第38話 悩みを乗り越えて! ペアーのイノベーション! タイプ:クリエイティブ! Bパート
春華秋人は、アッキーは、「光学戦隊コウアンジャー」でレッドを務めたイケメン俳優。
刑事ドラマの要素を持つコウアンジャーの世界観に合わせ、20代後半での主役起用となった。
確かに特撮以外のテレビ番組には出演していない。
映画も無名な作品に一回出たくらい。
それはさておき、現場に近づくとすでにサクラちゃんとソーダちゃんとケラサスちゃんが。
「みんな、大丈夫?」
「来てくれたのね」
「ありがとう。いろちゃん!」
二人とも自然な感じにしてるけど、雰囲気はやっぱりいつもと違う。
うー、緊張するー。
「やあ、プリジェクションキュレーターの諸君」
そこに、現れたのは短髪の黒髪の、銀色の礼服のキュレーショナー、アンダーだった。
「ご無沙汰しているが、調子はどうかね?」
ニヤリと笑うアンダー。
「今日は君たちに見せたいものがある」
アンダーはそういうと、顔に手をかけ、仮面を取った。
そして、その顔には見覚えがあった。
「イケメンだー!」
その端正な顔立ちは間違いない。
下久保ダムで出会った神奈川からの大学生、綺羅星子さんだ。
「覚えていてくれて光栄だ」
「何でいまさら正体を明かしたっての?」
「フッ、これを付けていると新しいシステムに対応できないのさ」
そう言うと星子さんはスマートフォンを取りだした。
そして、それを操作しながら静かに言った。
「キュレーティン」
その瞬間、星子さん、というかアンダーにEPMの光が降り注いだ。
羽飾りとブローチが現れ、髪が銀色に変わる。
しかし、それ以上はさほど変化がない。
貴族っぽい礼服のままだ。
「綺羅星のキュレーター、プリジェクションアンダー」
胸に手を当て一礼。
そして、星の輝きのような笑顔。
なんだかときめいちゃう。
アンダーこと綺羅星子さんもプリジェクションキュレーター化してしまった。
でも、あたし達みたいなドレスではない。
「フッ、わたしにふさわしい姿にデザインしてもらったよ。
わたしがドレスもないだろう」
「確かに!」
星子さんのイケメンフェイスを生かすのはドレスではない。
安易にフリフリドレスなど着せるなら、それこそドレスコード違反と言うもの。
いっそもっと王子様みたく……
「いろ!なんでうっとりしてんの!」
ももちゃんの声で我に返る。
えーと、そう。
アンダーまでプリジェクションキュレーターになってしまった。
これは脅威だ。
「しかし、ミュージカルアクトを起していない。
インフルエンサーほどのエモーションではないようだ」
と、親バートン。
「どうやらわたしをなめているようだな」
プリジェクションアンダーはパチンと指を鳴らすとエモバグが飛んで戻って来た。
「影は可能性……!」
エモバグとプリジェクションアンダーが一つになる。
銀髪らしき突起とブローチが現れる。
「こういう事だってできるぞ」
プリジェクションキュレーターの状態からもレボバグになれるようだ。
でもレボリューショナーじゃないならレボバグじゃないか。
「プリジェクションキュレーターだからプリバグ? キュレバグ?」
「ふっ、レボバグで構わない。
我々のレボリューションの意思は変わらない」
『春華秋人は特撮以外出番のない三流俳優ー!』
素早いレスリングのタックル。
大学ではレスリング部って言ってたっけ?
後ろに下がって回避したが、
「甘い!」
巨体とは思えない動きでレボバグに距離を詰められる。
『国民的俳優になった冬樹夏樹とは大違いー!』
空中でキャッチされてからの一本背負いがクリーンヒット。
「ぐぅっ!」
わたしは背中を打ち付けてしまう。
「芸能界に興味はない。
美しくないが、発言はわたしの意思ではない。
そこは許して欲しい」
まはもや胸に片手を当て、一礼。
優雅だ。
「いろ! タイプ:スタイリッシュよ。親バートン!」
「承知した」
ももちゃんに親バートンからピンクのサイスフィアが手渡される。
しかし、それだけじゃなく、
「いろ君! 君もだ」
あたしにも黄色いサイスフィアが。
「君ならプリダイムシフトを起せる。
サイホックメモリーを手にするんだ」
「あたしがプリダイムシフト?!」
「うむ!」
その目はわたしがぶっつけ本番でプリダイムシフトできる事を疑っていなかった。
こうなったらやるっきゃない!
わたしはドレスの袖のホック型メモリーを手に取った。
サイスフィアを近づけるとサイホックに吸い込まれていく。
「君のエモーションを解放するんだ」
「ど、どうするの?」
「わたしは君を操らない。
君のエモーションに従え」
わたしのエモーションに……。
プリジェクションキュレーターと融合したエモバグだ。
この未知の敵に対抗できるのは新たなイノベーションしかない。
サイホックを握りしめる。
わたしは気持ちを静めて、エモーションに従う。
わだかまりを捨てて、わたしのエモーションをこめる。
「あかねちゃん!」
わたしは黄色く輝くサイホックメモリーを投げた。
すでにケラサスちゃんのブローチはピンクに輝いている。
そこにわたしのサイホックも格納される。
「プリダイムシフト!」
あかねちゃんの両目からのピンクと黄色のビームがわたしに照射される。
やった!あかねちゃんビームだ。
念願のビームを浴びている!
