表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/100

第38話 悩みを乗り越えて! ペアーのイノベーション! タイプ:クリエイティブ! Aパート

 わたしの名前は松木いろ。


 千葉県に住んでいたけど、お母さんの体調不良で今は埼北市上里の親戚夫婦のとこに住んでいる。


 変身ヒーロー、プリジェクションキュレーターのプリジェクションペアーでもある。

 でも今日は仲間達と意見の合わない事があった。

 あたしが一方的に帰って来ちゃったので、言い合いにはなってないんだけど。


 後にあおいちゃんとももちゃんからメールがあった。


 あおいちゃんからは「気持ちに気付いてあげられなくてごめんなさい」と。

 ももちゃんからは「あなたの判断を尊重するつもり」と。

 どちらも落ち着いたら連絡が欲しいとあった。


 ちなみにあかねちゃんからもメールがあった。


「なぜ急にいなくなったのか分からないので、理由を教えて下さい。

 ホウレン草です」


 というメールだったけど、直後にあおいちゃんから電話が。


「ごめんね。今の間違い。わたしが話すから気にしないで」


 の後、小さく、


「草じゃ野菜になっちゃうじゃない!」


 のあおいちゃんの声。


 ふふっ。

 多分ホウレン草は報告、連絡、相談の事だね。


 あかねちゃんの独断のメールだったのかな。

 あおいちゃんは、あかねちゃんと住むようになってから苦労が絶えない。

 だけど、とっても楽しそうでもある。


「お姉ちゃん、お帰り」


 現れたのはおかっぱで小柄な女の子。

 わたしとそっくり。

 なぜならあたし達は双子だから。


 名前はきい。

 今は壊滅した組織、マジョリティの幹部ディスコードだった。

 一時期、保護観察扱いだったけど今は解放されている。


「エモバグは大丈夫だった?」


「うん、あおいちゃんがやっつけたよ」


「……どうしたの?お姉ちゃん。元気ないよ」


「な、なんでもないよ……」


 きいは何も言わずあたしをじっと見つめている。

 目をそらすと移動して視線を合わせてくる。


「うー……」


 だめだ。

 いつもきいには隠し事ができない。

 あたしは覚悟を決めて全てを話した。


 ……………


「なるほど。その親バートンは隠し事をしてたんだね」


「て、言うか二択博士もだよ。

 誠実な人だと思ってたのに」


 これではいじめによる自殺を黙殺して、EPMの実験を成功とみなした日上博士と変わりない。


「それでみんなと喧嘩したの?」


「喧嘩はしてないよ。

 あおいちゃんとももちゃんの気持ちも分かるもの」


 あおいちゃんは実験都市のイノベーションを完成させたい。

 あかねちゃんの成長を見守りたい訳でもある。


 ももちゃんはEPMを活用したライブを行っているアイドルだ。

 おまけにEPMを利用した衣装の選定を行う「EPMファッションデザイナー」の適正がある事まで明らかになった。


 これはあたしだけの問題だ。


「親バートンには怒ってる?」


「んー、話を聞いてからはそうでもないかなあ」


 彼はプログラムに従っていただけ。

 それどころか、結局人間を操る事はしたがらなかったみたいだし。


「じゃあもう許してるんじゃない?」


「そうはいかないよ。

 お兄ちゃんの事もあるし」


 とにかくあたしがこれを許す訳にはいかない。


 きいは今でもマジョリティ幹部だった事を気にしている。

 よりにもよって、お兄ちゃんのいじめによる自殺を隠蔽した日上博士の組織にいた事を。


 でも、その事であたしに心配かけまいとして、明るく振舞っている。

 それが分かってしまうので余計にこの件はわだかまりが残るのだ。


「あっそう。

 じゃあさ、コンビニ行こっか」


 畑ばっかりの田舎町だけどコンビニはある。

 きいに連れられ、自転車でコンビニにやって来た。


 ファッション誌を見かけるとももちゃんの愛読誌を探してしまう。

 アイスのコーナーではあおいちゃんの好物、カリヴァリ君を探してしまう。


「お姉ちゃん、これナッキーが表紙だよ」


 きいに指摘されるまでイケメン俳優、ナッキーには気付かなかったのに。

