら。『気を付けてね。どこまでいくの?』だって」


 心配してくれるいい友達みたい。



 神川町に入った。

 神流川沿いを下久保ダム方向へ進む。


「結構進んだけど」


 と、もも。


「どうやって到着を知らせるの?」


「そう言えば分からないや」


 連絡の取り方が分からない。

 でも、ここであかねに異変が。


 不意にフリーズしたように動かなくなる。


 そして、


金鑚(かなさな)神社に来て」


 間違いない。夢で聞いた声。


「あなたがなっちん?」


「そうだよ。あおいちゃん。

 君を待ってた。でも」


 でも……?


「招かれざるお客さんも付いて来てしまったようだね」


 進路上の道路の中央に人がいる。


 金髪の若い女性。

 白地のドレスのスカート部分に大きな太陽の描かれている。


「そんなまさか!」


 女性はスマートフォンをかざす。


「キュレーティン!」


 女性にEPMの光が照射される。


 金髪はところどころカールに。

 ドレスがオレンジ色に変わる。

 ドレスの胸や肩口とスカートの裾にフリルが付く。


 そして、頭には羽飾りの着いた冠。

 胸元にはリボンとブローチが。


 強烈なまでの、太陽のような存在感。

 間違いない。寄りにも寄ってこんな時に!


「日輪のキュレーター♪ プロジェクションインフルエンサーア~♪」


 インフルエンサーに対抗する力を求めてここまでやって来たのに、まさにそのインフルエンサーに遭遇してしまった!


<つづく>

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