「イノベーション! タイプ:スタイリッシュ!」
わたしはフリルのついたガウンを纏う。
そして、
「アンド! タイプ:クリエイティブ!」
白い優美な手袋とブーツが新たに装着される。
きらきらした刺繍の施された上品なデザインだ。
かつてないエモーションの高まり。
中腰になって、左足のふとももに組み合わせた両手の甲を乗せてポージング。
「手袋とブーツだと?」
あおいちゃんをつかんだまま言うアンダー。
「それが何だと……」
素早い動きでアンダーに近づく。
これは「タイプ:スタイリッシュ」の効果。
そして、
「ペアークラッシャー!」
ブローチから足に光が移動し、ジャンプキック!
さらに、
「ペアークラッシャー!」
今度は光輝く回し蹴り。
「何っ!?」
あたしのキックがアンダーにヒット。
「ペアークラッシャーはプリジェクションペアーの基本エモーショナルアーツのはず。
連発だと……」
これが「タイプ:クリエイティブ」の効果だ。
「面白い!」
つかみかかってくるレボバグ。
「アッキーは元々舞台出身で、テレビに出なくても活躍してるんだよ!」
ペアークラッシャー!」
右ストレート!
「拳でペアークラッシャーだと?!」
ブローチから光が伸び、輝くパンチが繰り出される。
その威力はレボバグの巨体を弾き返す。
「まだだっ!」
アンダーの入ったレボバグはそれでもすぐに体勢を立て直す。
『春華秋人は暇だから特撮ばっかり出演するー!』
レボバグの片足狙いタックル。
「アッキーは舞台の仕事の合間で特撮に友情出演して、年中忙しいくらいなんだからー!
ペアークラッシャー!」
輝く左アッパーで、レボバグを吹っ飛ばす。
ここであたしのブローチの輝きを解き放った。
「パワーが貯まったっち!」
「このまま一気にいっちゃうよー!」
あたしはエモーショナルパワーを解き放った。
「ファイナル!」
吹っ飛ぶ敵を空中でキャッチし、パイルドライバー!
「ペアークラッシャー!」
そのまま逃さずにバックドロップ!
「ふん!」
さらに放り投げて空中で、敵の首に足を引っ掛け、そのまま腕をつかみ関節技を極め、落下!
「ハーヴェスト!」
レボバグは消滅。
「くっ、タイプ:クリエティブか……」
アンダーは飛び去って行く。
あとには黄色いサイスフィアが。
さて。
「みんな、心配かけてごめんね」
「うえーん、戻って来てくれてよかったよー!」
抱き付いてくるあおいちゃん。
「わたし達はいろの気持ちが優先だから、やめたいなら仕方がないって言ったのよ。
でも、コイツが『プリジェクションペアーはいろ君以外あり得ない』って聞かないの」
と、ももちゃん。
「プリダイムシフトは誰にでもできる事ではない」
すましている親バートン。
「そうじゃないでしょ」
ももちゃんもあおいちゃんも親バートンを見つめている。
「う……、本当に済まなかった。いろ君」
頭を下げる親バートン。
「わたしのしていた事は結局のところ、嘘を付いていた事に他ならない。
システムを葵上蒼介に移管して、わたしは君達に関わらない事にする。
だからプリジェクションペアーを続けて欲しい」
「そ、そんなに思い詰めないでよ!」
そこまで言うと思わなかった。
「あなたは命令に疑問を持って、今まで人間との共存の道を探していたんでしょ。
それでいいよ」
「そうか……」
「でもさ」
一つ気になっていた事があるんだ。
「ガールズルールが人間を革命を信じているなら、なんでプリジェクションキュレーターになるんだろう」
結局、イノベーティブな力に頼ってる気がするんだよね。
「わたしが君達によって考えを変えたように、彼の中にも変化はあるのかも知れない」
なんでも親バートンが以前は頻繁にあたし達に接触してこなかったのはハッキングを恐れての事だったらしい。
でも結局、あおいちゃんが巨大化した際にキュレーターシステムのドライバーをハッキングされたらしい。
何はともあれあたしは「タイプ:クリエイティブ」を会得したのだった。
家に戻ったわたし。
「はい、カリヴァリ君梨味」
きいが現れて棒アイスを手渡される。
さっきのコンビニで購入したものだ。
「あたしに気を使って悩んでるならそんなの余計なお世話だよ」
そしてきいは言った。
「お姉ちゃんの大事なお友達なんだから力になってあげて」
「きい……」
「本当はそうしたいんでしょう?」
「うん……」
きいにはやっぱり隠し事はできない。
「月と燕も『やる気まんまんじゃん!』だって」
「ぞっとするって?」
「ぞっとしないって」
姉妹の物真似の後、二人で大笑いしてしまう。
やっぱりあたしはヒーローを辞められないなあ。
☆☆☆
そんなある日。
あたしのクラスに転校生がやって来た。
銀色の巻き毛の小柄な美しい少女だった。
まるでアニメやゲームのキャラクターみたい。
「大槻月姫です。宜しくお願いします」
思わず見とれていたら、その子が一瞬、わたしに微笑みかけたような気がした。
友情のための戦い。
そう思っていたが、実はこれはちゃんとあたし自身の戦いだった。
それを思い知るのはもうちょっと先のお話。