 二人の事がすごく気になってるみたい。


 その時、インターホンが鳴って新たな来客があった。

 そんなのは当たり前の事なんだけど、その声を聞いたあたしは固まった。


「映画見るのに上里まで来なきゃいけないなんて、ぞっとするし」


「なんで児玉に映画館ないかな、ぞっとしないし」


 揃いのえんじ色のニットセーターに青のデニムスカートの双子の少女。

 ナチュラルストレートのセミロング。


 あっちもわたしを見てはっとしている。


「ディスコードじゃん」


「でも二人いるじゃん」


「もしかして姉妹で来てる?」


「もしかして片方はプリジェクションペアー?」


「ぞっとするしー!」

「ぞっとしないしー!」


 この話し方はもう間違いない。


 かつてのマジョリティ幹部、セゾン姉妹の二人だ。

 二人もきいと同じタイミングで護観察扱いを解除されている。


 どうやら児玉から上里まで映画を見に来ていたらしい。


「ディスコード、元気してる?」

「ディスコード、変わりない?」


「ディスコードって言うなー!」


 わたしはデリカシーに欠ける二人を叱った。


「じゃあ、きっきー」


 まあいいけど。


 世拵月(せぞんつき)ちゃんと世拵燕(せぞんつばめ)ちゃん。

 保護観察中にきいと顔見知りになったみたい。


「最近どう? 葵上あおいは元気にやってる?

 あとあのピンクの怖いの。そっとするし」


「ぞっとしないし」


「それがね……」


 きいが二人にこれまでのいきさつを話す。


 ……………


「じゃあいろはプリジェクションキュレーター、やめるの?」


「それは分からないけど」


「でもそういう事になるじゃん」


 うーん、とどのつまりはそういう事になっちゃうんだろうか。

 許せないってのはそういう事になっちゃうのか。


 でも、あおいちゃんとももちゃんの応援がしたくなくなった訳じゃない。

 あかねちゃんの事だって嫌いじゃない。

 最近は目からビーム出すし。


 と、そこで、


「エモバグが出たっち!」


 目の前にこむぎっちゃんが現れた。


「黄色なんだけど、いろ、どうするっち?」


 でも、ちょっと遠慮がち。


 ちょうど、どうしようかと悩んでたところ。

 まあでも今回はとりあえずやっつけて……、


 と、思ってスマホを取り出したら……!


「じゃあ、あたしがペアーになるー!」


 世拵月ちゃんがあたしのスマホを取り上げる。


「あ、ずるいー、あたしもやるー。ぞっとしないし」


 燕ちゃんもスマホを奪おうとする。


「ぞっとするし」


「ぞっとしないって!」


「ぞっとするって!」


「どっちでもいいからスマホを返しなさい!」


 改心してもいたずらっ子は相変わらずみたい。


「この待ち受け、冬樹夏樹じゃん」


「ナッキーじゃん」


「返せえええッ!」


 わたしは二人に飛びかかる。

 取っ組み合いに勝利して、元セゾン姉妹の二人からスマホを奪還した。


「はぁ、はぁ、はぁ……。

 大事な時にふざけてるんじゃないの!」


「だってプリジェクションキュレーター、辞めるんじゃないのー?

 ぞっとするしー」


「ぞっとしないしー」


「そんな事言ってない!」


 こんなとこで油を売ってる場合じゃない。

 こんな事してる間にエモバグが暴れてる。


「あたしはヒーローなんだから!


 キュレーティン!」


 EPMの光に照らされ、プリジェクションペアーに変身するわたし。


「こむぎっちゃん、場所は?」


「児玉の山甲うどんっち」


 プリジェクションキュレーターの跳躍力ならすぐ行けそうだ。


「行って来るね、きい」


「行ってらっしゃーい、お姉ちゃん」


 なんだかいい笑顔のきい。

 気持ちよく送り出されてしまう。


 上里と児玉と神川、三地域の境目。

 国道254号線沿いに山甲うどん児玉店はある。


 田園地帯を山甲うどんに向かって行く黄色いエモバグが見える。


春華秋人はるかあきとは特撮以外出番のない三流俳優ー!』


 エモバグの抑揚のない大音量が聞こえて来た。


<つづく>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